「週3勤務で給与6割」みずほで始まった"銀行マンの新しい働き方"はアリか

プレジデントオンライン / 2021年1月7日 11時15分

インタビューに答えるみずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長=2020年6月3日、東京都千代田区の同本社 - 写真=時事通信フォト

■約4万5000人のグループ社員を対象に希望者の募集

3メガバンクグループの一角、みずほフィナンシャルグループ(FG)の“行動変容”が金融界で一躍注目の的となっている。

坂井辰史社長が2020年10月6日に週休3日・4日制の導入を表明し、労使協議を経て12月にはみずほ銀行をはじめ信託銀行、証券など約4万5000人のグループ社員を対象に希望者の募集を始めた。

本人希望の限定付きとはいえ、金融界で最も硬直化した日本型の制度が根付く銀行大手が、先鋭的な施策に打って出たインパクトは大きい。坂井社長は「コロナで浮き彫りになった気付きを変化につなげる」と導入の狙いを強調する。

3メガバンクで初の試みであるのは言うまでもない。

金融界でも週のほぼ半分の休日を取得できる制度は、SOMPOホールディング(HD)傘下のSOMPOひまわり生命保険やSMBC日興証券が育児・介護者や60歳以上と対象を限定して導入しているくらいで、事業会社を含めても事例は少ない。

■給与は週休3日で従来の8割、週休4日は6割に減る

みずほFGは併せて、リモートワークの推進、サテライトオフィスの拡大、フレックスタイムの対象者の拡大と、場所や曜日・時間にとらわれない柔軟な働き方を推進する方針を発表した。

休日が増えた分、リカレント(学び直し)や資格取得などでスキルアップを図り、2019年に解禁した副業と併せて、今後の業務の充実やセカンドキャリア形成につなげることを後押しする。給与は週休3日で従来の8割、週休4日は6割に減る。

ただ、銀行が置かれた現状の厳しい経営環境もあり、従来の殻を破った働き方改革も一般の目には人件費圧縮(コストカット)、さらには人員削減という負の側面に向かいがちだ。

確かに、コロナ禍以前からみずほFGに限らず3メガバンクは本業での稼ぐ力が落ち、事業モデルの大転換を迫られてきた。日本銀行によるマイナス金利政策の副作用が国内事業を直撃し、大量採用した人員を全国や大都市圏に張り巡らせた店舗に配置する伝統的な事業モデルは立ち行かなくなった。

さらに、人工知能(AI)や金融とIT(情報技術)が融合するフィンテックの新興勢力による市場参入のほか、業務面においてはコンピューターでオフィスの定型業務を自動化するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の導入といった技術革新が人手を介した伝統的な事業モデルに「NO」を突きつけた。

■コロナ禍が「構造不況」の企業文化を動かすてこになった

その結果、3メガバンクは国内での人員、店舗の削減といったダウンサイジングを余儀なくされ、中長期的に取り組む「業務量削減」と呼ぶ、実質的な人員、店舗のリストラ策を打ち出さざるを得なかった。

それに追い打ちをかけたコロナ禍は「対面型」を重視してきた取引から「非対面型」への転換をいや応なしに迫り、デジタル領域への新たな投資も避けて通れない喫緊の課題となっている。

この点について、12月24日に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が発表した傘下の三菱UFJ銀行のトップ人事で、次期頭取に内定した半沢淳一取締役常務執行役員は「デジタルシフトで成長可能だ。顧客と現場を起点とした新しいサービスを作る」と述べ、課題となっている個人向けの国内リテール分野の再建に向けてデジタル化の加速を力説した。

それは単に「人余り」を解消するばかりでなく、多様な働き方を通じて行員一人ひとりの生産性を高める努力を同時進行的に進めなければならないことにもなる。その意味で、全くの想定外だったコロナ禍は「構造不況」に陥ったメガバンクに新しい働き方を通じて伝統的なビジネスモデルの変革、ひいては企業文化の変化をも促すことに作用する。

