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「今は財産を守るとき」日本株と米国株を能天気に買ってはいけない

プレジデントオンライン / 2020年11月14日 9時15分

東京の日経平均株価の終値を示すディスプレイの前を歩く歩行者=2020年11月11日 - 写真=EPA/時事通信フォト

日経平均株価が29年ぶりの高値をつけた。アメリカの株式市場も史上最高値を更新している。この「好景気」はいつまで続くのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史氏は「今の世界的な株価上昇は、資産効果によって起こる『将来の好景気』を反映した動きだろう。しかし、能天気に買い進んではいけない」という——。

■世界的に株価が上昇している理由

コロナ禍により大きく下げた世界の株価は急速に回復し、NYダウは史上最高値、日本株も29年ぶりの高値を付けた。同様に金や、デジタルゴールドと言われる暗号資産のビットコインも激しく値を上げている。

これは、ひとえに世界中の中央銀行が、多寡の差はあれ、国債を買い取り世の中にお金をばらまいているからだろう(厳密に言うと、中央銀行が預かっている当座預金残高を急増させている)。

「中央銀行が国債を買い取り世の中にお金をばらまく」ことは、「ハイパーインフレ」を起こした経験から、世界中で禁止されていた財政ファイナンスそのものだ。ハイパーインフレになる、ならないは別にしても、法定通貨の価値が下落していく(=インフレ)のは道理だ。それを理解した投資家が、これらの資産に資金を流し込んでいるのだろう。

「現在の経済実態にそぐわない」との論調が見受けられるが、「現在の経済実態」にはそぐわなくても、「ジャブジャブ資金供給」という金融政策には沿った動きである。

■資産効果で株価上昇が景気を下支えする

株や不動産等の資産価格の高騰は、「資産効果」といって景気を押し上げる効果がある。株や不動産を持っている人たちが、お金持ちになったつもりになり、消費を増やす。

1985年から1990年にかけて日本で起きたバブルがその典型的例で、日産の当時の最高級車「シーマ」がバカ売れし「シーマ現象」という言葉が生み出された。

シーマが売れれば、それを見た投資家が日産株をさらに買い進み、上昇した株価のおかげで、株保有者が、もっと金持ちになったつもりになり、さらにお金を使う。このような好回転が働いたのだ。日産社員のボーナスも上がる。

おかげで当時の消費者物価は、今の日銀の目標である2%よりはるかに低い0.3~0.5%で推移したにもかかわらず、経済は狂乱した。

きちんとそろった1万円札
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

その経験から考えると、今の世界的な株価上昇は、「現状の経済実態」にはそぐわなくても、資産効果によって起こる「将来の好景気」を反映した動きともいえる。

■米国株価の上昇がしばらく継続すると思う

米国では401Kという確定拠出型個人年金の存在もあり、日本よりはるかに多くの国民が株式を所有している。そして、今、米株価は「史上最高値」を更新中だ。

「史上最高値」ということは、儲かっている人も損している人もいるという状態ではない。個別株でみればいざ知らず、一般的に言えば、株を保有している人ほぼ全員が、儲かっているということだ。この資産効果は大きい。

株価上昇中でも、とくに「史上最高値」レベルでの資産効果は抜群で、景気に強烈な好影響を与える。

また米国はこれからの時代の二大資源である情報産業とエネルギー産業を握っている。GAFAはすべて米国企業だし、世界一の産油国家なのだ。さらにはコロナワクチン製造も一歩、他国に抜きんでているようだ。

こう考えると、現在の米株はまだ上昇していく可能性が大きいと私は思う。日本のバブルは1985年から1990年だが、今の米国株市場は、日本の1988年とか89年というのが私の頭の中でのイメージだ。

■日本株の上昇は米国株ほど力強いとは思わない

日本株も上昇してはいる。マスコミは、強いマーケットを印象づけたいのか「29年ぶりの高値」という言葉で株価上昇をはやし立てている。

気持ちはわからなくもないが、冷静な分析が必要だ。29年ぶりの高値とは、29年かかって、やっと29年前のレベルに戻ったということ。現在の25350円(11月11日)は1989年12月の史上最高値38915円の65%でしかないのだ。

NYダウは29年前(1991年末)、3168ドルだから、現在の2万9397ドル(11月11日)は当時の9.3倍。それに比べて日本株は見劣りが著しい。

ただ、名目GDP(国内総生産)の低い伸びを見てみると、日本株の「何とも情けないパフォーマンス」は納得がいく。現在の名目GDP(国内総生産)は、マスコミが「株価が29年ぶりの高値」とはやし立てる29年前(1991年末)の482兆8000億円から約10%しか拡大していない。ちなみに、この29年間で米国の名目GDPは2.0倍だ。

名目GDPが大きく伸びれば、国民1人あたりの収入や税収も大きく増え、企業価値もおおいに上昇するだろう。ところが、日本はその経済規模がほとんど拡大しないのだから、個別の企業価値を表す株価の上昇も無理なのだ。

お金ジャブジャブ政策による世界的株価上昇に伴って、日本株も当面、上昇を継続する可能性はある。私は、今後の円安ドル高を予想しているが、もし、その予想が当たれば、想定以上の上昇を示すかもしれない。

