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「ドラクエに"うんち"は出てこない」超ヒット"桃太郎シリーズ"を生んだ作家の創作哲学

プレジデントオンライン / 2021年1月3日 11時15分

『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(2020年) - 提供=KONAMI

昨年11月に発売されたゲームソフト『桃太郎電鉄 昭和 平成 令和も定番!』が、累計出荷本数150万本超え(12月28日現在)の大ヒットを記録している。総監督を務めるさくまあきら氏は、1987年に『桃太郎伝説』でデビューした伝説のゲーム作家だ。なぜヒットを生み続けることができるのか。ゲームライターの渡邉卓也氏が聞いた――。

■デビュー作『桃太郎伝説』は“やらざるを得なかった”

『桃太郎伝説』や『桃太郎電鉄』シリーズの生みの親、さくまあきら氏はあまりにも多彩な経歴の持ち主である。フリーライター、ラジオパーソナリティー、放送作家、歌手、作詞家、マンガ評論家の仕事を経験し、自ら立ち上げた出版社のマンガ雑誌の事業で億単位の赤字を出したという“人生の谷”も経験した。いまでこそさくまあきら氏はゲームクリエイターとして著名だが、そもそも「自分がゲーム作家になるとは思っていなかった」のだという。

さくま氏は、1987年の『桃太郎伝説』(『桃伝』)でゲームクリエイターとしてデビューし、その後も『桃太郎電鉄』(『桃鉄』)シリーズなどのヒット作品を世に送り出している。

そして、2020年11月に発売されたNintendo Switch用ソフト『桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜』は初週50万本を突破という異例のヒット。12月28日現在で累計出荷本数150万本を記録しており、多くの人々から支持を得ている。ファミリーコンピュータの時代から活躍を続けるゲームクリエイター、さくまあきら氏に、その哲学を聞いた。

さくま氏は病気の後遺症でほとんど発話ができない。そのような中、さくま氏の妻である佐久間真理子氏にアシストをしていただきながら話を聞いた。

さくまあきら氏
撮影=渡邉卓也
さくまあきら氏 - 撮影=渡邉卓也

現在のさくま氏は『桃鉄』シリーズの生みの親としての印象が強いが、初めて手掛けた作品は1987年に発売されたファミリーコンピュータのRPG『桃太郎伝説』だ。いまでこそRPGは日本国内でも多くの人に楽しまれているが、当時はまだはやり始めだった。『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』など洋風の世界観のRPGが多かったなか、和風RPGというジャンルの先鞭(せんべん)をつけて100万本を越えるヒットを記録。サザンオールスターズの関口和之氏が楽曲を担当しているのも売りだった。

さくま氏は『ドラゴンクエスト』シリーズの生みの親である堀井雄二氏と友人であり、その縁で広告代理店からゲーム制作の依頼がきたが、はじめはそこまで乗り気ではなかったという。

■はやりの『ドラゴンクエスト』からヒントを得た

当時、さくま氏は『週刊少年ジャンプ』の読者投稿コーナー「ジャンプ放送局」のライターをしていた。「もしゲーム制作に失敗しても、そこでネタになるしいいだろう」と判断して引き受けることにしたのだ。堀井雄二氏と立ち上げた出版社の若いスタッフもゲーム制作に対して興味を持っていたため、制作は彼らに任せて自分は監修するだけでいいだろうという甘い考えもあった。企画は当時札幌に本社があったハドソンに持ち込まれたが、そこを選んだのも「カニが食べられるから」という特にこだわりのない理由だった。

「でも、若いのが逃げた!」

しかし、ゲーム制作を任せようとしたスタッフが消えてしまう。すでに自身が担当するラジオ番組でも関連する企画が進行しており、契約も済んでいたため、さくま氏が自ら手を動かさざるを得なくなった。しかも『桃太郎伝説』の企画書はたった3枚。危機的状況といえるが、頭の中にはすでに完成形が浮かんでいたという。

このころ流行していた『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』は、仲間を集めてハーゴンという悪い存在を倒しに行くといった大筋になっていた。これを見たさくま氏は、仲間たちとの会話で童話の「桃太郎」の話と類似性があるとに気づき、洋風の『ドラゴンクエスト』に対して、和風のRPGを作ろうと考えていたそうである。また、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』が延期されることを堀井雄二氏本人からこっそりと聞いており、チャンスであるとも認識していたそうだ。