■明治安田生命は「地方在住のまま本社部門所属」を募集

新しい働き方への取り組みは、生命保険大手でも進む。

明治安田生命保険は基幹業務に当たる総合職のうち転居・転勤のない約6000人の地域型の職員を対象に、在籍する地方在住のまま本社部門に所属して従事する職種を募集し、2021年4月の異動時から試験運用する。すでに2020年9月から若干名の募集を始めた。

コロナ禍で広く企業の間に広がったテレワークを活用した「リモート型」の職種として、本社の個人・法人分野で新契約の査定や契約保全、保険金・給付金支払い業務やダイバーシティ(人材の多様性)関連の業務に当たる。

対面での相談
写真=iStock.com/scyther5
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scyther5

この試験運用を経て2022年度から本格運用する方針だ。

生保大手は銀行大手や証券大手に比べて全国にきめ細かく営業拠点を展開しており、明治安田生命も全国に1000カ所を超える拠点を設けている。

試験運用するリモート型の職員は自宅での勤務のほか、最寄りの支店や営業所をサテライトオフィスとして活用し業務に当たる。

■「リモート型職員」「契約社員の正社員化」は生保大手で初

その一方で同社は、主に定型の事務業務に当たる約2500人を抱える契約社員について、2021年4月から希望者全員、約2000人規模で総合職の地域型への正社員化を進める。リモート型職員、契約社員の正社員化はどちらも生保大手では初の試みだ。

人余りの3メガバンクと生保大手の事情は異なり、生保大手は将来的に経営を支えるリーダー層が手薄だ。

明治安田生命の場合、現状で総合職の数は40~50歳代が20~30歳代を上回り、10年後、さらにその先の次世代リーダーの担い手が大幅に不足するのは避けられない。総合職のうちで国内外での転居・転勤がある全国型は、40歳代は約1400人いる。これが10年後には800人に減る。

コロナ禍を抜きにしても、将来を見据えた場合、人材力の低下に強い危機感を抱かざるを得ない。

このため、本来、2020年度からスタートするはずだった中期経営計画についてはコロナ禍で1年先送りしたものの、並行して実施する計画だった「人事マネジメント改革」だけは、当初の予定通りに2020年度からの実施に踏み切った。そこでは、契約社員の正社員化をはじめとした人事運用の改革を相次いで打ち出している。

■東京海上はエリア職の「社内副業」を推進

損害保険大手もウィズコロナ時代を見据えた新しい働き方の導入には積極的だ。

東京海上日動火災保険は2020年9月に、地方に勤務する転居・転勤のない総合職のエリア職が本社企画部門のプロジェクトに参加できる制度を創設した。通常の業務から一定の時間を割いてリモートで参加でき、エリア職のキャリアアップを支援する「社内副業」と同社は位置付ける。

このほかにも損保大手各社は、契約者らからの商品への問い合わせなどの対応に当たるコールセンターの業務でも在宅勤務の導入を進めつつある。この分野は、個人情報を扱う関係でこれまで導入が難しいとされてきた。しかし、セキュリティー面を強化した受電対応パソコンの導入などにより在宅勤務の導入を可能にしたのである。

■対面方式が常態だった金融機関で、働き方改革は続くか

いずれも、コロナ禍のさなか、一気に拡大したテレワーク、リモートワークが後押しした新しい働き方のスタイルであるのは言うまでもない。さながらコロナ禍が出遅れていた金融機関の生産性向上に向けて背中を押した格好だ。

しかし、対面方式が常態だった金融機関の業務にあって、新しい働き方の導入は手探り状態であることに疑いの余地はない。

「リアルとリモートのハイブリッド」を目指すという方向性を掲げるのはたやすい。ただ、コロナ禍という未曽有の難物に最適解がないのも現実。

金融機関大手に限らずとも企業は試行錯誤を繰り返すしかない。この先も新しい働き方、人事制度改革が一層、進むに違いない。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史)

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