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ユニクロ柳井社長「僕がトヨタという"ベンチャー企業"から学んだこと」

プレジデントオンライン / 2020年12月28日 9時15分

記者会見に臨むファーストリテイリングの柳井正会長兼社長=2020年10月15日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は「厳しい経営者」といわれる。だが、トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」に触れたとき、「自分はぜんぜん甘い」と感じたという。柳井氏はどこに刺激を受けたのか。『トヨタ物語』(日経BP)を書いたノンフィクション作家の野地秩嘉氏が聞いた――。

※本稿は、野地秩嘉さんのnote「柳井正氏が読み解く「トヨタの強さ」『トヨタ物語』続編連載にあたって 第5回」の一部を再編集したものです。完全版はこちら。

■歴代経営陣は厳しい人たちだった

僕は昔、(トヨタ生産方式を体系化した)大野耐一さんの本『トヨタ生産方式』を買って、読んだことがあるんです。熟読したけれど、何が書いてあるのかよくわからなかった。それが、今回、野地さんの本『トヨタ物語』を読んで、納得しました。大野さんは「オレの本を読んでもわからないのは当たり前だ。中身がわからないように書いてある」と言っている。つまり、トヨタ生産方式は本を読んだだけでは理解できない。

確かに、生産でも販売でも、現場には文字にできない重要なことがいくつもあるんです。働く人間の意識、心構え、チームワーク。そういったものは文字にすることができないし、ビデオに撮ってもわからない。指導者が現場に行って、やって見せて、そして、自分の言葉で伝えなくてはならない。大野さんはそうやってトヨタ生産方式を伝えたのでしょう。

ただし、この本は生産方式を解説する本ではない。ここに書いてあるのはトヨタの本質です。

「この会社は本気なんだ。自分たちの今の成功が明日の失敗になるとわかっている。だからこそ、昨日と同じことをやっていてはいけないと肝に銘じている。徹底した認識と実行こそが企業の未来を作る。それがトヨタの本質なんだ」

厳しい人たちです。(トヨタ創業者の)豊田喜一郎さん、大野耐一さん、厳しい。僕は自分がまだまだ甘いと気づきました。これからはもっと自分にも社員にも厳しく経営していきます。僕はまだ頑張り方が足りなかった。

■「お偉いさん」になっちゃいけない

本書を読んでいて気づいたのですが、経営と経営学は別物ですね。トヨタがやっていることは経営です。学問ではない。経営とは企業のあり方そのもの。そして、彼らはつねに変わろうとしている。経営は維持ではありません。変化であり、成長です。

ユニクロも日々、どう変わっていくべきかを考えています。自分の企業だけではなく、社会までを変えていくような商品、サービスを作る。それが心意気であり、使命です。トヨタがすごいのはあれだけの大企業になってもまだその気持ちを持ち続けていることでしょう。

時々、トヨタの経営陣と会う機会があるのですが、みなさん、気さくなんですよ。「お偉いさん」になっている人はいない。普通、大企業になると、経営者ってお偉いさんになってしまうことがある。上から目線で話しかけるんです。トヨタの方々とは気さくに話ができる。

「お偉いさん」になっちゃいけない。横柄な態度を取ったり、自分の主張しかしないような経営幹部、社員のいる会社は間違いなく失敗する。うちではちゃんと注意します。

■本業以外のことには投機しない

本書は現場をよく見たうえで書いた本だと思います。ただ、現場を見に行くだけでは足りない。現場にいるだけではダメで、現場をよく見ないといけない。よく見ている人は意外と少ない。

私は現場に行ったら、働く人を見ます。表情、顔色、作業のなかで、やりにくいところはないか。そういうところを見て、話をして、改善する。経営者はみんな、そこを見ています。経営者がやるべきことは労働環境をよくして、現場のストレスをなくす。そうしなければ、いい製品なんてできません。

僕らは自分の本業を追求しています。これまで何度も、縫製工場を持ってくれ、店舗を買ってくれと言われました。しかし、私は買っていません。金がなかったこともあるけれど、不動産を持ったら、もの作りで儲けるんじゃなしに、不動産で儲けようとするでしょう。それはやりたくなかったし、これからもやりません。本業を突き詰めないで、いろいろなことをやったり、投機に走ったりすることは一切、しません。会社を危うくするだけですから。

■「ユニクロが来たら小さな店がつぶれる」と反対されたが…

うちの吉祥寺店は地域と密着しています。吉祥寺店を出す時、周りの商店街から「ユニクロが来たら小さな店がつぶれる」と反対されました。しかし、出店したら商店街の通行量が3倍になって、どの店も売り上げが上がったのです。

「地域に密着して、地域の人と一緒に伸びる」と口で言う人は大勢います。しかし、実際にやり遂げた店はいくつもありません。

僕自身のいちばんの望みは、日本でいちばん多くの経営者を育成した経営者になること。実際、うちの店舗の責任者は誰もが経営者です。日本人に限らず、中国人、韓国人、アメリカ人、イギリス人、タイ人……。経営者で20年選手、25年選手が続々、生まれている。偉いのは僕じゃない。現場にいる彼らがいちばん偉い。現場の人間がいるから、全体がうまく回ってきたんだと思います。

成田空港第2ターミナルにユニクロ店舗
写真=iStock.com/BestForLater91
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BestForLater91

■現場の平等を忘れてはいけない

僕は「グローバルワン 全員経営」と言っています。最初のうちはその地域の事情がわからずに、売れない色の商品を作ったり、大きなサイズばかりを作って、売れ残ってしまったこともありました。しかし、日本から派遣した店長たちがグローバル化とローカライズのバランスをうまく取って経営したために結果を出すことができるようになってきました。

