欧州最高の知性が警告「コロナでさらに巨大化するGAFAMに法律を守らせよ」
プレジデントオンライン / 2020年11月8日 11時15分
※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■アメリカの上位5社の株式時価総額=日本のGDP
大国でさえ衰退する国家の弱体化は、巨大企業が権力を握る過程を加速させるだろう。巨大企業は政治力を増し、国の課す規制や税制をこれまで以上に回避するようになるに違いない。こうした傾向はとくに西側諸国の大企業の間で顕著になるだろう。一方、中国の大企業は今後も中国共産党および自国の政治指導者に対してきわめて従順だろう。
さらに、金融市場も同様の見通しを示す。金融市場はアメリカの大企業の資産価値をこれまでになく高く評価しており、先述のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)だけでなく、アメリカの大企業は政治の介入に対して頑強性を高めていると考えられている。〔アメリカの大型株500銘柄による株価指数「S&P500」にならって〕「S&P5」とでも呼ぶべきアメリカの上位5社の株式時価総額は、現在、世界第3位の経済大国である日本のGDPに匹敵する。
■パンデミックでさらに巨大化するGAFAM
今回の危機において、とくに業績を伸ばしたのはGAFAMだ。アマゾンの2020年第1四半期の売り上げは26%増だった。第2四半期は18%から28%ほどの増加が見込まれている〔その一方、従業員の安全対策のため損益は赤字となる見込み〕。3月以降、アマゾンは新たに17万5000人以上を雇用した模様だ。2020年の売上高は20%増の3350億ドルに達する可能性があるという。
アマゾンは現在、実店舗をもつ書店、調理済み食品、音声・映像コンテンツ、音楽配信、携帯電話、ヘルスケア、宅配、クラウドコンピューティングの分野で活動する。現在のところ、アマゾンのクラウド部門「アマゾン・ウェブ・サービス」はグループ内でも群を抜く稼ぎ頭だ。世界各地に120のデータベース・センターを保有し、オンライン・データの蓄積量で世界一となっている。
また、「アマゾン・ケア」は医療分野のスタートアップ企業数社を買収した(例:オンライン医療サービスを提供するヘルス・ナビゲーター社、処方薬のオンライン薬局であるピルパック社)。イギリス政府が国民に新型コロナウイルスの検出用キットを提供しようと計画した際、その流通を請け負ったのはアマゾンだ。アマゾンは少なくとも350万回分の簡易検出用キットをイギリス国内の数万の世帯と薬局に配送するという。
アップルとグーグルは、今回の新型コロナウイルス感染症の感染者を追跡できるアプリを共同開発した。大手コンサルティング企業のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)も「コンタクト・トレーシング(接触追跡)」を行うアプリ〔「Check-In」〕を開発している。
このアプリを利用すれば、企業幹部は新型コロナウイルスの検査で陽性が判明した同僚に接触した従業員へ、その旨を通知できるという。韓国の複合企業ハンファ社の子会社は、体温を感知するカメラを発売予定だ。
■企業活動を拘束する法律を守らない巨大企業
さらに、GAFAM各社は自分たちの企業活動を拘束する法律を遵守しない。
ヨーロッパでは2016年以降、「EU一般データ保護規則(GDPR)」によって全ヨーロッパ市民の情報が保護されることになったが、GAFAMはこの規則を遵守せず、扱いに注意を要する消費者の情報(とりわけ、個人の健康状態に関する情報)の利用に関して、消費者に充分な説明に基づいた選択肢を提示していない。
これらの企業は、特定の政治候補者に有利になるメッセージを選りすぐり、また各国政府に対するロビー活動に莫大な資金を投じるという政治的な目的のために消費者の個人情報を利用している。
現在のところ、これらの企業は各国共通の最低法人税率(12.5%)の導入を阻止している。仮に、この税率が適用されれば世界全体で税収が1000億ドル程度増加するという。
■「人工物が支配する世界」が待ち受けている
2017年、デンマークがGAFAM担当大使を任命したように、一部の国はGAFAMを国家と同等の立場にまで引き上げている。GAFAMの創業者である大株主の一部も、個人あるいは財団を通じて影響力のある政治活動家と見なされるようになった。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、国を除くと世界保健機構(WHO)への最大の寄付者〔国を含めた全拠出元のなかでもアメリカに次いで二位〕であり、予防接種プログラムの拡大を目指す「GAVIアライアンス〔旧・ワクチンと予防接種のための世界同盟〕」の創設パートナーにさえなった。
