学力も就職も「オンライン有名大学より地方の無名校」がこれから有利なワケ

プレジデントオンライン / 2020年11月30日 9時15分

■コロナ禍で迫られる、志望校の選択

名を取るか、実を取るか。今年の受験生と親たちの多くが、この難しい選択に頭を悩ませているに違いない。「名」とはブランド、「実」とは授業や勉強も含めた大学生活全般のことである。

文部科学省は今年8月から9月にかけて、全国の大学・短大を対象に、後期の授業実施方針を調査した。その結果は図表1のとおりで、対象となった821校のうち「ほとんど対面」が161校だったのに対し、158校が「ほとんど遠隔」と答えている。

「ほとんど対面」が地方の小規模大学であり、「ほとんど遠隔」は大都市の総合大学で占められていることは、容易に想像がつく。

大学の入り口で立ち止まる学生
写真=iStock.com/mixetto
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各大学のホームページを当たってみると、早稲田大学も慶應義塾大学も上智大学も、首都圏のその他の有名大学も、後期授業の大半をオンラインで行っていることがわかる。関西圏は首都圏より多少マシだが、関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)を含む大手は、やはりオンラインやハイブリッド型(オンラインに一部対面式を組み込んだ形式)が中心で、本格的な対面授業は限定的である。

■「通信制ブランド大学」より「地方小規模大学」

寒さが増すなかで、新型コロナウイルスの新たな感染者が急増している。第3波の到来である。このままでは、部分的に再開した対面授業すら、いつまたリモートに逆戻りするかわからない。

大学に通えないのであれば、いくらブランド大学といえども、通信制コースに入学したのと変わらない。しかも前期は、自粛生活で精神的に追い込まれ、うつ状態に陥った学生が大勢いたという。その悪夢が、また繰り返される懸念すら現実味を帯びてきた。

そんな危ない大学に、4年間の学生生活を託すことができるだろうか。そう迷っている方々にはズバリ、地方の小規模大学がお勧めだ。

■地方小規模大学は危機に強い

大学にブランドを求めるなら別だが、Withコロナ時代に充実した学生生活を送り、しっかり勉強して実力をつけたいのであれば、地方の小規模大学のほうがいい。なぜなら、早々と対面授業を再開し、キャンパスライフも大分元通りになっているからだ。

この格差のもとは、コロナ禍に対する耐性の違いである。実は地方の小規模大学ほど、今回のような危機に強い。逆に大都市の大規模・総合大学ほど、脆(もろ)いのである。私自身、地方の小規模大学に分類される大学に勤めているので、その違いがよくわかる。

私が勤務する長浜バイオ大学は、滋賀県北部の田園地帯にあって、大学の周りは一面の田んぼである。学生数は、大学院を含めても1100人程度という、ごく小さな規模の大学だ。しかも理系の1学部(3学科)のみという、典型的な単科大学である。

今世紀に入ってからできたので、新設大学の部類に入る。そのため知名度が低く、地元との結びつきもまだ弱い。大学にブランドを求めるひとには、もっとも適さない大学といっていい。

だが後期の授業の大半を、対面で行っている。それだけでなく、3月や4月の時点でも、重要な学校行事ができたし、閉鎖措置が取られてからの動きも迅速だった。そうと意識していたわけではないが、コロナ禍に直面し、危機においては、大都市の総合大学よりも、地方の小規模大学のほうが断然有利であることを身をもって体験した。

■感染リスクは10分の1…

地方の最大の強みは、新型コロナの感染リスクが低いことである。3月上旬には日本中がざわつき始めていたが、地方の県では月末になっても感染者がゼロか、せいぜい1桁にすぎなかった。

滋賀県も、3月末時点の感染者はわずか7人だった。そのお陰で、われわれの大学では卒業式を行うことができた。保護者も来賓もいない、30分ほどの短い式典だったが、ともかくも無事に卒業生を送り出せたのはよかった。4月の入学式と、新入生向けのガイダンスもできた。本学では、毎年4月1日に入学式を行っており、今年も同じ日程で実施した。

近隣にある県立大学(学生数2800人)でも、卒業式と入学式が行われた。

しかしそこからあまり離れていない国立大学(学生数3900人)では、卒業式も入学式も中止になった。また県南部には、関西を代表するマンモス大学の、主に理工系学部をまとめた広大なキャンパス(それぞれ数千人の学生を有する)が2つあるが、やはり卒業式も入学式も中止になった。

