東京女子医大のブランド力失墜で「早大医学部」誕生の現実味

プレジデントオンライン / 2020年11月18日 9時15分

東京女子医大病院(東京都新宿区=2020年7月12日) - 写真=時事通信フォト

東京女子医科大学は7月末、2021年度から医学部の学費を約1200万円値上げし、6年間で約4700万円とすると発表した。麻酔科医の筒井冨美氏は「かつての名門も度重なる医療事故やコロナなどの影響で経営難に陥っています。今後さらに問題が起きれば、以前から付き合いのある早稲田大に吸収合併され、『早大医学部』誕生の可能性もある」という——。

■創立120年目の東京女子医大が大きな岐路に立たされている

創立120年目の名門・東京女子医科大学(以下、女子医大)が、崖っぷちだ。

女子医大は、東京都新宿区にある日本唯一の女子学生のみの医科大学である。日本で27番目に女医となった吉岡彌生が1900年に夫の荒太と共に設立した。

吉岡の母校の済生学社(現:日本医科大学)が当時、「女性を入れると風紀が乱れる」と女子学生の入学を拒否し始めたことに反発した形でのアクションだった。

その後、日本の心臓手術第一例を成功させた榊原仟、食道がんの世界的権威である中山恒明など、日本の医学史に残るようなスター医師を招聘することで附属病院を発展させてきた。

昭和期には、右翼運動家・フィクサーとして知られた児玉誉士夫氏、元フジテレビアナウンサーの逸見政孝氏など各界の要人が命を託したブランド病院とされていたが、2004年に脳梗塞で入院した長嶋茂雄氏(元読売巨人監督)あたりを最後に、有名人の入院ニュースを聞くことがめっきり減った。

ブランド失墜の要因とされるのが、数々の“自滅行為”だ。

■学費「21年度から3400万円から4600万円に値上げ」の背景

まず、2001年の「12歳女児の心房中隔欠損症手術後の死亡事故」である。女子医大の院内調査委員会は、当初は「助手だった医師のミス」と報告書をまとめて事件の幕引きを図ろうとした。

昭和時代ならば一件落着だったかもしれないが、元助手の医師はブログを通じて真実を世間に訴えて裁判に持ち込み、2011年には女子医大から報告書修正と謝罪を得た。一連の裁判から明らかになった女子医大の内情は、ネットで就職情報を探す昨今の医学生に少なくない影響を与えたと思われる。また同事故によって、女子医大病院は特定機能病院の承認を取り消された。

その後、特定機能病院は再承認されたものの、2014年には「2歳男児への鎮静剤プロポフォール大量投与による死亡」事故が発生した。2015年に特定機能病院は再び取り消され、2020年には医師6人が書類送検された。

こうした事故や不祥事の影響を受け、経営的にもボロボロな状態だ。2016~18年度は3年連続赤字で18年度は22億円の赤字。2020年のコロナ禍で経営状況はさらに厳しいものとなった。7月に「ボーナスなし」と発表したことを受け、「看護師400人が退職希望」と報道された。その後、「一時金支給」を表明したものの、女子医大の学生が6年間で払う総学費を突如「21年度から3400万円から4600万円に値上げ」との発表がなされた。迷走する経営陣に内外から疑問や批判の声が絶えない。

■そもそも女子医大が「外科のブランド病院」になれた理由

2018年、東京医大などで「医大受験における女性受験者や多浪生への減点操作」が発覚して大問題となった。減点操作の理由としては「女医は総じて外科など体力的にきつい診療科を回避する傾向がある」ことなどが挙げられている。ならば、卒業生が全員女性の女子医大が、昭和時代に「外科のブランド病院」と成り得たのはなぜか。

当時はドラマ「白い巨塔」のような封建的な医局制度が健在だった。医大卒業生の大部分は慣習的に母校の附属病院に就職していた。「東京出身だが、地方医大や私立医大に進学し、卒業後は東大病院に就職」したような医師は「外様(とざま)」と呼ばれ「東大卒→東大病院」の「生え抜き」医局員と比べて冷遇されることが多かった。

2019年、文春オンラインが元女子プロレスラーでタレントのジャガー横田氏の夫である木下博勝医師の「病院職員への度重なるパワハラ」を報じた。木下氏は「杏林大学卒→東大病院第一外科」という典型的な「外様医局員」のキャリアパスである。木下氏の研修医時代には「白い巨塔」そのままだった外科医局において、自身も壮絶なパワハラを受けてきたことは想像に難くない。パワハラや児童虐待などは、かつて被害を受けた者が、後に加害者になるパターンがあるが、このケースだったのだろうか。

東京女子医大病院(東京都新宿区=2020年7月12日)
写真=時事通信フォト
東京女子医大病院(東京都新宿区=2020年7月12日) - 写真=時事通信フォト

このような白い巨塔の時代において「東京で外科医になりたいけど、冷遇されるのは困る」という若手医師の受け皿になったのが、女子医大付属病院だったのだ。自校卒業生が外科に就職したがらないのを逆手に取り、「外様差別がないので、教授になるチャンスは平等」であることをウリに、元気な若手男性医師を集めていた。

■女子医大に在籍する男性教授の夫人の多くは女子医大出身者

また、女子医大は「開業医の一人娘」のような医大生が多く、筆者の女医ネットワークによれば、彼女たちは「都内サラリーマン家庭出身で地方の国立大医学部に進学した後、都内病院に就職」といった男性医師と結婚するケースが数多く見受けられた。

