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ビジネスにおける意思決定で、パターン認識とアルゴリズムが重要になってくる理由

プレジデントオンライン / 2020年11月2日 11時15分

撮影=小川聡

経営やビジネスにおいて、論理(サイエンス)と感性(アート)のバランスが重要であることは、いまや常識。現代アート好きでも知られる松本大さんと、ビジネスリーダーに絶大な人気を誇る山口周さんが、アートの趣味やリベラルアーツとの関わりを入り口に、感性や直感に基づいた意思決定を可能にするためのヒントを語ります。(第1回/全2回)

■絵は描けないけど、見るのは大好き

【山口】本日は仕事におけるアートの部分といいますか、仕事と感性との関わりの話ということで。どこまでがアートかというのはあるのですが、ある種のリベラルアーツということでいえば、松本さんは1990年にソロモン・ブラザーズ・アジア証券を退職なさった時に、ジャズ喫茶をやろうかなと考えたくらいジャズがお好きだと伺っています。いつ頃からなんですか、ジャズは?

【松本】音楽は遅いんです。アート的なほうは早くて、幼稚園の時に黒白フィルムを自分でダークバッグに手を突っ込んでフィルムの現像とかをやっていたので。

【山口】それ、普通に家に暗室があった?

【松本】暗室は、あった時期もあるけれども、ボロくて光が入ってしまうので、暗室がいらないダークバッグに手を突っ込んで、フィルムを外して、リールに入れて現像というのを。フィルムのほうですね。それを幼稚園の時に始めまして。

【山口】そういう家庭環境って、なかなか、ないと思うんですけど。

【松本】父親が好きだったんですね。それで、幼稚園の頃から写真を撮りはじめて、かなり深く。ですから、構図を考えるとか、映像は小さい時からずっと親しんできて。絵を描くとめちゃくちゃ下手で(笑)、絵は描けないんですけれども、写真を撮ったり、見たり、映画を見たりとか、アートを見たりとか、大好きで。一方で、音楽は、習い事を一切しなかったので。よく音楽って、習うではないですか、小さい時。それを一切しなくて、もともと若干音痴でもあり、楽器を習いもしなかったので、ほとんど聞いていなかったんです。ただ、家ではずっと父親がレコードを鳴らしっぱなしで。

【山口】それはどの系統の?

【松本】クラシックですね。ショパンとかモーツァルトとかあとはオペラばっかり、ずっと流れていたんです、LPで。私は普通に小学校の半ばか終わりくらいから、ラジオで、歌謡曲とかポップスを聞きはじめて。小学校6年か中1の時に、FMでスタッフを聞いたんです。スタッフが結成された時で、フュージョンですね。

【山口】はしりですよね。

【松本】当時はフュージョンではなく、クロスオーバーといっていて、スタッフが結成された時の最初の『スタッフ』というアルバムなんですけど。

【山口】何年くらいですか?

【松本】1976年か77年だと思うんですけど。FMで聞いてぶっ飛びまして、かっこいいと思って。

【山口】それはもうインパクトがあったわけですね。かっこいいとかなんだとか、人から勧められたとかじゃなくて、聞いた瞬間にこれだと思っちゃったんですね。

■見えないところに、想像力が生きる

【松本】まったく誰かに教わったわけじゃなくて、FMで聞いてすごいと思って。最初はクロスオーバー、フュージョン、それからジャズというのを聞きはじめるんですけれども、お金がないのでレコードが買えなくて。

【山口】当時高かったですからね。

【松本】2500円とか。なので、ラジオで聞くか、あとは学校の近くに都立の図書館があって、そこへ行くとレコードがブワーッと並んでいるんです。

【山口】ジャズ、そんなありました?

