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アジカン後藤「ミュージシャンを"お前らは不謹慎だ"と非難する社会に伝えたいこと」

プレジデントオンライン / 2021年1月4日 11時15分

撮影=遠藤素子

新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を受けた業界の1つが、ライブなどのイベント中止が相次ぐ音楽業界だ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文氏は「エンターテインメントの支援が後回しにされている現実がある」と指摘する。ベテランバンドマンが考えるライブハウスの役割とは何か——。(第1回/全2回、聞き手・構成=姫路まさのり)

■ライブハウスで揉まれた大学時代

1つ1つの質問に前のめりに頷き、ステージ上では伺えない温和な笑顔さえ浮かべる後藤。自身も含めた音楽業界の深刻さを誰よりも見晴かしながら、それでいてどこか天気の話でもするように、悠揚と語り始めた。

ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)、愛称は“アジカン”。1996年に大学のサークル仲間4人で結成し、2003年にメジャーデビュー。オリコン1位、アリーナツアー、フェスの主催と“シンデレラストーリー”を歩んできた彼らは、ライブハウス出身のバンドだ。ボーカルでバンドのフロントマンである後藤正文(44)は、結成当初をこう振り返る。

「僕らが最初にやったのは大学時代、横浜の『CLUB 24 YOKOHAMA』(2007年閉店)というハコで、出た時は緊張しましたね。ノルマがすごく高かったのを覚えています。1600円を30枚売るのが出演ノルマだったので4万8000円くらいを自己負担しました。ディズニーランドに行けばそれくらいかかるし、デートより楽しいことをしたと思えばいいんじゃない? みたいな感覚でした。きっかけを掴むまでのライブハウスって、バンドにとっては厳しい面もある。成功するのは一握りだと思うけど、芽が出なくても経験を積める場所であると思うんです」

■若手がアピールする現場がない状況

デビュー当初のアジカンは歌番組の出演はほとんどなく、年間100本以上のライブでファンを増やしていった。2004年、初の武道館公演は全席をスタンディングにする“ライブハウス仕様”だった。タテに揺れ、ヨコに揺れの武道館ライブは、ファンの間で今も語り草だ。後藤はコロナ禍の現状を、そんな自身が若かりし頃と重ね合わせ少し俯(うつむ)いた。

「今、自分がライブをできないこともそうですけど、若手のミュージシャンの気持ちを考えるとね……。最初はライブハウスで揉まれながら、機会もファンも増やしていく。新しい作品を作ってもアピールする現場が奪われるのは打撃だろうなと。自分が20代そこそこで『さあ今から!』と思っている立場だったら、絶対につらいと思う」

ボロボロの車に機材を積み込み、空いたスペースに割り込むように人間が乗り込み、各地を巡りながらイベントに出演する下積み時代。駐車場代金の支払いに苦労した事だって一度や二度ではない。会場に到着すればすぐさまリハーサル。物販の準備をして迎える本番。ライブが終われば同じ夢を志すバンドマン同士で遅くまでの打ち上げ。そしてまた、ぎゅうぎゅうの車へ乗り込み、次のライブハウスを目指して朝またぎに旅立つ。

■生演奏の体験がファンを増やしていた

ライブやコンサートができない現実を前に、自分だけでなく、業界として、仲間全体として打撃を受けていると語る後藤。彼はこの夏を“フェスが無い夏が終わった”と表現している。

大小問わず、この数年でフェスは日本全国で当たり前のものになっていた。町おこしのようで、盆踊りの代替のようであり“フェス文化”という言葉と共に新しいコミュニティーが萌芽していた。それは「今度は個別のコンサートにも行ってみよう」という新規ファンが生まれる機会でもあった。ぴあ総研によると、音楽公演の市場規模(チケット推定販売額)は、2010年の3159億円から2019年は6295億円とほぼ倍増。後藤の言葉は、この反動と損失を感じてのものだろう。

「フェスも含めて生で音楽を聴くという体験は一回限りのものなんです。立っている場所によっても聞こえ方が違うし、“二度と起こらない現在”をその場で見ているんだと思う。演奏していても感じるけど、ファンの方もよく言う『何年の○○フェスの演奏が良かった』は、1回しか体験できないからこその表現でしょ? 歌い回しや演奏のアンサンブルって、DVDで記録しても物理的には全く蘇(よみがえ)ってこないんです。音は“まるっと”録(と)れないから、レコーディングでも何かを録り逃してしまう。絶対に収録できないものがあるんです」

