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「酒気帯び時の認知レベル」6時間睡眠が、じつは一番危険な理由

プレジデントオンライン / 2020年11月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

仕事に家事に忙しいビジネスパーソンの中では、6時間睡眠は日常という人も多い。しかし、ある研究では、6時間睡眠が常態化している人は、酒気帯び時の認知レベルになっている可能性があることが指摘されている。さらに栄養睡眠カウンセラー協会代表の前野博之氏は、「本人がそのことに気づいていないことが問題」と指摘する——。

※本稿は前野博之『成功する人ほどよく寝ている』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

■6時間睡眠の人は、自分の集中力低下に気づかない

睡眠不足や睡眠の質の悪さは、あなたの健康やビジネスにおいて、さまざまなリスクを上昇させる。それでは睡眠を改善すると、どのようなメリットがあるのだろうか?

睡眠不足と集中力の関係について、ペンシルベニア大学で一般の男女48人を対象に調査したデータが発表された(カリフォルニア大教授ウォーカー博士の『睡眠こそ最強の解決策である』から、デーヴィッド・ディンゲス博士の論文にあたった)。

8時間睡眠、6時間睡眠、4時間睡眠をそれぞれ14日間続ける3つのグループと、3日間で睡眠時間なしのグループで、パソコンの簡単な作業をしてもらい、集中力が途切れて起きたミスの回数を計測した。

結果は、8時間睡眠のグループはミスが少なく、14日間にわたりほぼ完璧だったのに対し、睡眠時間なしのグループは24時間時点でミスの回数が400%増加した。その後、4時間睡眠グループは6日後にミスが400%増加し、6時間睡眠グループは10日後にミスが400%増加した。

ビジネスパーソンにとって、6時間睡眠は普通だと思っている人が多いと思う。しかし、10日間続けるだけで24時間眠っていないグループと同じレベルに集中力が低下してしまう。さらに問題は、24時間眠っていないと強い眠気を感じるが、6時間睡眠グループは眠気をあまり感じず、自らの集中力の低下にもほとんど気づいていなかったということだ。

これほど集中力が下がっているのに、それに気づかず仕事をこなしている現状を知ってほしい。逆に、6時間睡眠を8時間睡眠に改善するだけで、驚くような集中力の向上が期待できるのだ。

■睡眠6時間は酒気帯び認知レベル

睡眠をとらないと認知能力がどのくらい影響を受けるのかを調べたところ、24時間寝ていないと、血中アルコール濃度0.1%と同程度まで認知能力が低下するという結果がオーストラリアの研究機関から報告された。日本の酒気帯び運転の取り締まりは0.03%以上からで、徹夜をすると酒気帯び運転取り締まりの3倍以上の濃度で認知能力が低下してしまうのである。

ペンシルベニア大学の別の研究でも、6時間睡眠を2週間続けると24時間寝ていないのと同じレベルにミスが増加していた。ということは、慢性的に睡眠時間が6時間の人は、血中アルコール濃度が0.1%程度の認知能力に低下している可能性があり、それは体重60kgの人がウイスキーをショットグラスに4杯飲んだのと同じレベルなのだ。6時間睡眠が常態化している人は、早急に睡眠時間を確保し、本来のパフォーマンスを取り戻していただきたい。

全米自動車協会(AAA)交通安全財団が、約2年間にわたり7000人ほどのドライバーを対象に交通事故の原因調査を行い、2016年に結果を発表した。それによると、7時間睡眠と比較し、睡眠時間が4時間以下になると、交通事故を起こす危険は11.5倍になると発表されている。

睡眠不足の状態で運転するというのは、飲酒運転をやっているのと変わらない。逆に睡眠時間を改善するだけで、大幅に交通事故のリスクを下げることができるのだ。

■眠れば眠るほど、記憶力が向上する

何かを覚える日の「前日」の睡眠時間と記憶力の関係について、カリフォルニア大学で研究が行われた。

多くの学生を集め、学習日の前日に「十分な睡眠をとるグループ」と「徹夜をするグループ」に分け、翌日の正午に新しい情報を学習してもらう。その後、2日間しっかり睡眠をとってもらった後でテストをすると、徹夜したグループは成績が40%も悪いという結果が出た。学習日の前日に徹夜をすると、翌日に脳の海馬が活動せず、記憶を残せなくなるのだ。

