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1日に3時間働けば、十分に生きていける社会がやってくる

プレジデントオンライン / 2020年12月1日 9時15分

デヴィッド・グレーバー著 酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹・訳『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)

■一日に3時間働けば、十分に生きていける社会がやってくる

大恐慌のさなかの1930年、経済学者のジョン・メイナード・ケインズは「孫の世代の経済的可能性」という講演の中で、今日の私たちにとって大変興味深い、ある予言をした。「百年後、一日に3時間働けば十分に生きていける社会がやってくるだろう」─そして、いまこの記事を読んでいる貴方は、ケインズの予測した百年後の世界を生きながら、おそらく毎日8時間以上を労働に投入している。

表面的に言えば、ケインズのこの予言は「大外れ」としか言いようがない。が、本当にそうなのか。たとえば、こうは考えられないだろうか?

すなわち「ケインズの予測は実現した。私たちが社会を営んでいくために必要な仕事=エッセンシャルワークはすでに一日3時間も働けば十分にまかなうことができる。残りの仕事は、社会に何らかの価値も意味ももたらすことのない『無用の仕事』をやっているにすぎない」と。

そして、この仮説に対して「その通りだ、私たちの大半は、価値も意味も生み出すことのないブルシット・ジョブ=クソどうでもいい仕事になっている」と指摘しているのが本書である。実に強烈なタイトルだが、著者はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで人類学を教えていたど真ん中のアカデミーキャリアの持ち主。本書そのものも極めて重厚な社会学研究書となっている。グレーバーが指摘する問題は私たちの社会にとって極めて深刻なものだ。そのエッセンスを抜粋しよう。

「膨大な数の人間が、本当は必要ないと内心考えている業務の遂行に、その就業時間の全てを費やしている。(中略)こうした状況によってもたらされる道徳的・精神的な被害は深刻なものだ。それは、私たちの集団的な魂を毀損している傷なのである。(12ページ)」

■問題視するのは「ブルシット・ジョブの多さ」だけではない

著者が問題視するのは「ブルシット・ジョブの多さ」だけではない。より本質的な問題は、ブルシット・ジョブの多くが世間では専門職として敬われ、往々にして高収入であるのに対し、社会に絶対に必要なエッセンシャルワークの多くがその真逆であるということだ。本書では投資銀行、広告代理店、税理士などの具体例を挙げ、「もらっている報酬の数十倍の社会的価値を破壊している」と指摘する。

このような状況は、どうすれば改善できるのだろうか? 著者は「自分の仕事は誰も気づいていない問題を指摘することで、問題解決のための処方箋を提案することではない」と慎重に断ったうえで、「普遍的ベーシック・インカムの導入しかない」とまとめている。つまり「労働と報酬を切り離す」ことで、労働本来がもたらす楽しみややりがいに応じ、人が職業を選ぶ社会に転換させることを提案しているのだ。問題指摘も刺激的なら解決策の内容もシビれる。一読を強く勧めたい。

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山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。

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(独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周)

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