【松本】逆にいうと、そんなになかったのかもしれない。だから、片っ端から借りて、聞くことができた。そんなにいっぱいあるわけじゃないから。

【山口】もう全部聞いてやろうと。

【松本】それでジャズを聞きはじめて、写真はずっと続けていて。それが中2くらい。

【山口】自分で撮るのがお好きだったということなんですね。

【松本】まあ、撮るのと、見るのも。でも、それも系統立って教わったりはしていないので、けっきょく、神田の古本屋に行って。そうすると、アメリカの「ライフ」なんかが出した戦中戦後くらいの分厚い写真年鑑みたいなのがあるんです、古本で。そういうのを見たり、たまに買ってきたりして。そういうのを見たり、これいいな、みたいな。

【山口】それは、そういう本屋さんを回ったりというのは、もう中学高校の頃?

【松本】本屋は大好きで、おやじが出版社で編集者をしていたので、その影響もあって、神田の古本屋とかはよくいっていました。神田、御茶の水あたりは、高校も近かったので。写真の本を見に行くのでも、あるいは音楽でも、絵も少しは描いたので、御茶の水のレモン画翠で画材を買ったりとか。あとは詩が好きで、萩原朔太郎とか、全部読んでいます。

【山口】萩原朔太郎ですか。

【松本】萩原朔太郎は、高校までに全作品読んで。萩原朔太郎の評論とかを、神田の古本屋で探すんです。高3か大学1年か、そのくらいに。そうすると、詩の批評誌とかに、誰かが書いた朔太郎の評論とかがあって、それを読んで、こいつより俺のほうがわかってるな、みたいに勝手に思っちゃったりとか。どこまでがアートかわからないんですけど、詩とか写真とか音楽とかは、1回も習ったことないんです。だけど、本当にそういう独学というか、雑学というか、ただ単に好きで聞いてきたり、やってきたという。小さい時からそんなんで、詩はなんかこう、長いものを読む根性というか、忍耐がないので、短いのを読むほうが好きだったので。

【山口】確かに映画より写真、オーケストラの長いクラシックよりはジャズ。長編文学よりは詩という。

【松本】省略の美学という。

【山口】松本さん、じつは僕は自動車もけっこう好きで、しかも傾向がたぶん似ていると思うんですけど、いわゆる小排気量高回転のタイプが好きなんです。松本さんは、以前、確かロータスのエリーゼに。

【松本】乗っていますよ、今でも。690キロ。

【山口】私はいま、スプリジェットに乗っているので、車重が同じくらいですね。600キロくらいで。傾向としては、重厚長大で重々しくてヘビーなものよりかは、クイックで軽くて短くてというものが、なんとなく好きというのは近いですね。

【松本】写真も、カラーはやったことがないんです。黒白。省略されていて。評論家の蓮實(はすみ)重彦さんが、映画の評論で「省略の美学」という言葉を使われたことがあるんですけど、省略されているからこそ、逆に見えないところに想像力が生きるというのが好きなんですね。だから詩が好きなので、逆に詩に対して、決まった解釈を強制するようなのは間違っていると。省略されているから、いろいろな捉え方があって、それが詩のいいところでもあるなと思っちゃう。

■つまりは、脳細胞も筋肉も同じである

【山口】そうすると、松本さんは、新卒で金融の世界に入られて、第一線でずっとやっていらしたわけですが、そのなかで金融の仕事における日々の意思決定とか、ジャッジメントを繰り返すわけですよね。それと、この写真はいい悪い、あるいは、この詩はいい悪いみたいな判断をする感性の部分って、なんかしらの関連性があるとお感じになることはあるわけですか?

【松本】ないですね(笑)。

【山口】ないですか(笑)。しかし、とくに松本さんが最初にいらした外銀(外資系の投資銀行)などですと、ある意味では日々、究極の意思決定を迫られるわけですが、そうすると、金融の世界においての良しあしというのは、どういうふうに判断を?

