「エレベーターで舌打ち、感染者狩り…」コロナ禍タワマンの深すぎる闇
プレジデントオンライン / 2021年1月14日 9時15分
※本稿は、榊淳司『激震!「コロナと不動産」 価値が出るエリア、半額になる物件』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■マスクをしないとネットの掲示板でさらされる
新型コロナウイルスの発生源を巡る米中対立や、さらに国内を見渡せば自粛警察や県外者狩りなど、パンデミックは社会にさまざまな分断をもたらした。それはまた“天上世界”でも例外ではない。
ステイホームの呼びかけによって、巣ごもりの拠点となった超高層タワーマンションの住民たちの間にも大きな軋轢が生じていた。
特に3密になりやすいエレベーターは、摩擦の温床であるという。江東区東雲のタワマンで子育て中の40代男性は明かす。
「緊急事態宣言以降、ウチのマンションの管理組合は、3密防止のために『エレベーターの相乗りは原則5人まで』という努力目標を出した。しかし、ステイホームでマンション内の人口が増えているし、食材の買い出しやら気分転換の散歩やらで、外出自粛とはいえ皆、けっこう出入りは頻繁だった。
そのうえ、小分けになって乗るからエレベーターが全然来ない。私も基本的にはこの努力目標を守っていたんですが、急いでいる時に、仕方なくすでに5人乗っているエレベーターに押し入ったら、小池百合子みたいなおばさんに『密です!』と叱責されたこともある。
うちは中層階に住んでいるので、下階行きのエレベーターを呼んでも、すでに先客で満員ということが多く、理不尽な気もしますが反論はしません。またネット上のマンションごとの住民専用掲示板で、『○階に住んでる会社員風の男はエレベーターでマスクしていなかった』などとさらされたりする。完全な相互監視社会で、本当に怖いです」
■「エレベーターで舌打ちをされたこともある」
これまで幾度となく、タワマン・コミュニティでは、居住する階数によって地位が決まる「階数ヒエラルキー」が存在するといわれてきた。しかし、コロナ禍のタワマンでのエレベーター利用を巡っては、そうした格差がより鮮明になったようだ。品川区内のタワーマンションに住む30代の主婦の話。
「ウチのマンションは18階までしか行かない低層階用エレベーターと、それ以上にしか行かない高層階用エレベーターの2台に分かれている。ウチは4階なので、低層階用エレベーターです。以前は、高層階住人から見下される立場として、低層階住民にはちょっとした連帯感があったんです。しかし、3密が嫌われる現在は、低層階用エレベーターの利用者の間で『5階くらいまでの人は階段を使え』という雰囲気が漂っている。上階から来たエレベーターに4階から乗り込むと、舌打ちをされたこともあります」
現在は、なるべく階段を使っているという彼女だが、そこでもこんな問題が……。
「高層マンションのなかでは4階というと低層ですが、毎回階段で上り下りするとなると、かなり大変です。それに、緊急事態宣言以降、共用施設のジムが閉鎖になっているので、トレーニング代わりに階段を上り下りしているおじさんたちが結構いるんです。ただでさえ階段は換気も悪いのに、正直迷惑です。ちなみにウチの真上の階にいる子なし夫婦も昼間から部屋でエクササイズしているみたいで、ドスンドスンとうるさくて仕方ないですよ」
■「共用施設が使えないタワマンなんて、刑務所や病棟と変わらない」
緊急事態宣言以降、首都圏の多くのタワマンではジム以外にも温浴施設、ラウンジなどといった共用施設を閉鎖してきた。
これについて、「共用施設が使えなければ、タワマンなんて刑務所や病棟と変わらない」と話すのは、江東区有明のタワマンの賃貸物件に住む30代の男性会社員だ。
「ウチの会社では4月から2カ月間リモートワークだったのですが、緊急事態宣言が発令されてからは、リモートワーカーが増えたせいでネット回線が混雑してつながりにくくなり、仕事になりませんでした。徒歩圏で食材の調達ができるのは、マンション1階にあるスーパーが唯一の場所だったのですが、肉や冷凍食品はずっと品薄状態。トイレットペーパーの争奪戦も起きていました。
共用施設がすべて閉鎖されているので、気晴らしといえばマンション敷地内の遊歩道を歩くくらい。しかしそこも、休校になったガキどもが溢れ、無秩序に暴れていたりする。何人か叱り飛ばしてやりましたけどね。おそらく、親も子供といる時間が長くなりすぎて疲れているのか、ほったらかしなんですよ」
■共用施設が使えないのに月2万円以上の管理費・共益費が徴収され続ける
一方で男性は、コロナ禍で浮かび上がってきたタワマンという居住形態の限界について指摘する。
