「どうせ金目当てでしょ」偏見を持つ人に知ってほしい示談交渉の真の目的
プレジデントオンライン / 2020年11月27日 11時15分
※本稿は、上谷さくら、岸本学『おとめ六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■オートロックは安全とは限らない
オートロックとは「建物内に共用玄関のドアがあり、外からドアを開けるためには、鍵や暗証番号などを用いるか、居住者などに内側から鍵を解除してもらう必要がある共同住宅」を指します(国土交通省『平成30年住生活総合調査〔速報集計〕結果』)。
防犯のために、オートロックつきの物件がいいと思う人は少なくないでしょう。オートロックでないマンション等と比較をすれば、オートロックのマンションのほうが安心かもしれません。
しかしオートロックだからといって、絶対安心な場所ではありません。侵入リスクはそれなりに残されています。
オートロックのマンションでも、以下のような方法で不審者が侵入してくるといわれています。
■宅配便の業者を装い…侵入パターン4つ
①住民の後について入ってくる
マンションの住人がオートロックを開けて中に入るときに、不審者が住人に続いて侵入してくることが考えられます。不審者が素知らぬ顔で住人のふりをしていると、なかなか声をかけにくいものです。
ほかに宅配便の配達を装って、適当な部屋のインターホンを押し、ドアを開けてもらう方法もあるようです。
②センサーを誤作動させる
自動ドアタイプのオートロックの場合、外から入る際は鍵や暗証番号などが必要でも、内側からはセンサーが人を感知して自動でドアが開くものがあります。
このしくみを利用して、ドアの隙間から紙などを差し込み、センサーを誤作動させて、外からドアを開けてしまえる場合があります。
③非常用開錠ボタンで開錠する
消防や救急隊などが緊急時に入れるよう、オートロックには非常用の開錠ボタンが設置されています。不審者がこのボタンを押してオートロックのドアを開けて侵入することも考えられます。
④オートロック以外の場所から侵入する
出入り口以外にも、簡単に乗り越えられる柵やベランダがあれば、そこから侵入される場合があります。また、通用口を住民が開けっ放しにしているという場合もあります。
このように、オートロックのマンションでも、セキュリティ万全というわけではありません。「ちょっと近所のコンビニまで」というときでも、外出時には鍵をかけましょう。在室時も自室玄関の鍵はかけておきましょう。
なにより、ストーカーなどの加害者は外部だけでなく、同じマンションにいないともかぎりません。
■「怪しいな」と思ったら迷わず110番
たとえば、複数の部屋のドアノブを回している(施錠していない部屋を探しているかも)、長時間共用部をうろついている、ドアをピッキングしているように見える、大声を出して騒ぐなどしている……そんな人を見つけたときは、110番をして警察官を呼びましょう。マンションの共用部で不審な行動をとる者がいる場合は、犯罪発生につながる可能性が高い事態だからです。
共用部に入って開錠されている部屋を探している、という時点で、住居侵入罪の既遂となります。
警察による職務質問の結果、不審者の言い分が嘘と言い切れない(犯罪の嫌疑が十分でない)場合でも、マンションから追い出してくれたりするほか、逮捕せず任意同行を求めて警察署に連れていくこともあります。
もちろん「不審者」に見えただけで、実はほかの住民が呼んだ人であり、犯罪性はなかったという場合もあるかもしれません。しかしそれならそれで、そのことを警察官に確認してもらえば安心です。「不審者ではないかも」と思って警察への通報をためらった結果、なんらかの犯罪が行われることを、避けるべきでしょう。
■知っておきたい「示談」のやり方
そして実際に被害に遭い、警察が犯人を捕まえたとします。その際、「示談」という言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。ただ、言葉の捉え方は人によって異なります。法律上も、はっきりとした定義があるわけではありません。
広い意味では、争いごとがあったとき、当事者どうしで合意をしてその争いを解決する、ということです。
そして、その方法は人それぞれです。
示談でお金による賠償がされる場合、その名目には「示談金」「慰謝料」「解決金」「被害弁償」など、さまざまなものがあります。
「示談が成立した」というと、加害者はお金を払い、被害者はお金を受け取った、と思われがちですが、必ずしもそうではありません。
損害が生じているときには、たしかにお金での補償をすることが多いですが、当事者どうしの意見が一致すれば、お金のやりとりはなく、「今後一切連絡を取らない」などの条件をつけて解決することもあります。
ここで重要なのは、お互いが「それでいい」と合意することです。
■許せないのに「許す」に合意してはいけない
刑事事件が起きると、たいていの加害者は被害者に「示談」を持ちかけます。
この場合、損害賠償金の支払いと引き換えに「宥恕(ゆうじょ)」を求めてくることが大半です。「宥恕」とは、「許す」ことを意味します。
しかし、被害者が許さなくても、合意があれば示談は成立します。本当は許す気持ちがないのに、宥恕文言の入った示談が成立すると、警察などから事件として見なされなかったり、不起訴になったり裁判になっても刑が軽くなったりします。
本当にそれでいいのか、慎重に考えましょう。
刑事事件の場合、加害者の弁護人の中には、被害者に対し、「宥恕しないなら、損害賠償金は払わない」という人もいます。損害賠償してもらうには許すしかない、と思い込んでしまう人がいるのはこのためです。
しかし、許す気持ちがないのに「お金のためだから仕方ない」と宥恕文言を残すことは、取り返しのつかない後悔につながります。被害回復が遅れる原因にもなります。宥恕しなくても、損害賠償金の支払いを求める手段はあります。
それを知らずに書面を交わしてしまうと、その後の変更はほぼ不可能です。
被害者が弁護士と対等に交渉することは難しいので、被害者もできるだけ弁護士に相談しましょう。
■被害者がお金を受け取るのは当然の権利
一般的に、「示談」には許すという意味が含まれるとみなされることが多いので、許せないのに「示談」という言葉を使うのに抵抗を感じることもあるでしょう。
書面を作るときに「示談書」というタイトルを使いたくなければ、「合意書」「確認書」という言葉に置き換えることもできます。
性被害にあって「示談した」というと、「金目当て」「美人局(つつもたせ)」と決めつけて非難する人たちがいます。そうした非難を受けたくないために、一切の示談を拒否する被害者も少なくありません。
また、性被害で「お金を受け取る」のは、売春と同じことではないか、と心配する人もいます。
しかし、被害にあったなら、金銭賠償を受けるのは当然の権利です。加害者にきちんと謝罪させ、お金を払わせることは、加害者が犯罪を繰り返さないためにも重要です。
被害者は悪くありません。堂々とお金を受け取ってよいのです。
示談で紛争を解決させることに、うしろめたさを感じる人もいます。
自分が示談したせいで、犯人は罪を逃がれ、同じことを繰り返すのではないか、裁判で闘うことから逃げたのは卑怯ではないかと悩んでしまうようです。
しかし、示談は、相手に罪を認めさせて謝罪させ、早く紛争を解決して日常生活に戻る手段です。被害回復の方法は人それぞれで、どのようにするのかは、慎重に検討すべきですが、示談を選ぶことは悪いことではありません。被害回復のプラスになるはずです。
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弁護士 第一東京弁護士会所属
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。
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(弁護士 第一東京弁護士会所属 上谷 さくら)
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