世間の目、雇用不安…1万人救った産業医が教える、「女の辛さ」を捨てる新習慣

プレジデントオンライン / 2020年11月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

緊急事態宣言解除後の7月以降、全国で自殺者数が増加傾向に。8月の自殺者は1854人と前年比16%増、このうち女性は651人で同40%も増えています。いったい何がここまで女性を追い詰めるのでしょうか。産業医の井上智介さんに伺いました。

■女性の自殺者が増えている背景

警察庁からの発表があったとおり7月以降、女性の自殺者数が明らかに増えています。その背景には、新型コロナウイルス問題の影響による雇用や経済的な問題、パートナーからのDV被害、子育ての悩みがあると言われています。

一つひとつ見ていきましょう。まず雇用の問題については、女性は男性よりも非正規のケースが多いため、今回の新型コロナ問題でも仕事を失いやすく、それが経済的な問題に発展しています。

妻が仕事をせずに家にいると、夫に「家庭のために働いてくれよ」「一生懸命仕事を探せよ」と言われたり、「コロナを言い訳に仕事を見つけるのをサボっているんじゃないか」と心ない言葉をぶつけられたりすることもあります。そういった理解のない夫の言葉をストレートに受け取ると、自分は家庭や家計に負担をかけていると思い詰めてしまいます。

また夫が在宅勤務になり、夫自身の環境の変化からストレスが増えて、お酒のトラブルが表面化する事例も増えています。在宅勤務になると終業=家となるので、どうしても飲む時間が長くなり、量が増えてしまうからです。翌日も在宅勤務なら、お酒がちょっと残っていてもバレない。そこでセーブしないといけないという感覚が薄くなるので、もともと大酒飲みの人なら、情緒がおかしくなるぐらい酒量が増えて、妻に当たり散らし、それがエスカレートしてDVに発展してしまうこともあり得るのです。

そこで女性もすっと助けを求められればよいのですが、今は助けを求めにくい環境。しかもこの状況がいつまで続くかわからないとなると、追いつめられてもおかしくありません。

■夫がいても、シングルマザーでもしんどい

シングルマザーの方はとくに子育ての悩みが深くなります。そもそも子育てと仕事の両立が大変な中、ソーシャルディスタンスの影響で、ふだん手助けしてもらっている親に会うのが制限されたり、情報交換するママ友との交流がなくなったり、非常につらい思いを抱えている人が多い。加えて子どもの予防接種や検診がずれるなど、何もかも思い通りにいかないという感覚に陥る人が増えています。

意気消沈している女性
写真=iStock.com/liza5450
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liza5450

夫がいたらいたでDV被害にあうし、シングルマザーはシングルマザーでしんどい。こういったことが女性の自殺につながる背景になっているのです。

もうひとつ大きな影響を与えているのが、芸能人の自殺です。今回に限らず、こうした報道が出た後は、特に同世代の人の自殺者の数が増える傾向にあります。「ウェルテル効果」といいますが、「同年代の人が死ねるなら自分も死ねる」と自分に重ねて、背中を押されてしまう。ですから、こうした報道が引き金になることは十分あるわけです。

■何がイヤなのか、自分に問いかける

こうしたつらさに押しつぶされないようにするには、追いつめられる前に、日ごろからうまくストレスと付き合っていくことが大事になってきます。

そもそも今は、平常時ではないので、ストレスを感じて頭痛がある、イライラしてしまうといった反応は誰にでもあります。イライラしている自分は、ダメなんだと思うことはありません。イライラしている自分を受け入れたうえで、不安やストレスを感じたら、どう対処していくかを考えていきましょう。

おすすめなのは、ストレスを分析することです。まず今の不安は、何がイヤでそうなっているのか、自分に問いかけてみましょう。たとえば経済的な不安があるなら、何がイヤかと問いかけると「生活ができなくなるのがイヤ」「今までしなかった我慢をしなければいけないのがイヤ」など、自分なりの答えが出てきます。人によっては「乱れている自分の姿を見られるのがイヤ」という人もいるでしょう。

その答えは人それぞれですが、モヤモヤとした不安が整理されて、気持ちが解決に向けた行動に向かいやすくなります。

自分の不安を分析したら、次にその中で何ができるか、解決策を書き出してみます。経済的な不安なら「給付金を調べる」「おこづかいを減らす」「携帯電話の料金プランを見直す」など思いつく限り、どんどん書き出します。

その中で自分がコントロールできることとできないことがありますから、コントロールできることから優先して取り組んでいきます。緊急小口資金などお金を借りられる手段については、僕のほうから患者さんにお伝えすることもよくあります。

とにかく不安なときは、何をすればよいのかわからない状態に陥っていることがほとんどです。自分の不安を打ち消すためには、今、何ができるのか、具体的な行動に目を向けることが何よりも大事なのです。

■孤立感が強まった時が一番しんどい

自殺願望のある人が周りにいても、それに気づけないことはよくあります。ある意味、精神科医でも防ぐことは難しいので、実際にそれで周りの人が亡くなっても、決して自分を責めないでほしいと思います。

危ないのは、不安定だった人が急によくなったとき。「よくなりました。先生、ありがとうございます」と言われて、こちらもポジティブに考えていたら大間違いで、そのときはもう腹をくくって身辺整理をしているといったことが多いのです。ですから不安定な人が急に元気になったり、もう元気だから大丈夫、と距離をとるようになったりすると非常に危険な状態と言えます。

こうしたことは誰しも可能性のある話です。私たちが精神的な負担が大きくなるのは、孤立感が強まったときです。それを防ぐには、とにかく“つながり”を意識してほしいと思います。

社会的なつながりには、2種類あります。ひとつは学校や会社など、どこかに所属しているという感覚。これを「社会的統合」といいます。もうひとつが「社会的ネットワーク」といわれるもの。これはAさんと仲がいい、Bさんとも仲がいい、といった個人間のつながりです。

仕事面で言うと、在宅勤務が続くと会社に所属する「社会的統合」の感覚が薄くなり、孤立感が強くなります。ですから会社としても、一人ひとりがどこかに所属しているという感覚が持てるように配慮しなければいけません。チームリーダーなら、朝礼や声かけなど、何かしら顔を合わせる機会を増やして、みんながここに所属しているという感覚を持てる工夫が必要になります。

プライベート面では、コロナ禍でママ友との交流が減ってしまうことはとても大きな変化です。というのは、ママ友は同じ保育園や学校という「社会的統合」と個人的に仲良しのAさんやBさんといった「社会的ネットワーク」のどちらも含んでいるからです。ですから交流が切れると、この二つとも切れることになってしまいます。そんなときは医療や福祉の関係者、役所などに相談してほしいですね。一人で抱え込んではダメです。それこそオンラインを使いながら連絡をとって、個人間のつながりを太くしていくとよいでしょう。

■「仕方ない」とあきらめることが一番の方法

そして予防接種や検診など思い通りにいかないことがあっても、思い切ってあきらめる。「今までできていたからやらなきゃ」というマストなことも、今はできないことがたくさんあります。できないならできなくてしょうがないと割り切って、自分のできる範囲でやればいいのです。

なぜ、なかなかあきらめられないのか。それは世間の目があるからでしょうね。「予防接種してないの?」とか「子どもがかわいそうでしょ」と言う人もいるから、その恐怖心であきらめるのが難しくなっているのかもしれません。でも今は、できるだろう、やらなきゃという考えにとらわれず、今年は延びても仕方ないという鷹揚な気持ちでいること。それが自分の身を守る、一番の方法なのです。

----------

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務

----------

(産業医・精神科医 井上 智介)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング