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「感染症とバブル崩壊」の歴史に学ぶ、コロナ収束後の新たな世界に向けて今学ぶべき事とは

プレジデントオンライン / 2020年12月31日 8時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/matejmo)

長い歴史の中で、繰り返されてきた人類の危機。感染症やバブル経済の崩壊などから、いかに世界は立ち直り、新たな時代を築いてきたのか。世界史からコロナ後の戦略を学ぶ。

■“歴史が教えてくれる事実。危機こそが、新たなチャンスの扉につながっている”

新型コロナウイルス感染症は現代社会に大きな衝撃を与え、現在もまだその影響が続いています。しかし、有史以来、人類はさまざまな危機と闘い、それを乗り越えてきました。

感染症とバブル経済崩壊という2つの危機の共通点を考えてみると、そこには「パニック」という言葉が浮かんできます。

「パニック」という言葉は、ギリシャ神話に登場するヤギの姿に似た牧神「パン」に由来します。パンのおたけびに、おとなしい羊たちが驚き、集団で走り出すことから、パニックという言葉が生まれました。

人々が次々と病に倒れ死んでいく感染症。投資という熱に浮かされ、バブルが崩壊すると大勢が破産し企業が倒産するバブル経済。こういった暴力的ともいえる社会的現象は、まさに集団パニックを引き起こします。人々はなすすべもなく逃げ惑うしかなくなってしまうのです。

今日、牧神の役割をしているのは、いたずらに恐怖心をあおるマスメディアといえます。

■歴史的な危機は次の新しい時代への布石

しかし、世界史を俯瞰(ふかん)してみると、こういった危機の先には、必ず次の新しい時代が待っています。

古代において、感染症は社会を大きな不安に突き落とすものでした。パニックになった人々はそれまでの信仰を捨て、新たな宗教へと救いを求めるようになります。それがキリスト教、仏教などを普及させることになり、世界的宗教に成長させました。

日本の神道にも感染症は深く関わっています。疫病が日本史に初めて登場するのは、『古事記』の「崇神(すじん)朝の疫病」です。この疫病を収めるために日本最古の神社・大神(おおみわ)神社がつくられ、さらに宮殿内に祀(まつ)っていた天照大神(あまてらすおおみかみ)を三重県の伊勢神宮へと移すことで、伊勢神宮を頂点とする神道が確立しました。

歴史が古代から中世に移り変わっても、感染症は新しい文化や社会制度を生み出していきます。

中世ヨーロッパで大流行し黒死病と恐れられたペストはルネサンスを生み、時代は近代へと大きくシフトします。中世の価値観の中心であったカトリック教会も宗教改革の嵐にさらされました。大航海時代のスペインが新大陸にもたらした天然痘は、免疫力のない現地人に多くの死者を出し、アステカ帝国・インカ帝国が滅亡。世界の覇権を巡り、各国の植民地政策がぶつかっていきます。

感染症は社会インフラを発展させる役目も果たしています。産業革命時のイギリスでは、コレラの大流行をきっかけに「保健衛生」の概念が定着。労働の担い手となる一般市民の健康を守るために、下水道のインフラが整備されました。

このように、時代の大きなうねりの中で人類は感染症のパニックと闘いながら、新たな時代の扉を次々と開いてきたのです。

それは経済バブル崩壊においても同様です。17世紀に起きた世界初のバブル経済「チューリップ・バブル」の崩壊は、その後の産業革命へと時代を後押しすることになります。バブル経済の崩壊は、それ以降も何度も繰り返され、経済のグローバル化とともにその影響を世界規模で拡大していきます。

そういう中で、次の時代の主役になる条件は、時代の流れを読み、逆境に負けずにチャレンジし続けられるかどうかです。象徴的なのは、1990年代の「ITバブル」期に創業し、バブル崩壊を経て、現在は巨大IT企業として世界経済をけん引するようになったAmazonとGoogleでしょう。彼らは、まさに「時代の危機を生き抜いた勝者」といえます。

