「日本の資産売却は避けたい」突然態度を翻した文在寅大統領の本当の狙い
プレジデントオンライン / 2021年1月23日 11時15分
■徴用工問題と慰安婦問題について態度を翻す発言
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が1月18日、新年の記者会見を開き、
徴用工問題と慰安婦問題について発言した。その内容がこれまでの態度を翻すものだったため波紋を広げている。
徴用工問題については「日本企業の資産が現金化されるのは韓国と日本にとって好ましくない」として、初めて現金化を避けたいとの考えを示した。これまでは資産売却を許容する司法判断を尊重するとの意向を繰り返し表明していた。
また、韓国のソウル中央地裁が1月8日に元慰安婦に対する損害賠償を日本政府に命じた判決については、「徴用工問題に慰安婦判決の問題が加わり、困惑している」と話した。文在寅氏が慰安婦訴訟の判決について意見を述べたのは初めてだ。
これまでは慰安婦問題に関し、「最終的かつ不可逆的に解決される」とする2015年12月の日韓合意を否定し、「当事者の意思を反映していない」としてきた。しかし今回、文在寅氏は「韓国政府は日韓合意を公式的なものだったと認める。そのうえで元慰安婦ら原告も同意できる解決策を見出したい」との考えを示した。
■文在寅氏は東京五輪を米朝対話の舞台にしようと画策している
沙鴎一歩は今年1月15日の記事「『元慰安婦に950万円ずつ払え』歪んだ判決を尊重する文在寅大統領の異常」で、「文在寅という大統領は反日種族主義の権化であり、大統領失格だ」と主張した。ところが、である。1月18日の新年の記者会見で自らの考えや態度を翻した。
唐突に考えや態度を変える人間は信頼できない。またもとに戻る可能性があるからだ。「君子豹変する」ということわざもあるが、文在寅氏は君子などではない。態度を変えたその裏にはしたたかな計算や思惑があるはずだ。
文在寅大統領はなぜ、自らの考えや態度を豹変させたのか。それを解くカギは東京五輪にある。昨年12月14日の記事「駐日大使に『反日のかたまり』を送り込んでくる文在寅大統領の頭の中」では、産経新聞の社説(主張)に触れ、「文在寅氏が東京五輪をアメリカと北朝鮮との対話の舞台にしようと画策している」と指摘した。
産経社説がそう判断する根拠について、産経社説を引用して、「韓国メディアによると、11月に来日した朴智元(パク・チウォン)国家情報院長は『東京五輪に金正恩朝鮮労働党委員長を招き、南北と米日首脳が北朝鮮の核問題や日本人拉致問題の解決策を議論する』という文氏の提案を日本側に説明した」と書いた。
そのときも訴えたが、日本を侮辱し、核・ミサイルの開発や拉致などの犯罪行為の数々を尽くした北朝鮮トップの金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記を、東京五輪に招くべきではない。
■日韓関係を改善して「対北朝鮮融和政策」を進める方針
文在寅大統領が最優先課題に挙げる「対北朝鮮融和政策」は行き詰まっている。2019年2月のベトナム・ハノイでの2回目の米朝首脳会談が物別れに終わったままだ。アメリカと北朝鮮の協議は暗礁に乗り上げ、アメリカと北朝鮮の間に入る文在寅氏は、日本政府がアメリカのバイデン次期政権に働きかけるよう望んでいる。しかし、バイデン次期政権は金正恩氏に厳しい。このままでは北朝鮮に対する制裁が強まるばかりだ。
このため、徴用工と慰安婦の問題で譲歩する姿勢を日本に見せ、まずは日韓関係を改善しようと動いたのだろう。これが文在寅氏の計算である。
文政権は7月の東京五輪の開会式にジョー・バイデン氏と正恩氏がそろって出席し、その前後に3回目の米朝首脳会談を実現し、念願の対北朝鮮融和政策を進めたいようだ。すでに文在寅氏がバイデン次期政権との交渉に入ったとの報道もある。
