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LGBT当事者と考える「職場でしてもいい質問、絶対ダメな質問」

プレジデントオンライン / 2020年12月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/solidcolours

LGBTなどの性的指向や性自認に関するハラスメント「SOGIハラ」や、本人の性のあり方を第三者に勝手に暴露する「アウティング」は、法的に「してはいけないこと」になりつつあります。しかし、職場でよく聞かれるあんな会話やこんなイベント、実はSOGIハラやアウティングに該当する可能性があります。LGBT関連の法律や労働環境に詳しい神谷悠一さんと松岡宗嗣さんが解説します。

※本稿は神谷悠一、松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■初対面ですぐ「彼氏/彼女いるの?」と聞く人たち

職場でたまに、「彼氏いるの?」とか、「彼女いるの?」と聞いてくる人がいます。ひと昔前までは職場のそこここで飛び交っていたこのような投げかけも、最近では「いきなり仕事に関係のないプライベートなことに突っ込んでくるな」と、やや面食らう人も多くなってきたように思います。特に、初対面というその人のさまざまな背景が本人から語られていない状況で、「彼氏」「彼女」というプライベート性の高い話題を持ち出してしまうと、思わぬ「地雷」を踏んでしまいかねないものです。

セクシュアルマイノリティに対する投げかけの場合も、この手の話題は地雷となります。「彼氏/彼女いるの?」の何気ない一言は、当事者の頭に「そもそも同性パートナーだし……」とか、「自分の性自認は男性だけど、職場では女性として過ごしているし、パートナーの性別は女性だから、これを変に思われないように説明するには……」などと頭の中で整理して話さなければならなくなる、そんな事情を呼び起こします。しかし、このような事情をそのまま答えることはできないため、どうこの会話を切り抜けるべきか、自分を守るための、うまく繕った会話を始めることとなります。

■しつこく聞くとハラスメントになる可能性も

「えーと、彼氏はいない、ですかねえ……(彼女はいるけど)」などと言葉を濁された際の背景には、このような事情がある場合も考えられる、というわけです。

ただ、思わず「彼氏/彼女いるの?」と聞いてしまったとしても、さらに話題を深く掘り下げようとしなければ、あまり大きな問題にはならないかもしれません(そこは察してよという信号を素早くキャッチすることが、現代社会では必須のスキルといえるでしょう)。確かに当事者にとっては、その時ヒヤッとするかもしれませんが、その後同じような話題が振られなければ、「わかってくれている人なのかな」と受け止める場合もあります。

しかし、答えづらそうにしている/あまり反応をしない人に対して、「その人はどんな人なの? どこで出会ったの? 写真見せてよ」などと畳みかけると、ハラスメントの色合いが濃くなってきてしまいます。

若い女性
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■相手がLGBTでなくてもパワハラに

こうした言動はセクシュアルマイノリティに対するものや、SOGIに関連する場合のみがハラスメントになるわけではありません。

2020年6月から施行されたパワーハラスメント防止法が定める、パワーハラスメントの六つの類型の一つに「個の侵害」と呼ばれるものがあります。厚生労働省はこれまで、この「個の侵害」について、「交際相手について執拗に問われる」という例を挙げ、防止を呼びかけてきました。厚生労働省の啓発サイトである「あかるい職場応援団」では、「業務上の必要もなく私用や私的な内容を聞き出そうとする」「結婚等のプライベートな事柄について執拗に触れる発言」は「『個の侵害』に該当する」とされています。業務上必要のないこのような発言は、誰に対するものであれ(初対面であればなおさら)、今後さらにパワーハラスメントと見なされていくでしょう。

もちろん、このような話題が一切ダメだということではなく、本人が自発的に話した内容について盛り上がることは問題がない(業務上差し障る私語でないなら)でしょう。また、過去に本人から聞いていた内容を、その人が共有している範囲の人とともに、楽しく話す際も問題がない場合が多いでしょう。ただ、その話題を共有していないかもしれない人がその場にいる場合や、本人が過去に話した内容に気まずそうであれば、やはりその会話は避けた方が無難です。

■交際相手の話題がないと会話ができない?

「なんだか難しそうなことをあれこれ言われて会話がしづらくなるな」と思われる方もいるかもしれません。ただ、最近の営業や接客などでは、このようなことが徹底されてきているように感じます(相手が不快に思ったら終わりですから、当たり前といえば当たり前ですね)。接客ではなかったとしても、取引先との会話で、過度にプライベートに踏み込んだことによって信用を大きく失ったという事例も耳にします。

神谷悠一、松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』(集英社新書)
神谷悠一、松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』(集英社新書)

職場は仕事の場ですし、仕事を共にする人が不快だと受け止める話題を出さないことは、最低限のマナーといえるはずです。繰り返しとなりますが、一度話してみて、相手が嫌がる場合はもちろんですが、濁すような反応があった場合でも、次回は話題にすることを避けた方がいいかもしれません。

たとえ交際相手に関する話題ができなかったとしても、仕事上の話題、差し障りない範囲の趣味や、メディア報道に関する話題などから、相手との共通点を見つけることで親近感を共有することは十分に可能なはずです。むしろ、相手の反応を見極めながら、適切な話題を探せる注意深さこそ、これからの時代に求められるビジネススキルの一つといえるのではないでしょうか。

