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なぜ、日本電産はコロナ禍で過去最高の売上高を達成できたのか

プレジデントオンライン / 2020年11月7日 11時15分

記者会見する日本電産次期社長の関潤・同社特別顧問(左)。右は永守重信会長=2020年2月4日、京都市内 - 写真=時事通信フォト

■四半期売上高は過去最高、日本電産の成長を支える2つの源泉

10月26日、精密モーター大手の日本電産が2021年3月期の第2四半期決算を発表した。決算の内容は好調だ。上期の営業利益は増益を達成し、四半期の売上高は過去最高だった。さらに、日本電産は通期の業績見通しも上方修正した。

決算資料を見ると、日本電産の成長を支える主な要素が確認できる。1つ目は、経営者の経営方針が一貫していることだ。日本電産はモーターの可能性を追求し続けている。

もう1つは人の教育である。日本電産では、社員が永守重信会長の理念を共有し、常に効率的に高い成長を目指す経営風土が醸成されている。永守氏が日産自動車の元副COOだった関潤氏を社長に招いたことも組織力向上につながっている。

今後、日本電産を取り巻く競争環境はさらに激化するだろう。特に、中国勢の追い上げは熾烈(しれつ)だ。変化に対応しつつ日本電産が長期存続を目指すためには、経営のスピードをさらに引き上げる必要がある。そのために、永守氏と関氏がどのように組織の地力を引き上げ、全社一丸となって激しい競争の波を乗り越えていくかが見ものだ。

■“合議制”から“トップダウン体制”に戻した理由

日本電産の経営を考える上で最も重要なことは、経営トップがモーターの可能性を理解していることだ。足元ではテレワークによるパソコンの需要拡大など、中長期的には自動車の電動化やロボットの活用範囲の拡大などがモーター需要の伸びを支える。そうした長期の展開を描き、迅速に重要な意思決定を下す永守氏の才覚が、日本電産の業績拡大を支えている。

2018年から2019年にかけての日本電産の経営体制の変化は、永守氏の意思決定の重要性を確認する良い材料だ。2018年、米中の通商摩擦が激化する中で日本電産は永守氏によるトップダウン体制から“合議制”への移行を目指した。

その後、米中の摩擦は激化し中国経済の成長の限界への懸念も高まった。2019年1月、米中摩擦などの影響によって中国の需要が急減し、日本電産は業績を下方修正した。永守氏が「尋常ではない変化が起きた」と評するほど状況は深刻だった。

本来、事業環境が悪化した時は、成長分野への投資を進めるなどしてシェア拡大を狙う好機だ。しかし、当時の日本電産は合議制をとったため意思決定が遅れた。永守氏は合議制を重視した経営に危機感を強め、トップダウン体制に戻した。

その際、永守氏は日本電産のコアコンピタンスである“モノづくり”のバックグラウンドが豊富な関氏を招聘(しょうへい)し、成長期待の高い車載事業などを統括させた。関氏は、部品の内製化やサプライチェーンの見直しなどを進めることによって収益性の向上を実現している。

以上の取り組みが可能だったのは、経営トップの考えがぶれないからだ。経営トップが取り組むべきポイントを明確につかみ、必要な方策を具体的に描いているからこそ、日本電産は常に事業体制を強化し、収益力を高めることができている。

それは他の企業にも参考になる。経営者が自社の強みをピンポイントで把握し、長期の視点で事業戦略を策定できれば、変化への対応は行いやすい。反対に経営者の焦点が定まらないと、あれにもこれにも手が出てしまい、機敏に変化に対応することは難しい。また、合議制の場合、誰が最終責任者であるかが曖昧になりやすい。

■“すぐやる、必ずやる、出来るまでやる”人を増やす

永守氏のインタビュー記事などを見ると、同氏は無駄を嫌っている。コロナショックの発生に関して、日本電産は経営体質を変革する絶好の好機ととらえ、関氏の指揮のもとで原価低減をはじめとするコスト構造の改善に取り組み業績拡大につなげた。