■『桃太郎伝説』と「ジャンプ放送局」のつながり

『桃太郎伝説』において「ジャンプ放送局」の影響は大きい。例えば「なー ほー ざ ワールド!!」といった当時の人気TV番組を意識したセリフがたくさん収録されていたり、「きんぎんパールプレゼントのおに」といったCMのパロディーが随所に存在した。この作風は「ジャンプ放送局」から受け継がれたものであり、そこで子供たちからウケたものがゲームにも反映された。

『桃太郎伝説』(1987年)画像=筆者提供
『桃太郎伝説』(1987年)画像=筆者提供

また、『桃太郎伝説』には主人公の桃太郎のほか、金太郎や浦島太郎も登場するが、彼らも「ジャンプ放送局」の「太郎ズ(3太郎)」というイラストから生まれた。

子供たちが投稿するハガキから、子供心をつかむポイントを学んだ。子供が大好きな「うんち」や「おなら」の要素は『桃伝』にも欠かさず入れ、童話なので敵は殺さずに「こらしめる」といった表現にした。

ゲームの制作期間はたったの3カ月程度。とにかく完成させるために忙しかったが、リアリティーある敵キャラクターを作るため鬼に関する情報を丁寧に調べたという。大江山の鬼退治に関する伝説をはじめ、日本各地にある鬼の伝説や妖怪の本をあたり、目を通した書籍は100冊以上になる。

さくま氏は自ら強く望んでゲームクリエイターになったというよりは、「ジャンプ放送局」の流れでチャンスが舞い込み、さまざまな理由で外堀が埋まって『桃太郎伝説』を作らざるを得なかったといえるだろう。では、そこから何か変化していったのだろうか。

■趣味・興味が『桃鉄』になり、さらにつながりを生む

Nintendo Switchで発売中の『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』は、さくま氏が手掛けたゲームの最新作だ。サイコロを転がして日本中を鉄道で旅しつつ、各地の物件を購入して億万長者を目指す。まさしく定番のパーティーゲームである。

『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(2020年)
提供=KONAMI
『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(2020年) - 提供=KONAMI

『桃鉄』シリーズは単純にすごろくをコンピュータゲームにしただけではなく、リゾートなどの物件を購入していくという要素が追加されている。これは西武グループの会長を務めていた実業家の堤義明氏の経営戦略からインスピレーションを受けており、ゆえに鉄道を使って全国の物件を買って回るといった内容になった。

日本全国が舞台になっているため土地それぞれの魅力が描かれ、日本で生まれた人ならばまずどこかに思い入れを持つようなつくりになっている。シリーズ2作目の『スーパー桃太郎電鉄』からお金や物件を捨ててしまう「貧乏神」や、さまざまな効果を発揮する「カード」の要素が追加され、定番のパーティーゲームとして人気を博すように。『桃鉄』シリーズで販売本数100万本を越えたタイトルは、3作品にもなる。

『桃太郎』シリーズ販売本数
2020年12月28日現在。さくま氏談。

さすがに現在は、ファミリーコンピュータの時代と比べて開発規模も大きくなったうえに関わる人数も多くなった。しかし、さくま氏は「いつもどおり頑張って仕事をこなした」という。つまり、ゲームクリエイターとしての心がけは今も昔も変わらないというのである。

これはどういうことか。もともとさくま氏は旅行と食べ歩きが趣味だが、それは『桃太郎電鉄』シリーズの取材も兼ねている。仮にプライベートで旅行に行ったとしても海辺でボーッとするなんてことはできる性分ではなく、とにかく日本全国に行って作中の物件のモデルになる店の情報を集めているそうだ。また、プレーヤーを助ける「歴史ヒーロー」がゲームに登場するのも、歴史好きが高じた結果とのこと。

さくま氏の人脈も昔の仕事とつながっている。かつて「ジャンプ放送局」の読者だった子供たちが成長してお笑い芸人になり、さくま氏にプレーの感想を伝えることも多いという。例えば、麒麟の川島明氏もかつてのハガキ職人だ。また、最新作で音楽を担当しているヒャダイン氏は、自らのコラムなどで「地理は『桃鉄』で覚えた」と語っている。バッファロー吾郎A氏、水道橋博士氏なども『桃鉄』好きを公言しており、そこからさくま氏との仕事に関連していくという。

■秋田の鍋といえば「すき焼き」と言われ…

物件のモデル探しにあたっては、インターネットがなかった時代は現地に行かなければわからないことが多い。インターネットが普及して楽になるかと思いきや、正確な情報収集のための労力が減るわけではなかった。

