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第3波が鮮明になっても、いまの段階で「GoTo」をやめてはいけない

プレジデントオンライン / 2020年11月17日 18時15分

「GoToトラベル」の案内=2020年11月11日、東京都新宿区 - 写真=時事通信フォト

■厚労省の助言機関が「急速な感染拡大に至る可能性」と警告

新型コロナウイルスの感染が再び拡大している。

厚生労働省の助言機関(アドバイザリーボード)が11月11日、「11月以降に増加傾向が強まり、一部の地域では感染拡大のスピードが増している」との認識を示し、「このまま放置すれば、急速な感染拡大に至る可能性がある」と警告した。助言機関は感染症の専門家で構成され、厚労省にアドバイスする。

この日、感染者は新たに1547人確認された。その後、14日には1715人となり、3日連続で過去最多を更新。大阪、神奈川、千葉、茨城、静岡の5府県は1日当たりの感染者数が過去最多となるなど、都市部を中心に感染が拡大している。

日本医師会の中川俊男会長は、11日の定例記者会見で「第3波と考えてもいいのではないか。政府には先手先手で感染防止のための手を打ってほしい」と医師会としての判断を示した。

厚労省の助言機関の警告に先立ち、9日、政府の分科会も緊急提言を出し、踏み込んだクラスター(感染者集団)対策を政府に求めた。

■過度に怖がらずに、正しい知識で正しく恐れるべきだ

感染拡大の兆候を的確に捉え、効果のある対策を迅速に施す。感染症の危機管理はそうでなくてはならない。感染が拡大し、オーバーシュート(感染爆発)を引き起こせば、真っ先に犠牲になるのは高齢者や持病のある患者ら健康弱者だ。そうした意味で助言機関や分科会の対応、それに日本医師会の判断は評価できる。

しかし、専門家集団の警告が正しく伝わるとは限らない。これまでも感染者に対する差別や偏見、他人を監視しようという同調圧力が強まってきた。他人にマスクを強制する「マスク警察」という言葉まで生まれた。

冷静になる必要がある。厚労省のまとめによると、8割以上の患者・感染者はほかの人に感染させていない。運悪く感染しても80%の患者・感染者は無症状や軽症で治る。新型コロナウイルス感染症は、むやみやたらに恐れる必要のない疾病なのである。しかし侮ってはいけない。正しい知識で正しく恐れる必要がある。

■お互いにマスクをしてウイルス暴露を少なく抑え込む

正しい知識で正しく恐れるにはどうすればいいのか。そのためには、このウイルスの弱点を理解することだろう。

新型コロナウイルスの感染力が高まるのは、密接・密集・密閉の「3密」という環境だ。さらに手洗いで接触感染を予防し、お互いにマスクをしてウイルス暴露を少なく抑え込めれば、簡単には感染しない。身体のコンディションにも左右されるため、日ごろから十分な栄養と睡眠を取り、暴飲暴食を避けることが大切だ。

WHOの「Avoid the Three Cs」のポスター
WHOの「Avoid the Three Cs」のポスター

日本で生まれた「3密」という弱点は、いまでは「Avoid the Three Cs」という英語に翻訳されて欧米にも広がっている。“Three Cs”とは、closed spaces/crowded places/close-contact settingsの3つを指す。

新型コロナウイルス対策を担当する西村経済再生相は11月11日の記者会見で「現段階は、緊急事態宣言を出すような状況ではないが、今の流れが爆発的な感染拡大にならないように対策は強化していきたい」と語った。

菅義偉首相も13日、国民への呼びかけとして記者団にこう話していた。

「飲食を伴う懇親会やマスクを外しての会話など、感染リスクが高まる『5つの場面』を踏まえ、いま一度、基本的な感染防止対策に努めてほしい」

 

■「Go To キャンペーン」の見直しはまだ早い

この5つの場面として、さらに「大人数や長時間に及ぶ飲食」「狭い空間での共同生活」などを挙げているが、人と人の触れ合いを全面的に否定するところもあり、すべてをそのまま受け入れるのは難しいだろう。

政府はこうした感染予防対策を求める一方で、いまのところ国内の移動には制限を設けない方針だ。需要喚起策の要となっている「Go To キャンペーン」の見直しも行わない。

感染防止にはどうしても移動の制限がともなう。病原体のウイルスや細菌が、人によって運ばれるからだが、移動制限を厳しくすると、社会・経済が行き詰まり、さまざまな弊害が生じる。「GoTo」によって観光地がにぎわいを取り戻し、経済活動が回復したという地域は多い。人と人とが物理的に結び付くことで、コロナ禍特有の閉塞感もかなり薄れてきている。

政府にくみするわけでないが、沙鴎一歩は「GoTo」を見直したり、中止したりするのはまだ早いと思う。感染によって亡くなるケースは限定的になっている一方で、社会・経済の閉塞が続けばそれによって亡くなる人が増える。感染防止と経済振興のバランスを取ることが重要だ。

■重症者の増加に慌てふためくのはナンセンスである

11月13日付の朝日新聞の社説は「新型コロナの感染者が全国で増加傾向にあり、流行の『第3波』を迎えているとの指摘が相次ぐ。新たな病床や療養施設の確保に追われる自治体もある」と書き出し、次にこう指摘する。

「幅広くPCR検査が行われ、無症状や軽症の人も把握されて数字が積み上がっているのであれば、日々の動向に一喜一憂する必要はない。だが現実には、入院者、とりわけ重症者が増え始めており、最大級の警戒感をもって臨む必要がある」

「最大級の警戒感で進め」と朝日社説は警告するが、読者を脅かすことにならないか。感染者の数が増えれば、それに比例して重症者数も増えるのは当然だ。その感染症の論理を書かずに「重症者が増え始めている」とだけ指摘するのは全体像を見ていないことになる。