後藤正文氏
撮影=遠藤素子

■「お前らは不謹慎だ」という声に

アーティストとしてライブを完全に録音できないと語るほど、特別で上質な体験。ただ、20年に亘(わた)りライブハウスへ通う筆者も含めた“ライブ好き”の悩みどころが、“ライブハウスに行ったことがない人間に、コロナ禍のいま、どうその魅力を伝えるか?” である。大小問わず公演中止が相次ぎ、「一度でいいから試しに行ってみて」とも言えない事態へと陥ってしまった。

後藤はその実情も垣間見ながら、「もう少しライブハウスの側も自分たちのことを発信しなければならない」と関係者の1人として自戒の念も込める。ライブハウスなどへの助成金交付を求める運動「SaveOurSpace」に参加。実に30万筆もの署名が集まった支援活動の裏には、やはり“発信する意思”が大切だという思いが見え隠れする。

「確かに僕らが若い頃はライブハウス=怖いというイメージがあった。(ライブハウスに行ったことがない人に=編集部注)いきなり地方の雑居ビルに入ったハコに来いというのも酷ですし。でも、ハイスタ(Hi-STANDARD)以降、すごく身近な場所になったとも思う。等しくさまざまな現場から『困っているんだ』という声は上がるべきですよね」

「でも、エンターテインメントは1番最後でいいじゃないかという意見もあった。東日本大震災の時もバンドマンに対して『お前らは不謹慎だ』という声も聞かれたし、『スポーツよりは後!』みたいな空気も感じる。でも、それぞれの現場で、それぞれ切実に困っているわけだから、順位をつけずに声を上げるべきだと思う。そうすることで誰がどんなふうに困っているのかが把握・可視化されてくる」

■ミュージシャン自身が卑下しているところがある

日本には8000軒のライブハウスがあると言われる。しかしそれほどの規模でありながら、統一的な業界団体はない。それが支援の遅れをもたらすと共に、業界側が取り組んでこなかった課題を、コロナ禍が露呈させたとも言える。

海外では「文化支援」に資金を投入する国が見受けられるようになってきた。ドイツは文化支援に1200億円を投じ、コロナ時代に「(文化を創造する)アーティストは生命維持に必要」と明言している。そうした状況に後藤は、「日本の音楽は文化的地位が低いと感じることもある」と語る。

「ミュージシャンも、音楽って素敵だよと堂々とアピールしてこなかったこともあるだろうし、僕ら自身が“まあエンタメなんで……”と卑下するところがある。最近は、そうせずにやっていきたいなと思っている。音楽はある種のサービスみたいに消費されてしまう。地位向上ではないけど、もっともっとみんなの生活の中にあって、切り離せないものになっていくといいなという願いはある」

後藤正文氏
撮影=遠藤素子

■ライブハウスが地域に果たす役割とは

いまライブハウスが果たすべき役割とはなにか。後藤は2011年、東日本大震災で被害を受けた東北のライブハウスの支援・復活を目指すプロジェクト「東北ライブハウス大作戦」に参加。この時の経験が、ライブハウスの役割を考える上で大きく影響していると振り返る。

「震災以降で意識したのは、ライブハウスがある種、被災地支援の基地=ハブの役割を果たしてくれたということ。ライブハウスに支援物資を集めてバンドマンが東北に運びました。そのノウハウを広くシェアして、被災した場所があれば、広島や熊本にも持って行った。自然災害が多発する中、ハブ機能が発展してコミュニティーの1つになっていた。地域の人も含めた皆が集まって、人と人との繋がりが可視化される場所でもあると思う」

バンドが土地土地のライブハウスを巡ることで、その“ハコ”が営業を続けられ、従業員も仕事に就ける。また、イベントが終われば近くの飲食店で、その日のホットな感想をアーデモナイ、コーデモナイと侃々諤々と語らい、周辺地域の経済効果も伴う。無論これは、劇団の公演やミニシアター然り芸術全般に言えることである。

■地元への貢献とセーフティーネットの存在

筆者自身、コロナ以降、身辺の“ライブ仲間”から幾度となく聞かされたのが、「ライブハウスに行けなくなって心の居場所がない」という言葉だった。ライブハウスは、さまざまな理由で世間から爪弾きにされた人やどんな人でも受け入れる、誰をも拒まない場所だからだ。生きにくさや孤独感を抱え、ライブハウスを心の拠り所にしながら社会生活を送っている人にとって、ライブハウスは貴重な空間である。

後藤はアジカンとして昨年10月にシングル『ダイアローグ/触れたい 確かめたい』を、後藤正文ソロとして12月に新曲『The Age』を含むアルバム『Lives By The Sea』という作品を世に送り出した。バンドとしての新曲『ダイアローグ/触れたい 確かめたい』は、コロナ騒動の前にロンドンで録音。CDのみに収録されている3曲目「ネクスト」は、リハーサルもなければメンバーにそもそも会えないという環境の中、Zoomで話し合って生まれた作品でもある。

