オンライン授業ができる公立校と未だ対応しない学校で教育の質に差が出はじめた
プレジデントオンライン / 2020年12月25日 13時15分
■オンラインの取り組み、学校によってバラつきが
春の一斉休校中に、オンライン授業を行うことができた学校は少なかったと思います。しかし私の場合は、学校や教育委員会の理解のおかげもあって、何とか5月にはZoomを活用した「朝の会」を始めることができました。
コロナ休校で、学校でのオンライン活用に関する議論が盛り上がり、GIGAスクール構想の「児童生徒1人1台の端末」の整備も、当初の2023年度目標から実施が前倒しになりました。今年度(2020年度)中には、全国の小中学校にタブレット端末が配布され、希望する学校には校内通信ネットワークが整備されることになりました。
ただ、「今はまだ休校中の授業の遅れを取り戻すことで手いっぱいで、とても新しいことに取り組む余裕がない」という学校も多いと思います。休校中に、オンライン活用が進んだ学校の中にも、学校再開後はその取り組みが止まってしまったように見えるところもあるでしょう。
環境整備の予算は付きましたが、実は、配布される端末を「どう使うか」は各自治体・学校に任されています。全国どの学校でも手探りで進めているので、取り組みにはバラつきが出ているのです。
■GIGAスクールで何が始まるのか
GIGAスクール構想で、児童生徒1人1台の端末が配布されることにはなりますが、ではそれを使って、具体的にどのような教育が進められるのか、保護者の方にはなかなかイメージしにくいかと思います。
多くの学校では、おそらく端末を、さまざまな調べものをするための辞書のように使うことから始めるでしょう。また、パワーポイントなどのソフトを使って、プレゼンテーションを作ったりもすると思います。
私は現在、都内の公立小学校で6年生の担任をしていますが、新型コロナウイルスの感染が広がる前の1月から2カ月間(当初は3カ月の予定だったが休校により短縮)、GIGAスクール構想の先進的事例の検討のため、当時のクラス(5年生)全員にiPadを配って授業で使用しました。
コロナ休校中は、Zoomを使って「朝の会」を行いましたが、学校再開後も引き続きオンラインを授業に取り入れています。GIGAスクールで整備される端末やネットワーク環境を使うとどんなことができるのか、一例としてご紹介したいと思います。
■Zoomで学校の外と「つなぐ」
6月に学校が再開された後、私のクラスでは総合の授業でZoomを使ってSDGsについて学びはじめました。
インターネットは「どこでもドア」のように、世界中どこにでもつなぐことができます。遠く離れた人の話をライブで聞いたり、現地の様子を映像で見たりすることができます。私たちは、過疎化で全校児童10人という鹿児島県の学校とつないで、お互いの地域や学校について紹介し合ったり、クイズを出し合ったりしました。先方の街のことをネットで調べ、観光客を増やすためのアイデアを提案したり、先方の学校の子どもたちからは、「密にならないようにするにはどうすれば良いか」を提案してもらったりしました。
ゲストティーチャーをお呼びして子どもたちに話をしてもらうという仕組みは、コロナ前からありましたが、交通費や移動時間がかかるので簡単なことではありませんでした。それが、「オンラインで1時間だけお話ししてください」ということであれば、多くの方に協力していただけます。
5年生のクラスでは、ZoomでJAXA(宇宙航空研究開発機構)や法務省の方々とつないでいましたし、4年生は東京についての学習をする時間に、山間部の学校とつないで話を聞くこともできました。海外との手紙のやり取りも、グーグル翻訳を使えば翻訳が簡単にできます。私のクラスでは1月にiPadを使いはじめた頃から、インドの学校など海外との手紙の交流も続けています。
■修学旅行代わりの「オンライン移動教室」も
私のクラスでは、1学期は国内を対象にSDGsについて学びましたが、2学期は世界に目を向けました。今年度は修学旅行も日帰りしかできなかったので、「オンライン移動教室」と名付け、世界とつないで学びを深めています。ニューヨーク、シンガポール、香港、インドネシアなどの学校とつないで学んでいます。現在のコロナ対策について話を聞いたり、各地のコンビニや、ゴミ箱の中を見せてもらったり。もちろん観光名所や人口を調べたりしています。
これは、私の学校だけで進めている取り組みではなく、コーディネーターになってくださる方がいて、参加したい学校を一度に何校もつないでいます。今は、教員の個人的なネットワークを使って連携しているだけですが、例えばこれを、「○月○日はニューヨークとつなぎます。入りたい小学校は手続きをしてください」などと文部科学省や教育委員会で管理をしていただければ、もっとスムーズに多くの学校で学びを共有できるのではないかと期待しています。
■本当は誰でもすぐにできることだが…
ここまでの話でご理解いただけたかと思いますが、私がやったことは「オンライン」というよりも「ただ、Zoomでつなげただけ」なんです。特別な設備や知識が必要なわけではないですし、実はコロナ以前もやろうと思えばできたはずなんですが、思いつかなかったし、やろうともしなかった。
教員の中には、デジタルに詳しくない人もたくさんいますし、かく言う私も特に詳しい方ではありません。本当は全国どこの学校でも簡単にできることなのです。
