もっと稼ぎたいなら、「転社」ではなく「転職」をするべきだ
プレジデントオンライン / 2020年11月26日 11時15分
※本稿は、成毛眞『アフターコロナの生存戦略』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■あなたは今の仕事をいつまで続けるか
若いビジネスパーソンだけでなく、役員・社長クラスの人間からも転職の相談を受けることがある。そのときにアドバイスするのは、「軽い気持ちで転職したほうがいい」ということだ。
そもそも私に相談にくる時点で、多くの方は「背中を押してほしい」と思っている。だから、「よく考えたほうがいい」とか「いま、辞めないほうがいい」ということは一切いわない。彼らにとって私は国の名勝・東尋坊の絶壁に立つおじさんのようなイメージなのだろう。最後の一押しを期待しているのだ。
これは無責任でそうしているわけでは決してない。転職成功者の平均年齢も上昇傾向であるし、私の経験上、転職というのは、気軽な気持ちでやったほうが成功するからだ。逆に慎重の上にも慎重を重ねて転職すると、たいてい失敗する。
■5回くらいやれば確率的に1回は成功する
理由は簡単で、転職先への期待ばかりが膨らみ、「転職すれば、こんな生活が待っている」「今より格段によい環境で働ける」とかありもしないことを想像してしまうのだ。
人間は大きな決断をする際、損をしたくない、自分を納得させたいと思うあまり、過大な期待、過剰な願望を転職先に託してしまうわけだ。相手のいいところばかりを探した結果、幻滅してしまう恋愛と似ているかもしれない。
だから、背中を押すときは、「大して変わらないと思うよ」「失敗するかもしれないけど、辞めずに10年残っても、どうせ終わっているから転職したほうがいいよ」という話を毎回している。
本当は、転職したってしなくたって何も変わらない可能性のほうが高い。もし転職して失敗しても、気づかないふりをしてまた転職すればいいのだ。5回くらいやれば確率的に1回は成功する。それを知らずにたった1回の転職で諦める人は成功しないのだ。
■本質的には「仕事人生の9割は“運”」
これは投資も同じで、ベンチャーキャピタルだって、投資先すべてが成功するなどとは思っていない。ざっくりと5件中1件でも成功すれば御の字という世界なのだ。しかし、目の前にあるチャンスに飛びつかないのはもったいない。
無責任なように聞こえるかもしれないが、仕事人生9割は運だ。
私がマイクロソフトの日本法人の社長になって、グローバルの売上の半分をたたき出せたのも、投資会社でうまくいったのも、運。経営の神様・松下幸之助も「運」という言葉をよく使ったと聞くが、本質的に成功している人の多くは運だといっている。
もし、「俺の実力だ」といっている経営者がいたら、気をつけたほうがいい。運で切り抜けたことを自分の才覚のお陰だと勘違いしている可能性が高い。私からすると、元上司のビル・ゲイツが大成功したのも運によるところが大きい。
何を隠そう私自身、運任せで気軽に転職してきた口だ。就職からしてそうで、企業訪問などの就職活動などは一切せずに、自宅近くの日米合弁中小企業に就職した。そこに「大志」などというものはなく、当時の彼女(今の家内)に「就職しないの?」といわれて立ちすくんでいたら、運良く彼女のツテで面接が叶ったというわけだ。
その会社には3年間お世話になって、「北海道の大地も飽きたなあ」と思って、パソコン誌をめくっていたら、出版社のアスキーが中途社員を募集していると書いてあった。「編集者もいいな」と思って上京したところ、入社1週間後にアスキーマイクロソフトという子会社に営業として出向になり、2年後には日本語版UNIXの営業担当に。
さらに2年後マイクロソフトが日本法人をつくるというので仕方なく転職したら、ビル・ゲイツが上司になった。
45歳になって、さすがにIT業界も飽きたなあと思って、投資コンサルティング会社インスパイアを創業。しかし、私が2年間もオンラインゲームに夢中になって、危うく潰しそうになったところ、今の社長の高槻君が救ってくれた。
こんな人生を送ったからこそ、転職は気軽に、あとは運任せと自信を持っていえるのだ。あれこれ考えて何もしないより、動いたほうがいい。
■業界内移動は「転社」であって転職ではない
話が脇道に逸れたが、「仕事を替えよう」と思い立ち、人生を変えたいとか、もっと稼ぎたいと思うのなら、「転社」ではなく、「転職」をするといいだろう。
自動車会社から自動車会社に移るのは、転社であって、転職ではない。転職とは業界を替えることであって、そうでもしない限り、自分の人生に大きな変化は起こらない。
私がよく付き合う出版業界の人たちは、度々勤め先を替えることで有名だ。しかし、あれは転社であって、転職ではない。会社が替わるだけで、やっていることは一緒。ずっと記事を書いて、延々と本を編集している。