また、米国ハーバード大学では、何かを覚えた日の「当日」の睡眠時間と記憶力の関係についての研究が行われている。

133人の学生を「学習日に十分な睡眠をとるグループ」と、「学習日に徹夜をするグループ」に分け、さまざまな画像を見せて記憶してもらった。

考えながら、ノートに書き込む女性
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

さらに、睡眠をとったグループを3つに分け、それぞれ十分な睡眠をとりながら、①記憶した翌日にテスト、②記憶した2日後にテスト、③記憶した3日後にテストを行った結果、日を追うごとに記憶が強化され、③の3日後のグループの成績がいちばんよいという結果が出た。

何か学習した日には十分な睡眠をとり、さらに寝れば寝るほど記憶力は向上する。逆に、学習日に徹夜をしたグループは、その後2日間十分な睡眠をとったにもかかわらず、③と同じ日数が経過した3日目のテストで記憶の強化は認められなかった。つまり、新たに学習した日に十分に眠らないと、記憶を刻みつけるチャンスを失い、二度と取り戻すことができないのだ。

これらふたつの研究からわかるのは、何かを学習する場合、前日と当日の両方で十分な睡眠をとれば、記憶力の向上が可能だということである。

■アスリートにとっても8時間睡眠の効果は絶大

アスリートにとって睡眠は決定的に重要である。トレーニングや試合後に十分な睡眠をとれば、運動による体内の炎症を鎮め、傷んだ筋肉や組織を修復させ、細胞のエネルギーを回復させることができる。

そのため、トレーニングが激しいほど睡眠も多くとる必要があり、国際オリンピック委員会も2015年に睡眠の重要性を訴えるレポートを発表している。

750以上もの科学的研究によると、6時間睡眠を8時間に変えるだけで、疲労を感じるまでの時間が10〜30%延びる、垂直跳びの高さが向上する、心肺機能が向上する、筋力のピーク値が上がる、血中酸素飽和度が上がる、怪我のリスクが半分以下に下がるなど、アスリートにとってさまざまなメリットがあることがわかってきた。

北米のプロバスケットボールリーグNBA選手のアンドレ・イグダーラ(2015 NBAファイナルMVP)は、睡眠時間を8時間に改善しただけで、1分当たりの得点が29%増加し、フリースローの成功率が9%向上、スリーポイントシュートの成功率は2%上昇し、逆にファウルの数は45%も低下したのだ。まさに、睡眠は合法かつ究極のパフォーマンス向上薬と言ってよいだろう。

■人間は、睡眠中も技能の習得をしている

体を動かしていない睡眠中に、脳が独自に技能の習得を行っていることが、ハーバード大学の研究によって明らかになった。

前野博之『成功する人ほど良く寝ている』(講談社+α新書)
前野博之『成功する人ほどよく寝ている』(講談社+α新書)

右利きの人を集め、ふたつのグループに分かれてもらい、左手を使ってキーボードで数字を打ち込む練習をしてもらう。ひとつのグループは午前中に練習し、当日の夜にテストを受ける。もうひとつのグループは夜に練習し、8時間寝てから翌朝にテストを受けるようにした。

練習からテストまでは、それぞれ12時間の間隔を空けているが、8時間寝たグループは、当日にテストを受けたグループと比較して、数字を打ち込むスピードが20%上昇し、正確性も35%上昇した。さらに、当日テストを受けたグループも8時間睡眠後のテストでは同じように成績が向上したのだ。

