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「世界ダントツのビリ成長」過去最大のGDP急回復を喜んではいけない

プレジデントオンライン / 2020年11月19日 15時15分

国内総生産(GDP)統計の発表を受けて記者会見する西村康稔経済財政担当相=2020年11月16日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

7~9月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比・年率プラス21.4%で、過去最大の急回復となった。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史氏は「一部には『過去最大の伸び』に浮かれる論調もあるが、全く喜べない。日本の回復は欧米に比べてはるかに遅れている」という——。

■回復の遅さを示す7~9月期の実質国内総生産(GDP)

16日に発表になった2020年7~9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は、前期比年率換算で21.4%増。ちなみに10月29日に発表された米国の同数字は33.1%の増だ。第2四半期は米国は年率31.4%の減に対し、日本は28.8%減と日米ほぼ同じほど下落したのに、回復は日本がはるかに遅れている。

株価も景気もこの40年間、何か事件があると日米ほぼ同じように下落し、回復は、日本がいつも欧米に遅れる。リーマンショックも原因は米国にあるのに、米国以上に下落し、回復がはるかに遅れたのが日本だった。

そのような傾向が積もりに積もって、20年間で見ても、30年間で見ても、40年間で見ても、日本は世界断トツのビリ成長だ。

40年間で見ると、コロナ禍前で米国が約7.5倍、英国約8.5倍、韓国約50倍、シンガポール約20倍、中国に至っては200倍近くに拡大しているのに、日本はたったの2.2倍にしか成長していない。

7~9月期の実質GDPの伸びが「比較可能な昭和55年以降では過去最大の伸びだった」ことを強調したマスコミもあったが、年額換算のGDPは507兆6000億円にすぎない。それは2007年の実質GDPの504兆8000億円とほぼ同じにすぎないのだ。コロナ禍があったとはいえ、過去最大の伸びで、やっと13年前と同じ水準に戻ったということになる。

■世界断トツのビリ成長からの脱出が日本国の最大課題

長期にわたっての世界断トツのビリ成長、これこそ、今の政治が取り組まなければならない日本国最大の課題である。昨日と比べて今日の景気が良くなった、1年前に比べてよくなった、という次元の話ではない。

日本が「世界平均並みの経済成長」ならまだわかるが、(それでもその能力からして大問題だ)この優秀な国民からなる国が、世界断トツのビリ成長なのは大問題だ。「デジタル庁を作る」「携帯電話の料金を下げる」「不妊治療に保険を適用する」なとの枝葉の改革で解消できる問題ではない。それはそれで重要だが、何か根本的に何かが間違っているはずだ。

政治の喫緊の課題は、「日本が断トツのビリ成長なのか」の原因解明と、それに基づくドラスチックな改革だ。それには、まず「日本はすごい国」との能天気な認識を改め、事実を冷静に認識し、危機感を持つことだ。この低成長トレンドが続けば日本は、世界で経済三流国、四流国に転落してしまう。

■さまざまな日本の問題は経済低迷に起因している

人々が豊かになったと感じないのはGDPが伸びていないせいだ。全体の経済が拡大していないのなら、(人口が変わらないのなら)一人当たりが豊かになるはずがない。国民が将来不安を持つのも当たり前。

財政赤字が極大化したのも、もとはと言えば経済が伸びていないせいだ。GDPが伸びなければ税収は伸びない。それなのに社会保障を中心に歳出は大きく伸びたのだから累積赤字が増える一方だった。

非常事態宣言で人けのない、浅草浅草寺の仲見世通り
写真=iStock.com/Fiers
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fiers

他国に比べての株価の低迷もGDPが成長しないことが理由だし、年金の持続性の問題もそれに起因する。国民から若いうちに資金を預り、金利や配当という経済成長の果実を含めて、将来、国民に還元する制度なのに、経済低迷で金利も株価も低迷し、予定していた果実が実らない。これでは持続性が問題になるのは当然だ。

■「緊縮財政が世界ビリ成長の原因だ」などという意見は論外

財政拡大論者は緊縮財政ゆえのビリ成長だというが、そんなことを言ったら、世界中の識者から大笑いされる。

財政出動とは公共投資に限らない。社会保障の拡大も入る。税収+税外収入以上に歳出をすることが財政出動だ。財政出動の結果が大赤字のわけで、対GDP比世界断トツの赤字国とは放漫財政国家である。

日本は緊縮財政とは対極にある国だ。その最大規模の財政出動の結果が40年間で世界断トツのビリ成長なのだ。政府が出しゃばると民間が使える金(増税で)と活力が失われる。米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック・アップル)は、政府主導経済国家の下ではここまで成長できなかっただろう。

コロナ下での財政出動も同じ。「国際通貨基金(IMF)の集計によると、財政支出や金融支援を含む日本のコロナ対策はすでに国内総生産(GDP)比35%に上り、米国の14%を大きく上回る」(11月2日日経新聞)そうだ。ところが、16日発表の7~9月期の実質GDPは、前期比年率換算で21.4%増で米国の33.1%、ユーロ圏の60%増にはるかに劣る。財政出動が意味をなしていない。

■日本経済が断トツのビリ成長を続ける理由

この30年間、私は日本が経済低迷をしている根本理由を、社会主義的経済運営のせいだ、と主張している。これは米国に留学し、英国で働き、米銀で15年間にわたって働いてきた経験からの実感だ。