例えば、地元の人が普段食べているものがわかりにくくなった傾向があるそうだ。秋田で地元の人にどんな鍋を好むのかと聞いたところ、意外な答えが返ってきたという。

さくまあきら氏
撮影=渡邉卓也

「秋田でしょっつる鍋、きりたんぽ鍋、だまこ鍋のどれか聞いたら、答えは“すき焼き”」

確かに、郷土料理もおいしいがすき焼きもかなりおいしい。地元の人からすれば空気のような存在の郷土料理を、ことさら褒めるのは違うのだろう。SNSでの拡散目的で作られた、地元民も食べない宣伝用のB級グルメの情報が独り歩きしていることもある。こういった細かな調査もリアリティーのあるゲームに反映されるのだろう。

■日本全国を食べ歩くさくま氏のお気に入り2選

また、さくま氏が日本全国を巡って非常においしいと感じたものを2つ教えてもらった。ひとつは、兵庫県は出石のトマト。『桃鉄』では「露店トマト屋」という物件で登場する。モデルとなった「まめいも屋」では、カメで冷やされたトマトが売られており、初めて食べたそれは絶品だったそうである。

青森県の五所川原市にある「揚げたいやき」も魅力だという。「あげたいの店みわや」という店の商品がモデルになっており、その名のとおりたいやきを揚げて砂糖をまぶしたもの。私が「話を聞いただけでおいしそうですね……」と言ったところ、さくま氏は満面の笑みを浮かべており、その表情からも揚げたいやきの魅力が感じられた。さくま氏のお気に入り度合いが『桃鉄』の作中で物件の収益率に反映されるという裏話も教えてもらった。

『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(2020年)
提供=KONAMI
『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(2020年) - 提供=KONAMI

■さくま氏は“自然体のゲームクリエイター”

『桃鉄』最新作は新型コロナウイルスで帰省できないお正月にもってこいだ。家族で遊ぶのはもちろん、インターネットで離れた友達や親戚ともプレーできるからだ。ちなみに、KONAMIとしては異例のゲーム配信に対する許可が出ており、さくま氏もさまざまな実況動画や関連TV番組を見て楽しんでいるそうだ。

インタビューで話を伺っていると、さくま氏は何か明確に表現したいことがあってゲームクリエイターになったというよりは、いつも自然体で活動しているように見える。

「ジャンプ放送局」のライターであり、堀井雄二氏の友人であったためにゲーム制作の話が舞い込んできた。そしてゲームに登場させるキャラクターの原案のヒントも「ジャンプ放送局」にあり、メインターゲットである子供たちにウケる要素がわかっていたのでヒットにつながった。趣味が高じて『桃鉄』という新たな作品を作り、それらの仕事が縁となって多くの人とのつながりを生んでいる。多彩な経歴も、興味を持った仕事を片っ端からこなしていったからこそであろう。

『桃伝』こそ乗り気ではなかったが、ゲーム制作に対するこだわりはきちんとある。特により多くの人が楽しめるようにという意識が強く、『桃鉄』過去作では一般のプレーヤーにテストプレーしてもらうほか、大阪でゲームを作っていた縁で、毎日放送の番組に出ていたお笑い芸人たちにも遊んでもらっていたそうだ。

バッファロー吾郎A氏は、『桃鉄』をプレーするとどうしても持っているカードの存在を忘れてしまうのだという。さくま氏はその様子を見て、早く売り払わないと取り返しのつかないことが起こる「とりかえしカード」を追加。このように、遊ぶ人が本当に必要なものを自然に提供できているのだろう。

さくま氏は仕事は仕事だと割り切ってこなす側面もあれば、一方でこだわるべきところにはとことんこだわる。多彩な職歴からわかるように、マルチな能力があるために俯瞰して物事を見ることができ、取捨選択ができるのではないか。それこそが“さくまあきらの強み”であり、ゲーム制作でも活かせる能力なのだろう。ゆえにさくま氏は、『桃鉄』最新作のタイトル通り、昭和・平成・令和に至る現在まで活躍を続けられているのではないだろうか。

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さくまあきら ゲームクリエイター
1952年、東京都杉並区生まれ。立教大学経済学部卒業。『週刊少年ジャンプ』にて1982〜1995年にわたり掲載された読者投稿コーナー『ジャンプ放送局』の構成や、コンピュータゲーム『桃太郎伝説』(桃伝)、『桃太郎電鉄』(桃鉄)シリーズの生みの親として知られる。『ドラゴンクエスト』シリーズの生みの親である堀井雄二とは学生時代からの友人である。

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(ゲームクリエイター さくまあきら 聞き手・文=渡邉卓也(ゲームライター))

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