こうした韓国の動きに日本はどう対応すべきなのか。外交の基本は自国の利益を求めることにある。常に国益が優先される。菅義偉政権が文在寅氏を相手に外交の基本を貫き通せるかどうか。菅政権の鼎の軽重が大きく問われている。
なお、21日には英紙タイムズ(電子版)が、「新型コロナウイルスの影響で、日本政府は今夏の東京五輪を中止せざるを得ないと内々に結論付けた」と報じた。詳細は不明だが、もし東京五輪が中止になれば、文在寅氏の計画は潰えることになる。
■「行動で示せ」「韓国が解決すべきだ」と小気味いい産経社説
1月20日付の産経社説は「文大統領の会見 言葉ではなく行動で示せ」という見出しを掲げてこう主張する。
「頑なだった従来の姿勢を軟化させた形だが、言葉だけの話なら、額面通りに受け止めるわけにはいかない。行動が伴わなければ、何も言っていないのと同じだからだ」
「徴用工も慰安婦をめぐる問題も国際法を踏みにじって日韓関係をこじらせたのは韓国である。本気で関係改善を図りたいのなら、韓国自身が解決を図るべきだ」
「行動で示せ」「韓国が解決すべきだ」と実に小気味よく書いてくれる。へそ曲がりの沙鴎一歩も思わず膝を打ってしまう。
■韓国政府が韓国内で解決しなければならない案件
産経社説はこうも訴える。
「文氏は今回の会見で、韓国最高裁の判決に従い、『日本企業の資産が売却される前に両国が解決策を見いだすべきだ』と述べた。慰安婦問題については『両国間の公式的な合意である事実は認める』と語った。いずれも、もっともらしく聞こえるが、改善への意欲は感じられない。日韓で協議すべき話ではないからだ」
産経社説が主張するように文在寅大統領には改善の意欲などないのである。徴用工問題も慰安婦問題も日韓で協力して解決すべき問題ではなく、韓国側が一方的に仕掛けてきた理不尽な案件ゆえに、韓国政府が韓国内で解決しなければならないのである。
■「表明したことは評価したい」と書くのはナンセンス
朝日新聞の社説(1月20日付)はこう書き出す。
「冷えきった状態が長引く日本と韓国の関係が、変化する契機となるのか。発言に沿った行動に動きだすことを望む」
「文在寅大統領が年頭の記者会見で、徴用工と慰安婦問題をめぐる懸案について、従来より踏み込んだ考えを示した」
産経社説は「従来の姿勢を軟化させた形」と指摘していたが、朝日社説は「従来より踏み込んだ考え」と書く。朝日社説のこの書き方は客観的なようだが、いつもの喧嘩両成敗の考え方が透けて見える。徴用工の問題も慰安婦の問題も間違っているのは文在寅政権である。それを日本と韓国がともに協力して問題を解決しなければならないという朝日社説のスタンスは間違っている。
朝日社説は指摘する。
「両国関係がここまで悪化する前に、なぜ政治指導者として、こういった発言ができなかったのか。遅きに失したといわざるをえないが、自分の言葉で関係改善に向けた見解を表明したことは評価したい」
「遅きに失した」と文在寅氏を批判するのはいいが、「表明したことは評価したい」と書くのはナンセンスである。
■喧嘩両成敗という発想自体が間違っている
間違っているのは韓国で、日本は被害者だ。この基本を忘れると、とんでもない主張になる。今回の朝日社説がそのいい例だろう。
さらに朝日社説は指摘する。
「慰安婦合意についても、被害者たちの心と体を癒やす、という原点にたちかえり、今からでも事業の再開に動くべきだ」
「日本政府も、韓国の国際法違反だと突き放すだけではなく、謙虚な姿勢で対話に臨む姿勢が欠かせない。歴史問題をめぐる真相究明や啓発に向けても積極的に協力する必要がある」
ここの日本政府に対する要求もおかしい。徴用工と慰安婦の問題では喧嘩両成敗という発想自体が間違っていることに朝日社説はなぜ、気付かないのか。気付きながら故意に書いているのか。もしそうだとしたら、歪んだ社説だと、沙鴎一歩は思う。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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