■ピンチをチャンスに変える発想の転換で生き残る

歴史から見えてくるのは、感染症やバブル経済崩壊が起きると「病に倒れる人は倒れ、つぶれる企業はつぶれる。そして、生き残ったものが新時代をつくる」という客観的な事実です。では、今、新型コロナショックの真っただ中にある私たちが、倒れたりつぶれたりしないためには、どうすべきなのか。

重要なのは、すべては変化するものだと覚悟し、パニックにのみ込まれない冷静さを持つことです。社会の急激な変化を悲観的に捉えるのではなく、新しい時代が始まるチャンスと考えてみてください。

今回のコロナ禍により、いらないものや無駄な習慣が見えてきたはずです。「今の社会や自分自身に、本当に必要なものは何か」をしっかりと見極める目を持ち、「コロナ後」に向けて今から準備しておくこと。それが自分の武器となり、「新しい価値」を生み出す原動力となっていくはずです。

コロナ禍による世界の行く末は、まだまだ混沌(こんとん)としています。米中対立の激化、近い将来に到来するであろうアフリカの時代など、歴史はさらに激しく動いていくでしょう。

時代の転換期をリアルに生きる私たちが新型コロナ危機をどう乗り越え、新しい未来を切り開いていくのか。まさに、今、歴史に試されているといえるのです。

Topic1 宗教を生んだ感染症の歴史

現代の宗教のルーツは古代の疫病にあった

世界の危機の歴史

宗教の誕生は感染症の歴史と深く結びついています。原因もわからないまま人が次々と死んでいく疫病の流行は民衆をパニックに陥れ、宗教のモラル崩壊を引き起こしました。

強大な権勢を誇ったローマ帝国で起きたアントニヌスの疫病(天然痘)では、人口の10%にあたる約500万人が死亡。ローマ帝国の衰退が始まり、人々から古代ローマの神々への信仰心を失わせました。

そこに台頭してきたのが、当時は新興宗教のひとつにすぎなかったキリスト教です。キリスト教徒は死後、神の世界に行くことが真の幸福と考えて死を恐れず、病人を教会などで献身的に介護します。その姿は「疫病から救ってくれない」ローマの神々に絶望していた民衆の心をしっかりとつかんだのです。

同じように、中国でも疫病をきっかけに仏教が爆発的に流行していきました。日本の神道の確立にも、崇神天皇時代の疫病が大きな影響を与えています。このように古代の疫病は、現代に続く世界宗教が拡大する大きなきっかけのひとつとなっているのです。

ペストがもたらした人間中心主義のルネサンス

中世のヨーロッパで黒死病と呼ばれ大流行したペストは、それまでの中世社会を大きく変え、近代へ移行させます。

14世紀のヨーロッパでは、カトリック教会が権勢を極めていました。そこにモンゴルからイタリア本土に上陸したペストが流行し、ヨーロッパ中を恐怖に陥れます。

デカメロン
『デカメロン(上・中・下)』ボッカッチョ・著/平川祐弘・訳 各1000円(河出文庫)

ペストを「神の罰」と考え、自らをムチで打つといった過激な信仰心を示す人々がいる一方で、教会の権威にすがるのではなく人間らしさを追求しようというルネサンスや、宗教改革の運動が広まっていきました。これらの運動は近代西洋思想のベースにもなっていきます。

ルネサンスを代表する作品が、ボッカッチョの『デカメロン』です。イタリアの庶民の日常を生き生きと描いた作品として有名ですが、前半はペストのリアルな描写が続き、当時の様子を伝える資料としても貴重な文献になっています。

このようにペストは、キリスト教社会だった中世ヨーロッパを大きく揺るがし、歴史に変革のうねりを生み出したのです。

Topic2 世界初のバブルと産業革命

チューリップの球根たった1個で家が買える

世界の危機の歴史 後半

1602年、世界初の株式会社・オランダ東インド会社が設立されました。アジア貿易を独占したオランダは、17世紀前半、世界貿易の50%を占める貿易大国となります。

貿易で得た莫大(ばくだい)な利益がアムステルダムに集まって豊かになった人々は投資に夢中となり、チューリップの球根が高騰しました。一般市民を巻き込んだ投資マネーは制御不能な値上がりをみせ、球根1個で家が買えるほどに。これが世界初のバブル経済と呼ばれる「チューリップ・バブル」です。