マーク・ザッカーバーグは、医療、教育、科学研究、エネルギーの分野での機会の平等を推進する活動に従事している。これらの慈善事業は、完全な利他主義に基づく場合もあれば、自社の売り上げを伸ばすための場合もある。たとえば、フェイスブックはWHOに広告枠を無料で提供することによって、WHOがフェイスブックを利用するように仕向けている。
GAFAMに相当する中国企業も、GAFAMを上回る演算能力や人工知能に関する知識、そして巨大な中国市場という活動領域を活かして同等の力をつけた。現在のところ、これらの中国企業は中国共産党と国に忠誠を誓っている。
いずれにせよ、これらの企業が生み出すものこそが、われわれを待ち受ける挑戦だ。すなわち、人工物が支配する世界である。
■多くの人が、元の世界に戻りたいと思っている
非常に多くの人々が、元の世界に戻りたいという切実な願いを抱いて今回の危機を脱するだろう。その心情は理解できる。監視されたり、子供扱いされたりすることのなかった世界に戻りたいと願う人は多いはずだ。
失業した人、商売が台無しになった人、作業場を失った人は、危機以前の暮らしと生活水準を取り戻したいと渇望するに違いない。彼らは憧れの車を買いたがるだろう。旅行好きの人は、その喜びを再発見したいと思い、再び世界各地を旅したいと望むだろう。
多くの企業経営者は、自分たちの企業活動に影響を与えたパニックはもう終わったと安堵し、危機以前の生産量と利益率を回復させようとするだろう(だが、彼らには新たな従業員を雇ったり、これまでとは別のモノを違ったやり方でつくったりする考えはない)。
多くの政治指導者は、危機以前の支持率を取り戻そうとするだろう。その一方で、緊急時だからこそ得られたと思われる暫定的な権力を保持することも試みるだろう。
■「闘う民主主義」を生み出さなければ、民主主義は消滅する
それとは逆に、ノスタルジーを抱いてこの自宅待機から抜け出す人々もいるだろう。それは、隔離中に自分自身のリズムで働き、孤独を慈しみながら過ごし、あわただしい生活のなかに生まれたこの休息に価値を認めた人々だ。今回の危機で収入や年金が見直されることはなかったのだから、彼らは恵まれている。
一方、自宅隔離を地獄のように過ごした多くの人々は、これまでとは異なる会話、友人、空間、愛情を見出したいと願うだろう。
多くの職業は存在意義を失い、非情にも突如として失業者になった数千万人は自己改造を強いられるだろう。多くの国ではあまりに影響が大きく、抜本的な改革を断行しない限り、危機以前の生活水準を短期間で取り戻すことなどとうてい望めない状態になるだろう。多くの民主主義は、私が後ほど述べる「闘う民主主義」を生み出さない限り、今回の苦難によって徹底的に痛めつけられて消滅するかもしれない。
元の世界に戻りたいと願うのは、次に人類を襲う大きな災難からさらに深刻な影響を被ることであり、次のパンデミックへの準備、そして、気候変動がもたらす次の大惨事への準備を怠ることを意味する。これは、民主主義への死刑宣告に等しい。もしそうなれば、民主主義は、その原則と実践に対する新たな攻撃から立ち直れないだろう。
なぜなら、パンデミックなど、今後もさまざまな性質の出来事が起こり得るからだ。今回と同規模の、そして、さらに深刻な衝撃に襲われる恐れがある。しかも、次々に。それらの出来事により、われわれの経済、自由、文明は崩壊するかもしれない。
■経済学の入門書より、SFが役に立つ
これらの出来事を予測して阻止するには、単なる見通しを超えて、あらゆる想像力を駆使しなければならない。
過去から教訓を見出して同じ出来事の再来に備えるだけでなく、予期せぬ未知の出来事への備えも必要だろう。そうした準備には通常の数値分析よりも、突拍子もない分析のほうがはるかに役立つ。つまり、経済学の入門書よりもサイエンス・フィクション(SF)のほうが有益かもしれないのだ。
サイエンス・フィクションの多くの書籍や映画は、昔から人類にとっての脅威を語り、われわれに未来を占う手段を提供してきた。パンデミックに関する作品のなかから、ほんの少しばかりを次に紹介する。
メアリー・シェリーのSF小説『最後のひとり』〔森道子ほか訳、英宝社、2007年〕、ジャン=ピエール・アンドルヴォンのSF小説『Le monde enfin』、ダニー・ボイル監督のSF映画『28日後…』、マーク・フォースター監督のSF映画『ワールド・ウォーZ』、デオン・マイヤーのSF小説『Koors〔仏題:L'Année du lion、英題:Fever〕』、ラッセル・T・デイヴィス制作・脚本のテレビドラマ『Years and Years』、スティーヴン・ソダーバーグ監督のSF映画『コンテイジョン』などだ。
■SF作品を通じて「最悪の自体を避ける方法」を学んだ