地方であっても、規模の大きい大学ほどコロナの影響を受けやすく、小さな大学ほど影響が小さかったのである。

その後、地方でも感染者はじわじわと増え続けているが、滋賀県の人口当たりの累積感染者数は東京都の5分の1、われわれの大学周辺に限れば10分の1にとどまっている。

■小さい組織は意思決定も行動も速い

小さい組織は、意思決定も、それを行動に移すのも速い。それは企業だけでなく、大学にも当てはまる。

国公立か私立か、文系か理系か医療系かで、教職員数は変わってくるが、一般的な私立大学では、学生数が1000人規模なら教員・職員それぞれ50人程度と見積もってよい。そのくらいの人数なら、お互いの顔と名前が覚えられるし、普段からコミュニケーションが活発で、大規模大学と比べると、会議などで無駄な時間を費やすことが少ない。

また地方の小規模大学の多くは、歴史が浅い新設大学である。伝統がない代わりに、古臭い因習や複雑な人間関係、地元との利害関係などが薄いため、事態に柔軟に対応できる長所を持っている。

■4月21日から全科目で遠隔授業を開始したスピード感

われわれの大学も教職員100人程度の“中小企業”で、そのうえできてから20年も経っていないため、風通しがよく、意思決定が速い。

大学の閉鎖が決まり、授業をリモートで行うと決まったのは3月下旬だったが、そこからの動きが速かった。ただちに準備に着手し、4月21日からすべての科目で遠隔授業を開始している。全国的にみても、かなり素早いスタートだったと思う。

そのころ東京や関西の総合大学などは、まだ方針を決めかね、準備も整っていなかったようだ。

5月の連休明けにスタートできた大学はいいほうで、6月にずれ込むところも少なくなかった。教員が多ければ、さまざまな意見が出てくるため、意思統一が難しい。それに学部がいくつもあれば、学部間の足並みを合わせるのにも時間がかかる。大きな組織ほど、危機に際して迅速に行動するのは難しくなる。

■理系大学ほどリモートへの対応が速い

一般に、理系の教員は普段からパソコンを使って仕事をしているし、とくに地方大学の教員は、コロナ以前からリモート会議に慣れていた。

国内外の研究者たちと共同研究を行うことが当たり前になっていて、ときどきミーティングを開く必要があるが、地方大学から首都圏などに足を運ぶのは、時間的にも費用的にも大きな負担になる。そのため以前からZoomやSkypeなどのツールを使うのが当たり前になっていた。

遠隔授業への抵抗感は、最初からほとんどなかったのである。

グループで学ぶ大学生
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

しかし大きな大学では、そう簡単にはいかなかっただろう。遠隔授業に否定的な教員も少なからずいたであろうし、とくにITを使い慣れていない文系の教員が大勢いるような大学では、遠隔授業のための体制作りから始める必要があったはずである。結果的に対応が大幅に遅れてしまったのである。

■教員の大半が生物学や医科学の専門家

これは本学ならではの特殊事情だが、理系といってもバイオサイエンスのみを専門に教える大学であるため、全教員が生物学や医学の研究者で占められている。

4月、5月ごろは、マスコミが新型コロナの恐怖を連日連夜にわたって煽り続けていた時期である。そのため日本全体がパニック気味になっていた。

しかし本学の教員は、自分で専門雑誌の論文を探して読むことができるし、国内外の医師や専門家たちと情報を交換することもできる。ウイルス感染やウイルス進化の専門家もいて、新型コロナのゲノム情報を解析した研究論文を早々に発表した教員もいたほどだ。テレビのワイドショーなどで流れる不正確な情報に惑わされることなく、全員が冷静に判断し、行動することができたのである。

もちろん、バイオ系や医療系の学部・学科を持つ総合大学はいくつもあるが、学部間の力関係によって、正当な意見を取り上げてもらえないなど、難しい問題があったようだ。

■小規模大学は学生とのコミュニケーションが取りやすい

多くの大学が、学科単位で各学年を「クラス」と呼び、教員2人ほどを「クラス担任」として当てがっている。クラス担任は、出席が足りない学生や、成績不振の学生を呼び出して面談し、注意喚起を行ったりしている。

クラスの大きさは、大学の規模によって変わってくる。小規模大学における1クラスの大きさは、30~50人程度である。しかし大規模大学になると、100人を超えることも珍しくない。したがって小規模大学のほうが、クラス担任の目が届きやすく、学生の面倒見が良い傾向がある。

それに小規模大学は、もともと学生数に対する教職員数が多いため、日頃からお互いの距離が近い。クラス担任であろうとなかろうと、自分の学科の、1年生から4年生に至るまでのすべての学生の顔と名前をだいたい覚えている。しかも理系なら実験実習が多く、すべての学生と接する時間が長くなるため、一人ひとりの特徴や個性まで、かなり把握することができる。

■大規模大学の学生が直面した「孤独」

ちなみに本学ではクラス担任は置かず、全教員が各学年の学生を数名ずつ受け持ち、定期・不定期の面談を行っている。このやり方のほうが、より親身な指導に適していると思う。また本学では、2年生以上から募集した学生チューターが、1年生と日常的に接し、学生生活や勉学の相談などを受けている。

