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新型コロナ感染急拡大でも「プロほど医療保険に入らない」理由

プレジデントオンライン / 2020年11月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Khanisorn Chaokla

新型コロナウイルスの感染者が全国的に急速に増加している。「いざ」というときに備えて気になるのが「保険」だ。著書『いらない保険』(講談社+α新書)が現在8刷と話題のオフィスバトン「保険相談室」代表・後田亨氏が、保険の種類ごとに「適正化」するためのプロの知識とノウハウを公開する。(第2回/全2回)

■生命保険は「自動車保険のように」考えよう

「自動車保険がお手本です」

生命保険の見直しや新規加入を検討中の方に、私はたびたび自動車保険の加入例をお話します。「自分で払える金額は保険に頼らない」という考え方を共有するためです。

自動車保険では、大半の人が「賠償責任」の保険金額に上限を設けず、無制限で加入します。一方、中古の車を買い替えても数十万円程度の場合など、「車両保険」には加入しません。車両保険に入るとしても、10万円くらいまでの費用は自己負担することにして保険料を抑えます。生命保険で「日帰り入院でも5万円もらえる保険」を選ぶ例などとは対照的です。

自動車保険の加入法に倣うと検討すべき保険は限られてきます。自立していない子どもがいる世帯主が、一定期間、死亡保障を持つくらいでしょう。商品では、万が一の際、毎月一定額の保険金が給付される「収入保障保険」が利用しやすいと思います。

■勤務先の「団体保険」は有力な選択肢

保険ショップなどで、複数の商品を比較し、保険料が安いものを選ぶと良いはずです。保険料と保険金の差こそが、保険の本質的な価値に違いないからです。

大手企業などに勤務している人は、個人向けより安価な勤務先の「団体保険」も有力な選択肢です。

病気やけがで、長期間、仕事に就けない状態が続く時、所得を補塡(ほてん)できる「就業不能保険」も気になりますが、死亡保険より優先順位は下がると思います。

■会社員は傷病手当金が就業不能保険代わりに

会社員には健康保険に「傷病手当金」があるからです。大まかに言うと、欠勤4日目から標準報酬日額の3分の2が最長1年半支給されます。

給付状況を全国健康保険協会のデータで調べてみると、傷病手当金の単年度の給付率は、例年、1%程度です。給付期間の内訳は360日以内の給付が9割近く、541日以上の給付は1万人あたり3人に届きません。

ある保険数理の専門家によると、年度単位では、死亡保険金の給付率が1000人のうち3~4人とのことですから、傷病手当金が541日以上の給付される確率は、死亡保険金より一桁少ないことがわかります。

したがって、会社員は多額のローンを抱えている場合などを除き、傷病手当金が就業不能保険代わりになることが多いかと思います。また、傷病手当金がない自営業者も1年分くらいの生活費を蓄えておくのが現実的な方策ではないでしょうか。

ほかに、一生涯の死亡保障がある「終身保険」が相続対策に有用ですが、本当に必要な人は限られているでしょう。

■コロナ禍にあって入院保障は必須か?

保険相談にいらした方々に、このような持論を語ると「コロナ禍にあって入院保障は必須では?」「がんの先進医療には300万円くらいかかるのでは?」といった質問も出ます。そんな時は、ある保険会社で「医療保険」や「がん保険」の商品設計に関わってきた方の言葉を紹介することにしています。

「健康保険が適用される治療を受ける限り、どんな病気でも、個人の医療費負担には上限があります。一般的な収入の人なら、月額9万円程度、高齢者はもっと下がります。それなのに、なぜ、がん・三大疾病など、病名別に商品が存在するのか? 『売れるから』なのかもしれませんが、正直、理解できないんです」

個人負担の上限額を民間の保険で調達すると、保険会社の経費や利益まで負担することになるので、自費で払うのが賢明だというわけです。「先進医療」についても「効力が証明されていない、実験段階の医療ですよ」の一言でした。

■プロほど医療保険に入らない理由

もとより、保険商品の収益構造をよく知る人たちは、給付額が高額になりにくい医療保険」に入りたがりません。コロナ感染症の医療費は公費で賄われることもあり、第3波が報じられるなかでも、この考え方が変わることはないのです。

医療保険やがん保険については、体験談などに接すると感情が揺さぶられます。保険料には保険会社の経費が数十パーセント含まれていますから「専用口座に1万円入金すると数千円の手数料が引かれる」と認識したらいいでしょう。お金の心配をしながら、広く・長く利用するのは疑問に思えるはずです。

すでに医療保険やがん保険に加入している人も、入退院などを繰り返すような状況でなければ、健康保険と自己資金での対応が正解だと思います。

終業時間に書類を投げて笑顔のビジネスウーマンたち
写真=iStock.com/Aja Koska
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aja Koska

