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市川海老蔵「いま歌舞伎俳優たちはウーバーイーツで生計を立てている」

プレジデントオンライン / 2020年11月27日 11時15分

雑誌『プレジデント』11月27日(金)発売号、特集は「毎日が楽しい孤独入門」、表紙は市川海老蔵さんです。

■歌舞伎界の仲間のため、休んではいられない

コロナ禍で苦しむ日本のエンターテインメント業界。その復活のため、いち早く動き出した一人が、市川海老蔵氏だ。

9月11日、熊本県・八千代座を皮切りに全国12会場27公演を行う『古典への誘(いざな)い』の巡業を実施した。

実はこの巡業公演、様々な公演が白紙になり、先行きが全く見えなかった5月時点で、海老蔵氏は実施を決意していた。一行の全員が揃って各地を移動するツアーは、クラスター化のリスクも考えられる。それでも動き始めたのは、歌舞伎界の仲間のためだった。

「個人的には、年内は休んでもいいと思っていました。本来であれば(延期になった市川團十郎)襲名公演で、骨身削って、もう血の涙を流しながら舞台に立っているような忙しい日々だったはずが、自宅での子どもたちとの生活。本当に貴重な時間でした」

■歌舞伎というものは一人じゃできない

「ですけど、歌舞伎というものは一人じゃできないんです。音楽家、照明家、大道具さん、小道具さんとか、身の回りのことをやるスタッフがいっぱいいるわけで、そういう人たちが生活できないわけですよね」

彼自身は映画やテレビ、CMなどにも出演し、生活に関する悩みはなかったという。しかし、周囲はそうではなかった。3月以降、関係者だけでなく役者たちも収入がなくなってしまう。ウーバーイーツで生計を立てていた役者もいたというから驚きだ。

「自分の家に来てもらって、子どもの稽古を見てもらう代わりにお小遣いをあげたりしながら、生活を聞くわけです。『正直、ヤバいっす』『誰も助けてくれません』と。奥さんも、家族もいるのに給料なし。そんなのが4カ月、5カ月も続くわけです。切実な問題でしょう。周りの人間たちをいかにして生活できる水準に戻すかということを、第一に考えなくちゃいけない。そういう中で、9月からの公演を考えようと」

■旅巡業で自分たちがウイルスを撒くことがないように

検討を始めた後も、様々なイベントの中止が決定されていく。エンターテインメント界全体が、全国ツアーを開催していいか悩んでいた。海老蔵氏は自らを実験台に、巡業を成功させるための方法を模索した。

「コロナ禍の中で旅巡業して、もし自分たちがウイルスを撒いたら問題外なので、とにかくコロナに罹らないということにフォーカスしました。一回数万円はかかるPCR検査も、キャスト、スタッフおよそ70人全員が2回ずつ行っています」

それ以外にも、様々な感染予防対策を実施した。まず、全国を旅する出演者やスタッフ一行を、各地域の主催者や観客から隔離した。通常の公演であれば、主催者側が楽屋に挨拶へ行くものだが、これは一切禁止。熱心な観客、支援者である贔屓筋との会食はもちろんのこと、公演当日の花束やプレゼントの受け取りまで断る徹底ぶりだった。

■主催者側のスタッフと観客の接触も最小限に

マスクの着用と検温、消毒などは、稽古や移動など、すべての場面で欠かさず行った。宿泊地では出演者やスタッフ同士であっても5名以上での会食を禁止、外食も避けるようガイドラインを示すなど、感染対策を巡業先で徹底した。

主催者側に求めた観客への感染予防対策も多岐にわたる。手の消毒と非接触型の検温、マスクの着用を求めるだけでなく、全公演で靴裏用の消毒マットと消毒液を手配し、入場時には靴裏まで消毒を行った。

また、入場時のチケットのもぎりを観客自身に行ってもらう、物販はとりやめプログラムは無料で配布、配布物は袋の持ち手を触らず渡すなど、細部に至るまでルールを設け、主催者側のスタッフと観客の接触も最小限に抑えた。

会場では手のひらだけでなく靴の裏まで消毒を実施した。
撮影=平松真帆
会場では手のひらだけでなく靴の裏まで消毒を実施した。 - 撮影=平松真帆

■歌舞伎の醍醐味である歓声や掛け声も禁止

会期中には政府から100%の観客収容を許可されていたが、当初予定通り50%にとどめた。さらに、開演中においても客席扉を開放したまま上演することで、会場が「密」にならないよう配慮した。

公演中は歓声や掛け声を禁止し、拍手のみにとどめるよう観客に要請。大向こうと呼ばれる歓声は、歌舞伎の醍醐味でもある。それでも「絶対に感染報告を出さない」という決意から、異例のルールを設け、徹底した。

万が一、感染が発覚した場合には、来場者全員に感染者が発生したことを通知できる仕組みも構築した。アンケートだけでなく、スマホアプリを活用することで、個人情報を収集せずにメッセージを送れる体制を整えた。

演目にもこだわった。写真は、コロナからの回復を祈念し舞った『寿式三番叟』
撮影=平松真帆
演目にもこだわった。写真は、コロナからの回復を祈念し舞った『寿式三番叟』 - 撮影=平松真帆

■歌舞伎という伝統芸能を絶やさないという決意と危機感

こうした様々な努力が実り、10月29日、神奈川県・小田原市民会館で無事に千穐楽を迎えた。観客、スタッフ、主催者から一人の感染報告も出すことなく、49日間を駆け抜けた。

また、同時期には「伝統芸能 華の舞」の巡業も企画。一門の活躍の場を広げることにも尽力した。2つの巡業公演を合わせると全国21カ所42回もの公演をコロナ禍で成功させている。

海老蔵氏の一連の取り組みの背景には、日本の劇場文化、そして歌舞伎という伝統芸能を絶やさないという決意と危機感があった。11月27日(金)発売の雑誌『プレジデント』では、海老蔵氏の独占インタビューを掲載。「できればみんなと同じことをしたい」と語りながらも、独自の行動を起こしてきた理由を語っている。

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市川 海老蔵(いちかわ・えびぞう)
歌舞伎役者
1977年12月6日生まれ。十二世市川團十郎の長男として生まれる。83年に初お目見え後、2004年に十一代目市川海老蔵を襲名。日本の伝統文化を次世代や世界に伝えるべく、「古典への誘い」をはじめ、自ら企画公演を行っている。

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(歌舞伎役者 市川 海老蔵 構成=プレジデント編集部 撮影=平松真帆)

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