私の外国人の部下たちは、皆「日本は世界最大の社会主義国家だ」と言って帰国していった。日本で生活し、働いた上での感想だ。彼等の間で交わされていたジョークは「日本人が中国人に『社会主義のままでは発展しませんよ』と助言したところ、『あんたの国からだけは言われたくない』との反発を食らった」というものだった。

数枚の一万円札を持つ手元
写真=iStock.com/structuresxx
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/structuresxx

社会主義的経済運営を「真の資本主義的運営」へと大改革することこそが必要だ。これが日本にとって重要な戦略だ。どこをどう変えるべきかは、いずれ発表したいが、字数の関係もあり、またの機会としたい。戦略のほかに、日本経済復興のための戦術もある、今回は、その戦術について述べたいと思う。

■円高がこの30年間の日本経済低迷の重要要因

安倍政権のブレーンとなる前の、イェール大学浜田宏一名誉教授と議論をしたことがある。雲の上の人のような存在の先生だから感激したものだ。本屋で拙著『なぜ日本は破綻寸前なのに円高なのか』(幻冬舎)を先生が偶然見つけ、購入されて、この本の著者と会いたいとおっしゃたことで友人を通じてセットされた場だった。

そこで、先生は「『日本の30年間の経済低迷の主因は円高』と主張しているのは君と私だけだ」とおっしゃり、寿司屋で2人で痛飲したものだ。

ただ先生が、「円高を解消するために異次元緩和が必要だ」とおっしゃったのに対し、私は「先生が生活し、教えている米国ならば異次元緩和で自国通貨安を導けるかもしれないが、日本は市場原理が働いていない。したがって異次元緩和では円安を達成できない。副作用が大きすぎる」と主張した。円安導入の方法では意見が大きく異なったのだ。

■中国の大発展の理由

この論考の最初に日本のGDPの伸びはこの40年間で2.2倍にすぎないのに中国は約200倍だと述べた。日本がGDPで中国に抜かれたと大騒ぎをしたのはたった10年前の2010年。それが今では中国の名目GDPは日本の約3倍だ。

1981年、中国が大好きだった親友ビルジャービスが中国に旅行した後、「もう二度と中国には旅行しない」と言っていた。シャワーが無いと生きていけないほどのシャワー好きの男なのに、中国の一流ホテルのシャワーで温水が全く出なかったからだそうだ。

私も、2004年に日中友好団体の依頼で、天津郊外の大学でデリバティブの授業をしに1週間弱出かけた。部屋に置いてあったくみ置き水は、何か白いものが沈殿していて、そのまま飲めば、胃のレントゲン写真が撮れそうだった。トイレに備えつけの紙は新聞紙のようなごわごわした紙でお尻を拭けば出血しそうだった。「この国は日本に30年遅れている」との感想を持ったものだ。

それが昨年、国会議員団のメンバーの一員として中国議会を表敬訪問をした時、IT産業を中心に視察して「日本は抜かれた~」と実感したのだ。

■中国の発展はまずは為替政策

私は中国大発展の最大理由は為替だと思っている。

中国は、日本が1ドル360円の円安時代から、米国の要求に屈し、必要以上の円高となり、国際競争力を失い急速に国力を落としていったのをよく見て、学習したと思う。日本の轍を踏まないように、米国のしばしばの元高要求に対してもお茶を濁す程度にしか対処していない。

100元札
写真=iStock.com/honglouwawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/honglouwawa

本来、通貨安だとインフレが起こるので通貨高が必要になるが、中国は人口が多く、完全雇用から起こるインフレの恐怖が無かった。それも人民元安をキープできた理由だろう。

1980年に1人民元160円もしたのが、今や、16円と10分の1だ。これで世界の工場になった。ドル円で言えば1ドル=100円だったものが1ドル1000円になったようなものだ。これなら日本も世界の工場に逆戻りできる。インバウンドは急増、空洞化した日本に工場は戻ってくるわ、世界の工場は押し寄せて食えるわ、で、日本人労働者の給料は円貨で暴騰だ。それと同じことが中国で起きた。

コロナ前に人民元が10分の1になったにもかかわらず、日本に中国人旅行客が押し寄せていた理由もわかる。

本来、通貨が10分の1になれば海外旅行など高くてできない。1ドル100円の時1000ドルのハワイ旅行は10万円だが、1ドル1000円の円安なら100万円もかかる。しかし通貨が10分の1になっても名目GDPが200倍になり、個人も200倍豊かになっていれば、国民は以前の20倍の生活ができる。だから日本への観光が可能になったのだ。

■中国から学べ

日本は、この事実を中国から学び返さねばならない。

通貨は国力と一致していれば動かすのは難しいが、国力に比べた円高の時の円安誘導はさほど難しいものではない。日銀の米国債購入、ドル預金の為替益の非課税化、ドル建て日本国債の発行等いくらでも方法がある。

今、円安が進行すれば、Xデーの引き金を引くので、軽々しく円安誘導はできないが、Xデー後の新生日本では為替のレベルは極めて重要だ、その認識を政治家、マスコミ、国民も持たなくてはいけない。

通貨が国力よりも強すぎる南欧や日本の経済は低迷し、通貨が国力より弱いドイツ経済は絶好調なのだ。経済力に合致した通貨を持つのは最高の国益である。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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