「スーパーで棚の奥から食品を取る」は無意味どころか回り回って損をする

プレジデントオンライン / 2020年10月30日 18時15分

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まだ食べられるのに捨ててしまう「食品ロス」はなぜ起こるのか。科学ジャーナリストの松永和紀氏は「賞味期限を過ぎたらすぐに品質が変化すると誤解されている。食品ロスを減らすにはそうした消費者心理を変えていく必要がある」という――。

■1.「新しければ安全性が高い、品質が高い」は間違い

日本人は鮮度志向が高いようで、なるべく新しいものを買おうとします。日付の新しい牛乳やハムを棚の奥から引っ張り出してきてかごに入れる買い物客……。スーパーマーケットで頻繁に見られる光景です。

でも、賞味期限が付いているものは、「『賞味期限を過ぎたら食べないほうがいい』が間違いである根本的な理由」で説明してきたように、わずかな日数で大きく品質が変化するわけではありません。日付が古いものが売れ残り廃棄されるのはもったいない。生活協同組合「コープこうべ」は、賞味期限が5日後の豆腐と1日後の豆腐の味比べを実施して味がほとんど変わらないことなどを組合員自身が確認し、棚の手前の商品から食べることを呼びかける「てまえどり」キャンペーンを行っています。

コープこうべの「てまえどり」呼びかけの様子
写真=コープこうべ提供
コープこうべの「てまえどり」呼びかけの様子 - 写真=コープこうべ提供

食品の種類によっては、この鮮度志向が逆の現象を生み出す場合もあります。たとえば、観光地で売られる菓子。半年先の賞味期限が付けられたまんじゅうより3カ月後のまんじゅうの方がよく売れる、という場合も少なくありません。

技術を駆使すれば、まんじゅうは半年もち、おいしく食べられます。保存料を使わなくても、工場を衛生的に管理して腐敗やかびの原因となる微生物を防いで製造し、製品にアルコール蒸散剤を同封してどうしても入り込むカビの増殖を抑え、さらに脱酸素剤も入れて酸素を抜き酸化を抑える、というふうに、さまざまな方策があります。

■賞味期限をめぐる非科学的な消費者心理は不必要な食品ロスにつながる

しかし、消費者は昔の感覚のまま「まんじゅうはすぐ腐敗する、悪くなる」というイメージを持っているので、賞味期限が長いと逆に「不自然。なにか、体によくないものが入っているに違いない」と誤解してしまうのです。

こうした消費者心理を踏まえ、食品の種類によっては以前、かなり短めに賞味期限が設定されていました。つまり、科学的に得られるおいしく食べられる期限に安全係数として小さな数字をかけ算して、それを賞味期限として表示していました。

賞味期限が短いと、小売店やスーパーマーケットは食品を長く店頭に置いておけずすぐに返品となり、食品ロスにつながります。そこで、消費者庁は食品表示Q&A(加工‐22)で、一般的な食品について0.8以上という安全係数の目安を示し、「食品ロスを削減する観点からも、過度に低い安全係数を設定することは望ましくない」とわざわざ明記しています。

消費者心理は不思議なもの。日持ちして欲しいけれど、長すぎるのはイヤ……。まったく非科学的です。現代の衛生管理技術と人の心は、どうもマッチしません。しかし、賞味期限に対する判断は科学的でなければ、不必要な食品ロスにつながります。

ちなみに、缶詰は種類によっては日数が経った方が熟成が進みおいしくなるそうで、私は「この製品は、賞味期限が切れた頃がもっともおいしい」と缶詰企業の社員から教えてもらったことがあります。新しければいい、とはやっぱり言えません。

日本料理
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■2.「期限なんて気にせず、五感で確かめて食べればいい」は危ない

よくいますね。「昔は製造日が表示されていて、消費者は五感で食べられるかどうか賢く判断していたものだ。人任せ、事業者任せにして期限表示に頼るからダメなんだ」と言う人が。でも、賛成できません。

まず、腐敗菌と食中毒菌は異なるため、食中毒菌が増殖した食品を臭い等で判別することはできません。それに、消費者が感覚で判断するようになればそれこそ、半年日持ちがするまんじゅうが2、3日で捨てられてしまうでしょう。

技術が著しく発展しているため、消費者が自分で判断して食べる、というのが難しくなっています。世界的にも、製造日ではなく事業者が責任を持って決める期限を明示するのが標準となっています。

■3. 「本物の食品は安全、日持ちする」も間違い

これもよくいますね。「添加物など使っていない本物の食品は安全。とくに発酵食品はすばらしい。味噌とか醤油とか納豆とか、期限なんて気にする必要はない……」。

いやはや。こういうのも科学的とは言えません。たとえばチーズ。一般的には賞味期限が付けられますが、一部のナチュラルチーズの中には消費期限が表示されるものがあります。リスクの懸念があるからです。しかも、チーズの本場で「本物中の本物」とみなされる種類です。

チーズは大別してナチュラルチーズとプロセスチーズに分けられます。ナチュラルチーズは、乳を酵素などで凝固させ、熟成させるなどしたもの。プロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱して溶かし再成形したもので、通常は乳化剤、安定剤などの添加物が入っています。

一般的なナチュラルチーズは加熱殺菌した乳を用いリステリア菌の増殖を抑制しているため大丈夫。ところが、ヨーロッパでは、伝統製法として加熱殺菌していない乳を用い、添加物等を使わないチーズも作られています。チーズ発酵の工程では、原料乳を加熱殺菌していなくても、多くの菌は強い塩分により死にます。しかし、リステリア菌は食塩濃度が12%程度、4℃以下の低温でも生存増殖できるため、生き残ってしまいます。その結果、食中毒につながる場合があるのです。

