「行列からの圧がすごい」セルフレジがこのまま増え続けるのは私は困る
プレジデントオンライン / 2021年1月29日 15時15分
■「来てるな、未来!」と歓迎ムードだが…
小売店の無人化の動きが加速しそうだ。感染対策にもなるということだが、日経の電子版は1月11日に「無人店で効率経営 ドコモ小売り参入、セブンは1000カ所」という記事を配信した。
記事では「新型コロナウイルスを機に非対面サービスを加速させる。無人化は人手不足対策にもなる。小売りの低い生産性が改善すれば、日本経済全体の効率性も高まる」と明るい未来を示しているが、果たしてこれは定着するか。タバコや酒といった年齢制限がある商品がある場合はセルフレジは使えないが、今の時代、極力見知らぬ他人との接点を減らしたいからセルフレジが歓迎される空気なのは十分理解できる。
セルフレジについては、ラーメンズのコントではないが、「来てるな、未来!」といった感覚が往々にしてあるように感じられる。このコントは、鉄腕アトム誕生から30年の2003年に東京で公開された公演「ATOM」で披露された「ATOM1」だ(大阪では2002年12月に実施)。
■果たして本当に定着するのか
片桐仁演じる「30年間コールドスリープ(冬眠のようなもの)していた父親」が、未来がどうなっているのかを楽しむべく、息子(小林賢太郎)に会いに行く、という内容だ。父親は21世紀になった2003年、カーナビがあることや携帯電話があることを息子から教えてもらったことに対し「来てるな、未来!」と喜ぶが、息子の話を聞き続けているうちに、30年前とさほど状況が変わっていないことに気付く。
父親はかつて見たSFの世界のように、空を車が飛んでいるのではと思ったものの、そうではない現実を見て落胆するのである。だから、再びコールドスリープに戻ろうとするも、息子は父がこの時代から逃げることを「ズルい」と非難する。
恐らくセルフレジは10年前からしても「来てるな、未来!」だろう。これが定着し、本当に感染症が防止でき、生産性が上がるのであれば、これほど良いことはない。
だが、筆者の周囲では「本当に定着するのか?」という疑問の声もいくつか聞けたので、ここでセルフレジの将来像について考えてみる。アマゾンの実験店舗のように、商品を持って外に出たところで決済が完了するレベルになれば、本当に便利だが、今回のドコモやセブン-イレブンの取り組みは「店員の負担を減らす」ということが主眼になっているようである。
■後ろの客から「圧」を感じてしまう
しかしながら、店員の負担が減っても客の負担が増えては本末転倒である。今回話を聞いた人の中でいくつかあったのがこの意見だ。
「セルフレジだと後ろの客から『圧』を感じてしまう」
そもそもセルフレジは客にとって本当に便利なのか? YouTubeには多数の「セルフレジを体験してみた」という動画があるが、「ピコ次郎」氏のYouTubeチャンネルには「ユニクロレジ使い方!! ユニクロセルフレジ使い方!! 分かりやすく説明!!」という動画がある。
ピコ次郎氏は丁寧に使い方を解説しているため当然時間がかかっているのだが、853円の商品を1つ買うのに2分54秒もかかっている。慣れれば1分ほどですべての工程を終えられるかもしれないし、この時は後ろに誰もいなかったのかもしれないが、2分54秒は長すぎである。私が彼の後ろにいたらイライラして仕方がなかったことだろう。
慣れればどうってことはないのかもしれないが、「IDの有無」や「支払方法」など選ぶ項目が多すぎる。最初のトライで後ろからの「圧」を感じてしまった人は「もう次からは使わない!」となってしまうかもしれない。
■「セミセルフレジ」を前に汗がダラダラ
完全なセルフレジの前段階として、店員がバーコードは通すものの、カネは自分で支払う「セミセルフレジ」がある。これを私が初めて使ったのは東京の某スーパーだった。
突然この形式になっていたのだが、まず、どこにカネを入れていいのかが分からない。どうやら紙幣と硬貨は別々に入れるようだが、それを把握するまでに時間がかかった。
「現金」「クレジットカード」という選択肢もあったため、ここで一瞬止まってしまった。さらには「領収書」を選ぶ項目もある。
この時は夏だったのだが、おりしもコロナ禍によるマスク生活がすでに始まっていたため、初の体験に汗はダラダラ。しかも、後ろの人はジュース1本といった状況のため、私がレジで戸惑っている中、すでにバーコードスキャンは終えている。
明らかに「チッ、このIT音痴オッサン、何デレデレしてるんだよ。さっさと会計終わらせろボケ」といった空気を感じる。同時に店員もこの客に対して「申し訳ありません」という表情を浮かべる。
■オレはバカの部類に入っていたのか…
こうした状況が続くとますます焦り、汗はさらに出る。さっさとこの場を離れたかったのだが、終わってくれず、ようやく釣り銭が出たところで私はこの拷問から解放された。しかし、再び後ろから舌打ちが。なんと、焦りのあまり領収書を取り忘れていたのだ。
