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本場台湾のタピオカティーで「プラ製ストロー」が全面禁止になったワケ

プレジデントオンライン / 2020年12月18日 15時15分

AP通信のインタビューに答える台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏=2020年12月10日 - 写真=AP/アフロ

台湾は2019年、店内飲食でのプラスチック製ストローを法律で禁止した。法律が生まれるきっかけとなったのは、参政権を持たない女子高生による書き込みだった。閣僚のオードリー・タン氏は「台湾には『2カ月以内に5000人が賛同した場合には、必ず政府が政策に反映する』というルールがある。ストロー廃止はこのルールの成果だ」という――。

※本稿は、オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「政務委員」とは何をする仕事か

私の政治家としての現在の肩書は、行政院におけるデジタル担当政務委員です。

正確にいえば、政務委員の一人であると言ったほうがいいでしょう。行政院には32の部会があり、それぞれトップがいます。しかし、1つの部会では解決できない問題もたくさんあります。そういうときには部会間の異なる価値を調整する人間が必要になります。それを行うのが、政務委員です。つまり、複数の部会を横断的に見て、その間に橋をかけ、「共通の価値観を見つけ出す」というのが、政務委員の仕事なのです。

そんな政務委員の1人として、私はデジタルを用いて問題のシェアあるいは橋渡しをする仕事を担当しています。ですから、「デジタル省」や「デジタル庁」といった組織が存在して、私がそのトップに就いたわけではありません。

■市民が政府にアイデアを提案できる「Join」

私は2014年12月、当時の馬英九政権の政務委員だった蔡玉玲氏と一緒にオンラインで法案を討論することができる「vTaiwan」というプラットフォームを構築しました。その後、行政院のコンサルタントに就任して、デジタル担当政務委員に就任した2016年には「Join」という参加型プラットフォームを開設しました。この「Join」は、現在ユーザー数が1000万人を超えています。

人々は生活の中にある問題を解決するための新しいアイデアをこのプラットフォームに提案することができ、その意見を聞いた人は、即座に自分の意見を伝えることができます。

「Join」上でこれまでに議論された政府プロジェクトは2000件以上あり、主な分野は医療サービス、公衆衛生設備、公営住宅建設に関するものでした。

このようにして、様々な意見を持ち寄り、議論を重ねることによって、困難な問題でも解決の糸口が見つかる可能性があります。これがデジタルとアナログの最大の違いでしょう。

とくに政治においては、デジタル技術がなければ、人々に告知することはできたとしても、問題解決に直接的に参加するのは容易ではありません。デジタル民主主義の根幹は、「政府と国民が双方的に議論できるようにしよう」ということです。私は「国民の意見が伝わりにくい」とされる間接民主主義の弱点を、インターネットなどの力により、誰もが政治参加をしやすい環境に変えていこうとしているのです。

■投票権をもたない若者も政治参加できる

こうしたデジタル技術は、社会のイノベーションに寄与しますし、政治であればオープン・ガバメント(開かれた政府)を実現する基礎となるでしょう。社会や政治が抱える様々な問題の解決法に対して、まだ投票権さえ持っていない若い人たちでも、「もっと良い方法があるに違いない」と思っています。そうした意見を共有し、議論することは、若者の政治参加にもつながるでしょう。デジタルは、多くの人々が一緒に社会や政治のことを考えるツールになるのです。

デジタル担当政務委員としての私の役割の一つは、このように人々がお互いに語り合える場をオンライン上で提供することです。ただし、私は政府のためだけに働いているわけではなく、特定団体の利益のために働いているわけでもありません。人々が語り合うために私が設計したプラットフォームは、世界中の多くの政府で使われています。その意味では、私の仕事は世界を結ぶための橋梁のようなものでしょう。

■「プラストロー禁止」法制化を求めた1人の書き込み

この「vTaiwan」や「Join」は、政策についてのパブリック・オピニオンを募るために使われています。今述べたように、国民はこのプラットフォームを利用して、自らが考えた実施可能な政策アイデアを出すことができます。このことにより、政府と国民の間の境界線はなくなり、両者はオープンな協力関係を築くことが可能になります。つまり、政府と国民が共通の目標を持つパートナーになるのです。

