「ノーリスクで高単価」ソロ外食を締め出す"時短罰則"が日本を滅ぼす
プレジデントオンライン / 2021年1月24日 11時15分
■飲食店は「社会の敵」のように扱われている
昨年春に続いて発令された緊急事態宣言。不要不急の外出自粛、テレワークの促進などの他、飲食店営業時間の午後8時までの短縮などが求められました。加えて「ランチも外食するな」や「特措法改正で時短営業に従わない事業者に50万円以下の過料」とする案も検討されています。まるで、飲食店が社会の敵であるかのような扱いです。
確かに、12月に忘年会などによるクラスターも多く発生しており、そうしたい気持ちは分かりますが、果たして本当にそれしか打つ手はないのでしょうか?
春先の緊急事態宣言下で、飲食業、中でも特に、酒を提供する居酒屋などの業態の落ち込みはすさまじく、日本フードサービス協会による2020年の飲食業各業態別の売り上げをみると、4月も5月も前年同月比の9割減に落ち込みました。協力金があったとしても、売り上げ9割減の穴は到底埋まりません。
感染防止の観点からしても、飲食店の時短要請は本質的ではありません。夜8時までの営業だとしても、それまでの時間で団体客が宴会をしてしまうなら意味はないわけです。また、時短によって短い営業時間内に客が集中してしまうなら、それもまた本末転倒です。そもそも、飲食店が営業していること自体が悪いのではありません。
本質的な問題は「外食ではなく会食」です。要するに、1人で黙って食事する分には、飛沫が拡散することもなく、何の問題もないはずです。
■今こそ「ソロ外食」を推進すべきだ
政府が示すべきは、飲食店への締め付けではなく、「1人で黙って食事を提供する形態なら営業してもいい」という道筋ではないでしょうか。当然、店側は感染防止対策を万全にする必要はありますが、「GoTo Solo(ソロ)外食」こそ、コロナ感染防止をしながら、経済も回すという両立が実現できるのではないかと考えます。
何も「GoToイート」のようなキャンペーン仕立てや割引が必須ではありません。各店が緊急事態宣言期間中は「おひとり客限定でやってます」という看板を掲げるだけでも、団体客の飛沫を恐れて、ソロ客が外食から遠ざかることもなくなります。
こうした内容の話は、僕自身も以前から繰り返し記事化したりしています。僕以外の方も同様のことを提言しています。ダウンタウンの松本人志さんもフジテレビ系の番組「ワイドナショー」にて、11月頃から「おひとりさまを優遇すればいい」という発言を繰り返ししています。にもかかわらず、政府もメディアもこの「ソロ外食」については、不思議と頑(かたく)なに取り上げようとしません。
■「1人客なんて小さい話」という大誤解
一方で、菅義偉首相をはじめとする国会議員などの会食が次々と指摘され、批判を浴びたことも記憶に新しいと思います。それらを受け、与野党が「会食は4人まで」などという、何の解決にもならないルールを設定したかと思えば、それをすぐさま取りやめるというゴタゴタ劇の繰り返し。一体、何をしたいのでしょうか。
政治家にとって会食は重要だ、などというご意見もありますが、会議は会議、食事は食事で分ければいいだけの話ではないのでしょうか。正直、政治家の先生方に対しては「食事くらい1人で食べられないのかよ」という思いしかありません。
ご存知ない方もいますが、コロナ以前からずっと外食産業を支えてきたのは、独身者たちの「ソロ外食」行動です。「所詮、おひとりさまの客なんて数も少ないし、客単価だって低い。全体からすれば小さい話であって無意味だ」と何のエビデンスもなく、個人の思い込みだけで切り捨てる人がいますが、とんでもない間違いです。
2007~2019年までの家計調査における単身勤労者世帯と家族世帯(2人以上の勤労者世帯)の期間平均外食費実額を比べてみると明らかです。
■ソロの外食費は家族よりも高い
従来の月当たりの外食費は、家族が1.5万円に対して、34歳以下の単身男性が約2.5万円、35~59歳の単身男性で約2.2万円といずれも家族よりソロの方の外食費の方が実額で上回っています。34歳以下の単身女性でさえ、約1.6万円と1家族以上の外食をしていました。
ところが、コロナ禍において、外食産業がもっとも打撃を受けた2020年4~6月の第2四半期でみると、34歳以下単身男性の外食費は月当たり▲1.5万円、35~59歳単身男性は同▲1.3万円、34歳以下単身女性は▲9000円、35~59歳単身女性が▲8000円とソロたちの外食費が大きく減少しました。
