「4倍超の大逆転」パナソニックとソニーの時価総額は、なぜここまで差が開いたのか

プレジデントオンライン / 2020年11月30日 9時15分

経営方針説明会に臨むパナソニックの津賀一宏社長(左)と次期社長の楠見雄規常務執行役員=2020年11月17日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

パナソニックが9年ぶりの社長交代を行う。さらに2022年4月には持ち株会社制へ移行する。業績面で足踏みを続ける現状を打破し、「復活モード」へのリセットが狙いだ。現在の時価総額はパナソニックの約2兆6000億円に対し、ソニーは11兆4000億円。この差は埋められるのか——。

■「2段ロケット型のリセット」で名門復活を目指す

国内外を問わず、多くの事業を抱えたまま不振にあえいできた総合型の製造企業が、成長率を取り戻しつつある。どこも思い切った事業ポートフォリオの組み換えがその原動力になっている。

そうした中で、事業の選択と集中、成長分野の育成で出遅れているパナソニックは、改めてスピード感を持った事業構造変革へ実行力が試される。

パナソニックは11月13日、トップ交代人事を発表した。2021年6月24日付で津賀一宏社長が代表権のない会長に就き、後任に楠見雄規常務執行役員が昇格する。楠見氏は2021年4月1日付で最高経営責任者(CEO)となり、6月の株主総会後に社長に正式就任する。同時に、2022年4月に持ち株会社に移行し、社名を「パナソニックホールディングス」に変更することも発表した。

通例に比べ早々とトップ交代を公表し、次期社長就任後1年近くの期間を置いて持ち株会社に移行するという手順は「新しい経営体制に移行するための次期社長の人選」(津賀氏)を先行し、2段ロケット型のリセットで、かつて世界最大の総合家電企業とあがめられた名門復活を目指す決意が伝わる。

■「選択と集中」を掲げながら大胆な変革ができなかった過去

そんな津賀氏の思いに、楠見次期社長は11月17日に開いた経営方針説明会で「競争力のない事業は冷徹に迅速に事業ポートフォリオから外していく」と応じ、事業構造変革に向けて退路を断った覚悟を示した。

しかし、多岐にわたる事業を抱えるパナソニックが長年、低空飛行から抜け出せなかった要因には、歴代トップが事業の「選択と集中」を掲げながら大胆な事業構造変革に踏み切れなかった背景がある。IT化、グローバル化の加速といったパナソニックを巡る大きな事業環境の変化に構造変革が追い付けず、低空飛行を余儀なくされてきたという現実がある。

実際、2012年6月に就任し、社長在任9年目に入った津賀社長は、巨額投資によって社運を賭けたプラズマテレビ事業の撤退という大ナタを振るった。しかし、業績は思ったほどに浮上せず、その後も太陽光パネル、医療機器、中小型液晶パネル、半導体と不採算事業を整理せざるを得ず、業績は低空飛行が続く。

その結果、2016年3月期には3度目の挑戦となった創業100周年となる2018年に売上高10兆円を目指す目標の撤回に追い込まれた。

■津賀社長が描いた成長戦略は誤算に終わったが…

津賀社長は、価格競争に陥りがちな家電に代表される消費者向け(BtoC)ビジネスから自動車や電子部品といった企業向け(BtoB)ビジネスへのシフトを打ち出す成長戦略を描いてきた。

しかし、成長領域に位置付けた自動車関連ビジネスは2020年3月期の営業損益が466億円の赤字に陥り、米電気自動車(EV)大手テスラと共同運営で取り組んできたEV向け電池工場は収益面で寄与するところまでには至っておらず、津賀社長が描いた成長戦略は誤算に終わった。

それは歴代トップが課題と位置付けながら解決できなかった、多岐にわたる事業領域を抱える巨大組織をいかに効率的に運営し、成長力を引き出すかという経営課題に最適解を見いだせなかったことに尽きる。

■なぜ株式時価総額でソニーに大逆転されたのか

ライバルのソニーは一時期の苦境から抜け出している。事業のポートフォリオ転換が実って好業績を続け、パナソニックとの差は鮮明だ。パナソニックの経営方針説明会直後の株式時価総額は約2兆6000億円だったのに対し、ソニーは11兆4000億円とその差は大きく開いた。