つまり、脳は睡眠中も練習を続けており、これはキーボードのタイピングだけではなく、各種スポーツ、職人の技術、運転や操縦の技術でも変わらない。楽器を練習中に何回もミスをして上手く弾けない箇所があっても、睡眠をとった次の日には、なぜか弾けるようになっていたという経験をされている人も多いだろう。これも同じしくみによるものだ。

■感情が抑制できてカッとならない

睡眠不足の状態だとイライラするという人も多いと思うが、その理由についてカリフォルニア大学で研究が行われた。

18〜30歳の健康な男女26人を対象にMRIで脳をスキャンした結果、睡眠不足の状態になると、怒りの感情を生み出す脳の「桃体」の反応が60%も増幅していた。

その上、合理性・論理性・意思決定を司り、衝動を抑制する「前頭前皮質」と怒りを生み出す「桃体」のつながりが弱まってしまうので、原始的な感情を抑制できなくなってしまうことも明らかになった。

職場でイライラしたり、「ついカッとなって」感情を爆発させてしまうと、チームワークが乱れてしまう。十分な睡眠をとって感情を抑制し、理性を保つことが、あなたが現在抱えているプロジェクトを成功へ導く近道なのだ。

■心身のアンチエイジングにも直結

成長ホルモンは脂肪の分解、骨密度の増加、筋肉の発達、肌のターンオーバーの促進に関係するが、それだけではなく、精神面にもさまざまな影響を与えることがわかっている。

成長ホルモンは脳の下垂体から分泌されるのだが、不足すると、疲れやすく、集中力が続かなくなり、孤独感を感じ、記憶力の低下を感じ、イライラしたり落ち込んだりして何もやる気が出なくなってしまう。

若々しい肌と体形をキープし、充実感に満ちて生き生きと仕事をこなし、輝くような人生を送りたいなら、成長ホルモンは欠かせない。そして、一日の中で最も成長ホルモンが分泌されるのは、入眠後、1回目に現れる深い眠りステージ3のノンレム睡眠時なので、睡眠の質の向上はアンチエイジングにも直結しているのだ。

■深いノンレム睡眠が認知症のリスクを下げる

米国ロチェスター大学医療センターの研究チームは、老廃物を排出するリンパ系が存在しない脳において、アルツハイマー病やパーキンソン病に関係する有害なタンパク質を排出する「グリンパティック系」というシステムが存在することを有力な科学雑誌「サイエンス」に発表し、大きな話題となった。

睡眠中に神経伝達物質のノルアドレナリンが減少すると、脳内の神経細胞(ニューロン)以外の細胞であるグリア細胞(ニューロンを補佐する細胞)が約60%縮小し、細胞の間隔が拡がる。すると、脳脊髄液の流れがスムーズになり、まるでリンパ管のように有害タンパク質を洗い流して脳外へ排出するのだ。

グリンパティック系が最も効率的に働くのは深いノンレム睡眠時で、昼間の10〜20倍の老廃物を排出すると言われている。

そのため、長時間の睡眠をとったとしても睡眠の質が悪く、深いノンレム睡眠が現れなければ老廃物は排出されない。逆に、睡眠の質を改善し、深いノンレム睡眠が現れるようになれば、脳が清掃され、アルツハイマー型認知症のリスクを下げることができるのだ。

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前野 博之(まえの・ひろゆき)
栄養睡眠カウンセラー協会 代表理事
1967年生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、大手電機メーカーに入社し、家電製品の開発を担当。睡眠時間が4~5時間というハードな毎日を続ける中で体調を崩し、健康の大切さを痛感。2005年に栄養学の資格を取得。プロスポーツ選手やモデルへのアドバイス、スポーツジムでのダイエットプログラム作成、病院での栄養指導を行うかたわら、栄養に関する講演を2500回以上行っている。この間、健康の維持には栄養の改善だけでなく睡眠も重要であるとのことから最新の睡眠学を学び、そこに栄養学を加えて独自の「睡眠改善メソッド」を構築、現在は栄養睡眠カウンセラーの育成を中心に活動中。

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(栄養睡眠カウンセラー協会 代表理事 前野 博之)

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