殿サマ気質、バブル債権……地銀再編の壁と、迫る最後の審判
プレジデントオンライン / 2021年2月2日 9時15分
■銀行同士をひっつけようという意図はない
地域の人口減や超低金利に苦しみ、2015年以降のこの5年でコア業務純益が約20%減少している地方銀行。「そもそも多すぎる」といわれるその数は、当然減る方向にあると思いますね。そこで日銀が「地方銀行同士がガッチンコ(合併、経営統合)したら、金利を優遇しますよ」という方針を決定し、地域内の銀行合併が独禁法の適用外と特例で認め、金融庁も公的資金を入れてあげますよ、と政府も日銀も地銀の再編を促していますから、この流れは、ちょっとやそっとじゃ変わりません。
ただ今の時期、地銀の果たす役割は非常に大きい。地方経済全般が特にコロナ禍で厳しい中で、地元の企業に融資を継続し、助けてあげなければいけません。コロナ禍でインバウンド消費が消滅し、Go Toトラベルで観光が少し持ち直したものの、中長期的には地方の経済基盤が少子高齢化でどんどんシュリンクしていて、高齢者が預けたお金も口座から動かずそのまま、という状況がずっと続いています。だから、地銀さんは皆思い切って貸し出しを増やしたんですよ。
しかしこれは、当初はいいように見えていますが、2年後や3年後、特に3年後にどうなるか。ここが一番のポイント。このあたりでいざフタを開けたら大量の不良債権を抱え込む状況になっている可能性があります。
そういう状況下で、我々は「第4のメガバンク構想」と銘打って動き出し、新持ち株会社のSBI地銀ホールディングスが島根銀、福島銀、筑邦銀、清水銀、東和銀の5行に出資。さらに、きらやか銀、仙台銀の2行を傘下に持つじもとホールディングスとも資本提携し、最終的には10行まで拡大します。
■我々の経営資源を使ってその質的変化を図っています
我々は、ともに自ら自行を変えていくのだという強い意志を持った地銀にはいろんなお手伝いをしましょう、と我々の経営資源を使ってその質的変化を図っています。たとえばIT化やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、OCR(光学文字読み取り)といったフィンテックの技術の力を借りた合理化、有能なポートフォリオマネージャーが不足している地銀の資産を我々がお預かりして高度な運用を代行するなどして収益を支えます。その成果はすでに確実に出ていて、島根銀行のこの上半期のコア業務純益は大幅に改善しました。
ただ、我々は別に銀行同士をひっつけようという意図はまったくありません。コスト削減のためにA行、B行をくっつけて事業規模を大きくしても規模の経済性は働かず、複数の事業の共有可能なプロセスを一元化しても、今の状況では大きなコスト削減にはつながらないのです。別に合併がダメだというわけではありませんが、我々がそれを狙ってどうこうするということはまったくありません。地銀は自ら考えて、合併がよいと判断したなら政府や日銀がそろえたお膳立てに乗っていけばいいと思っています。
しかし、地銀はこれまでそれぞれの地域の殿様ですから、昨日まで地元で競争してきたライバル地銀と今日からいっしょにやろうといっても、なかなかうまくはいきません。役員に限らず、部課長・次長に至るまで人事には必ず影響するし、A銀行のX支店を廃止してB銀行のY支店を使うことになった場合、X支店の人はどうなるの? という余剰人員の問題も出てきますから。3大メガバンクグループも、20年以上すったもんだしながら、近年ようやく少し落ち着いてきたところ。それだけの歳月がかかるものなのです。
加えて、かつてバブル崩壊の後始末のために注入した公的資金を、いまだに返済し切っていない地銀もまだ多い。これから経営がますます悪化して公的資金注入の話が出てきたら、まだ返済の終わっていない将来性も期待できない地銀にまた血税を使うことの是非を問う世論が出てくるであろうし、野党も反対するかもしれない。合併・事業統合はなかなか難しいと思います。
■地方創生に資する機能や資金を提供していきます
我々は3年以上前から、地方創生という国家目標に対して何ができるかを考え、地域金融機関の収益力強化に向けた取り組みをしてきていますし、菅さん(義偉首相)ともいろんなことを話してきました。地方創生のためには金融機関だけ強化しても無理で、地方自治体や地方の中堅・中小企業やその地方の人たちそのものに、何らかの形でアプローチしていかないと。そのために新会社・地方創生パートナーズを、志を同じくする複数のパートナーと共同で立ち上げ、戦略的指針をそこで練り上げ、傘下の会社を通じて地方創生に資する機能や資金を提供していきます。
コロナ禍によるリモートワークの進展という地方にとっての朗報もありますが、今後の地銀の経営陣は、やはり極めて難しい経営判断を下さねばなりませんし、新入行員の応募も激減している今、役員から末端までが夢を持ち、モチベーションを保ち続けるのはなかなか難しいかもしれません。
ただ、繰り返しますが大きな流れは変わりませんから、地銀の幹部・行員は皆生き残りの方策を自ら考え、行動すべきでしょう。
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SBIホールディングス代表取締役社長
1951年、兵庫県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村證券事業法人三部長などを経て、95年ソフトバンクに入社、常務取締役に就任。99年より現職。SBI大学院大学の理事長兼学長なども兼務する。
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(SBIホールディングス代表取締役社長 北尾 吉孝 構成=西川修一 撮影=的野弘路 写真=共同通信PHOTO)
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