民主党完全勝利と「トランプ・クーデター」が示す米国の末路と日本への大影響

プレジデントオンライン / 2021年1月7日 18時15分

大統領選結果に抗議の集会 トランプ大統領らが演説=2021年1月6日 - 写真=AP/アフロ

衝撃の事件が起きた。アメリカの首都ワシントンD.C.で1月6日、バイデン氏の大統領選挙の勝利確定に抗議するトランプ氏の支持者といわれる人々が連邦議会議事堂に侵入。議員らが避難する事態になっただけでなく、女性一人が撃たれて死亡した。アメリカで何が起こったのか、NY在住のジャーナリスト・佐藤則男氏が速報する。

■全米衝撃の連邦議会議事堂での女性の死

今、アメリカ時間1月6日午前3時半である。

痛ましい事件が起こった。

民主党のジョー・バイデン氏の大統領選勝利の選挙結果を確定させるために連邦議会議事堂で開かれていた、上下両院合同会議のさなか、ドナルド・トランプ大統領の支持者と目される人々が議事堂内に侵入。議事堂内で白人女性一人が撃たれ死亡した(その後、死者が計4人との報道もある)。トランプ支持者と報道されたが、詳しい身元や撃たれた状況は原稿執筆段階では不明だ。

恐ろしいことが起きた。民衆を扇動し、暴動によって選挙の結果を覆そうとする試みは、本人がそれを明確に意図したか否かはさておき、ワシントンに支持者を集め煽った以上、「トランプ・クーデター」のそしりをまぬがれない。

とはいえ、トランプが主犯だと決めつけるのは早計である。映像を見ていた限り、この事件はかなり怪しい。筆者は大きな疑いを持っている。

あらかじめトランプ支持者が大勢集まることはわかっていた。万が一の事態も想定し、十分に備える時間はあった。しかし、集まった人々が突然議事堂に向かい、簡単に内部に侵入した。それを阻む警察も軍隊もいなかった。

侵入した人々も、ろくに武器を携行しておらず、当初は暴力をふるうこともなかった。それがあんな事態に発展した。警察の動きもおかしかった。見ていると、しばらくして駆け付けたパトカーから2、3名の警官が出てきただけだった。

捜査結果が出るまで、判断は留保したい。トランプ大統領、右翼、左翼、共和党、民主党、それぞれの思惑が絡み合い、誰かが糸を引いている。そこに「フェイク」な力学が働いている。

トランプ大統領が関係しているかぎり、ものごとは単純ではない。謀略、策略、あらゆるものが含まれている可能性があり、安易な論評は避けたい。しかしながら、おそらく真実は出てこないであろう。

■民主党「トリプル・ブルー政権」誕生

この日はジョージア州選出の上院議員を決める日で、選挙が行われ、民主党候補のラファエル・ウォーノック氏の勝利が確定し、もう一人の候補であるジョン・オソフ氏も大接戦の末、獲得票数で優っている。しかし、あまりにも僅差なので、対立候補の要求により、票の数え直しが行われている。

だが、最初のカウントが逆転する可能性はないと思われる。民主党が上院の最後の2議席を獲得し、大統領・上院多数・下院多数が民主党になる「トリプル・ブルー政権」に突入することになる。

筆者は、開票特別番組を、トランプと共和党支持のFOXニュースで見ていた。それには、特別の理由があった。

筆者は、このジョージア州の上院議員特別選挙に参謀役、いや、戦略の主役として、共和党のストラテジストして有名で「選挙の天才」とまでいわれたカール・クリスチャン・ローブ氏が含まれていることを知っていた。しかし選挙中、このローブ氏がメディアに顔を出さなかったのである。何か秘密があったのであろうか、といぶかしく思っていた。

■「選挙の天才」「影の大統領」カール・ローブ

ローブ氏は、アメリカの政治コンサルタントである。ジョージ・W・ブッシュ政権において次席補佐官、大統領政策・戦略担当上級顧問を務めた。

ブッシュ政権下で、ホワイトハウスにおいて数々の役職を兼ねていたことやその権力の大きさから、ディック・チェイニー副大統領とともに「影の大統領」、あるいは「カール国王」などと呼ばれていた。CIA職員の身分漏洩疑惑や、ホワイトハウスの司法省人事介入に対し捜査が行われるなどの事件があったが、大統領令により打ち切られた。その背後にローブ氏がいたといわれる。

結局、2007年8月31日付でホワイトハウスにおけるすべての役職を辞任。ホワイトハウスを去った。

ワシントンDC議事堂は政治を分断した
写真=iStock.com/zimmytws
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zimmytws

■トランプとローブのせめぎ合い

筆者の興味の中心は、ローブ氏がこのジョージア州の上院議員特別選挙でどう動くかにあった。

トランプ大統領が現地に来ることは、明らかに本人の強い意志があった。しかし、共和党候補のケリー・ロフラー氏とデビッド・パーデュー氏にとっては、トランプ大統領の来訪が選挙にマイナスになることは自明であった。

トランプ氏にそれを「するな」ということが言える人物が共和党にはおらず、結局ジョージアに来ることになった。

トランプ氏にとって、2人の候補を応援し、その当選を助けることは二義的な目的であった。彼の真の目的は、11月の大統領選挙が不正であると訴え、選挙の結果、つまり自分が負けたことをひっくり返すことにある。その機会として、ジョージア州の上院議員特別選挙を利用したのであった。