このプラットフォームを介して実際に国民の声が政策として実現された例を一つ挙げてみましょう。台湾では2019年7月に店内飲食についてプラスチック製ストローの使用を法律で禁止しました。この政策のきっかけとなったのは、「I love elephant and elephant loves me(私はゾウが好き、そしてゾウは私が好き)」というハンドルネームの人物が、プラスチック製の皿とストローの段階的な使用禁止を求めた「vTaiwan」への書き込みでした。

この提案に対して、請願に必要な5000名の署名がすぐに集まりました。その結果、企業が紙やサトウキビなどの再生可能な資源からストローを製造することを承諾し、環保署(日本でいえば環境省)が政策として法制化することになったのです。今ではプラスチック製のストローは、紙やサトウキビを使ったストローが使用されるようになりつつあります。

■「ただ聞いているか見ているだけ」の社会が変わった

後になって、このハンドルネームの人物が16歳の女子高校生であることが判明し、世間を驚かせました。台湾のタピオカミルクティーは世界的に有名ですが、彼女はそのために大量のプラスチックストローが使われ、環境に悪影響を与えることを憂慮していました。だから、プラットフォームに提案を書き込んだのです。まだ参政権を持っていない16歳の一人の女子高生の提案が、社会を変えたのです。

小さな声であっても、それに同意する人が集まることで、政治家が法律で規準を作ってトップダウンで規制しなくても、社会の変革は可能だということです。むしろトップダウン式に政策を決定しようとすると、社会に対立をもたらすリスクが生まれます。

私の興味は、人と人との交流を円滑にすることにあります。パソコンやインターネットの登場で、人間と人間とのコミュニケーションの仕方は大きく変わりました。私が幼い頃は、ラジオやテレビが主なメディアでしたが、そのとき感じていたのは、それらのメディアを通じて自分の意見を伝えることのできる人間はほんの僅かしかいないのではないか、という懸念でした。大部分の人はただ聞いているだけか、見ているだけです。しかし、パソコンやインターネットが登場したことで、今では誰もが自分の言いたいことを発信できるようになりました。これは素晴らしい民主的な革命だと思います。

■なぜ私がインターネットに魅了されたか

それとともに、私が自主勉強をしていたときに自然と感じるようになったのは、「何事も独学が可能なのだ」ということです。ネット上には様々な意見があり、それを統合することが自分の学習領域となりました。また、私は「より多くの時間をこうした勉強に費やしたい」と感じ、こうした勉強方法を「情報科学だけに限らず行いたい」と考えました。

私は、より多くの問題について、お互いに顔も知らない人間、会ったこともない人間同士が一緒になって解決していくという「文化」に啓発されたのです。それが「vTaiwan」や「Join」にも反映されています。そこで、たくさんの人たちが自らの意見を出し合って議論することは、台湾の民主化をさらに前進させることにつながると確信しています。

■小さな声を社会に反映させる2つの仕事

このような小さな声をすくい上げて社会を前進させていくために創設したのが、「パブリック・デジタル・イノベーション・スペース(Public Digital Innovation Space、略称PDIS)」と「パーティシペーション・オフィサー(Participation Officer、略称PO)という2つの職務です。これらがどういう活動をしているのか簡単に紹介しましょう。

まずPDISでは、私たちが直面している社会問題や環境問題の解決に向けて、みんなで力を合わせて取り組む「コラボ会議(協作会議)」と呼ばれる会議を開催しています。これはすでに70回以上行ってきました。伝統的な民主主義において、有権者は問題の解決を代表者(立法委員)に頼っています。

この有権者に代わって意見を述べる人たちは政治のプロでなければならず、自分の考え方もしっかり持っていなければなりません。

■「5000人が賛同すれば政策に反映する」というルール

しかし、実際に社会問題や環境問題の被害を受けている人たちの中には、こうした委員とのコミュニケーションのとり方がわからない人も多く、そのため委員が有権者の意見を十分に反映していない危険性もあります。また、委員の意見と有権者の意見とが衝突するような場合に、委員は必ずしも有権者の意見を取り入れて議論するとは限らないことが考えられます。これらは単一民主主義における基本的な問題点と言えるでしょう。

