「無料相談には目もくれない」1億以上もつ富裕層がFPに有料で節約法の教えを乞う深い理由
プレジデントオンライン / 2020年11月26日 9時15分
■1億円以上持つ富裕層と“普通以下の人”との決定的な違い
筆者は、ファイナンシャル・プランナー(以下、FP)として、20年以上、個人客からの相談を受けている。ボランティア(無償)で行うケースもあるが、医療機関などでの無料相談(報酬は病院負担)も含め、基本は全て有料である。
個人での対応で、他にも執筆や講演などの案件を常に抱えているため、年間何百件などはこなせない。逆に、1件ずつ、じっくりアドバイスしたいほうなので、混み合っている時期は1カ月以上お待ちいただくこともある。
顧客の年代、性別、属性、相談内容などは、実にさまざまだ。
家計の見直し、保険の見直し、住宅購入や子どもの教育資金、資産運用、相続など、悩みはいろいろだ。コロナ禍以降は、オンラインでの相談も受け付けており、日本国内だけでなく海外からの相談も対応できるようになった。
ただ、有料相談は、やはり比較的余裕があるというか、ある程度年収が高く、資産も持つ“お金持ち”が多い。というより、こうした富裕層は、有料でFPに相談するメリットをよく理解しているからこそ、お金持ちになることができ、その後もそのポジションを維持できるのではないかと思っている。
今回のコラムでは、富裕層とそうでない人では、お金に対する姿勢や考え方にどのような違いがあるのか考察してみたい。
■「富裕層」ってどれくらいの資産がある人のこと?
まずは、ここでの富裕層の定義を明確にしておこう。
野村総合研究所によると、富裕層とは、株式や投資信託など、保有資産から負債を引いた純金融資産が1億円以上の世帯と定義している。要するに、預貯金などが1億円あっても、タワマンを買って、住宅ローンを8000万円抱えているといった世帯は対象外というわけだ。
2017年のデータでは、純金融資産保有額1億円以上5億円未満の富裕層は118.3万世帯、5億円以上の超富裕層は8万5000世帯となっており、全世帯のわずか約2%しかいない。
1億円があれば、年利回り4%で運用した場合、年間400万円が入ってくる。おおむね平均的な給与所得者の1年分のサラリーが働かなくても懐に入ってくる計算だ。
ある一定規模の資産を持つ個人投資家に特化した金融サービスを提供するプライベートバンクでも、金融資産1億円以上がターゲットと言われている。
もちろん、純金融資産が5000万円以上1億円未満の準富裕層(322万2000世帯)や3000万円以上5000万円未満のアッパーマス層(720万3000世帯)のほうが多数派なので、ちょっとした“小金持ち”も対象にするプライベートバンキングサービスもある。
伝統的なプライベートバンクは、預かり資産の1%を管理料や手数料とするが、日本の場合、取引ごとに手数料や投資信託の信託報酬としていただく形が多い。預かり資産がそれほどでなくても、顧客の囲い込み策としてサービスを提供するメリットがあるのだろう。
■どうして彼らは「富裕層」になれたのか?
彼らが富裕層となった理由としては、次のようなものが挙げられる。
・実家が資産家で、富裕層である親や祖父母からの相続、生前贈与を受けた。
・バリバリと高収入で稼ぐDINKSで、気がついたら、夫婦それぞれ5000万円以上貯まっていた。
・海外赴任している間に、現地の高金利商品で運用した(継続中含む)。
・起業や新規株式公開(IPO)、事業売却などで保有資産が増加した。
・株価上昇によって、株式や投資信託、不動産などの保有資産の価値が上昇した。
などである。
大別すると、親の財産を引き継いでリッチになったか、自分自身で財産を築いてリッチになったかに分けられるだろう。
2020年は、3月に新型コロナ感染拡大の影響で、日経平均株価は1万6000円台まで急落した。ところが11月17日、バブル期以来、何と約29年ぶりに2万6000円を回復し、このまま3万円台まで到達するのではないかと見る人もいる。
今年タイミングよく投資できた人の中には、めでたく「億り人(おくりびと)」に仲間入りとなった方もいるに違いない。
■ユニクロ大好き、富裕層といっても実は「普通の人」がほとんど
ただ、株価の上昇で保有資産の評価額があがり、富裕層になった人は、資産を売却して収益を現金化すれば、お金持ちになったことを実感できるだろうが、そうしない限り、生活は変わらない。
着るモノはユニクロで十分だし、時計は国産で、クルマも中古。その日に食べきるなら、スーパーの値引きシールが貼られたものを迷わず手に取る。
かつてバブル期に、「にわか金持ち」になった人が、海外旅行に行って、ブランド物を買いあさり、高級外車やマンションを購入。バブルが弾けたとたん、ローン地獄に陥ったことに比べると、非常に堅実かつ地味である。
昨今の富裕層は、今の状況が続くとは限らない、先が見えない不透明な世の中であることを肌で感じているのだろう。筆者の印象では、今どきの富裕層はブランド品で全身を固めるというより、外見や雰囲気はそうでない普通の方と何ら変わらない。
では、何か違うのか?