無駄を嫌う永守氏の考えは、日本電産の組織風土そのものだ。日本電産は徹底して事業運営の無駄をなくし、その上で革新的なモーター関連技術を生み出すことによって、高い成長を追及している。創業者である永守氏の考え(永守イズム)が全社員に浸透し、さらなる成長を実現するために、同社は社員の教育を重視している。

良い例が、社内大学である“グローバル経営大学校”だ。そこではマネジメントに不可欠な経営戦略やファイナンスなどの専門知識に加え、永守氏の経営哲学などが経営幹部候補生に教授されている。

また、日本電産は永守氏の経営理念、生き方、考え方を記した『挑戦への道』を作成して事業を展開する各国の言語に翻訳して社員教育を徹底している。その目的は、永守氏が重視する“すぐやる、必ずやる、出来るまでやる”人を増やすことだ。さらに、永守氏は京都先端科学大学の運営にも注力し、世界最高峰のモーターエンジニアの育成を目指している。

M&Aに関しても、日本電産は買収した組織が自社の経営風土に速やかに習熟し、力を発揮することにこだわっている。永守氏は自ら買収した企業の経営に参画して徹底してPMI(買収後の組織統合)を進め、支出の削減などの改善策を実行して業績を立て直す。それを見た社員は「この人についていけばうまくいく」と信じ、士気が高まる。

その結果として業績が拡大すると、日本電産はボーナスの増加などによって社員の労に報い、さらなる士気向上が目指されている。経営トップ自らがPMIを主導し、組織の収益獲得力向上を実現することは口で言うほど容易なことではない。それでも永守氏が自らPMIを行い、徹底した研修などによって組織の士気の統一と向上にこだわるのは、人材を磨くことこそが企業の成長を支えるとの信念があるからだ。

■長期存続に不可欠な個人の力

今後の展開を考えた時、日本電産を取り巻く環境は大きく変化するだろう。日本電産が変化に対応し成長するためには、人材の育成を強化し、個々人の力、やる気をさらに引き出すことが重要だ。最終的に企業の成長は人にかかっている。独創的なアイデアや自らの意見を持った人材を増やし、やる気と集中力を高め、組織としての一体感を醸成することが企業の成長に不可欠だ。

ノートパソコンで仕事をする女性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

特に、EVモーターを中心に中国の企業とのシェア争いは激化するだろう。国営・国有をはじめとする中国企業は優秀な人材を確保してソフトウエア面での競争力を発揮し、技術開発に関しても急ピッチで力をつけている。共産党政権は有力企業に土地を提供し、産業補助金も支給している。優秀な人材と固定費の低さが中国企業の低価格戦略を支えている。

国際的な競争激化に備え、日本電産はセルビアに工場を建設して欧州でのEVモーター供給能力を引き上げる方針だ。シェア獲得のために追加的な設備投資や企業買収も必要だろう。

増大する組織を1つにまとめて士気を高め、より効率的に収益を獲得するためには、永守氏のさらなるリーダーシップ発揮と、自動車ビジネスに長く携わった関氏のイニシアティブ発揮が不可欠だ。その上で業績が拡大し、賞与の増加や個人への権限付与などが進めば士気は一段と高まるだろう。それは、日本電産の長期存続を支える要素になる。

■モーター分野で世界トップの地位を確立する日

さらに長期の視点で考えると、永守氏が注力する教育と実務の連携に注目したい。実務家を大学に派遣してモーター開発の実践的知識やビジネスの現場で何が起きているかを教授することは、若者のやる気を刺激する。その上で、日本電産で就業を希望するやる気にあふれた若者が増えれば、同社は人を育て、新しい技術を生み出すサイクルを加速化し、成長の持続性を高めることができるだろう。

高速ライト
写真=iStock.com/DKosig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DKosig

先駆者のスピリットや理念を後世に伝え、さらなる高みを目指してもらうことは教育の醍醐味だ。経営者の強いリーダーシップ発揮と教育の強化によって、日本電産がモーター分野で世界トップの地位を確立することを期待したい。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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