「そもそもタワマンは昼間に全住民が在宅することを想定して造られていないので、ステイホームによってあらゆる場所がキャパオーバーになっている。共用施設の再開も未定だし、私は夏にも今の部屋を退去する予定です。私は賃貸だからよかったけど、買っちゃってる人は逃げるわけにもいかず、閉塞的な環境でご近所に気を使いながら生きていかなければならない。本当に気の毒です」
この男性のように、コロナ禍をきっかけに住んでいたタワマンを離れる人は少なくないようだ。都内のある不動産仲介業者は言う。
「タワマンの売りであるラウンジやジムなどの共用施設が閉鎖されたことは、売買市場よりも流動的な賃貸市場においては負の影響になっています。すでに入居している貸借人の間では、共用施設を使えないのに今までと同じだけ共益費を徴収されることに対する不満もあります。共用施設が充実している高級タワマンでは、管理費・共益費は月額2万円以上になるところもあるので、切実な問題。
そして、さらに困るのは、急に入居者に出ていかれた物件オーナーです。この時期に退去されてしまうと、新しい入居者はしばらく見つからないでしょうからね。ローンで物件を購入し、入居者からの賃料収入でその返済に回していたようなサラリーマンオーナーは、空室状態が続けばローンが払えなくなってしまいますよ」
■コロナ感染者発生の噂で始まった“犯人捜し”
タワマンの賃貸市場の雲行きが怪しくなれば、オーナーのなかには物件を手放さざるを得なくなる者も出てくることだろう。そうなれば、売買市場への影響も小さくないはずだ。
しかし、もっと悲惨なケースもある。マンションの住人に新型コロナの感染者が出てしまった場合だ。
では、実際に感染者が出たマンションでは何が起きたのか紹介しよう。東京・湾岸エリアにある某タワーマンションに住む40代の男性の証言。
「感染者が出たらしいという情報が、4月上旬に別の住民からLINEで回ってきた。その後、エントランスに、コロナ感染者が出たことを知らせる貼り紙が一時的に掲示されていました。これを機に、住民の間で“犯人捜し”が一斉に始まった。『先週、エレベーターで咳をしていた女性が○階で降りた』『○○号室のご主人はよく中国に出張していたらしい』などと、真偽不明の噂が飛び交いました。感染を恐れてマンションから一時的に避難した人もいます。さらに感染者の部屋番号を公開すべきと主張していた人もいました」
■自慢のタワマンだったが「住んでいることをバレないようにしている」
このタワマンでは、ある住人が感染者だという噂が広まり、のちに非感染者だと判明するなど住民同士が疑心暗鬼に陥ったという。さらにこの男性を含む同タワマンの住民は、居住者同士の軋轢だけではなく、外からの厳しい視線にもさらされることとなった。
「感染者が出たという噂はマンションの外にもすぐに広がった。そのせいなのか、妻がなじみのクリーニング屋に洋服を出しに行った時に、ほかの客よりも明らかに厳重にアルコール消毒をさせられたそうです。以前は、ウチのタワマンに住んでいるだけで近所でも『すごい』などとチヤホヤされたりしたんですが、今はできるだけどこに住んでいるのか、バレないようにしています」
感染者が出たというのは事実なのか。管理する三井不動産レジデンシャルサービスに問い合わせたところ、「個別の案件についてはお答えしかねる」との回答。ただし同物件を扱う不動産仲介業者に聞いたところ「4月中旬に感染者が1人出たと聞いている」と認めた。
前出の住人によれば、エントランスの貼り紙はその後、すぐに剝がされたという。資産価値が低下するので周知すべきではないという意見が上がったからだ。前出の三井不動産レジデンシャルサービスは「一般論として」と前置きしたうえでこう答えた。
「感染者が出た場合を含め、コロナ対応などは住民様による管理組合が主導で決定しています」
■パンデミックが浮かび上がらせたタワマンの闇
こうしてコロナ対応に関する住民のコンセンサス策定が急がれるなか、会議が紛糾している管理組合も少なくなさそうだ。
江東区・豊洲エリアのタワマン管理組合の役員を務める40代男性は話す。
「目下の議題は、現在閉鎖中のジムやキッズルームをどうするか。再開は時期尚早とする声がある一方、閉鎖されたままだと共益費・管理費が払い損だと主張する人もいる。再開するにしても、今後の感染予防にかかるコストをどうするかという問題もあり、頭が痛い。
閉鎖されていた間の施設管理費の一部について、運営委託先の業者に返還を求めようという動きもあります。しかし、われわれ管理組合の役員は、委託先の業者から接待を受けていて、あまり大きくは出られない事情もある。管理費の返還について特に消極的なのが組合長。私たち以上の接待を受けているのではないかと、役員の中でも疑念が膨らんでいます」
住人の分断や、施設を巡るいざこざは各地で起きている。パンデミックが浮かび上がらせたタワマンの闇はあまりにも深い。
(週刊SPA!編集部)
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