■富裕層は相談料を提示すると「そんな金額でいいんですか?」と驚く
富裕層は、自分が価値のあると感じるものに対して、それに見合った対価を払うことに躊躇がない。端的な例を言えば、筆者が相談料を事前に提示して、「え? そんな金額でいいんですか?」と驚くのは、富裕層だけだ。それ以外の普通以下の収入の人は、顔のどこかに「あぁ、やっぱりけっこうかかるんですね」という気持ちが出てしまう(もちろん、それが普通の感覚だ)。
富裕層はちゃんと自分のニーズや状況に合ったオーダーメイドな情報を知りたいと考えている。そのためには、有料であっても、FPに相談をして「最適解」を探りたいと望む。逆に言えば、費用がかからない「無料」の情報にはあまり意味や価値を感じていない。
一般的に、富裕層は、銀行や証券、保険、不動産など、さまざまな金融機関からの‘口撃’に日々さらされている。無料相談会や無料セミナーなどに参加したとたん、頻繁に、電話や訪問を受けることになり、契約せざるを得なくなったという話もよく聞く
まさに「ダダより高いものはない」ことを熟知している方が多いのも富裕層だ。この金融リテラシーの高さが富裕層とそうでない者の差なのかもしれない。そして、「富裕層になること」よりも、「富裕層であり続けること」の方が格段に難しい。
■FPの認知度が高いが、相談には意味を見いだしていない人がほとんど
世の中の大多数の人は、お金を出してFPにアドバイスをしてもらうことに関して価値を感じていない。
少し前のデータになるが、楽天インサイトが「ファイナンシャルプランナー(FP)に関する調査」(2009年7月)を全国の20~69歳の男女計1000人を対象に実施した。
これによると、「FPという名称は聞いたことがある」(42.7%)、「何をする資格なのか、だいたい知っている」(34.5%)など、FPに対して一定の認知度があることは認められる。
しかし、FPに相談したい内容について、「相談したいと思わない」が39.0%で、トップになっており、その理由として、「相談したいことがないから」(51.8%)。続いて「費用(相談料)がいるから」(27.9%)が挙がっている。
そして、FPに支払ってもいい1時間当たりの相談料は、「3000円未満」(38.2%)が最も多く、次いで「有料なら相談しない」(36.4%)になっている。
調査当時から年数が経過した今は、意識に多少の変化はあるかもしれないが、基本的には「無料なら受けてもいいけど、有料ならやめとく」という感じだろう。
■FP相談をする人の実態「有料2割、無料8割」
とはいえ、そもそもFP相談を経験してみなければ、その有用性も実感できない。
日本FP協会が実施した、FP顧客満足度調査(2015年)によると、実際にFP相談を受けた経験者の満足度は、7割~8割以上と相対的に高い。
また、FP相談を今後「利用したい」あるいは「どちらかといえば利用したい」と回答した割合は85%とこちらも高くなっている。とくに、利⽤意向が高いのは男性20代(93.8%)と⼥性30代(92.6%)と9割以上。また、この調査では、回答者のほとんどが無料のFP相談を受けた人だが、利用意向は、相談料が有料の場合では利用意向が91.1%と非常に高い点にも注目したい。
■「FP相談料1万円をケチる人は結局損をする」
前掲の2つの調査からは、そもそもFP相談に関心がない、意味がないと思っている人がほとんどであること(今は多少増えているかもしれないが)。その一方で、FP相談を受けてみると、その価値が実感でき、今後も利用したいと考える人が多いことがわかる。
したがって、お金のことをFPに相談してみたいけれど、どういうメリットがあるかわからないという人は、日本FP協会などが実施している無料相談で体験してみるのもお勧めだ。
ただし、無料相談と有料相談はまったく異なる。
前者は、あくまでも一般的なアドバイスで、細かに顧客情報を聞き取ることはない。時間も50分から1時間程度だろう。
それに対して後者は、事前に顧客情報を分析した上で、その方の状況やニーズに合ったアドバイスを行う。相談時間も初回なら1時間半から2時間程度かけてじっくりお話をお伺いするのがほとんどである。
そして、何かお金に関して心配なこと、気になることが出てきたり、ライフプランが変更したりした場合は、その都度、連絡が来て追加の相談を受ける。
FPが他の専門資格と異なるのは、守備範囲の広さと包括的なアドバイスができること、将来に対する対策が講じられる点である。
相談内容が自分では手に負えない場合は、早々にネットワークを組んでいる他の専門家にリファーするし、キャッシュフロー分析をすれば、いずれ生じるであろうリスクも「見える化」できる。
FPの選び方などは、以前、プレジデント本誌で取材を受けた以下の記事(2019年3月18日号)を参考にしてほしい(「FP相談料1万円ケチる人は結局損をする」)。
実際に「これを読んでその通りだと思って相談に来ました」という20代男性がいたが、富裕層になるかならないかは、このフットワークの軽さと実行力なのかもしれない。
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ファイナンシャルプランナー
CFP1級FP技能士。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書に『50代からのお金のはなし』など多数。
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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)
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