こうしたことから、食品表示基準Q&A(加工‐180)で、リステリア菌の増殖を抑制していないものは「消費期限」を表示するように、とルール化されています。ところが、未殺菌乳から作られるヨーロッパ伝統のチーズは、日本ではデパートやチーズ専門店等で本物中の本物として高価な値札を付けて並んでいます。皮肉な話です。

■妊婦や高齢者は要注意

リステリア菌の食中毒は日本では一般的ではありませんが、内閣府食品安全委員会は、年間200人程度の患者が発生していると推測しています。ナチュラルチーズのほか、生ハム、スモークサーモン等が原因となります。

とくに妊婦は要注意。リステリア菌が胎児に移行して流産などを招きます。高齢者も重症化しやすい、とされています。「本物=安全」ではありません。妊婦や高齢者がチーズを食べるなら、缶入りでしっかり加熱されたナチュラルチーズやプロセスチーズを。賞味期限を確認して期限内に食べましょう。

厚生労働省資料
厚生労働省資料

■4.期限の付いていない食品もある

アイスクリームには期限が入っていないことに気付いていますか? 食品表示基準により、次の食品は期限を省略できる、とされています。品質の変化が極めて少ないためです。

でん粉、チューインガム、冷菓、砂糖、アイスクリーム類、食塩及びうまみ調味料、酒類、飲料水及び清涼飲料水(ガラス瓶入りのもの〔紙栓を付けたものを除く〕又はポリエチレン容器入りのものに限る)、氷。

また、期限に日付が入っていない食品もあります。食品表示基準Q&A(加工‐14)により、製造や加工した日から賞味期限までの期間が3カ月を超える食品の場合、年月日ではなく年と月の表示にしてよいことになっています。「令和4年3月」「2022.3」などの記載です。

たとえば、賞味期限の日付が2021年7月28日の商品を年月表示に切り替える場合、2021年7月と表示すると7月29日、7月30日、7月31日は期限切れなのにOK、ということになってしまいます。そこで、2021年6月と表示をしなければなりません。こうした細かいルールも、消費者庁の食品表示基準Q&Aで定められています。

■5. 3分の1ルールがまだ残っている

賞味期限に関して食品業界には昔から「3分の1ルール」というものがありました。製造してから賞味期限までの期間を、製造業者と販売業者、消費者が均等に分け合う、というもの。賞味期限が製造から6カ月後と設定されている場合、2カ月後を製造業者の納入期限、4カ月後を販売期限とするものです。そうすると、消費者は購入してから賞味期限まで2カ月あります。こうすることで、それぞれが余裕を持って取引や保管等をできる、という仕掛けでした。

しかし、あくまでも慣習に過ぎず、法律で定められたものではありません。このルールにより、賞味期限が何カ月も残っている製品を製造業者や販売業者が返品する事例が目立っていました。返品となると多くは廃棄されるため、食品ロスにつながります。

【図表】賞味期間6カ月の例

そのため、農水省は納品期限を緩和するように関係団体に通知するなどしています。大手スーパーマーケットや生協等は、多くの食品について納品期限を2分の1に変更しています。つまり、賞味期限が製造日から6カ月後であれば、製造3カ月後までの納品を求めています。その後は、賞味期限ぎりぎりまで販売したり、少し早めに販売を取りやめたり、あえて賞味期限切れの食品を集めて安価で販売したり、と、業者や食品の種類により判断はさまざまです。

■食品ロスが減れば、回り回って消費者にとっても“お得”

この見直しにより、食品廃棄の削減のほか、厳しい納品と返品の改善等により、人件費や物流コストの削減も見込まれています。

残念ながら、大手はルール変更したものの、業界ではまだ3分の1ルールに沿った納品や販売を求める業者が少なくないとのこと。慣習にこだわる業者がいるほか、消費者の反感も恐れているようです。

たしかに、消費者は、購入した後の賞味期限までの期間が短くなる可能性があります。しかし、安全性や品質に問題があるわけではなく、その状態を了承しており期限内に食べればよいわけです。また、賞味期限切れが近くなり値下げされれば消費者にも直接的なメリットがあります。

諸外国は納入期限を2分の1や3分の2にするのが一般的。それにより食品ロスが減り人件費や物流コストが下がれば、回り回ってやっぱり消費者にとっても“お得”。消費者の理解が3分の1ルール撤廃の鍵を握ります。

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期限表示は簡単に見えて非常に複雑です。結局、いつまで持つかは食品によって大きく異なるので、この食品であれば賞味期限切れ後1年、あれは半年後まで食べられる……というような一般化はできません。歯切れの悪さをお許しください。まずは、製造加工や包装を施しその食品を熟知している事業者に尋ねてみるのをお勧めします。

今後は、事業者自身が積極的に食べられる期間を広報し、消費者もその情報を基に科学的に判断して食べる、という好循環を構築し、食品ロス削減へとつなげたいものです。

<参考文献>
コープこうべ・食品ロス削減
厚労省・リステリアによる食中毒
農水省・1/3ルール等の食品の商慣習の見直
農水省・食品ロス削減に向けた納品期限緩和の取組の進捗と今後の展開について

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松永 和紀(まつなが・わき)
科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同、科学ジャーナリスト賞受賞)など。

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(科学ジャーナリスト 松永 和紀)

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