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まさか自分が…「濃厚接触者」認定された人が味わうお先真っ暗な絶望感

プレジデントオンライン / 2021年1月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hisa nishiya

「保健所から連絡がきた時は背筋がゾーッとしました」。昨年末、訪問介護先でコロナ感染者が出たことで濃厚接触者となった男性ケアマネ。PCR検査の結果は陰性だったが、その後も「自宅内でマスクをしてくれない利用者さんが多く、いつもビクビクしている」という。さらに訪問介護者はコロナワクチン優先接種対象外になっており、介護崩壊はいつ起きてもおかしくない――。

■訪問介護のケアマネに保健所から電話「あなたは濃厚接触者です」

男性ケアマネジャーSさんは、埼玉県のある市で介護の仕事をしている。

「昨年の暮れ、担当する利用者さん(Mさん・80代女性)のお宅を訪問しました。ケアプランの見直しについて話し合うためです。その2日後、保健所から電話がありましてね。『Mさんの息子さん(50代)が新型コロナに感染しました。息子さんから濃厚接触者に該当する人はいないか聞き取りをしたところ、あなたの名前が出てきたので、PCR検査を受けてください』と言われたんです」

その報を聞いた瞬間、Sさんの頭には訪問時のシーンが浮かんだそうです。

「テーブルをはさんで正面にMさん、息子さんはその隣に座って約30分間、話をしました。Mさんはマスクをしていましたが、息子さんはしていなかったんです。斜め横にいた息子さんとの距離は1メートルもありませんでした」

濃厚接触者の定義は、患者が発症する2日前から1メートル程度の距離で、マスクをせずに15分以上会話した場合です。とくに陽性者側がマスクしているかどうかが重要なポイントになるそうです。Sさんのケースはまさにこの条件に当てはまります。

「訪問時のシーンを思い出した瞬間、背筋がゾーッとしました」

■介護サービスを利用する側にマスク着用の意識が薄い人が多い

SさんはすぐにPCR検査を受けました。結果は幸いにも陰性。しかし、保健所からは2週間の自宅待機、業務自粛を告げられたそうです。

「感染拡大が続く今、外出時はほぼ100%の人がマスクをするようになっていますよね。でも在宅時は違う。息苦しいですし、他人の目がない安心感もあるんでしょう。マスクをしない方が少なくないんです」

埼玉県は最初に緊急事態宣言が出されたように昨年の暮れ頃から1日の新規感染者が300人を超える状態が続いています。感染すると重症化しやすいといわれる高齢者を相手にする介護関係者の危機感は増すばかりですが、当の介護サービス利用者側にその意識が薄い人が多いといいます。

「お宅に訪問するたびに感じるのが、感染防止の意識の温度差です。なかには自宅でもマスクをしている方もいます。家族同士ではしなくても私たちや宅配の人など、つまり第三者が訪問した時はマナーとしてマスクをつける方もいる。でも、多くの方は“自宅にいれば感染するわけがない”と思っているのか無防備状態。マスクをすることに考えが及ばない感じなんです。われわれが接する高齢者の方はとくにね」

■「マスクしてください」とお願いすると「私を疑うのか」と怒る人も

報道では家庭内感染が増えていることも語られていますが、「こうした“緩さ”が感染拡大につながっているような気がします」とSさんはいいます。

鼻孔
写真=iStock.com/Ketpixel
※イラストはイメージです - 写真=iStock.com/Ketpixel

「今回、濃厚接触者になり、家族や同僚にうつしてはいけないという気持ちになった時、改めて自分が危険な状況下で仕事をしていることを思い知りました。お宅を訪問する時は、常に緊張しています。これはケアマネジャーに限らず、訪問介護ホームヘルパー、訪問看護師、リハビリを担当する理学療法士、作業療法士といったすべての在宅介護サービス担当者が感じていることだと思います」

利用者やその家族がマスクをしていない場合、つけてもらうように頼むことはできないのでしょうか。

「訪問する立場としては言いづらいものなんです。人には各々独自の考えや家のルールがありますし、自分のホームだという意識もある。マスクをしてくださいなんて言ったら、『私を疑っているのか』と怒り出しそうな方もいますしね」

介護事業所のなかには個包装のマスクを持参し、つけてもらうよう頼むケースもあるといいます。

「それにしても『ウチの事業所の規則になっており、上から厳しく言われていますので』というふうに言わないと、なかなかつけてもらえないそうです。また、認知症の方ですと、そういう言い方をしても理解してもらえないことがあります」

■もし自分も感染しクラスターが起きたら介護事務所は閉鎖された

自身は感染予防に細心の注意を払ったうえ訪問のたびに感染に怯え、さまざまな気を遣っているのが在宅介護最前線の現実なのだそうです。

「私は濃厚接触したものの幸い陰性でしたが、それでも2週間自宅待機となり仕事を休みました。もし感染していたら2週間では済みません。また、それがきっかけで事業所にクラスターが起きたら担当する介護サービスは止まってしまいますし、経営は成り立ちません。ホームヘルパーをはじめ介護業種の多くが人手不足ですし、それらが連鎖したら介護難民が続出するでしょう」

感染拡大で医療崩壊の危機と言われていますが、介護も崩壊寸前の状況といえるのです。

「厚生労働省やその他行政機関、またメディアなどでも、さまざまな感染予防策を訴えています。それによって外出時にはほとんどの方がマスクをするようになった。でも、家庭内でマスクをするマナーはまだまだ浸透していません。家族間はともかく、第三者が訪問した時はマスク着用を徹底することもアナウンスしてほしいですね」

家でもマスクをしてもらえるかどうか。小さなことに思えますが、これが在宅介護のサービス提供者すべてが思っている悲痛な叫びなのです。

■コロナワクチン優先接種「まさかの対象外」に怒る訪問介護事業者たち

また、マスク以外にも厚労省が介護の最前線で働く人々を守るためにとるべき手立てがあります。それは、コロナのワクチン接種。厚労省は、2月下旬をめどに医療従事者、3月下旬をめどに高齢者への接種を始め、その後、高齢者施設の職員などに優先して接種する方針です。ところが、Sさんのような訪問介護や訪問看護など在宅介護サービスの職員は優先接種の対象から外れているのです。

1月14日に、介護事業者などで作る関連の団体は菅首相に対し、在宅介護サービスの職員なども優先接種の対象に含めるよう要望書を提出しましたが、こうした「抜け」が起こること自体、介護の現場で働く人々をより一層不安にさせるのです。

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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