こうしたサポートは、閉鎖期間中もリモートで継続的に行われていたため、大学から放置されているといった不安や不満を抱く学生は、ほとんどいなかった。さらに授業に関する学生アンケートが行われ、遠隔授業に関する問題点が洗いだされ、改善に役立てられた。

しかし規模の大きい大学では、全学生の動向を把握することが困難なうえに、大学からの状況説明や今後の見通しなどの発表も少なく、孤独感に苛まれる学生が大勢いたようである。

また教員間の連携や調整が取れていないため、遠隔授業で大量のレポートや小テストなどの課題が課せられて、学生たちが消化不良のまま疲弊するといった問題も生じていた。しかしわれわれのような小規模大大学では、そういう問題も起こらなかった。

■緊急事態解除後の対応も迅速

5月25日に緊急事態宣言が解除された。そこからの対応も速かった。本学では、解除を受けて6月8日から、学生に学年ごとに登校してもらい、教務上の連絡や、学科単位でのホームルーム、教員との個別面談などを行った。またこの日から、大学の情報実習室など一部のファシリティが使えるようになった。

翌週の6月15日からは、一部の授業で対面式が復活した。すべての学年で、学生たちが週2回程度は通学できるように時間割が工夫された。研究室の活動も再開し、4年生の卒業研究や大学院生の研究も大学で行えるようになった。

本学だけでなく、地方小規模大学は、ほぼ同じ時期に対面授業を再開していた。たとえば滋賀県内では、琵琶湖西岸にある、本学と同規模の2つの私立大学が、6月8日ないし15日から対面授業を一部再開していた。

しかし県立大学では前期はすべてリモートのままで、後期に入ってから対面授業が復活した。国立大学のほうは、いまでもオンライン中心である。またマンモス私大の2つのキャンパスでも、相変わらずオンラインやハイブリッド中心の授業が続いている。

対面授業の再開でも、地方小規模大学のほうが有利であることが、はっきりと示されている。

■地方大学の就職デメリットが解消

地方大学は就職に不利といわれてきたし、実際さまざまな不利を被ってきた。なにしろ企業合同説明会に行くだけでも、大学でバスをチャーターし、参加希望の学生を乗せて遠征する必要があった。また学生たちは面接のために、大阪や東京を往復する必要があり、経済的にも時間的にも大きな負担となっていた。

ところが今年は、多くの企業が説明会や面接をリモートに切り替えたため、こうした地方の不利が一気に解消されたのである。

企業側がリモートでの採用に手間取っていたために、内定時期は例年よりも遅い傾向が見られたが、夏休み以降は順調に推移し、現在までの内定率は、昨年とほとんど変わらない。しかもいままで採用実績がなかった会社から、内定を取る学生が何人も出てきた。

リモートのお陰で、いままでは地理的に無理だった会社でも、受けられるようになったからである。企業側にとっても、人材募集の枠を全国に広げられたメリットは大きかったはずだ。リモート採用によって、地方と都会の就活格差は消滅しつつある。

■悔いのない選択をするための「情報」

18歳人口が減少するなか、地方小規模大学を取り巻く経営環境は厳しさを増すばかりだ。だが今回のコロナ禍では、むしろ地方小規模大学ほど、その強みをいかんなく発揮できたと思う。

学校の机にテキストとマスク。
写真=iStock.com/Natalia Bodrova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Natalia Bodrova

大都市の総合大学、有名大学はいまも遠隔授業中心で、学生たちの不満が日に日に高まっていると聞く。都会でのキャンパスライフなど、期待していたものが大きかっただけに、失望も大きいのだろう。しかも大学からのサポートが薄く、授業料も減額されないのでは、不信感や不満が高まるのも無理からぬことである。

コロナ禍がいつまで続くか、見通しは立ちにくい。有効なワクチンができたというニュースが聞こえてきたが、日本に十分に供給されるまでには、まだ相当の時間を要しそうだ。それにワクチンの安全性や有効性に、疑問を抱く専門家も少なくない。

そうしたことも含めて、Withコロナ時代は不安だらけである。だが地方小規模大学なら、充実した学生生活をエンジョイできるし、就活で不利を被る心配も大幅に減った。大学選びで迷っているひとは、この「事実」を理解したうえで、悔いのない選択をしていただきたいと願っている。

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永田 宏 長浜バイオ大学 教授
長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授・学科長。1959年、東京都生まれ。1985年、筑波大学理工学研究科修士課程修了(理学修士)。オリンパス光学工業(現・オリンパス)、KDDI研究所、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授などを経て、2009年より現職。専門は医療情報学・医療経済学。2005年、東京医科歯科大学から博士(医学)を授与される。『販売員も知らない医療保険の確率』(光文社ペーパーバックスBusiness)、共著書に『いらない保険』(講談社+α新書、後田亨氏との共著)など著書多数。

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(長浜バイオ大学 教授 永田 宏)

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