初めてバブル経済を経験した人々が、球根の高騰はバブル(泡)であり、ニセの価値だと理解することは不可能でした。37年、高騰しすぎたチューリップ市場からプロの投資家たちが一斉に売り逃げし、球根価格は暴落。バブルは崩壊し、多くの庶民が多額の負債を抱えて苦しむことになりました。

「バブル」という言葉に国が踊らされたイギリス

18世紀のイギリスでは、「南海バブル事件」が起きます。フランスとの植民地戦争で資金難に陥ったイギリス政府が、大量の国債を発行し、その引受先として設立したのが南海会社でした。

設立と同時に引き受けた国債と同額の株式発行を許可したことで、本来の事業は赤字であるにもかかわらず、同社の株が高騰。1720年、プロの投資家が一斉に手を引き、バブルが崩壊します。

貿易や株式会社など、近代経済システムが広まる中、投機バブルとその崩壊というジェットコースターのような急激な変動は、人々を熱狂と絶望の渦に巻き込みました。多くの企業が倒産し、人々は破産しましたが、そこに勝機を見つけて生き残った企業や人が次の時代の礎となっていきます。イギリス人は地道なものづくりに価値を見いだし、18世紀後半に始まる産業革命へと発展させていきました。

Topic3 2つの世界大戦×感染症・恐慌

戦場にならなかった米国で起きた感染症と世界恐慌

世界を巻き込んだ2つの大戦にも、感染症やバブル経済は大きな影響を与えています。

第1次世界大戦末期、1918年に流行したのが「スペインかぜ」と呼ばれるインフルエンザです。流行の発端は、スペインではなく米国の軍事施設でした。ヨーロッパの戦場に送り込まれた米国兵が感染源となり、中立国スペインで流行が報道されました。戦地の不衛生な環境と軍隊の過密により爆発的に流行。戦争で疲弊していた各国にとって戦争終結への後押しにもなりました。

米国の失業率

第1次世界大戦の戦場とならなかった米国は戦争バブルにわきます。一般家庭に冷蔵庫、洗濯機、掃除機が普及し、市民は投資に熱中。靴磨きの少年すら、株価を話題にするほどでした。

しかし、ヨーロッパの戦後復興が進むと、米国企業の収益も悪化。バブルがはじけ、29年に世界恐慌が訪れます。米国の失業率は25%となり、深刻な経済不況は世界を2度目の大戦へと導きました。約10年後、ヨーロッパでは不況に苦しむ人々を救うことを唱えて、ドイツのヒトラーが歴史の表舞台へと登場。ファシズムの台頭を迎えたことで、世界は第2次世界大戦へとつき進んでいきました。

Topic4 グローバル化とバブル経済

世界経済が密接につながりバブル崩壊の影響も拡大

1980年代以降、世界はいくつものバブル経済と崩壊を経験してきました。

85年の「プラザ合意」では日本の不動産バブルが大きく膨らみました。87年に米国で起きた「ブラックマンデー」による世界的な経済危機でも日本はいち早く立ち直り、世界にジャパンマネーをばらまきます。

90年代になって日本のバブルは崩壊しますが、米国ではITバブルが到来。多くのインターネット関連企業の株が高値をつけました。この時期に創業し、ITバブル後も生き残ったのが、現在、GAFAの一角をなすAmazonとGoogleです。

2000年代は米国一強時代を迎えますが、その米国で住宅バブルが崩壊。08年、深刻な世界金融危機「リーマンショック」が生じ、世界連鎖的な大型倒産が続きました。

暴落危機発生後の日経平均の比較

このように経済のグローバル化が進むことで、バブル崩壊の影響や規模も拡大。リーマンショックにより中国経済は存在感を強め、世界は米中二極体制の時代へ。現在の新型コロナショックが、今後の世界経済にどのような影響を与えて、誰が生き残っていくのかも注目です。

