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箱根駅伝「着用率ほぼ100%」ナイキ厚底の2大シューズどっちが速いのか

プレジデントオンライン / 2021年1月27日 9時15分

次々と新商品が発売されるナイキの厚底 - 写真提供=ナイキ

2021年箱根駅伝での選手のナイキ厚底シューズ着用率は95.7%(210人中201人)と前回の81.3%(同177人)を大きく上回ったことがわかった。ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)も88.9%(252人中224人)だった。スポーツライターの酒井政人さんは「ナイキの独占状態ですが、箱根では同じナイキ製でも選手によって使用するモデルが2つに割れた」という——。

■箱根ナイキ着用率、前回210人中177人(81.3%)、今回201人(95.7%)

正月の箱根駅伝は創価大が独走劇を演じると、最終10区には駒大の大逆転劇もあった。文字通り、筋書きのないドラマが詰まっていた。懸命に走る学生ランナーたちの姿に感動を覚えた方も少なくないだろう。

ただ前回と比べると記録水準は期待外れだった。優勝記録は10分以上も下落して、区間新記録は1区間のみ。往路・復路とも向かい風に苦しめられた影響が大きかった。

そのため今回は選手たちが履いているシューズの注目度もさほど高くならなかったが、シューズをめぐる戦いはより“深く”なっていたように思う。

前回の20年大会は出場210人中177人(81.3%)がナイキを着用していたが、今回も王者は強かった。出場210人中201人がナイキで出走。その着用率は95.7%まで到達した。

■箱根駅伝でアシックスを履いた選手が消えてしまった

ナイキ以外のメーカーはわずか9人。なかでも今大会はアシックスを履いていた選手がいなかったことに驚かされた。

筆者が大学時代(95~99年)はアシックスとミズノが2大勢力だった。ナイキ厚底シューズが登場する前の17年大会でも出場210人のうち、アシックスが67人(31.9%)、ミズノが54人(25.7%)、アディダスが49人(23.3%)、ナイキが36人(17.1%)、ニューバランスが4人(1.9%)というデータが残っている。

アシックスはわずか4年で首位から陥落しただけでなく、箱根路から姿を消したのだ。他のメーカーでいうと、ミズノは前回10区で区間記録を打ち立てた嶋津雄大(創価大)が4区で活躍。区間賞には届かなかったが、日本人トップの快走を見せている。

5本指カーボンを搭載した“新厚底”の「アディゼロ アディオス PRO」でナイキからハーフマラソンの世界記録を奪ったアディダスも思った以上に伸びなかった。アディダスとユニフォーム契約を結ぶ青学大ですら9区飯田貴之が着用していただけで、他9人はナイキを履いていた。

そのなかで一矢報いたかたちになったのがニューバランスだ。7区佐伯涼(東京国際大)が「フューエルセル5280」というモデルを履いて区間賞(他9人はナイキ)をゲット。同シューズは厚底ではないが、カーボンファイバープレートを搭載。伸縮性のあるアッパーも特徴的で、短い距離での高速レースを想定したモデルになる。

ナイキ厚底シューズが速すぎたこともあり、昨年4月30日以降は世界陸連のルール改定があり、「靴底の厚さは40mmまで」に制限されている。

今大会はソールにプレート(カーボンファイバーなど)の入っていないシューズを履いている選手はほとんどいなかった。厚底がノーマルとなり、各社とも4年前とはまったく異なる新モデルを続々と投下している。そうした中で、ナイキだけがシェアを拡大し、完全なひとり勝ちをしている。

■ヴェイパーか? アルファか? どっちのナイキを選ぶべきか

箱根駅伝だけでなく、1日のニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)もナイキの使用率は高かった。出場した252人中224人(88.9%)が着用していたのだ。

厚底シューズが登場した2017年春からトップ選手が次々とナイキに履き替えており、ナイキ王者の時代がしばらく続くと見られるが、今年正月の駅伝では従来と異なる“現象”が起きた。それは同じナイキ厚底シューズでも、使用モデルが2つに割れたことだ。

●「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」(以下、ヴェイパー):カーボンファイバープレートとズーム X フォームで構成されるナイキ厚底シューズの3代目

「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」
写真提供=ナイキ
ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% - 写真提供=ナイキ

●「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」(以下、アルファ):ヴェイパーがベースで前足部にエアを搭載した最新モデル。

「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」
写真提供=ナイキ
エア ズーム アルファフライ ネクスト% - 写真提供=ナイキ

2019年9月に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で多くの選手が履いていたピンク色のシューズが前者。2020年3月の東京マラソンで2時間5分29秒の日本記録を樹立した大迫傑(Nike)が着用していた黒と緑のシューズが後者だ。

今回の箱根駅伝の区間賞でいうと、2、5、6、8、10区が前者で、1、3、4、9区が後者。総合優勝を果たした駒大の選手は、5区と7~10区(計5区間)が前者、1~4区と6区(計5区間)が後者を履いていた。