■「苦痛を与える質問かも」という想像力を持つ

それでもなお、「交際相手に関する話題」を封印されるのは、やりづらいという方もいらっしゃるかもしれません。

そういった方に気づいていただきたいのは、多くのセクシュアルマイノリティは、この「交際相手」の話題を封印されている、もしくは制約されているという点です。カミングアウトをしているセクシュアルマイノリティでなければ、そもそも「交際相手」の話題で親近感を共有しようとする行為そのものが、自分が当事者であると気づかれかねないリスクとなります。

それでもなお、交際相手について話題にしようとすれば、同性のパートナーの存在を異性パートナーと偽る、自分とパートナーの性別をそれぞれ偽るなど、高度な会話テクニックが必要となり、やはり面倒な話題であるといえます(たまにそのようなテクニックを使いこなすことに慣れすぎていて、苦もなく会話を回す方もいらっしゃいますが、できれば本来必要がないはずのそのような思考容量は、業務上必要なことに活用してほしいと私〈神谷〉は思ってしまいます)。

このように、「交際相手」に関する話題が封印・制約されている人もいるのだ、ということを頭の片隅に置いていただき、そのような話題ではなく、他の話題で職場で働く人のモチベーションを高めたいところです。

■とりあえず女装すれば飲み会が盛り上がると思う人たち

会社の社員旅行や歓送迎会などで行われる代表的な出し物の一つが、男性社員による「女装」でしょう。なぜ女装が出し物の案として採用されやすいかを考えると、おそらくは男性が女装をするというのが“非現実的”であるだけでなく、“奇妙”で“気持ち悪い”、だから“面白い”と思われるからではないでしょうか。

こうした考えの背景には、トランスジェンダー嫌悪(トランスフォビア)という、トランスジェンダーに対する蔑視や差別があります。日本でも、いくつかの調査によって、トランスジェンダーへの嫌悪感を抱く人が一定割合いることが報告されています。

もし、女装を面白がっているその場にトランスジェンダーであることを隠して働いている当事者がいたら、女装に対して「気持ち悪い」という笑いが起きているのを見て、ここでは自分がトランスジェンダーであることを伝えられるとは到底思えないでしょう。

女装企画がトランスジェンダーの存在を揶揄するようなものであることは弁解の余地はないと思いますが、同時に、シスジェンダーの男性が「女装」をすることは、端から見ると男性同性愛者を想起させることがあります。そして、これをあえて否定することで笑いが起きる―いわゆる「お前ホモかよ」「違いますよ~」みたいな流れですね。

このようにシスジェンダーの男性が「女装」をすること自体を“奇妙”だと感じ、“気持ち悪い”などと笑いが起きるということには、トランスフォビアの他にも要因がありそうです。

■女装企画は、男同士の「ホモソーシャル」の儀式

ここで、「ホモソーシャル」という概念から考えると、女装企画の別の側面を読み解けます。

「ホモソーシャル」は「男同士の絆」ともいわれますが、「女性蔑視(ミソジニー)」と「同性愛嫌悪(ホモフォビア)」を背景に成り立つものです。男性の女性に対する優位性を保つための男性同士の強い結び付きは、社会の至る所で見られるものですが(会議が黒いスーツで埋め尽くされる様を連想すると良いでしょう)、ともすれば性愛と混同されるリスクを負っています。そこで、同性愛者を排除し、自分たちが同性愛者ではないとアピールすることによって、その結び付きの強さや尊さを強調する、これが「ホモソーシャル」です。

女装企画は、女装をする男性、すなわち同性愛者(昔から同性愛者と異性装は混同されがちです)を笑うことによって、自分たちの結び付きを強くする儀式の一つ、ということができるのです。

ですが、ここで言いたいのは、「だから全ての異性装企画はやってはいけません」ではありません。

例えば、歌舞伎や宝塚歌劇団などでは、異性装―女装や男装というのは表現として取り入れられています。他にも、テレビで活躍するオネエタレントの中には「ドラァグクイーン」というパフォーマーの方々もいます(ドラァグクイーンは、ステレオタイプな女性性を過度に演出することでパフォーマンスを行う人のことを指します)。

このような例に共通していることは、前述の「女装企画」のように、トランスフォビアやホモソーシャルを背景としたもの、すなわち「気持ち悪い」をオチとするような差別的なものではなく、規範への反抗や挑戦、語弊を恐れずに端的にいえば、既存の「男らしさ」「女らしさ」にとらわれない、さまざまな性のあり方が表現され、分かち合えるところと言えるのではないでしょうか。

もし会社の女装企画が「気持ち悪い」というオチではなく、多様性にひらかれた、肯定的に評価されるような企画であれば、誰も傷つけることはありません。むしろ、どんな人でも「異性装」を楽しめるような社会になることはセクシュアルマイノリティにとっても生きやすい社会につながるのではないでしょうか。

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神谷 悠一(かみや・ゆういち)
「LGBT法連合会」事務局長
1985年岩手県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。労働団体の全国組織本部事務局を経て、現在は約100のLGBT関連団体から構成される全国組織、通称「LGBT法連合会」事務局長。

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松岡 宗嗣(まつおか・そうし)
一般社団法人fair代表理事、ライター
1994年愛知県生まれ。明治大学政治経済学部卒。政策や法制度などのLGBT関連情報を発信する一般社団法人fair代表理事。

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(「LGBT法連合会」事務局長 神谷 悠一、一般社団法人fair代表理事、ライター 松岡 宗嗣)

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