昭和時代、政治家や開業医の一族では、「パッとしない息子を無理やり後継者にするよりも、娘婿に優秀な男を選んで継がせる」という作戦で門閥を維持するケースが散見されたが、女子医大は結果的に、これを大学レベルで行っていたようなものと言えなくもない。

女子医大に在籍する男性教授の夫人は女子医大出身者であることが多いため、女子医大病院に勤務する男性医師が交際していた女子医大生をポイ捨てしようものなら、女子医大OG会である「至誠会」の面々(教授夫人など)に呼び出されて懇々と諭される、という伝説も昭和時代には存在した。

■医大生の女性率4割時代の中で女子医大はどう生き延びるのか

先に触れた2018年の東京医大を中心とした「女性受験者の減点」の騒動後、2019年度入試からは大規模な得点操作は事実上不可能になった。これにより、医学部の合格者に占める女性率は前年の34.7%から37.2%に急増した。医師の卵の4割は女性なのだ。

最近は有名女性の「医学部再入学」も目立つ。例えば、2016年に医大入学した元NHK気象予報士の小島亜輝子氏(36)、2019年に編入学したNHKアナウンサーの島津有理子氏(46)、2020年に入学した柔道家の朝比奈沙羅氏(24)などは他大を卒業した後に、医学部に入りなおしている。高学力女性の医学部進学ブームは衰えを見せず、今後もさらなる増加が予想されており、女子医大のような「女性のみ医大」の存在意義は薄れつつある。

日本人の女性医師
写真=iStock.com/Shoko Shimabukuro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Shoko Shimabukuro

■女子医大出身者に「ゆるふわ女医」が目立つワケ

女子医大出身者には、元準ミス日本の友利新氏、ワイドショーコメンテーターのおおたわ史絵氏、パリから美容情報を発信する岩本麻奈氏などメディア露出の多いタレント女医が多い印象がある。

医師としてキチンと仕事をしていればいいのだが、中には問題がある人もいる。セクシー女医として派手な私生活をテレビで公表していた脇坂英理子氏は、2016年に診療報酬不正請求で詐欺罪に問われ、一時、医師免許停止処分された。この騒動は、同大のブランドイメージを一層低下させることになった。

私見だが、昭和時代の女子医大卒業者は創立者の意思を受け継いで「女性の地位向上」に貢献した女傑が多かったが、平成の「タレント女医」出現と期を同じくして、どこか地に足のついていない「ゆるふわ女医」が増加したように感じる。

「医師スキルを磨くよりも、男性医師との婚活に励み、結婚出産後は昼間のローリスクな仕事(命にかかわらない診療科)を短時間だけする」「当直・手術・救急・地方勤務は一切いたしません」タイプの女性医師である。

このような、命を預けるには心もとない「ゆるふわ女医」は最近全体的に増えているが、「女子医大出身者に目立つ」と指摘するのは筆者だけでない。

近年の若手医師は男女とも「ワークライフバランス重視派」が増えており、東大などの名門外科医局などでも人手不足で、「研修医へのパワハラ」が発覚すると上司が処分されかねない時代となった。地方医大出身者が東大病院に就職しても前出・木下医師のような艱難辛苦に耐える必要はなくなったので、男性医師が女子医大付属病院に就職するメリットも低下した。そうした社会背景も、女子医大の存在感を押し下げているのかもしれない。

■早大に吸収合併され「早大医学部」が誕生する可能性も

以上のような要素に加え、コロナが襲いかかって苦境に立つ、名門・東京女子医大。今後、経営陣はどのようなかじ取りを見せるのか注目されるが、その方向性に同じ新宿区にある有名大学がかかわる可能性があるとの指摘が以前から根強く医療業界にある。

その大学とは早稲田大学である。早大は2008年に女子医大とTWIns(=ツインズ、東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設)という連携施設を女子医科大隣接地に設けている(両大学はすでに50年にわたり、人工臓器、医用材料、医療計測の分野での共同研究を進めている。2000年には学術交流協定を締結し、2001年に東京女子医科大学は「先端生命医科学系専攻」を、早稲田大学は「生命理工学専攻」を同時に立ち上げた)。STAP騒動の小保方晴子氏が一時期在籍していたことでも知られている。

早稲田大学・大隈講堂
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

現段階で、この連携がそのまま女子医大と早大の合併に直結するわけではないだろう。

しかし、女子医大は今回の「学費1200万円値上げ」で短期的な経営状態は改善するかもしれないが、大学関係者によれば来年度の受験者数は減って、受験料収入は減り、合格偏差値も落ちる公算が大きい。その際、学生を獲得するべく推薦入試などをことさら強化して、医師の卵として不適な学力の学生の入学を許可するようなことがあれば、6年後の同大の医師国家試験合格率も下がり、評価やブランド力のダダ下がりは必至だろう。負のスパイラルを何としても食い止めなければならない。

2008年に、順天堂大医学部が学費を900万円も値下げした。これにより、サラリーマン家庭出身者でも進学できるようになったこともあり、医学部の受験者数は急増、合格難易度が高まった。入試偏差値も上昇した同大はブランド的価値が強化されたが、女子医大の場合は、まったくその逆パターンを行くリスクが高い。

もし、女子医大で次の事件やスキャンダルが出てさらなる経営悪化をきたせば、身売り同然で、早大に吸収合併され、「早大医学部」が誕生する可能性も否定できない。

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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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