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「トランプ大統領はツイッター永久停止」それに比べ日本のSNS規制はゆるすぎる

プレジデントオンライン / 2021年1月14日 17時15分

ワシントンの米連邦議会議事堂に乱入したトランプ大統領の支持者たち=2021年1月6日 - 写真=AFP/時事通信フォト

■トランプ大統領の「私たちを黙らせることはできない」も削除

ツイッター社は2021年1月6日、トランプ大統領の「ツイッター」アカウントを、米連邦議会議事堂乱入事件に絡んで「重大な規約違反があった」として、一時凍結した。

その後、いったんはこの処置を解除したものの、2日後の8日になって、トランプ大統領の新たな投稿を「さらなる暴力をあおる危険がある」と判断、「暴力の賛美を禁じる」規約に違反したとして、アカウントの永久停止に踏み切った。

問題視したのは、「私に投票してくれた偉大な米国の愛国者たちは、将来にわたって巨大な声を持つ」「私は1月20日の大統領就任式には出席しない」の2つの投稿。いずれも「議事堂占拠への支持を表明したと解釈され、就任式での暴力行為を企てている人々を鼓舞しかねない」として「直ちにツイッターのサービスから永久に停止されるべき」と結論づけたという。

直後に、トランプ大統領は、大統領の公式アカウントを使って「ツイッターの社員は、私を黙らせるために、民主党や過激左翼と結託してアカウントを削除した」「近く自分たちのプラットフォームを立ち上げることを検討している。私たちを黙らせることはできない」と反発したが、「アカウントの停止に対抗するために別のアカウントを使うことは規定に反する」として、直ちに削除された。

■「暴動の扇動に使われており、状況が一変した」

「フェイスブック」と傘下の「インスタグラム」も6日、「規約違反を確認した」として、トランプ氏のアカウントを一時凍結。7日には、無期限に凍結して投稿ができないようにした。これまでトランプ大統領には一貫して寛容だったが、米連邦議会議事堂乱入事件を機に、姿勢を大きく転換した。

マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「賛否両論ある内容でも、人々は政治的な発言に最大限アクセスする権利がある」との原則論を示す一方、「現在は暴動の扇動に使われており、状況が一変した」と方針転換の理由を説明、「政権移行期にフェイスブックのサービスの利用を続けることを許容するリスクは大きすぎる」と語った。

また、アマゾン傘下の動画配信サービス「ツイッチ」と、スナップの写真・動画共有アプリ「スナップチャット」も、同様の措置を取った。

グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」は、大統領選に関わる一部のチャンネルについて一時的に投稿や生配信を制限した。

■SNS各社から「離縁状」を突きつけられた痛手は大きい

一方、共和党支持者や過激な極右団体のメンバーの間で利用が広がっている新興SNS「パーラー」も8日、配信の一時停止を発表した。アマゾンが「暴力行為をあおる投稿が続き、社会への脅威が差し迫っている」などとして、パーラーへのサーバー提供を取り止めたためで、グーグルとアップルもアプリのダウンロードをストップした。

ソーシャルメディア用のアイコン
写真=iStock.com/DKart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DKart

「世界最高の表現の自由のプラットフォーム」がうたい文句で利用者の投稿内容をチェックしないことがウリのパーラーだが、巨大プラットフォーム企業が相次いでパーラーとの関係を遮断し、機能不全に陥ったのだ。

トランプ大統領は、既存のマスメディアを敵視して「フェイクニュース」と決めつけ、自らの主張を支持者に直接訴える手段としてツイッターはじめSNSを最大の政治的武器としてきたが、SNS各社から「離縁状」を突きつけられた痛手は大きく、「トランプ劇場」は風前の灯になりつつある。

■現実とはかけ離れた「もう一つの世界」を作り出したが…

ツイッターは約8800万人、フェイスブックは約3500万人のフォロワーを抱える。ここに向けてトランプ大統領は、多い時には1日に200回も投稿。世界の最高権力者の発信に、米国だけでなく世界中が注目せざるを得ないようにして政治的求心力を高めてきた。

実際、主要な政策、閣僚の起用や更迭、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談開催など、前ぶれなしにツイッターで突然公表するケースが相次ぎ、そのたびに世界を驚かせた。

一方、2020年11月の大統領選の後、ツイッターで「不正選挙が起きた」と根拠を示さない主張を繰り返し、この結果、共和党支持者の6割超が「バイデン氏が勝利したのは不正選挙のため」と信じるという、現実とはかけ離れた「もう一つの世界」を作り出した。

良くも悪しくも「ツイッター政治」を駆使してきたトランプ大統領は今後、既存のSNSに代わる新たな情報発信手段を模索するとみられるが、広範な支持者への直接的な訴えは難しくなりそうだ。

■ネット企業の躍進を支えた通信品位法230条の「免責条項」

米国の巨大プラットフォーム企業は、ネット上での表現の自由を重視する通信品位法230条(いわゆる免責条項)により、手厚く保護されてきた。

1996年に制定された通信品位法230条は、内容に問題のある投稿を発信しても、問題ありとして投稿を削除しても、ネット企業は原則的に法的責任を問われないと定めている。表現の自由を重視する米国ならではの法律で、発信情報の責任を問われる既存のマスメディアを横目に、ネット企業が躍進するバックグラウンドとなった。