■崩壊と復興を学ぶ本6冊

何度も危機を乗り越えてきた人類の歴史。金融や感染症、世界史全体の流れから、危機への対処法を学べる6冊を紹介する。歴史の教養が、今後の世界のあり方を教えてくれる。

金融史がわかれば世界がわかる【新版】「金融力」とは何か

▼歴史的な流れから金融取引の発展を読む

『金融史がわかれば世界がわかる【新版】「金融力」とは何か』

倉都康行・著
860円(ちくま新書)

世界の金融の歴史を網羅的・歴史的に解説する1冊。金や銀などの地金の問題、中央銀行の変化、変動する為替市場、金融技術の進化など、金融取引を取り巻く複雑な相関関係から、資本主義がどのように発展し今後どうなっていくのかを読み解く。


文明が衰亡するとき

▼文明衰亡の歴史の共通点を探る

『文明が衰亡するとき』

高坂正堯・著
1400円(新潮選書)

繁栄と衰亡を繰り返してきた人類。栄華を極めた文明の衰退には、共通する「失敗の本質」がある。古代の巨大帝国ローマ、中世の通商国家ベネチア、現代の超大国米国を例に挙げながら、「強国が衰退する過程」を検証。繰り返される歴史から、現代を生き抜くヒントを探る。


『危機と人類』上・下』

▼国家的危機を乗り越えた7つの国の事例

『危機と人類』上・下

ジャレド・ダイアモンド・著/小川敏子、川上純子・訳
各1800円(日本経済新聞出版)

近現代で国家的危機に直面した世界7カ国の事例から、いかにして劇的な変化を乗り越えて、繁栄してきたかを解き明かす。さらに、日本をはじめ現代の各国が直面する危機と、将来とるべき道を考察。地球規模の新型コロナ危機から世界を救う道を模索するのに役立てたい。


世界史を変えたパンデミック

▼人類が直面してきた感染症との闘いの記録

『世界史を変えたパンデミック』

小長谷正明・著
800円(幻冬舎新書)

医師の視点から人類がウイルスとどう闘い、世界史がどのように変わっていったかを明らかにする。14世紀ヨーロッパのペスト流行や幕末の日本で黒船来航後のコレラ流行が、その後の歴史に与えた影響など、さまざまなエピソードから、新型コロナとの闘い方を学ぶ。


金融の世界史バブルと戦争と株式市場

▼人間の欲望をお金に変えた「金融の歴史」

『金融の世界史バブルと戦争と株式市場』

板谷敏彦・著
1300円(新潮選書)

「金融の歴史」を古代から現代まで俯瞰して捉えた1冊。メソポタミアの楔形文字による賃借記録にはじまり、さまざまな金融の歴史をたどることで、繰り返されるデフレ・インフレ・バブルの仕組み、現代投資工学のからくりを理解。金融・経済のリアルを実感できる。


日本人の武器としての世界史講座

▼正しい世界史の知識はコロナ後を生きる武器

『日本人の武器としての世界史講座』

茂木 誠・著
760円(祥伝社黄金文庫)

日本人だけが知らない「現代世界を動かす原理」を解説。近隣諸国との関係、紛争が続く中東、崩れゆく欧米など正しい世界史の知識を持つことで、ニュースの本質を理解する。大量に飛び交う情報から「何が本物か」を見極めることが、これからの日本人の武器となる。

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茂木 誠(もぎ・まこと)
駿台予備学校・N予備校世界史講師
歴史系YouTuber、著述家。YouTube「もぎせかチャンネル」では時事問題について世界史の観点から発信中。近著に『「米中激突」の地政学』(ワック)ほか、『パンデミックの世界史(仮)』(KADOKAWA)を2020年秋刊行予定。

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(駿台予備学校・N予備校世界史講師 茂木 誠 構成=工藤千秋 写真=iStock.com)

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