「英国本部と日米責任者が対応協議」PwC全体に膨張する危険な法的リスク
プレジデントオンライン / 2021年2月2日 18時15分
■ミーティングの招集通知には“Libor Matter”とあった
昨年10月28日に「顧客情報を故意に漏洩 4京円市場に食いつくPwCジャパンの暗部」を配信して、3カ月がたった。それは米モルガン・スタンレーやシティバンクの内部情報を、PwCジャパンがみずほフィナンシャルグループや三菱UFJフィナンシャルグループ、農林中金、あおぞら銀行などに漏らしていたという内容である。情報漏洩には日米のパートナーが関わっており、国際的で組織的な不正である可能性を指摘した。
よほど触れられたくない不祥事を突かれたせいか、PwCジャパンはもちろん、情報を得ていた金融機関からも苦情や訂正要求は一切来ていない。しかしこれがいかに深刻な不祥事であるかは、PwCグループ内での対応が証明している。
この記事が掲載される1カ月も前の昨年9月24日午前10時から、英国本部と日米の法務最高責任者が鳩首会談を催していたのだ。ミーティングの招集通知をみると、表題が“Libor Matter”となっているから、筆者が送った質問状を見て慌てて対応を協議したに違いない。
■情報漏洩を主導していた日本人パートナーは金融庁出身
会議を招集したのは、米国法人の主席弁護士を務めるEliza Nagle氏で、Andrew Oosterbaan氏は米国法人の法務担当マネージングディレクター。Steve Hamilton氏も米国法人のリスク・品質責任者である。
Laurie Endesley氏はPwCグローバルの最高コンプライアンス・倫理責任者兼グローバル副法律顧問で、日本法人では法務最高責任者の谷口洋一郎氏と、最高リスク責任者のRoss Kerley氏に参加要請があった。彼らはいずれもPwCグループの社内弁護士である。これだけの面々がそろっているのだ。すでにPwCではLIBOR問題が日本法人だけの問題ではなく、PwCグループ全体を揺るがす問題になっているのではないか。
顧客情報の漏洩を主導していた日本人パートナーは金融庁出身で、顧客に対して常々「金融庁とはつながりが深く、その内部事情はよくわかる」と言い放っていたことが方々から聞こえてくる。金融庁もこの迷惑行為にはほとほと困り抜いていることだろう。
■三菱重工の受注案件を「3密状態の部屋」で作業
昨年10月の記事では、PwCジャパンに内部情報を漏らされた金融機関としてモルガン・スタンレーとシティバンクの名を挙げたが、実はそれだけではない。筆者は取材の段階で、それらの一部から匿名で「内部情報の漏洩は認識している」とのコメントを得ており、PwCジャパンはどう申し開きをするのだろう。大手の会計事務所は有限責任法人になっているが、一部の役職は無限連帯責任を負っているはずだから損害賠償でも請求されたら大変だ。
コンプライアンス上の問題として、社内では三菱重工業の基幹システムの受注案件が昨夏から浮上していることも明らかになった。
複数の情報提供者の話によると、システム開発の技量が素人レベルの社員をこの案件に数多く投入し、数十億円の報酬を得ているうえ、社員を新型コロナウイルスへの感染が危ぶまれる3密状態の部屋で仕事をさせていた。「これを社員が労働基準監督署に訴え、労基は劣悪な労働環境を改善し、残業代を支払うよう指導したにも関わらず、PwCジャパンはなにもしない」(PwC関係者)という。
PwCジャパンは筆者の取材にこうコメントした。
「著しく事実と異なる内容が含まれていますが、顧客が存在する個別のプロジェクトについてはお答えすることはできません。一般に、PwCでは、システム開発プロジェクトを受注する際、プロジェクトの内容や規模に応じて必要なスキルと知識を持った人材を適正人数配置し、適切な管理運営に努めております。また、プロジェクトにおいて課題に直面した場合や、顧客やプロジェクトメンバーからプロジェクトの進め方等について意見が寄せられた場合には、課題を解決し、プロダクトやサービスの質を高めるため、それらに真摯に対応しております」
■「どうせクライアントはバカだからバレはしない」
しかし、頭隠して尻隠さず。LIBOR問題を話し合っている最高法務責任者の谷口氏は三菱重工の件でも社内で懸念をあらわにしており、やはり前出のRoss Kerley氏に「社員から訴えられる可能性がある」とメールで相談。そこではPO(当プレジデントオンラインをPwCではこう呼ぶ)に「ぞっとするような記事」が出ることを心配していることも書き記している。最高法務責任者が強く懸念しているにも関わらず、こうした状況が改善されないのは、PwCジャパンの経営全体に問題があるからだろう。
三菱重工と言えば、三菱リージョナルジェット(MRJ)の開発が凍結されたことが記憶に新しい。基幹システムの刷新とMRJの開発中止に直接の因果関係はあるまいが、PwCジャパンは日本企業にパラサイトして競争力を殺いでいるのではないか。
LIBOR問題でも三菱重工の件でも、PwC関係者から共通して伝わってくるのは「どうせクライアントはバカだからバレはしない」という上層部の発言だ。
■複数の会社が「会食に参加した社員はいなかった」と回答
こうしたPwCジャパンの不誠実な体質は法廷でさえ改まらない。
昨夏から追及しているパワハラ問題(昨年6月29日付「『泥沼パワハラ』にフタをする大手監査法人と大手法律事務所の暗い結託」を参照)の訴訟で、PwCジャパン側は当初、パワハラ上司が米金融機関の主催する会議に参加していたと主張していた。
しかしPwCジャパンはこの会議に招待されておらず、参加していなかったことを指摘されると、今度は製薬会社などの実名を挙げ、「企業側担当者とサンフランシスコのホテルで会食しており、出張には正当な目的があった」と主張し始めた。
ところがこれもウソ。名前の挙がった企業のうち、筆者がいくつかを選んで確認したところ、複数の会社が「係争中の案件であるため、コメントは差し控えたい」としながら「会食に参加した社員はいなかった」と回答した。するとPwCジャパンはまた説明を変え……、と言った具合だ。公認会計士がクライアントの饗応に応じたり、誘ったりするのはそれ自体問題があるだろうに。
■全社員に「マスコミの取材に応じるな」と口を封じているが…
パワハラだけではなく、現役パートナーによるセクハラも横行している。それらには泣き寝入りさせられたケースがいくつもあり、刑事事件に発展してもおかしくないような深刻な事案が含まれていることも複数の被害者から情報が寄せられた。
PwCジャパンでは「ご指摘の事実は確認されておりません。PwCは、いかなるハラスメントも許容しません。なお、PwCでは、職場におけるハラスメントの存在を認識した場合には、事実確認を行ったうえで厳正に対処しております」と説明している。
昨年末から「コンプライアンス研修」と称して全社員に「マスコミの取材に応じるな」と口を封じているからといって、ウソをついてはダメだ。われわれチームストイカは事実や内情を確認するため、PwCジャパンの社員から協力を得てリモート会議のもようをウェブカメラの死角から見学することだってできるのだから。
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ジャーナリスト
1967年生まれ。 愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞社証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌『FACTA』でオリンパスの不透明な買収案件を暴き、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。 著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)などがある。
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(ジャーナリスト 山口 義正、チーム「ストイカ」)
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