■どうしても医療保障が欲しい人は「都道府県民共済」を検討

時に保険を解約した後、大病にかかり後悔する人などもいるでしょう。それでも、健康保険の保障が無くなるわけではありません。「後悔しないことが目的になっていいのか」と自問する必要を感じます。

どうしても医療関連の保障が欲しい人は「都道府県民共済」を検討すると良いと思います。生保より経費を抑えた良心的な運営がなされています。

一生涯の保障がないことも「だからこそ、一定期間、安く利用できる」と評価すべきでしょう。

■貯蓄性保険は「お金の増え方」で見直す

貯蓄性がある契約については「今後のお金の増え方」だけで判断することをおすすめします。

保険の貯蓄商品では、たとえば、30年の積立期間中、20年くらい元本割れが続くこともあります。契約初期に発生する販売手数料が高いことが要因です。

そこで元本割れ期間中は「解約したら損だ」と継続にこだわる人もいます。お気持ちはわかるつもりです。とはいえ、すでに代理店の口座に入った手数料などを取り戻すことは不可能です。「これからお金が増えるのかどうか」が大事なはずです。

■コロナ禍で資金繰りが悪化し解約を迫られるケースも

仮に1年後くらいから、確実にお金が増えるのであれば継続してもいいかもしれません。しかし、数年間でもマイナスが続くようであれば、解約あるいは「払い済(保険料の支払をやめると、小型化した契約が残り、その後、解約しても相応の払戻金があります)」にしたほうが良いと思います。

「すぐに使う予定がないお金だ、10年くらい我慢したら元が取れる」と決断を先送りする間に、コロナ禍で資金繰りが厳しくなり、解約を余儀なくされた人もいるのです。

損が出る場合でも「不利な契約に使ったお金と時間が最も少ないのは今だ。早く気がついて良かった」と考えるのが正しいはずです。

そもそも「長期的には払い戻し率が100%を超える」といった保険商品の評価が、金融の世界では非常識であることも強調しておきます。

貨幣価値の変動や中途解約時に損が出るリスクなどを加味し、将来の払い戻し率は、額面より大幅に割り引いて評価する必要があるからです。(額面でも)100%に届くまで長い年月を要する時点でダメなのです。

■老後資金なら貯蓄性保険より「確定拠出年金」「つみたてNISA」

いくつか代案もあります。老後資金準備なら「確定拠出年金」を優先すると良いはずです。税制面での優遇措置など、保険より利点が多いからです。

後田亨、永田宏『いらない保険』(講談社+α新書)
後田亨、永田宏『いらない保険』(講談社+α新書)

お金を動かしやすいことを重視するなら「つみたてNISA」も検討に値すると思います。手数料が安い投資信託がそろっています。

リスクを取りたくない人は「個人向け国債(変動金利型10年満期)」が良いでしょう。最低保証利率は預金より高く、金利の上昇にもある程度ついていける利点があります。

それから、まとまったお金がある人は、無理に運用しなくても良いかもしれません。保険に限らず、金融機関などから勧められる商品は「先方の取り分が多いのだろう」と警戒してほしいと思います。

■「不安」に付け込まれないことが失敗しないコツ

総じて、生命保険の見直しに関して、一般の方に求めたいのは「常識」による判断です。老後の医療・介護など「ひとごととは思えない事態」に備える場合、安い保険料で大きな保障を持てるわけがありません

先のことは誰にもわからないので、遠い将来のリスクや環境にも最適な「一生涯安心できる保険」が現存するはずもありません。仮に「安全確実に大きくお金を増やせる方法」があれば、一般の個人ではなく、企業などに売り込まれるでしょう。

相談にしても、「営業担当者などとは『利益相反』だから、有識者に有料で相談するほうが無難だろう」と想像できないでしょうか。

生命保険の利用がふさわしいのは、現役世代の急死など「まれに起こる重大事」なのです。不安喚起情報に流されず、常識で考えると、保険の見直しはうまくいくと思います。

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後田 亨 オフィスバトン「保険相談室」代表
1959年生まれ。長崎大学経済学部卒業。アパレルメーカー勤務を経て日本生命に転職、営業職を約10年務める。その後、複数社の保険を扱う代理店に移る。2012年、営業マンと顧客の利益相反を問題視し独立。独自の視点から情報発信を続けている。主な著書に『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春新書プレイブックス)、『生命保険の罠』(講談社+α文庫)、『いらない保険』(講談社+α新書)ほか、著書・メディア掲載多数。

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(オフィスバトン「保険相談室」代表 後田 亨)

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