後藤正文氏
撮影=遠藤素子

■「触れる、確かめる」ことの大切さ

「『触れたい 確かめたい』はコロナになる前に作っていたんですけど、この言葉がこんなに身につまされるとは思ってもいなかった。触れたり確かめたりすることは大事という気持ちは前々からあったけど、こんなに色濃くなるのは想像していませんでした。『ダイアローグ』は、いろんな立場の人が、国や社会や地域の中にいるけど、大事な考え方として『同じ船に乗っているんだ』ということがモチーフになっています。どんな共同体だって色んな人がいるわけで、どうにか上手くやっていくしかないですよね」」

『ダイアローグ』
『ダイアローグ』

日本語で「対話」を意味するタイトルだが、「世界が水没していくイメージで作った」とも語るこの歌に込めたメッセージは、自身の立場も投影したという。

「この時代を生きるひとりの人間として、どういう未来を選んでいけばいいのかなと。いずれは環境的な破滅が待っているんじゃないかという時代を生きているわけで、そういう内容を比喩として込めた。でも、基本的にはもっともっとみんなの声を聞きたいんです。小さな願いでも、それが発せられることにこそ意味があると思うし、そういう声に対し『黙れ』という文化ではなく、耳をすませる社会でありたいなと思う」

■「アジカン」として伝え続けてきたこと

後藤はコロナ禍の時代に、「お互いの肩をやさしくたたき合う社会を望む」とも発信する。振り返れば2003年に発売されたアジカン1stアルバムのタイトルは『君繋ファイブエム』。この独特の語感とタイトルは、人が繋がっていると実感できる距離感を5mと捉え、「君」と「僕」は一対一なのだと説き、多くのファンを魅了した。

デビュー10周年のあるインタビューで、後藤がこう語っていたのが印象に残る。

「十年たっても「自分たちがつくったものに ちゃんと感動しましょう」というバンドを始めた当初の気持ちを保っている』

アジカンの特徴は音に宿る情感と言葉のリズム、この2つのバランスが抜群に優れている点にある。極力英語を使わず、詩も縦書きで書き留める。エッセイストとしても活動する後藤が紡ぐ言葉は、何より「日本語としての質感」に溢(あふ)れている。それは、借り物ではない日本語独特の様式と長い時間向き合い、言葉から逃げない、表現することから逃げない、その作業を倦(う)まず弛(たゆ)まず繰り返してきたからこその結果である。

■「大人たちこそ音楽をもっと楽しんで」

後藤はこう語る。

「大人達にもっと音楽を楽しんでほしいと思うんです。友達を見ていても、子育てが忙しくなるとどうしてもコンサートに行く余裕がなくなるのは分かるんだけど、そこからライブに帰ってきてくれないのが寂しい。

この間、ハイスタ(Hi-STANDARD)のライブに行ったら、昔好きだった人たちが戻ってきていました。ツアーでドイツに行った時にライブを見に行ったんですけど、2階席に家族連れが多くてびっくりしました。ライブを親子で楽しむことが浸透して、自分の子どもたちと好きな音楽を共有する、そんな文化が日本でも根付けばいいのにと思います」

筆者も、ハイスタのライブでペアルックで盛り上がる親子や、「間に合った……」と仕事終わりのスーツ姿で駆けつけるサラリーマンを見かけたことがある。“大人”にこそライブに戻ってきてほしいと願う後藤。そのきっかけとして、久しくアジカンの曲に触れていない人にこそ、今作『ダイアローグ/触れたい 確かめたい』を手に取ってもらいたい。

アジカン然り、年代を問わずシーンを賑わすアーティストの多くは、もれなくライブハウスのステージを踏んできた。見方を変えれば、ライブハウスがシーンの礎を支えてきたという構図が浮かび上がる。文化発信の場であり、地域のセーフティーネットでもある空間。ライブハウス=感染源、3密の温床のように報じられた今こそ、縁の下で果たしてきたその役割を考えるべきなのではないだろうか?

後編は、コロナ禍における“配信全盛時代への違和感”を、後藤に聞いた。(つづく)

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姫路 まさのり 放送作家・ライター
1980年、三重県生まれ。放送芸術学院専門学校を経て現職。ライターとして朝日新聞夕刊「味な人」などの連載を担当。HIV/AIDS、引きこもりなどの啓発キャンペーンに携わる。著者に『ダウン症って不幸ですか?』(宝島社)、『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。ソーシャルファームという希望』(新潮社)がある。

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(放送作家・ライター 姫路 まさのり)

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