【松本】ただ、関連はないですけれども、もしかしたら方法論みたいなのは、似ているかもしれないと、いまお話を伺っていて思いました。絵でも、これがいいとか、こういう絵がいいというのではなくて、いっぱい見ているなかで、きわめてパターン認識に近い感じで、これは好きとか、これはいいとかを、瞬間でジャッジする。音楽でも、こうだから好きというのではなくて、これ好きというような感じで、初めて聞いた音楽であっても、明らかに好き嫌いはある。でも、それというのは、初めて聞いた音楽であっても、いっぱい聞いているから、好き嫌いがいえる。

【山口】目利きみたいなところがありますよね。

【松本】ありますよね。金融の仕事でも、数多くこなしているなかで、いちいち細かいところまで追いかけていかなくても、大体この話はおかしいだろうとか、これは大体いいんじゃないか、みたいなのは、なんとなくわかるようになってくる。それというのは、音楽や絵の好き嫌いと同じで、たくさん聞いたり、見たりして、パターンを経験していく、そういうバックグラウンドがあるなかで、瞬時に計算しているのかもしれないですね。

【山口】つまり、表面的な美的な感性とか、そういう話ではなくて、ある種の正しさに至るアルゴリズムというか。松本さんの本とかのインタビューを読んでいると、量が質に転換するという考え方をお話しされることが多いではないですか。ですから、意思決定そのものをものすごいビッグストロークで、乾坤一擲(けんこんいってき)でやるよりかは、50パーセントより51パーセントの正答率にして、その代わり、数を回すほうがいい。さきほどの写真とジャズと詩と、あと車の話で、少トルク高回転という考え方とか、短くてたくさん見たり、聞いたりできるもの、たくさん味わえるものというのを、たくさん見ていくことで、むしろ精度を上げていくということと近いのかなと。

【松本】近いですね。とにかく何度も、何度も経験して、ある意味PDCAというか、何度も繰り返して、評価軸をつくっていくみたいなところが、私にはある。でもそれって、一方で、15年前くらいかな。アメリカで、あるプロフェッサーの話を聞いたことがあるんです。もう、おばあちゃんで、彼女はUCLAかどこかの脳科学か何かの先生だったんですけど、彼女が言ったのは、脳細胞はプラスティックだと。プラスティックというのは、つまり……。

【山口】可塑性……。

【松本】つまり脳というのは、プラスティックであり、可塑性がある。私の場合は英語もそんなに得意ではないので、ずいぶん歪んで覚えているかもしれないんですけど、つまりは脳細胞も筋肉と同じであると。筋肉については、基礎トレーニングをやらないで、いきなりゲームに勝てるなんてことは、誰も思わないでしょうと。脳みそも一緒だよと。やっぱり反復で使うことで筋が入るのであって、いきなり何かがポンとひらめくなんていうことはないんだというふうに言っていて、それはすごい腹に落ちたんですよね。つまりは、そんなことなのかなと思うんですけど。

【山口】なるほど……。

※第2回へつづく

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「ビジネスリーダーのための『アート』入門」
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▼動画セミナー概要
経営やビジネスにおいて、論理(サイエンス)と感性(アート)のバランスが重要であることは、いまやリーダーにとっての常識。現代アート好きで知られるマネックスグループCEOの松本大さんと、ビジネスリーダーに絶大な人気を誇る独立研究者の山口周さんともに、アートの趣味やリベラルアーツとの関わりを入り口に、感性や直感に基づいた意思決定を可能にするための方法論を探ります。
▼動画再生時間:約72分
▼コンテンツ
prologue 東京・マネックス本社にて (02:15)
chapter1 ジャズと写真と省略の美学 (20:34)
chapter2 勘で決めるのか、論理で決めるのか (14:30)
chapter3 疑似体験を積むということ (18:05)
chapter4 生活のなかでアートに触れる (10:20)
epilogue サウナとピンク・フロイド (6:52)
▼詳細・お申し込みはこちら ※サンプル動画がご覧いただけます。

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松本 大(まつもと・おおき)
マネックスグループ代表執行役CEO
1963年、埼玉県生まれ。開成高校、東京大学法学部卒。ソロモン・ブラザーズ・アジア証券、ゴールドマン・サックス証券ゼネラルパートナーを経て99年にマネックス証券を設立。2004円には、マネックスグループ株式会社を設立し、以来CEOを務める。

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山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。

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(マネックスグループ代表執行役CEO 松本 大、独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周 構成=PRESIDENT経営者カレッジ 編集チーム)

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