ただ、日本経済が世界ダントツのビリ成長を継続する限り他国株価の動きに見劣りしたままの状態が続くだろう。

日本の世界ダントツのビリ成長の原因は、いつも書くように、日本が社会主義的な経済運営をしているからで、真の資本主義国家へと変わらない限り日本株の大化けは無理である。

■強い国のリスク資産を買え

人が生きていくには自分自身が働くか、お金に働いてもらうしかない。低成長国家で働いても給料が上がる可能性は低い。ならばお金には、強い国で働いてもらわねば日本人は豊かになれない。

私はこの30年近く、「強い国のリスク資産」である米株と米不動産の購入をお勧めし、自らもそれらに投資してきた。為替は予想に反して29年前の134円から105円と22%も下落してしまったが、株価が9.3倍なのだから円貨では8.2倍にもなっている。

日本株に投資していれば、やっと29年前の投資額が戻ってきただけなのだから、米株や米不動産への投資は、はるかに好成績だったはずだ。もっとも、私自身は、この数年の米株急騰の前に米国株をすべて売却してしまった。残念であり、悔しい限りだ。

米国紙幣とグラフ
写真=iStock.com/sefa ozel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sefa ozel

なぜ米株から早く降りてしまったのか? の理由は、後半に詳しく書く。「米株はまだまだ上がると思う。しかし買うのなら、いつでも降りられる状態で、こわごわと買ってくださいね」と講演会等でお話している理由でもある。

■いま、株を能天気に買い進んではいけない

財政ファイナンスをおこなえば、お金がじゃぶじゃぶとなり、株価が上昇するのは、当たり前と言えば当たり前だ。しかし、そんなおいしい話がいつまでも続くはずがない。それが日本株はもちろん米国株からも、私が、かなり早めに降りてしまった理由だ。歴史が教える財政ファイナンスの結末への恐怖が理由なのだ。

日銀は、2013年から、実質財政ファイナンスである異次元緩和を始めた。これは財政破綻を先送りする手段でもあった。そのツケが日銀の財務内容の悪化としてあらわれてきた。

最終的には日銀を廃止、新しい中央銀行を作るしか出口はないところまで追いやられたと私は思うのだ。それが日本のXデーである。

日本でXデーが起これば、さすがに米国株も大きく下押しすると思う。たとえ、今の日本が昔ほど世界経済に対して影響力が無くなっている、としてもだ。衰退しているとはいえ、世界第3位のGDP大国の大混乱は米国株にも影響する。

日本は炭鉱のカナリアだ。はるか先頭を走る日銀を見ながら、財政ファイナンスを始めた他国は日銀の破綻を見れば急速な方向転換を図るだろう。増税で集めた金で中央銀行の保有する国債の償還を策する。中央銀行のバランスシートの縮小、すなわちジャブジャブにしたお金の回収で、株式市場には強烈な冷や水となる。

■今は「財産を守る時期」だ

先ほど、「強い国のリスク資産を買う」のが金持ちになる原則だ、と書いた。しかし世界中で、これだけ財政ファイナンスが行われ、かつ日銀の財務内容がここまで悪化したとなれば、儲けを求めて大きなリスクを取るのが賢明だとは思わない。今は「財産を守る時期」だ。経済の激変に対する保険を掛ける時期なのだ。

なにもリスクを取る時だけではなく、保険を掛ける時も、強い国での運用を考えるべきだ。保険を掛ける際、財務内容のよい保険会社を選ぶのと同じである。

特に日銀が債務超過になり日銀の信用が失われる事態を私は恐れる。中央銀行の信用が失墜すれば、その発行する通貨の価値は暴落するからだ。その保険の意味で、強い国・米国の資産を買うのは「財産を守る時期」の行動として適切だと思う。

「財産を守る」ための保険にはドルのMMF等短期債券を中心に置くべきだと思うが(MMFとは短期金融資産で運用する投資信託)だと思うが、ドル資産の分散投資として、米株の購入は否定されるべきものではない。しばらく米株上昇の継続が予想されるなら、なおさらだ。

ただし米国長期金利が上昇して(長期国債の価格の下落は短期債よりはるかに大きい)、それにつられて日本の長期金利が上昇し始めたら、早めに米株からドル建てMMFに乗り換えることをお勧めする。先に述べたように、日銀の債務超過で起きる日本の混乱が米株に悪影響を与えるだろうからだ。

■日本株への投資は“日本の大復活期”に……

今まで述べてきたように、ただでさえ、日本経済が世界段トツのビリ成長であり、さらにこれほど日銀の財務内容が悪化しているときに、日本株を買い進めるのには首をひねらざるを得ない。どうしても株を買いたいのなら「こわごわと米株」だ。

日本はXデーの後、4年くらい地獄の時代が続くと思うが、新しい中央銀行の下、真の資本主義に経済運営体制を変換できれば、大復活する。日本株を力強く買うのはその時だ。その時が来る前に、日銀の信用失墜とともに自分の財産を失ってしまえば、その大チャンスに勝負をかける資金も無くなってしまう。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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