ローブ氏は、そのような動機を持つトランプ大統領を自分の戦略の中に組み込んで勝利戦略を組む、という難しい状況に、好むと好まざるとにかかわらず追い込まれたと思う。

■苦肉の策

共和党の2人の候補の戦略を見ると、苦しい状況から生まれたローブ氏の戦略がどんなものであったかが読める。

ローブ氏の戦略の特徴は、まず、綿密な選挙区状況の分析にもとづき、選挙民を決定的に分割する軸をつくる。それには、その軸になる要素をつかまなければならない。

調査と分析の結果、出てきたのが、民主党候補を社会主義者、共産主義者と決めつけ、激しい攻撃をする戦略だった。

さらに黒人層も所得が増え、都市近郊に住むようになり、産業の発展により黒人のエリート層が増加していることから、ローブ氏の戦略は彼らを捉えることにお成功した。同時に、トランプ大統領は、州知事や州の官僚、特に選挙管理委員会長を批判し、前回の選挙に「ごまかし」があったことを強調した。

共和党支持者がトランプ大統領に嫌気がさし、投票所に行かなくなっては大変だと、徹底的に投票に行くよう戸別訪問で呼びかけた。トランプ大統領の訪問から来るネガティブな影響を恐れて、苦労して練った作戦であったと思う。

■天才参謀の敗北

前出のFOXニュースの特別選挙報道に戻ろう。

同局の看板政治番組である「ショーン・ハニティ・ショー」で、これまで姿を現さなかったローブ氏がついに登場したのである。

このショーは、政治分野でトップの視聴率の番組だ。司会者であり、保守系の政治評論家でもあるハニティ氏がさまざまな質問をした後で、締めくくりに「共和党が勝ちそうですね」と持ち掛けると、ローブ氏の顔があいまいとなり、何とも答えなかった。

いつもは、そのような質問には丁寧に答える人である。筆者の感覚として、もしや共和党は勝てないと悲観的になったのではないか、と読んだ。そして、筆者自身悲観した。

■アメリカが大きく揺れる

筆者がなぜ悲観的になったのか。

アメリカの大統領選挙は、筆者が少年のころから興味を持ち、これまで、ケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター、レーガン、ブッシュ(父親)、クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプ各大統領を追ってきた。アメリカの大統領選挙は右と左が入れ替わるのが常であって、問題は右か左かではなく、「その振幅の大きさ」である。

振幅の大きさは何によって決まるか。筆者の考えでは、次のようになる。

新しくできた政権は、その前の政権が左寄りに強ければ、取って代わった政権はきわめて大きな右への移動となる。右寄りに強ければ、取って代わった政権は大きな左への移動になる。

それでは、そのような状況が最も強く現れるのは、どんな状況か。それは、立法、行政、司法の権限が集中する体制が築かれたときである。

おわかりの通り、行政の最高峰であるホワイトハウス、立法府である議会、法律をつかさどる司法権を一つの党が握ったときである。

■最悪の結果

筆者の友人で、ウォール・ストリートで長年働くアメリカ人男性がジョージア州の上院議員選挙の結果を見て、「うん、これは嫌なことになった」と言った。そして続けた。「民主党のリベラルが好きにやるようになる。とんだ事態になると思う」。ウォール・ストリートはがっかりだと思う。

筆者も同感である。「一党独裁」は、チェック機能がよほど整っていないと、アメリカの場合は不正が起きたり、不適格な方向に流れたりする傾向にある。だから、筆者の友人は、この上院議員選挙は共和党に勝たせたかったのである。

アメリカは、「ねじれ」の状態が良いのである。

中国および日本とアメリカ
写真=iStock.com/pengpeng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pengpeng

最後に。

上下両院合同会議は、この原稿を書いている時点でまだ続いている。これが1月20日の大統領就任式までにどう決着するかは、続報したいと思う。しかし、トランプはこれでいよいよ終わりが近づいた。今回の事件で「何もしなかった」ためにアメリカ国民に潰される。

日本の読者のみなさまにお伝えしたいのは、もう民主党政権の「トリプル・ブルー」を前提にして、これからの日本の対応を早急に考えねばならない、準備を進めなければならない、ということだ。

その中心は外交政策になると思う。尖閣・沖縄など、中国との戦いが始まる。

民主党は伝統的に外交政策において軸足がないといわれる。それゆえフレキシブルなようにも見えるが、外交交渉で大切な大枠を決めるところで壁にぶつかることが多い。実際のところは、外交より内政に注意を向ける政党で、外国との交渉は苦手なのである。

相手側から見れば、交渉はやりにくい。

日本は、自分たちの軸足を固め、明確な目的とビジョンを持って事に当たらないと振り回されることになる。他力本願では事態は動かない。日本の政治・外交の本当の力が試される局面がやってくる。

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佐藤 則男(さとう・のりお)
ジャーナリスト
早稲田大学を卒業し、1971年に朝日新聞英字紙 Asahi Evening News(現International Herald Tribune/The Asahi Shimbun)入社。その後、TDK本社勤務、ニューヨーク勤務を経て、1983年国際連合予算局に勤務。のちに国連事務総長に就任するコフィ・アナン氏の下で働く。1985年、パートナーと国際ビジネスコンサルティング会社、Strategic Planners International, Inc.,ニューヨーク州法人を設立。アメリカ企業、日本企業をクライアントに、マーケティング、日米市場進出、M&A、投資などのビジネス戦略立案、および実施などを担う。同時にジャーナリズム活動に復帰。「文藝春秋」「SAPIO」などにNY発の鋭い分析を基にした記事を寄稿。米国コロンビア大学経営大学院卒。MBA取得。

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(ジャーナリスト 佐藤 則男)

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