もちろん、会社によっては景気のいいところ、悪いところはある。ただ、それでも給料が2倍3倍になるということはないだろうし、じゃあ、別の業界に行くかといっても、あまりに潰しがきかない専門性を身につけているため、簡単には転職できないというのが実情だろう。
■業界を替えなければ給料も能力も伸びない
明日から花屋になりますといっても、「仕入れって何ですか」「レジはどうやって打つんですか」となってしまうのは目に見えている。
他にもそういう業界は多く、広報業界も同じだ。一時代前は外資の広報マンにその傾向が顕著だったが、最近は国内の広報マンも、いろいろな会社をぐるぐると渡り歩いて、結局、6社目で元の会社の広報に戻っていたりする。
よくも悪くも、ぐるぐるするしかない特殊な職種を除くと、転職は業界を替えたほうがいい。「これまでIT業界にいて、25歳からはITベンチャーに行きます!」というのは、転職ではない。それだけでは人生はなかなか変わらない。業界を替えないと、給料も能力も伸びない。
■転職の相談相手には2種類いる
さあ、いよいよ3年経って仕事を替えようとなったときに、相談してはいけない相手がいる。それが、就職氷河期を経験した40代のおじさんたちだ。彼らは不幸にも就職活動とバブル崩壊という危機が重なったことで、就職において相当な辛酸を嘗めている。いまだにその世代だけ非正規雇用の割合が高く、年収も他の世代に比べ少ない。
そうした凄惨な経験をした彼らの世代の頭のなかには、「就職は厳しい。転職などもってのほかだ」という論理が刷り込まれている。彼らの多くは、「転職したところで、給料は下がるよ」とか「同期で独立した人間がいるけれど、散々だといっていた」と語るだろう。
しかし、時代は変わっている。人口は減少の一途をたどり、実際には引く手数多(あまた)だ。給料だって上がるケースはたくさんある。たしかにコロナの影響で一時的に厳しくなっているが、コロナ以前は空前の売り手市場だったし、今後も長期的に見ればその傾向が継続するだろう。
実は、40代の転職も思ったほど難しくないのに、自分たちには選択肢がないと思い込んでいるだけなのだ。それは彼らが悪いわけではなく、そうした経験をしてしまったから仕方がない。私が知る限り、ベンチャーも人手が足りなくて困っているところが多く、30、40代の経験者というのは喉から手が出るほどほしがっている。
転職にコンサバな世代は40代以外にも存在する。それが私より少し上の世代である70代だ。70代というのは第1次ベビーブーマーで、出生数が270万人に届くか届かないかくらいまで膨れ上がった世代だ。
■背中を押してほしいなら50代半ば〜60代半ば
そこからがくっと出生数は下がり、1953年にはついに200万人を切る。その後、下降の一途をたどり、私たち1955年生まれは173万人程度。小学校時代、数年前は8クラスあったのに、4クラス分しか子供がいないから教室が半分余っていた。
すると何が起きるかといえば、競争がなくなる。学力も就活もあらゆる競争がなくなったのが私たちの世代で、政策ではなく、自然とゆとり教育が実施されることとなった。
そして同い年の人数が少ないと何が起こるかといえば、転職市場においても引く手数多となり、いまの50代半ばから60代半ばくらいの世代は転職しまくっている。極端な話、どこでも好きなところに転職できたのだ。
だから、この世代に「転職を考えているのですが……」と相談したなら、瞬時に「転職したほうがいいよ」という答えが返ってくるだろう。それは自分たちが転職できた世代であることも大きいが、冷静に現実を見ても、いまが売り手市場なのは間違いないからだ。
そういった事情があるため、就職や転職の相談というのは、誰にするかが意外と重要だったりする。止めてほしいなら、就職氷河期世代か70代にアドバイスをもらうといいが、背中を押してもらいたいなら、それ以外の世代に相談したほうがいいだろう。
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HONZ代表
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業。自動車部品メーカー、アスキーなどを経て、1986年、日本マイクロソフト入社。1991年、同社代表取締役社長就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイア設立。2010年、書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。
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(HONZ代表 成毛 眞)
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