また、パンデミックの脅威以外にも人類のサバイバルに関する作品はたくさんある。たとえば、リチャード・マシスンの古典的名作『I Am Legend』〔『地球最後の男』田中小実昌訳、早川書房、1977年、『アイ・アム・レジェンド』尾之上浩司訳、早川書房、2007年〕、あまり知られていないがバーナード・ウルフのSF小説『Limbo』、そしてつい最近出版された劉慈欣のSF小説『三体』〔大森望ほか訳、早川書房、2019年〕だ。劉慈欣はこの三部作〔『三体』を第一部とする「地球往事」シリーズ〕において、異星人が450年後に人類を滅ぼしにやってくると知った人類の反応を描く。
紹介した以外にも多くのサイエンス・フィクションがこれまでに私の想像力を養い、また、今も養い続けてくれている。
私は、経済や政治科学のどんな評論よりもこれらの作品からはるかに多くのことを学んだ。
サイエンス・フィクションを通じて、私は枠にとらわれずに考えることを学んだ。意外なところに光ある道筋と闇の道筋を探すことを学んだ。
また、私はサイエンス・フィクションを通じて、最悪の事態を避ける最良の方法は備えること、そして愛することだと気づいた。
■人類は「リセット」できない
テレビゲームや各種オンラインゲームからも大いに学べる。
たとえば、バグが一週間のうちに制御不能のパンデミックの場へと変容してしまったオンラインゲーム「ワールド・オブ・ウォークラフト」だ〔ゲームの要素として導入され、特定のエリア内にのみ影響をおよぼすはずだった「Corrupted Blood(穢れた血)」という感染症が、ゲーム内の「ペット」など、想定外のキャラクターを通じて広範囲に拡散した〕。
これはゲーム内だけの出来事だったが、このパンデミックはあまりに複雑であり、事態の成り行きを予想できた者は誰もいなかった。結局、ゲームの開発者たちはこのパンデミックを終息させるためにゲームのサーバーをリセットせざるを得なかった。
この例から言えることは一つ。現在のパンデミック、そして(予測可能性の有無を問わず)将来訪れる脅威を前に、われわれは人類の電源を切ってリセットすることなどできない。われわれは現実の危機に対処しなければならないのだ。願わくは、人類がもっと賢く、社会正義に敏感で、より自由で、そして将来世代の行く末に思いを馳せるようになってほしい。
そのためには、われわれを待ち受ける最悪の事態を予測することから始めるべきだ。最悪の事態に備え、それを回避するためである。
■社会はあっけなく独裁者を容認するだろう
第一に、現在のパンデミックが今後どのような経過を辿るのかは、まだ誰にもわからない。すべては、外出禁止後の措置の効果、ワクチンの開発と配布、ウイルスに起こり得る変異にかかっている。現状からは、第二波が来る可能性は充分にあり、集中治療室の患者数が一定のレベルを超えた際に発せられる、新たな外出禁止措置の準備(いつそうなるとも限らない)を覚悟しなければならないことが考えられる。
外出禁止措置を打ち出すたびに、経済、社会、政治の面に衝撃が生じ、それらが現在の惨状に新たな災難として加わるだろう。とくに、今回のパンデミックによって疲弊し、そして(比喩ではなく文字通り)犠牲になった医療従事者が同様の事態の再来に耐え抜くことは、さらに困難になるだろう。彼らは非常に勇敢かつ献身的に、力と技能を尽くして今回のパンデミックに立ち向かった。
そして消耗した民主主義は、社会がこれまで以上にあっけなく独裁者になびくことを容認するのではないだろうか。そうなれば、監視の必要性が叫ばれ、そのためのあらゆる法律が制定される。そのような社会では、どのメディアも真実を語ることより、噂を流すことに関心をもつだろう。そしてメディアは、彼ら自身が台頭を後押しする独裁者によって、言論の自由を奪われることになるだろう。
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経済学者
1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの、要職を歴任。政治・経済・文化に精通することから、ソ連の崩壊、金融危機の勃発やテロの脅威などを予測し、2016年の米大統領選挙におけるトランプの勝利など的中させた。林昌宏氏の翻訳で、「2030年ジャック・アタリの未来予測』(小社刊)、『新世界秩序』『21世紀の歴史』、『金融危機後の世界』、『国家債務危機一ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?」、『危機とサバイバルー21世紀を生き抜くための(7つの原則)』(いずれも作品社)、『アタリの文明論講義:未来は予測できるか」(筑摩書房)など、著書は多数ある。
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(経済学者 ジャック・アタリ)
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