ソニーのロゴ
写真=iStock.com/MMassel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MMassel

2008年末の時価総額はパナソニックが2兆7000億円、ソニーは1兆9000億円とパナソニックが大きく引き離していたことを考えれば、低成長をなかなか抜け出せないパナソニックに対し、株式市場、投資家が厳しい評価を突き付けていることがうかがえる。

海外の複合企業(コングロマリット)でもかつてエクセレントカンパニーの頂点に立った米ゼネラル・エレクトリック(GE)は2018年に、110年以上維持してきたダウ工業株30種平均株価の構成銘柄から除外された。

GEは急速な事業環境変化に事業構造変革が遅れ、赤字事業の切り売りを迫られた。

その結果、複合企業が多岐にわたる事業の相乗効果を引き出せず投資評価を下げる「コングロマリット・ディスカウント」の直撃を受けた末の屈辱だった。

パナソニックもその例に違わず、長期政権となった「津賀体制」も、その罠にはまったのである。

■「競合他社に比べてスピードで劣っている」という現状認識

津賀社長が今回、引き際を決断するに当たって名門復活に向けた打開策として打ち出したのが、9年ぶりのトップ交代と持ち株会社への移行という決断だった。

次期社長の楠見氏は津賀社長と同じくエンジニア出身で、電池、白物家電、テレビなど主要事業を経験し、2019年に自動車関連ビジネスの再建を託され、津賀社長からの信頼は厚いとされる。

11月13日の記者会見で楠見氏はパナソニックの現状の課題について「競合他社に比べてスピードで劣っている」と語り、事業構造変革への取り組みを加速する考えを示した。その上で、「低収益の事業があり、どうするか考えなければならない」とも述べ、引き続き事業の取捨選択に当たる意向だ。

津賀社長が楠見次期社長に託したもう一つのリセットは2022年4月の持ち株会社への移行だ。津賀社長はこの点について「(持ち株会社移行で)会社の形も変わり、次の人に何を託すべきかも決まった」と、持ち株会社への移行をパナソニック復活への“切り札”と位置付けた。

■創業者・松下幸之助が考案した事業部制に原点回帰

2022年4月からのパナソニックの新体制は、持ち株会社のパナソニックホールディングスの傘下に8つの事業会社をぶら下げる。責任と権限を明確化し意思決定を早めるのが狙いで、このうち4つを「基幹事業」と位置づけ、集中的な投資で事業立て直しを急ぐ。

4つの基幹事業で最大規模となるのは新たに設立する事業会社「パナソニック」で、国内外の白物家電や電気設備などを手掛ける。残る3つの基幹事業は、①流通業や製造業の効率化支援、②電子部品・産業機械、③EV用を含めた電池事業となる。

パナソニックの新製品と技術のショールーム
写真=iStock.com/coward_lion
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coward_lion

楠見次期社長は11月17日の経営方針説明会で持ち株会社制の新体制は「創業者の時代に近い形になる」と語った。

創業者の松下幸之助氏は1933年に事業部制を採用し、それぞれの事業部に「自主責任経営」の徹底を求めた。津賀社長も持ち株会社への移行を「自主責任経営のもとそれぞれの領域で専門性を徹底的に磨く」と、創業者が考案した事業部制への原点回帰ともとれる思いを込めた。

■日立や東芝はすでにドラスティックな変革を実施済み

しかし、復活を遂げたソニーは言うまでもなく、同じ日本の総合電機大手各社の直近の事業構造変革への取り組みは、パナソニックが進めるトップ交代、持ち株会社への移行という変革の比ではない。

日立製作所は日立金属の売却に向けた入札手続きに入り、日立建機の保有株式の一部売却も検討しているなど、上場子会社の整理にスピード感を持ったドラスティックな対応を見せる。

経営危機に陥った東芝は火力発電所の新規建設事業からの撤退を決め、再生可能エネルギーを成長戦略に位置付ける。

こうした総合電機大手の変貌ぶりからすれば、パナソニックの決断のスケールは決して大きくない。次代を担う成長事業もいまだ明確に見いだせない現状で、ダブル・リセットで「復活モード」への導線を敷けるかどうか。

早々と方向が描かれたパナソニックのトップ交代劇。楠見次期社長の経営手腕には、スタート前から、早くも厳しい視線が注がれている。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史)

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