家族は▲6000円なので、飲食店にしてみれば、家族の自粛より、ソロの自粛の方が痛かったと言えます。7~9月の間は、家族は従前のレベルに戻りましたが、単身男性は半分程度までしか復活していません。飲食店の苦境はまさにそこにあるのです。
それでも、こうした反論もきます。
「ソロの外食費が高いのは分かったが、独身だからといって、全員が1人で外食しているわけではない。そもそも外食は友達や恋人など複数で行くものだろう」と。
どうしても、「1人で外食なんてする人間がいるわけない」という固定概念から脱却できないようです。自分がそうだからといって、世の中のすべてがそうだと考えてはいけません。
■ひとり暮らしの独身にとってソロ飯は日常
2020年に、僕が1都3県の20~50代未既婚男女(n15644)に対して行った調査では、単身者の場合のソロ飯率は平均9割に達します(朝食を除いて、1週間当たり何回1人で食事をするか、の割合)。家族と同居する親元に住む独身者は男性5割、女性4割程度に下がりますが、それでも既婚男女のソロ飯率(夫婦のみ家族で3割、夫婦と子家族で2割程度)と比べれば、独身男女のソロ飯率が高いことは明らかです。
以上の家計調査に基づく月間の外食費とそれぞれの世帯類型別のソロ飯率をかけ合わせれば、ソロ外食の単価が推定できます。その単価と2015年国勢調査の配偶関係別年代別人口をかけ合わせれば、独身者(単身者に加えて親元独身者含む)と家族の外食市場規模とそのうちのソロ外食市場規模がどれくらいあるかが試算できます(※20~50代までの人口であり、個人消費以外の外食費は含まないので、事業者ベースの外食市場規模とは一致しない)。
■独身のソロ外食市場規模は3兆円以上
年間ソロ外食の市場規模約4兆円のうち、4分の3に当たる3兆円以上を独身が占めています。3兆円のうちの3分の2は独身男性です。ソロ外食に限らない総外食市場においても独身は市場全体の6割弱もあり、うち独身男性が68%を占めます。外食産業において独身男性が貢献しているかが分かると思います。外食市場において、今はもう家族は少数派であり、今後ソロ社会化が進めばさらに減ります。
1人で食事をしていることを「ぼっち飯」だのと揶揄したり、「1人でご飯を食べるのは弧食である」と社会問題化したり、「1人飯は食事ではない、食餌だ」などと心ない発言をする人もいます。もちろん、家族や大切な仲間たちと食事をする楽しさは否定しません。しかし、だからといって、「1人で食事をすることが楽しい」という人達もたくさん存在します。
ちなみに、『孤独のグルメ』原作者の久住昌之さんも、1月13日に「俺の食に密は無い。がんばれ、飲食業界 井之頭五郎」とエールを贈り、20万件を超えるいいねがつきました。それだけ、ソロ外食をしている人達が多いという証拠でもあり、多くの人たちがソロ外食の良さを知っているということでもあります。
■「1人の食事」が多くの人の生活を支えている
世界で一番早く外食産業が栄えたのは日本だと言われます。1657年、明暦の大火で江戸が焼け野原になった後、再開発のために全国から大工など職人衆が集結しました。一旗あげようと農村の次男坊、三男坊も集結、それらに対して商いしようと商人も集結。江戸は、働き盛りの男過多の町になり、そのニーズに対して生まれたのが、惣菜煮物を扱う店であり、居酒屋であり、蕎麦などの屋台でした。
男だからといって自炊できないわけではありませんでしたが、当時薪代は高額で、自炊するより外食した方が合理的だったのです。そこから今に続く寿司・天婦羅などの食文化も生まれました。自炊しない独身男が大勢いたからこそ、外食産業と日本独自の食文化が花開いたのだともいえます。
独身たちが自分の快楽としての食を楽しむことが、結果的には、そのお店やそこで働く人たちを支えています。それだけではなく、生産者や加工業者、納入を担う物流業者、さらにはそれらの人々の家族の生活まで、知らない間に支えているといえるのです。1人で食事をしていても、そのテーブルは多くの人たちとつながっています。
政府もメディアも、そうした「ソロ外食」の貢献にはまったく触れようとせず透明化されていますが、現状の飲食店の窮状を救うのは紛れもなく「1人で黙ってソロ外食をする」彼らの行動です。日本中にはたくさんの「目には見えない」井之頭五郎が存在します。これまでも飲食業界を支えてきたし、これからも支え続ける「1人ずつだけど大きな力」なのです。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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