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三浦瑠麗「映画『アイリッシュマン』のクレイジーな時代はつい最近」

プレジデントオンライン / 2020年11月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleg Elkov

■マフィア映画の「最終回」のような作品

Netflixでとうとう『アイリッシュマン』を観た。

『アイリッシュマン』とはマーティン・スコセッシ監督による3時間半の長尺映画で、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの両巨頭が主演を務め、ジョー・ペシやハーヴェイ・カイテルらがさらに渋く脇を固める、マフィア映画の集大成、最終回のような作品だ。

ハーヴェイ・カイテルは80歳を超える大ベテラン。『グッドフェローズ』でアカデミー助演男優賞を獲ったジョー・ペシも80に手が届こうという年齢。もはや味わいの塊のようになってしまった彼らがマフィアのボスたちを演じ、アル・パチーノはジミー・ホッファという伝説の全米トラック運転手組合委員長を演じる。

ホッファは労組のドンとして、まさに民主党の黄金時代を支える人物だった。第二次大戦後のアメリカの急成長の何もかもが上向きの時代に、マフィアと結託しつつ巨大な年金資金を運用し、私腹を肥やしながら、労組とマフィアが持ちつ持たれつで政治的影響力を行使した、という今の民主党のイメージからは似ても似つかない像なわけだ。

物語の語り手であるロバート・デ・ニーロ演じるフランク・シーランはアイリッシュ(アイルランド)系米国人でありながら、イタリア系マフィアのボスたちに深く信用され、ジミー・ホッファの右腕として裏社会の実務をこなす労組幹部。一トラック運転手から成り上がり、マフィアに忠誠を尽くす。フランクをマフィアの世界に引き入れたのはジョー・ペシ演じるラッセル・ブファリーノ。シチリア系移民として米国にやってきた彼は、テキスタイルの店からスタートして頭角を現し、幅広いシチリア系人脈を生かして泣く子も黙るペンシルヴァニア北東部のマフィアのボスに成長していく。

■実在の登場人物たちの暗殺はつい最近のこと

『アイリッシュマン』の劇中の登場人物にはそれぞれ死んだ年と死因がテロップで付されるが、ほとんどは天命を全うしておらず、彼らが抗争で暗殺されたのもつい最近であることを痛感させられ、生々しさが漂う。

フランク・シーランの告白から、謎の失踪を遂げたジミー・ホッファが実は彼らマフィアの手によって殺されたことが明らかにされていく。そこにはクレイジーな時代を振り返る老年のフランクがいるわけだが、現代を生きる私たちでさえ、クレイジーすぎる現実を受け入れてしまうほどに、俳優たちはボスを好演している。

3時間半、身じろぎもせずに見入ってしまった。私の縁戚にもシチリア島出身のイタリア系がいる。もちろん、こんなディープな世界ではなく普通の家庭なのだが、親や伯父伯母の世代はみんなこの米国を生きていたのだ。米国の60、70年代を私は知る由もないのだけれど、そこにわずかに残っている何かを懐かしく思い出しながら、どっぷりとアイリッシュマンの世界に浸ったのだった。

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三浦 瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者
1980年、神奈川県生まれ。神奈川県立湘南高校、東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)、『日本の分断』(文春新書)など。

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(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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