両モデルは同じナイキ厚底シューズでも“感覚”が少し異なる。ナイキとユニフォーム契約をしている中大の藤原正和駅伝監督はこんなことを話していた。

「(前者の)のヴェイパーは万人受けするというか、多くの選手が使いこなしやすいのかなと思います。一方、(後者の)アルファはスイートスポット(最適箇所)がヴェイパーほど広くはないシューズだと思うので、乗りこなせる選手が少ない印象です。でも使いこなせたら、相当なゲイン(利得)をもらえるんじゃないでしょうか」

■箱根10区、逆転した駒大生はヴェイパー、抜かれた創価大生はアルファ

東京五輪男子マラソン代表に内定している服部勇馬(トヨタ自動車)も「アルファは重心移動がヴェイパーよりも格段に速いので、初めて履いたときは、体が少しついていかない感覚がありました」という感想を持っていた。

今大会は駒大が最終10区で3分19秒差を大逆転した。ヒーローになった駒大・石川拓慎はヴェイパーを着用していたが、逆転を許した創価大・小野寺勇樹はアルファを履いていた。小野寺は過度な緊張があっただけでなく、シューズのミスマッチが失速の原因になったかもしれない。

実際、筆者は両モデルを試してみた。あくまで個人的な感想だが前足にエアが搭載されているアルファよりもヴェイパーのほうがスムーズに走れる感触があった。ちなみにヴェイパーは税込3万0250円、アルファは税込3万3000円とほぼ互角。自費で購入している選手は両モデルを履き比べるのは難しいが、どの厚底シューズを選ぶのかという“新時代”に突入したようだ。

■トップモデルを軸にしたナイキの抜け目ない「横展開」営業戦略

正月の駅伝はナイキが“独走”したわけだが、これはレース用シューズに限ったことではない。最近はナイキ厚底シューズをいかに履きこなすかが各チームのテーマになっている。

駅伝・マラソン選手はトレーニングに応じて3~4種類ほどのシューズは履き分けている。本番でナイキ厚底シューズを着用して最高のパフォーマンスを発揮するために、トレーニングでどのシューズを履くのかをより考えるようになったのだ。

アルファをレースで着用する選手は前足部にエアが搭載されている「エア ズーム テンポ ネクスト%」を、ヴェイパーを着用する選手は「ズーム フライ」を練習で履くことが多い。普段のトレーニングからヴェイパーやアルファに感覚の近いシューズを履いている選手が増加。ナイキはトップモデルを制したことで、有力ランナーたちのシューズを“囲い込む”ことに成功したといえるだろう。

ナイキはその勢いに乗って、さらなる手を打ってきた。

■「ケガ予防」の新シューズを2月に発売予定

それが2月に発売予定の「ズーム X インヴィンシブル ラン」だ。価格は2万2000円(税込)。ランナーの“怪我ゼロ”を目指すためのモデルで、ミッドソールのクッショニングを大きくして、同時に底幅を広げることで安定感を出した。重量は28cmで314g。

ズーム X インヴィンシブル
写真提供=ナイキ
ズーム X インヴィンシブル ラン - 写真提供=ナイキ

ヴェイパーやアルファより少し重いが、両モデルにも使われているズーム X フォームを足型からはみ出すくらい存分に使用している。

ソールは踵部分で36.6mmある厚底タイプで、耐久性は800km以上をクリア。ナイキのテストでは、故障者が大幅に減少したという。筆者は一足先に履かしていただいたが、ソールがふわふわしていて気持ちよく走ることができた。

服部勇馬も「シューズを履いて、これほど感動したのは初めて。クッション性がこれまで履いてきたシューズの中でも別格。重心移動もスムーズで、走っていて楽しさを存分に感じられる一足。たくさんの人に履いてもらいたい」と自身のSNSに感想を書き込んでいる。

カーボンファイバープレートが内蔵されているヴェイパーやアルファは自然と脚が回転するような感覚があり、ゆっくり走ることには向いていない。

一方、この怪我ゼロを目指すズーム X インヴィンシブル ランにはプレートが使用されていない。クッショニング性の高いズーム X フォームが怪我予防につながるだけでなく、フルマラソンで4時間以上かかるランナーや、普段はゆっくり走るというランナーに適しているかもしれない。

ヴェイパーやアルファはスピードシューズで、すべてのランナーにマッチするわけではない。そのなかでナイキはこれらトップモデルにつながるようなシューズを多く出している。

他メーカーもナイキの牙城を崩すべく虎視眈々とシューズ製作に励んでいるだろう。

ユーザー側としては、そうしたメーカー間の競争を見ながら、自分に合うシューズを選ぶことがランニングを楽しく続けるコツになるだろう。コロナ禍でマラソン大会などに出場できない状況が続くが、気分転換に新シューズを購入して春を待つのも悪くない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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