後ろのジュース客がイライラしているのが分かる。そして、レジ打ち店員が「お客さーん、領収書です」とわざわざ外に出て領収書を渡してくれた。これには2人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
なんというのか、これが自分にとって屈辱になってしまったのだ。これまでの人生、他人ができることは大抵こなすことができた。だが、「スーパーでカネを払う」ということができないのである! あぁ……オレは世の中ではバカの部類に入っていたのか……と愕然としたのである。
以後、このスーパーには行かなくなってしまった。世の中全体が「セミセルフレジ」になるのであれば構わないのだが「もう汗をかきたくない」「もう後ろの客から舌打ちをされたくない」「もう店員から憐れみの表情を浮かべられたくない」という気持ちになってしまったのだ。
■カゴ入れの順番に会計処理と作業は多い
そして、「セルフレジ」の意義について考えたいのだが、基本的には「店員の負担を減らす」ということにあるものの、そもそも「レジ打ち」と言うと「誰でもできる仕事」的なニュアンスで捉えられることも影響している。
そんなことはない。スーパーで時々「研修中」とネームプレートにシールを貼っている店員を見る。この人たちは明らかに他のレジよりもバーコードをうまく読み込めずもたついている。そして、刺身等をビニール袋に入れるスピードも遅いし、カゴの中に商品を適切な順番で入れられないため、再度カゴの外に出したりもしている。
カゴの中身というものは、重いものを下にし、刺身や総菜といったパックに入ったものは上にしておくもの。そうでなければ、重いビールの6缶パックなどの角でラップを傷つけてしまう恐れがある。客が買い物をする時はそのようにずらしながら配慮するが、慣れていない店員であれば、上の方に置いてあるものから順々に精算用のカゴに入れていき、突如「ありゃ、こりゃ順番間違えた」と気付き、入れ直すことに。
熟練の店員はこんなミスをすることなく、テキパキと商品を移動させ、速やかに会計をする。これがどれだけ価値があることで、スピードアップに繋がっていたのか!
セルフレジというものは、「研修中」以下の技能しかない一般人がバーコードを読み取り、それで無茶苦茶な順番で商品を袋に詰めていくことを意味する。しかも、後ろからは「チッ!」の舌打ちまで聞こえてくる。
■便利度合いが中途半端すぎる
私は現在、佐賀県唐津市在住だが、佐賀は東京よりも「セミセルフレジ」は定着しているし、高齢者も普通に使っている。それは、ポイント付きのプリペイドカードが普及しているため、現金のやり取りがかなり減っているから、という面がある。プリペイドカードを「ピッ」とやればそれで会計終了なのだ。
だからこそ、「カネを払う」という面においては抵抗感が減っていることは実感するが、「バーコードを通す」「適切な順番で商品を移す」は素人が容易にできるものではないかもしれない。
とにかく日本人は他者への配慮をするし、何か不都合があった場合も「私は悪くない!」という状況に持っていきたいと考える。レジで手間取っていたとしても、店員が手間取っているのであれば「この人が悪いんですよ。ネッネッ!」と心の中で言えるが、自分が遅い場合はそんな言い訳も効かない。
なんでカネを払っているのに拷問のような時間を過ごさなくてはいけないのだ……。
世の中には器用な人と不器用な人がいて、セルフレジは案外不器用な人にはコツがなかなか掴めないもの。「テクノロジーに置いてきぼりになりやがってwwwww甘えてるんじゃねーよ」と言いたくなるかもしれないが、アマゾンの実験店舗ぐらい便利であればいいのだが、セルフレジは便利度合いが中途半端すぎるのである。
この程度の中途半端具合であれば、プロに任せた方がよっぽど早いじゃん? そのぐらいの人件費は商品価格に上乗せしても構わないよ、とも思ってしまうのだ。
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ライター
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライターや『TVブロス』編集者などを経て、2006年よりさまざまなネットニュース媒体で編集業務に従事。並行してPRプランナーとしても活躍。2020年8月31日に「セミリタイア」を宣言し、ネットニュース編集およびPRプランニングの第一線から退く。以来、著述を中心にマイペースで活動中。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットは基本、クソメディア』『電通と博報堂は何をしているのか』『恥ずかしい人たち』など多数。
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(ライター 中川 淳一郎)
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