このような問題点を解決するために、PDISは少数意見を把握し、委員も気がつかない問題を取り上げたり、直接委員とやり取りできない人たちでも、インターネットを利用してつながりを持つことができるプラットフォームの役割を担っています。

具体的な例を挙げてみましょう。今年の6月に「ある問題」をコラボ会議で取り上げることが決まりました。この案件は4月に提起され、5月末には賛同者(ネット上の署名者)が5000人を突破しました。

私たちのプラットフォームでは、「2カ月以内に5000人が賛同した場合には、必ず政府が政策に反映する」というルールがあります。もし5000人に満たない場合は、対応してもしなくても構わないのですが、5000人を超えると、政府には誓願内容を政策に反映しなければならないという義務が発生するのです。

■私が驚いた「少数派の問題を解決したケース」

この案件は成立まで1カ月半という比較的長い時間を要しましたが、利害関係が著しいものや組織の色が濃い案件の場合には、一瞬で5000人を超えることもあります。

オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)
オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)撮影=熊谷俊之

この案件の正式名称は「G6PD異常症患者の溶血を誘発する発がん性物質配合の合成防虫剤利用禁止についての提言」というものです。みなさんは防虫剤がどんなものかはご存知でしょうが、G6PD異常症についてはほとんどの人がご存知ではないと思います。こういうケースこそ、PDISが効果的に機能するのです。

G6PD異常症患者は人口の面からいえば少数の問題であって、一般的には、私たちの大部分はG6PD異常症患者ではなく、さらに友達にこの患者がいるということもほとんどないはずです。しかし、G6PD異常症患者は、空気中の揮発性合成防虫剤に接触しただけで血液中の赤血球に影響を及ぼし、命に関わる状態に陥ります。合成防虫剤は揮発性が非常に高く、公共図書館や公衆トイレなどでも使われています。普通の人にとってはほんのわずかに防虫剤のにおいがする程度で気にならないかもしれませんが、患者にとっては、即座に発症したり、死に至るほどの危険性があるのです。

■5000人を超える賛同者が集まった

しかし、誰かがこの防虫剤を禁止する提案を国民投票にかけようと言っても、実際に国民投票が実現する可能性はほとんどないと言っていいでしょう。G6PD異常症患者やその友人、親族の票数だけでは、この問題について議論する必要があると感じる委員はいないかもしれません。もしいたとしても、この件に関心を持つ委員が過半数を占めることはおそらくないでしょう。

ところが、PDISのプラットフォームにこの問題を提起したことで、事の重大性が多くの人たちにシェアされ、なんと5000人を超える賛同者を集めることができたのです。これによって、政府も問題解決に向けて動き出すことになりました。

私たちは各案件について賛同の署名をしてくれた5000人とネット上でミーティングを行います。ただその前に、なぜ発起人がこの件について話し合いたいかについてヒアリングします。今の防虫剤の案件では、発起人は「自分には利用できる社会資源がなく、委員の知り合いもいないので、自分の話をネットに書いて他の人に知ってもらうほうが他の方法よりも実現性が高いと思った」と言っていましたが、実際にそのとおりになりました。

問題解決の別の方法として、行政院長にメールや請願書を書くことも可能です。そのためのコストもあまり変わりません。ただ、この方法では、より広く社会に知らせることはできないでしょう。行政院長のメールボックスを管理している人にしか、問題の所在を知ってもらうことができないのです。

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オードリー・タン(唐鳳)
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
1981年台湾台北市生まれ。幼い頃からコンピュータに興味を示し、12歳でPerlを学び始める。15歳で中学校を中退、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。2005年、トランスジェンダーであることを公表し、女性への性別移行を始める(現在は「無性別」)。米アップルのデジタル顧問などを経て、2016年10月より史上最年少で台湾行政院に入閣、無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担っている。

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(台湾デジタル担当政務委員(閣僚) オードリー・タン)

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