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吉本興業会長「大阪万博"吉本館"をつくってみたい深い理由」

プレジデントオンライン / 2021年2月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Trodler

吉本興業が変革を進めている。大﨑洋会長は、吉本の活路は「地方創生・デジタル・アジア」という。この3つの柱は日本のビジネスパーソンが向き合わなければならない壁でもある。吉本は何に取り組んでいるのか、取材した。

■大﨑洋・吉本興業会長「まじめに、お笑いの話」

──コロナ禍でエンターテインメントは崩壊などといわれている。吉本興業にとって、2020年を振り返るとどういう年だったか。

大阪の「なんばグランド花月」や東京の「ルミネtheよしもと」など、日本全国に劇場が14館あるが、20年3月からは観客を入れた劇場公演を中止した。テレビ番組も収録が難しくなり、再放送ばかりになった。収入源の多くが絶たれてしまった。所属芸人だけで6000人もいる吉本興業だが、芸能事務所の中で最も新型コロナウイルスの影響を受けただろう。

ただ自分たちが「大変だ、大変だ」と悲鳴を上げるのは違う。日本中、世界中の皆さんが大変だし、より厳しい状況にある人もいる。そんな中、吉本興業にできることは、新しいエンターテインメントに挑戦することだと思う。「星に願いを」ではないが、「笑いに願いを」込めて、世の中の人たちが幸せになるためにできることをする。

■3.11で気づいた若者の熱すぎる想い

──吉本興業の未来戦略として「地方創生・デジタル・アジア」の3本柱を唱えている。まず、なぜ「地方」なのか。

吉本興業 大崎洋会長
吉本興業 大﨑洋会長

思い起こせば11年、東日本大震災が起こった後、吉本興業東京本部がある新宿で、20~30代くらいの若い芸人たちが、自発的に「募金」と書いた段ボール箱を持って立っていた。僕らの世代だと被災者を支援したいという気持ちは持っていても、「募金箱を持って立つなんて、自分だけ目立ってしまうし、なんか格好悪い」とか何かと理由をつけて行動に移せない。それなのに、ミレニアル世代といわれる20~30代の若い世代は実際に行動していた。

吉本の若い芸人や社員たちに話を聞いても、特に3.11以降は「地方のためになる仕事をしたい」と皆が言う。それで実際に芸人とマネジャーが一緒になって、地方で営業してスポンサーを見つけてきたりする。テレビに出てお笑いをするとか、新聞の風刺漫画のような反体制的なお笑いをするとか、そういう今までのお笑いとは違う、新しいムーブメントが生まれている。

そこには、資本主義の歪みが背景にあるかもしれない。若い世代はその歪みを感じていて、「地元のために何かやりたい、社会の中の恵まれていない人たちのために僕たちは何かしたい」と、僕のような60代くらいの人間が想像しているよりも数倍強く思っていることに気づいたのが、地方創生に取り組むきっかけのひとつだ。

──吉本興業の地元である大阪では、25年に大阪万博がある。大阪、あるいは関西の創生戦略はあるか

大阪、関西はいいところがいっぱいあるのに、それを生かしきれていない。いわゆる、ゆでガエル状態だ。みんな「ああ、いいお湯だなあ」と思っている。だが実際は「大阪、ええお湯や」「いやいや、もう、煮えたぎってまっせ」という具合だ。だから、万博は関西にとってラストチャンスだ。このチャンスを逃すと、本当にゆでガエルどころか、関西は死んでしまうと強く思っている。

大阪から始まった吉本興業にしても、大阪に生まれた僕としても、大きなことから小さなことまで、25年にすべてをかける、すべてをつなげる。

まず万博で「吉本館」というパビリオンがつくれるならつくりたい。そこでは、日本中の若き英知を集めて、貧困や環境問題など社会課題の解決を世界中の人と考える場をつくりたい。地方創生以外に柱となっているアジアとの連携もしたいし、デジタルで何ができるか考えて実行する場にしたい。

もちろん、漫才では万博に絡めたネタを考えてほしいと思うし、吉本新喜劇では万博にちなんだことをしたい。できることはなんでもやる。最近でいえば、東京大学などの大学との連携などを進めていて、そのネットワークを生かして新しい挑戦をしようと考えている。吉本はちっぽけな会社だし、あれこれ言われることも多いが、新しい吉本に生まれ変わる、つくり替えるラストチャンスが大阪万博だと思う。

■BSチャンネルでCMゼロの番組を作る

──3本柱の2つ目、デジタル戦略については、今後は何をするのか。20年4月には、吉本興業とユーチューバー・プロダクションであるUUUM(ウーム)が資本業務提携を締結した。

新しいメディアの挑戦をさらに進める。デジタルに力を入れるという話は、コロナ以前から提唱していたから、コロナがあろうがなかろうが進めていたことだ。

メディアの歴史を見たら、デジタルへの挑戦は当然やるべきことだ。古くは舞台があって、ラジオがあって、映画があって、テレビがあってというようにきたわけで、ユーチューブやネットフリックスといった新しいメディアが出てきたら、新しいメディアで何ができるか楽しみながら挑戦するというのは当たり前のことだ。

ユーチューブでいえば、吉本はマルチチャンネルネットワーク(MCN)機能を持つ数少ない会社のひとつ。MCNとは、一言でいえばユーチューバーのマネジメントをする会社で、それだけ吉本はユーチューブ進出に本気だ。