見出しも「コロナ急拡大 危機感もって手を打て」である。実におどろおどろしい。重症者の増加に慌てふためくのはナンセンスだ。重症者の対応は発生初期とはかなり変わってきている。

たとえば、静かに侵攻して命を奪うサイレント・ニューモニア(沈黙の肺炎)や血栓症などの血管障害、免疫システムが暴走するサイトカインストームなど重症化のメカニズムやそれに対する治療方法は確立しつつある。

■テレビのワイドショーと同じなら、社説の存在価値はない

さらに朝日社説は指摘する。

「政府は先日の対策本部で、感染者が増加している地域での集中的な検査の実施や、外国人コミュニティーへの情報提供など、クラスター(感染者集団)対応を強化・推進していくことを確認した。『爆発的な感染は絶対に防ぐ』という菅首相の言葉を実践できるか、取り組みの真価が問われる局面だ」

「言葉を実践できるか」とまで書くが、朝日社説は安倍晋三前首相だけではなく、菅義偉現首相も嫌いなようだ。

朝日社説は書く。

「8日連続で感染者が100人を超えた北海道には国から感染症の専門家が入り、保健師を応援派遣する準備も進んでいる。だが広く国民に向けては、感染予防策の徹底を呼びかけるだけで、この先どんな事態になったら、どんな対策をとる考えなのかの説明はされていない」
「政府の分科会は8月、4段階の警戒レベルのうち上から2番目のステージになれば、飲食店や観光施設の入場・人数制限、県境を越えた移動自粛の徹底などを『講ずべき施策』として提案した。政府は、今後そうなった場合の経済的な手当てなどを早めに明らかにして、人々の不安を和らげ、協力を得られる環境を整えておく必要がある」

あらかじめ具体的対策を講じておくことには沙鴎一歩も賛成だ。しかし、社説が私たち国民の不安をかきたてるようななら、止めてほしい。テレビのワイドショーのような主張をするなら、社説の存在価値はない。

■「政府は重く受け止め、あらゆる手だてを」と読売社説

朝日社説は最後にこう主張する。

「『Go To事業』の扱いも検討事項の一つだ。第2波のさなかに強行した時は、多くの国民が戸惑った。社説は、状況に応じて見直せる仕組みとし、政治が適切に判断するよう求めてきた。社会経済活動を維持するためにも、これ以上の感染拡大の抑止をまずは優先すべきだ」

本当に多くの国民が戸惑ったのだろうか。それに菅政権は感染状況に応じて需要喚起策のさじ加減を図っていく方向性を示している。ただ、いまは制限をかける状況にないということなのだ。朝日社説はそのあたりをどこまで認識しているのだろうか。

11月14日付の読売新聞の社説も「コロナ感染拡大 冬に備え万全の対策が必要だ」との見出しを掲げ、「新型コロナウイルスの感染が、またしても拡大している。政府は重く受け止め、あらゆる手だてを講じるべきだ」と書き出す。どうも新聞社説は不安を煽りたいようだ。

読売社説は指摘する。

「ワクチンの開発は米国で最終段階に入ったという。だが、国内で多くの人が接種できるようになるまでには時間がかかるだろう」

ワクチンが完成すれば、感染対策は万全でこれまでの生活に戻れると期待する人は多いだろうが、異物のワクチンにはどうしても大なり小なり副反応がともなう。ワクチン接種で重篤な健康被害が出ることもある。

■多くの軽症者がベッドを占有することがあってはいけない

強い副反応は新型コロナ感染よりも怖い。接種が広がるほど、いろいろな副反応が出る。子宮頸がんワクチンの問題を顧みれば分かるだろう。ましてや新型コロナのワクチンは猛スピードで研究・開発が進んでいる。コロナ禍を逆手に取って莫大な利益を上げたいという思惑もあるだろう。しかし治験(臨床試験)にミスあってはいけない。

読売社説は「政府は自治体や医療機関と協力して、PCR検査などの体制を拡充するとともに、病床の確保に継続して取り組む必要がある」と指摘する。重症になる危険性のあるケースに絞った治療も重要だ。

軽症者と重症者とをしっかり見極めてベッドを有効活用すべきだ。多くの軽症者がベッドを占有するようでは、医療崩壊に直結する危険性がある。

■「専門家の議論と政治判断をかみ合わせよ」と産経社説

11月13日付の産経新聞の社説(主張)は「観光業への影響を考慮し、経済活動と感染防止の両立を目指すのは当然のことである。政府の感染症対策分科会の尾身茂会長は『対策が十分に実行されないと社会経済活動を抑制しなければならなくなる』と語る」と指摘し、次にこう訴える。

「ただし、医療崩壊までが懸念される事態に対しては、その状況になる前の段階で経済活動を限定し、人の移動を抑制することを、ためらうべきではない」
「西村康稔経済再生担当相は『爆発的な感染拡大にならないようにしなければならないと危機感を強めている』と説明した。5月の宣言解除以降、経済活動の再開に軸足を置いた政府は、変わる勇気を示すときだ」

産経社説は政府に対し、「人の移動制限をためらうな」「変わる勇気を示せ」と呼びかける。そして最後にこう主張している。

「今すぐ、『Go To』を停止すべきだというのではない。これから起こり得る感染状況の変化に、機動的に対応するためには、専門家の議論と政治判断をかみ合わせなければならない」

「かみ合わせる」。感染症の専門家の意見と政府の見解とを足して2で割って判断を下せということなのだろうが、現実はそう簡単ではない。産経社説にはそこを深く分析して主張してほしかった。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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