「UVカット」に熱心すぎる人が見落としている健康リスク
プレジデントオンライン / 2020年11月17日 11時15分
※本稿は、満尾正『医者が教える「最高の栄養」ビタミンDが病気にならない体をつくる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■紫外線に当たる野生動物はビタミンDが多い
ビタミンDの血中濃度は、紫外線量や摂取する食品の内容など、生活習慣の影響によって大きく変化し、1日のうちでも高くなったり低くなったりしています。
ビタミンDは原料のコレステロールから作られた「プロビタミンD3」という物質が、皮膚で紫外線のUVBと反応して「プレビタミンD3」という物質になり、それがさらに体内で変化することで作られます。
野生動物はいつも屋外で紫外線に当たっているため、ビタミンDが多い傾向があります。羊などの草食動物は体表面が体毛で覆われていますが、それでも必要な量のビタミンDが作られています。イギリスの研究では、羊の血中ビタミンD濃度と出産件数の変化について調べています。その結果、夏の終わりの血中ビタミンD濃度が高い年には、翌年、子羊の数は増える傾向にあったということです。
■紫外線の「効能」にももう少し目を向けよう
ビタミンDはすべての生物に必要な重要な栄養素であり、紫外線を浴びることで作られます。日本では紫外線の弊害のほうがメディアで取り上げられることが多く、紫外線は避けるべきものとして知られているかもしれません。特に美容に関心が高い若い女性は「美白」「美肌」志向が強く、UVカットに余念がありません。
多くの人にビタミンDが不足しているのは、こうした紫外線不足の影響が大きいのではないかと私は考えています。紫外線を避けるばかりではなく、「太陽の光を浴びる」習慣のメリットも、もう少し見直すべきではないでしょうか。
ただし、もちろん紫外線の弊害もありますから、弊害と利点とのバランスをよく考えながら、どこまで紫外線を浴びるべきか、それでも不足するビタミンDについてはサプリメントで補う、といった工夫が必要になります。
■気をつける時期は紫外線が少ない「冬季」
ビタミンDは皮膚に紫外線が当たることによって作られます。ということは、紫外線を浴びる量が少なければ、当然、体内で作られるビタミンDの量は少なくなります。したがって、季節によって日照時間が長くなったり短くなったりするのに伴い、血中ビタミンD濃度にも季節性の変化があります。
図表1はボストン(アメリカ・北緯42度21分)、エドモントン(カナダ・北緯53度34分)、ベルゲン(ノルウェー・北緯60度23分)の3つの都市に住む人を対象に、ビタミンDの前駆体であるプレビタミンD3の血中濃度を1年にわたって調べたものです。
3つの都市のなかでもっとも緯度が低いボストンの人の血中ビタミンD濃度が、もっとも高くなっていることがわかります。緯度が低いほうが赤道に近く、紫外線量が多くなるからです。
また、どの都市でも12月から2月にかけてが、1年のうちもっともプレビタミンD3の血中濃度が低くなる時期であり、血液中のビタミンD濃度がもっとも下がると考えられます。
これは季節によって変動するだけでなく、1日のうちでも変化します。紫外線量の多い日中は血中ビタミンD濃度が高く、紫外線量が少なくなる夜には低くなる傾向があります。同様に晴れの日は高く、太陽の出ない曇天・雨の日は低くなります。
同じ紫外線量を浴びても、血中ビタミンD濃度や体への影響が皆同じわけではないことに注意が必要です。紫外線を浴びて皮膚で作られるプロビタミンDの濃度は、加齢とともに低下してしまいます。これはコレステロールからプロビタミンDを作るために働く酵素の力が弱くなるためと考えられています。
■年齢を重ねると摂取できるビタミンD量は減ってしまう
図表2を見てください。70代の皮膚でのビタミンD合成能は20代と比較して75%程度に、80代になるとほぼ半分程度に、プロビタミンDの濃度が減っていることがわかります。これはつまり、高齢になると、同じ時間紫外線を浴びても、十分なビタミンDを作ることができなくなるわけです。そのため高齢者の方は、積極的にビタミンDのサプリメントを摂取する必要があります。
また、年齢だけでなく、肥満の人は脂肪のなかにビタミンDが溶け込んでしまうために血中濃度が上がりにくくなるなど、体質によって個人差があります。
同じ年齢で同じ紫外線量を浴びても、血中ビタミンD濃度は一人ひとり違ってきます。自分はどのくらい紫外線を浴びれば、どのくらいビタミンDが作られるのかを確かめるためには、血液検査で確認する必要があります。
■「日光浴は健康によい」をもう一度広めよう
今でこそ「紫外線をカットすべき」という情報の影響で日光浴が避けられるようになってしまいましたが、以前は日本でも「日光浴は健康によい」と考えられていました。
日光浴の健康効果は1840年頃から注目されるようになり、特に結核感染が広がった時期には、サナトリウムと呼ばれる結核療養施設で一定時間の日光浴をすることが、治療の一環として採用されていました。
そのメカニズムは長らく解明されていませんでしたが、2006年に「ビタミンD投与により、マクロファージ内にカテリジンという抗菌ペプチドの一種が作られ、これが結核菌の増殖を抑える」ということが報告されました。つまり、日光浴によって血中ビタミンD濃度が高まることで、結核菌の増殖を抑えていたのではないかということが推測できます。
抗菌作用と抗炎症作用を併せ持つ、ビタミンDの免疫調整作用によって、感染症に対抗する力が高まるのではないかということは容易に想像がつきます。
■日光こそがサーカディアンリズムを整える
実は「日光を浴びる」習慣には、ビタミンDを作る以外にも、もう一つ健康維持にとって大切な側面があります。
それは「サーカディアンリズム(概日リズム)を整える」ということです。サーカディアンリズムとは、生物が生まれながらに持っている、概ね24時間周期で刻まれる生理現象のことで、いわゆる「体内時計」の仕組みです。睡眠・覚醒のリズムや、血圧、体温などもこのサーカディアンリズムと密接に関わっています。
サーカディアンリズムをコントロールする重要な因子は、視覚領域から生まれる刺激信号とされています。サーカディアンリズムは厳密には24時間ぴったりではありませんから、そのままでは少しずつ夜型にズレていってしまうのですが、朝、日光を浴びることでその視覚刺激が脳に伝わり、微妙なズレをリセットし、規則的な生活を送ることができるのです。
その意味でも、毎日「日光を浴びる」という習慣が重要だと言えるでしょう。
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医学博士、満尾クリニック院長
1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業。ハーバード大学外科代謝栄研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。主な著書に『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)など多数。
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(医学博士、満尾クリニック院長 満尾 正)
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