もちろん、テレビがなくなるとか、映画やラジオがなくなるという話ではない。芸人が活躍できる場を増やすということで、新しい舞台のひとつがユーチューブということだ。

──新しい場といえば、21年度にはBS放送「よしもとチャンネル」(仮称)が開局予定だが。

今さらどうして円熟化したテレビ放送で事業をするのかという意見もあるが、僕はテレビ放送が円熟しているとは思っていない。テレビ放送は1953年から始まって67年が経つが、「たかだか67年」という感覚だ。

ゼロからテレビ放送というものを考えてみるといい。もしも2020年の今、テレビ放送が始まったとしたら、どんな放送局ができるのかと考える。

例えば、コマーシャルという概念がなかったらどうだろう。コマーシャルがあるから、テレビには「編成」というものがある。夜7時からはこの番組、8時からはあの番組と編成する。しかし、コマーシャルがなかったら、時間割は気にしなくなる。「じゃあ、このへんでこの番組は終わりにしましょう。次の番組に移りましょう」というふうに自由に番組がつくれる。だから、BSの「よしもとチャンネル」は、本当にコマーシャルなしでやって、まったく新しい番組をつくりたい。

■ベンチャー投資をテレビで可能にする

──ビジネスをゼロから考えるという発想は面白い。

今は混乱して新しい挑戦が求められる時代だが、新しいものを生み出すときは、このようにゼロから考えることが大切だ。

僕が吉本に入社してダウンタウンたちと「心斎橋筋2丁目劇場」という小さな劇場をつくったときも、ゼロから考えた。「アンチ吉本、アンチ花月」を掲げて、この劇場をどうしようかと既成概念にとわられず考えた。

例えば、「チケット、作る? 作らへん?」「漫才する? せえへん?」「とりあえず漫才はやろか」とか。「チケットのもぎりも、中高生と同じくらいの子にしてみよか。そしたら、お客さんとすごく仲良くなれる。『今日、誰、見にきたん?』『誰と誰、面白かったん?』『今、どんなものが流行ってるん?』とか、その子たちに聞いたら、皆わかるようになる」とか。

それで、心斎橋筋2丁目劇場からは、ダウンタウンをはじめ、今田耕司、千原兄弟、ナインティナインなどが生まれていった。

──BSのコマーシャルなしというのは画期的だと思うが、事業である以上、ビジネスモデルはどうするのか。

BSでは「起業番組」をつくる。例えば、秋田のどこかのおばあちゃんが田んぼを耕してお米を売る番組をつくる。そこでつくるお米を、村の青年団と協力しながら、ブランド化して商品にする。AIやGPSなどのテクノロジーを使って新しい農業をつくるとか、新しい流通網をつくって日本だけでなく中国でもそのお米を売ってみたり。そういうチャレンジを20話くらいのシリーズにする。賛同してもらえる人からは、クラウドファンディングという形で資金を集める。会社もつくって拡大させてIPO(株式公開)もする。

ビジネスの指標は、賛同してくれる仲間がどれくらいいるかということなので、視聴率は関係ない。テレビの最大の課題は視聴率至上主義だが、「よしもとチャンネル」では、それを打破して、視聴率はまったく気にしない。吉本興業は数%の出資金を出してリターンを得るというモデルだ。

──視聴者はテレビショッピングのような感覚でベンチャー投資ができるようになるということか。

そのとおりで、今、財務上のスキームをつくっているところだ。唯一の難点は、最初の番組の制作費をどう捻出するかということ。例えば、30分番組を3万円という僅かな制作費でつくれるか。そのために、前述した地方のために働きたいという芸人たちが力を貸し知恵を出すというわけだ。

■日本のお笑いは中国でもウケる

──3本柱の最後であるアジア戦略はどうか。中国では、19年に上海で吉本新喜劇を上演しているし、中国国営放送テレビ局(CCTV)などからなる中央広播電視総台(CMG)や、中国メディア大手の上海メディアグループ(SMG)などと提携を進めている。

僕が初めて中国を訪ねたのは30年前の1990年。30年間に何度も中国に通って、老朋友(親友)もできた。そのままダラダラと「中国に老朋友がいますよ」で終わってしまうと思っていたら、日中両政府が協調していきたいという流れに変わった。

ビジネスでも日本は人口減少でマーケットが縮小しているため、隣国の巨大マーケットとどう向き合っていくかというのが、日本のビジネスパーソン一人一人の大きな課題だ。そこで、生き残りのチャンスと捉えて、中国をはじめとしたアジア戦略を掲げた。

具体的には、中国のメディアと共同でコンテンツの企画開発・制作を行ったり、日中の若者の人材育成と交流を行ったりしていく。

──パンデミックの影響で習近平国家主席の来日が中止となるなど日中間の交流が停滞しているが、吉本興業のアジア事業の現状はどうか。

中国との連携は、コロナにかかわらず粛々と進めている。中国や韓国といった国々とは、政治的には衝突することがあるが、隣の国なのだから政治とは別にエンタメや芸能の交流は進めたほうがいい。エンタメで交流が進んだら、どういうものが生まれるのかは未知数で、アジアも地方創生とデジタルと同様にチャレンジだ。

国境も、地域差も、メディアの壁もなく、吉本はあらゆるボーダーに挑戦し、新しいエンタメをつくっていきたい。

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大﨑 洋(おおさき・ひろし)
吉本興業会長
1953年、大阪府生まれ。関西大学社会学部卒業後、吉本興業に入社。2009年、吉本興業代表取締役社長、19年より現職。近著に『ビリギャル』著者・坪田信貴氏との共著『吉本興業の約束 エンタメの未来戦略』(文春新書)。

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(吉本興業会長 大﨑 洋 取材・構成=結城遼大 撮影=市来朋久)

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