ただ、前回もお話しした通り、学校や教員も決して怠けているわけではなく、慣習や文化などの問題があって、なかなか踏み切れない学校が多いのが現状です。特に義務教育では「一律の実施でないと不公平になる」といった意識が学校側にも保護者の側にも強く、新しいことに取り組む時の壁になっています。「まずできることからやってみよう」という精神が認められるようになれば、もっといろんなことが加速すると思います。保護者の皆さんには、ぜひそのような雰囲気をつくることにも力を貸していただけるとありがたいです。
GIGAスクール構想は国全体の方針ですし、子どもの将来を考えるとぜひ進めなければなりません。ただ、それぞれの学校や地域により状況は異なるので、ぜひ長い目で見守っていただきたいのです。
■コロナで学級・学校閉鎖になったらどうするか
今後は、全国一斉休校はないと思いますが、学校や学級でクラスターが発生したり、親が濃厚接触者になってPCR検査の結果を待つ間登校できない子どもが出てきたりということは、起きる可能性が高いと思います。コロナによる学級・学校閉鎖は、インフルエンザの学級・学校閉鎖よりも長引く可能性が高い。そうなった場合に、子どもたちの学びを止めないためにどうすべきか、今から考えておく必要があります。
その場合には、再び学校からプリントの課題が出されることもあるかもしれません。もし学校がオンライン教育を導入していないとしても、保護者が協力してZoomなどを使い、子どもたちがオンラインで一緒に課題に取り組むようにするだけでも、楽しく意欲を持って勉強することができるようになるでしょうし、精神的にも安定するのではないでしょうか。
実際、一斉休校中に、保護者が主体となって自主的にクラスをつなげて朝の会を実施したり、オンラインの勉強会を実施したりしたケースがあったようです。PTAの行事をオンラインでやってみたりすると、コロナによる学級・学校閉鎖に備えた練習になるかもしれません。
■「withコロナでかわいそう」とは言わせない!
オンライン化は目的ではありません。大事なのは、「オンラインを使っていかにより良い教育を実践するか」です。「wtihコロナ時代の子どもたちがかわいそうとは言わせない!」「コロナだったからこそ、学習や行事が楽しかったと言える学校にしたい」そう考えて取り組んできました。
もし自分の学校で実現できなくても、できる学校からどんどん取り組んでほしいと思って情報を発信してきました。
タブレットを使用して気がついたのですが、普段はほとんど話さない子が、タブレットを使えばどんどん話せるようになりましたし、ほかの子のタブレットをみんながのぞき合うようになってお互いの距離がとても近くなりました。高学年の男女で顔を寄せ合って学び合うというのはほかの場面ではなかなかありません。
■オンライン教育で教師も変わる
そもそも学習は教師が上から教えるものではなく、1つの問いに対して子どもも大人も共に学んでいくという姿勢が必要です。教育の分野では最近、「教師は『ティーチャー』(教える人)から『コーディネーター』(学びをコーディネートする人)、『ファシリテーター』(学びを促す人)になるべき」という議論が活発になっています。オンラインを活用した教育の中では、そうした姿勢がより必要になると思います。
子どもたち一人ひとりがタブレット端末を手にすると、いいことばかりではなく課題も生まれます。自由な活用ができる魅力的な道具ですから、先生の指示とは違うことをする子も増えます。勝手に写真を撮ったり、変な顔を撮影して楽しんだりする子もいました。
でもそこで「何で違うことをやっているんだ!」と叱るのではなく、「この授業がつまらないからほかのことに興味を持っているのだろう」「だったら何に興味を持っているのか聞いてみよう」と考える。教師にできることはたくさんあります。
教員はこれまで一斉授業に慣れていますが、タブレットを使うと一斉授業がしづらくなります。だからどうしても取り締まりがちになってしまうでしょう。しかし、子どもを取り締まるのではなく、その子の良さを伸ばす姿勢が一層問われるようになります。
教員はこれまでのやり方を手放して、「子どもに任せる」ことを面白がり、悪いところではなくよいところに目を向けることが、これからますます大切になると思います。こうした変化を、教員だけでなく保護者のみなさんも理解し、楽しんでもらえるとよいのではないでしょうか。
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東京都公立小学校教諭
元女子ラクロス19歳以下日本代表監督(2019世界大会日本史上最高タイ5位入賞)。学研道徳教科書作成委員。みずほフィナンシャルグループ金融教育プロジェクトメンバー。文部科学省がん教育教材作成ワーキンググループ委員。コロナ休校中は、オンライン教育に関心を持つ教員らをつないだオンラインイベントを5回にわたって実施し、約2000人が参加した。『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』『教師のための叱らない技術』(共著)、『withコロナ時代の授業のあり方』など著書多数。
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(東京都公立小学校教諭 庄子 寛之 構成=太田美由紀)
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