だが、2016年の大統領選以降、根拠のない妄言をつぶやき、事実に基づかないフェイクニュースを乱発するトランプ大統領の登場で、SNS各社は翻弄される。

それまで、大半の投稿は内容の真偽にかかわらず掲載してきたが、社会的影響力の増大に伴ってフェイクニュースなど負の部分への懸念が顕在化し、投稿の内容に一定のチェックを行わざるを得ない状況に追い込まれた。問題があると判断した投稿には警告マークや注記をつけ、利用者に注意喚起をする措置を次々にとった。

しかしながら、世界各国の指導者の投稿は公共性を考慮。トランプ大統領の投稿もフェイクニュースかどうかが不明であっても、可能な限り閲覧できるようにしてきた。

■規制の「強化と撤廃」の狭間で苦悩するSNS企業

こうした中、通信品位法230条の見直しが俎上に上ってきた。

民主党サイドからは、トランプ大統領の投稿を規制する立場で、フェイクニュースの拡散や選挙に影響を与えかねない悪質な投稿には「もっと責任をもって関与せよ」という圧力が強まった。

一方、共和党サイドからは、トランプ大統領の投稿を妨げない視点で、ネット企業が自らの判断で投稿を削除することは表現の自由を保障する合衆国憲法修正第1条に抵触すると指摘され、「検閲のような関与はするな」と迫られた。

両党とも、見直しという点では一致しているものの、一方は規制強化、片や規制撤廃という、まったく正反対のアプローチだった。

2020年11月末には、上院の公聴会で、SNS各社のトップが呼び出され、通信品位法230条について本格的な議論が交わされるに至った。

■「表現の自由」は米国の民主主義の根幹にかかわる問題

SNS企業が利用者の投稿に相応の責任を負うことになれば、監視コストの増加、膨大な訴訟対策費用、サービスの利便性低下につながりかねない。さりとて、投稿を放置したままでは社会的なバッシングが激化する。SNS各社は、どちらを向いても厳しい指弾を受けることになった。

ただ、バイデン新大統領が就任し、民主党が下院に続いて上院も多数派となった状況では、民主党主導で見直しが進む可能性が高まりそうだ。

とは言っても、米国の世論が真っ二つに割れている現状を見れば、投稿の内容について「何が暴力の賛美に該当するのか」「何がフェイクニュースなのか」といった線引きを、民間企業が公正中立に行うことは至難と言わざるを得ない。

そんな苦悩の末、SNS各社は、米連邦議会議事堂乱入事件を機に、トランプ大統領の投稿を封殺するに至ったのである。

大統領という職にある人物が公共の秩序を破壊する結果をもたらしたとなれば、投稿の制限は一定の合理性がある。とはいえ、表現の自由を制限されることが無条件で認められるわけでもない。

■日本は法整備がなく悪質投稿は野放し状態

ドイツのメルケル首相が「表現の自由は基本的権利として重要。意見表明の自由を制限する行為は法に従うべきで、民間企業が決めるものではない」と問題視するのもうなずける。フランスのルメール経済・財務大臣も同様の見解を示すなど、強くなりすぎた巨大プラットフォーム企業に対する懸念も高まっている。

ことは、民主主義の根幹である表現の自由にかかわる問題だけに、簡単には答えは出そうにない。

一方、日本やEUには、米国の通信品位法に該当する法律はなく、巨大プラットフォーム企業に免責特権を与える法的根拠がない。そのため、民間企業に投稿の可否の線引きを求める議論はなじみにくい。

特に日本では、投稿の内容について議論が起きたり、アカウントの停止が問題になるケースは、ネットにおける中傷問題として語られることが多い。

記憶に新しいのは、フジテレビのテラスハウスに出演していたプロレスラーの木村花さんがSNSで受けた誹謗中傷に耐えかねて自殺した2020年5月の事件だ。12月半ばには、中傷の投稿をした加害者の1人が特定され、侮辱容疑で書類送検された。

この事件は大きな社会問題となり、政府は、悪質投稿の加害者を容易に特定できる新たな裁判手続きの創設を盛り込んだ「プロバイダー責任制限法」の改正案を通常国会に提出することになった。

ただ、投稿の削除は、SNS会社の自主的判断に委ねるとしており、誹謗中傷の投稿の拡散に限界があるのは否めない。SNS各社は、悪質な誹謗中傷を繰り返す場合はアカウントを凍結するとしているが、適用例は少なく、事実上、野放しになっているのが実態だ。

■日本のフェイクニュース対策は「ゆるすぎ」

一方、フェイクニュース対策は、大きな実害が出ていないこともあって、感度が鈍い状況が続いている。

2020年2月に総務省がまとめた報告書では、「事業者による情報の削除等の対応など、個別のコンテンツの内容判断に関わるものについては、表現の自由の確保などの観点から、政府の介入は極めて慎重であるべきだ」と、SNS企業に「自主的対策」を求めただけで、法的規制は見送り、強制力のある措置にはまったく踏み込まなかった。

SNSを運営する巨大プラットフォーム会社が米国の企業であっても、フェイクニュース対策で法的措置を取る国々が欧州を中心に増えている中、日本の政府は実質的に何もしないと宣言しているに等しい。

表現の自由や言論の自由との微妙な兼ね合いを差し置いても、現状の対策に「ゆるすぎ」の感は否めない。世界を震撼させているフェイクニュース対策に毅然とした姿勢をとることが求められている。

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水野 泰志(みずの・やすし)
メディア激動研究所 代表
1955年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で万博協会情報通信部門総編集長。現在、一般社団法人メディア激動研究所代表。日本大学法学部新聞学科で政治行動論、日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。

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(メディア激動研究所 代表 水野 泰志)

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