グローバル化だけを押し通してもいけないし、かといって地域の事情だけを勘案してはいけない。うまくかみ合ったからこそ結果が出るんです。

今、中国、韓国ではユニクロがナンバーワンショップになりました。地元の店よりも、ユニクロの店の方がはるかに多い。これをさらに進めていく。

本書にあったエピソードですが、トヨタのケンタッキー工場の従業員が進んでワシントンまで公聴会を見に行くでしょう。(2009年の)リコール問題で豊田章男社長が窮地に立っているのを我慢できずにワシントンまで行く……。

アメリカの従業員がここまでやるなんてことは普通、ありえない。

僕は豊田喜一郎さんという創業者が立派なんだと思いました。「人間は仕事をする上では平等だ」という意識を現場に植え付けていたんでしょう。世界で成功するには現場の平等を忘れてはいけない。

僕らもトヨタと同じように現場の平等を強烈に意識しています。ですから、中国と韓国だけでなく、アメリカでも東南アジアでもヨーロッパでもナンバーワンになれるでしょう。

■「洋服の常識を疑う」という日本人の強み

日本に生まれてよかったと思っています。多くの日本人は忘れているんですけれど、日本は世界一の繊維の輸出国だったんです。品質のいいものがどこよりも安く世界に出ていった。

トヨタの織機が生まれたのも繊維産業が確立していたからでしょう。繊維産業にはさまざまな技術が蓄積されています。トヨタが自動車を作れるようになったのも織機を作っていたからですし、スズキだって元は織機製造業です。インドのタタ財閥は元々、綿紡績ですし、韓国のサムソンは第一毛織から出発している。どの会社も繊維技術をもとにして会社を大きく成長させていった。

産業用ミシン
写真=iStock.com/fadheit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fadheit

繊維産業は決して遅れた産業ではありません。液晶、グラスファイバー、炭素繊維……、先進的と言われる技術の根っこにあるのが、繊維産業が作り出した技術です。その最先端を知っているのが日本人です。

もうひとつの利点は客観性です。日本は着物文化だから洋服というものを客観的に評価して作ることができる。洋服の常識を疑いながら、本質を追求して製品にすることができる。アメリカやヨーロッパの人は洋服に対して、客観的に見ることは難しいでしょう。ファストファッションという業態を考え出すことはできても、ユニクロというカテゴリーを創出することはできなかった。

僕らは今、世界中でポジションを取るコンセプトを確立しました。世界初の洋服のグローバルカンパニーになる。「Made for All」。世界の人々にライフウエアとしての服を提供するんです。

■あらゆる業種の「際」がなくなっている

僕は幸か不幸か、と言っちゃ孫(正義)さんに怒られるけれど、ソフトバンクの社外取締役を16年、やっていました。

これからは情報革命というよりも、社会革命の時代になってきているんです。あらゆるものがコネクティッドされるから商品は変わってきます。

もっともいいのはお客さまが注文した服が工場でたちどころにできて、それがすぐに送られてくること。すでに始まっていますが、僕らはそれをさらに進めていく。サイズも色も、その人が望んだものがすぐにできて、配達されてくる。ズボンのすそ上げなんてこともなくなるでしょう。洋服だけではありません。すべての商品が情報化によって、オーダーに変わる。それを実行できる会社とできない会社があるだけです。

トヨタの自動車だって、オーダーでしょう。自動車でできることですから、あらゆる商品でも可能になる。そういう時代が来るのではなく、もう来ているんです。

だいたい、あらゆる業種の「際」がなくなっている。ユニクロもアマゾンやグーグルと競争しています。トヨタだって同じこと。テスラ、グーグル、アマゾン、ユニクロとの競争ですよ。

トヨタは自動車を作るということではなく、自動車に乗る人にサービスする会社にならないと生き残っていけないのでは。実際、モビリティサービスの会社と言ってますよね。

■大企業になっちゃダメだ

我々の業界は在庫でつぶれるんです。僕は仕事を始めた頃から在庫の存在が負担だったし、嫌だった。売れないから在庫が残る。それで、マークダウン(値下げの売価変更)して在庫を処分する。すでに損です。在庫の処分ばかりしていたら、今度は正規の価格の商品が売れなくなる。そうしているうちに会社は立ち行かなくなる。

売れない商品を作ることは罪悪に等しい。買う価値のある商品を作る。それがテーマでした。そして、今やっと会社の体質が強化され、データを蓄積し、情報の使いこなし方がわかってきた。在庫をなくすことは以前から考えていたけれど、やっと実現できるだけの能力が備わってきました。

大企業になっちゃダメですよ。この本にも「昔、トヨタの役員会は怒鳴り合いだった」とありますけれど、伸びていく企業はそうですよ。すべて明確な言葉でストレートに伝える。

僕は「厳しい経営者」と呼ばれています。しかし、豊田喜一郎さん、大野(耐一)さんに比べればぜんぜん甘い。彼らが持っていた危機感を持たなくてはならない。トヨタというベンチャー企業の本質は経営者が危機感を持ち続けていることです。

大競争時代だけれど、ユニクロはトヨタには負けません。僕らは実業の人間だから、実業で結果を出します。(noteマガジン『トヨタ物語 ウーブン・シティへの道』に続く)

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。noteで「トヨタ物語―ウーブンシティへの道」を連載中(11月まで無料)

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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