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抜け毛、息切れ、味覚異常…無症状の若者を襲う「コロナ後遺症」の4つの病態

プレジデントオンライン / 2021年2月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

新型コロナの感染者が「後遺症」に悩まされている。順天堂大学医学部の講師で、免疫学研究に20年以上従事してきた玉谷卓也氏は「新型コロナの怖さは、年齢に関係なく、軽症や無症状であっても後遺症が長期間続く可能性があることだ。経過観察の結果、4つの病態が絡み合って起こると考えられている」という――。

■「若者だから大丈夫」という大きな誤解

人気グループ「Kis-My-Ft2」の千賀健永さん(29)は、昨年11月に嗅覚に異常を感じて検査をしたところ、新型コロナに感染していることが判明しました。その月のうちに回復して、紅白にも出場したのですが、2カ月半以上経過した現在も、嗅覚は完全に戻っていないということです。また感染が確認されたけれど無症状だった女性が、1カ月後くらいから急に毛が抜け始めたという事例も報告されています。

一般的に、感染症の後遺症は「感染しているときの症状の影響が残る」場合が多いのですが、新型コロナの場合はそればかりではありません。感染時には無症状や軽症であっても、後遺症が起こることがあります。そして、重症化しやすい高齢者や基礎疾患を持っている人でなくても、老若男女関係なく一定の割合で後遺症が発生するのです。

「後遺症」は、新型コロナに感染して、3週間以上経過しても何かしら症状が認められる場合をいいます。さらに症状が3カ月以上経過して続く場合を「Long Covid」と呼ぶことが提唱されています(1) 。世界的な傾向として、新型コロナの感染者の10人に1人がLong Covidに悩まされているといわれています。

■さまざまな後遺症の症状……背景にある4つの病態の中身

新型コロナについては、感染が始まった当初は、急性の重篤な肺炎を引き起こすことのある感染症と捉えられていました。ところが感染者を長期に追跡調査していくと、ウイルスがいなくなったにもかかわらず、感染しているときの症状が続く場合や時間がたってから違う症状が出るといった後遺症の報告が増えてきたのです。

ただこれまでは、その症状がさまざまであることや、感染が直接その後遺症の原因なのかといった症状と感染の因果関係がはっきりしないことなどから、その実態がなかなか明確にされませんでした。

新型コロナの後遺症として報告されている症状としては、倦怠感、呼吸困難、関節痛、胸痛、咳、味覚・嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、頭痛、痰、食欲不振、ノドの痛み、めまい、筋肉痛、下痢などがあります。これらは感染時の症状でもあります。そのほかに、記憶障害、睡眠障害、集中力低下、脱毛などがあります。

体調がすぐれないマスクを着用した男性
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

これまで行われた数多くの新型コロナ患者の経過観察により、後遺症は少なくとも下記の4つの病態が絡み合って起こっていると考えられるようになってきています(2)。4つめの集中治療後症候群以外は、軽症の患者さんでもみられる後遺症です。

・新型コロナウイルスに感染しているときの症状の持続
・感染によって肺や心臓が障害されたことが原因で起こる症状
・ウイルス後疲労症候群:ウイルス感染により起こる、睡眠障害、高次脳機能障害、自律神経障害などを特徴とする筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に似た症状
・集中治療後症候群:集中治療室(ICU)の治療により筋肉や脳の機能が低下することにより引き起こされる、身体障害・認知機能障害・精神の障害などの症状

■明らかになってきた「ウイルス後疲労症候群」

最近、問題が明らかになってきた後遺症が、3つめに挙げた「ウイルス後疲労症候群」です。感染から回復した後でも体全体の不快感、倦怠感が残り、日常生活に支障をきたすといった症状を訴える方がいます。

なかには腕を上げるのもままならないほどの疲労を感じる場合もあります。このような症状は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)という原因不明の難病に類似していることから、「COVID-19後疲労症候群」とも呼ばれています。

このような症状があっても、一般的な検査ではメンタル的なものとされてしまい、自分が後遺症であることに気づかないことが多いということも問題になっています。また感染初期のころにPCR検査が受けられず、新型コロナの後遺症であることが証明できず、行政の補償が受けられない可能性も指摘されています。今後、後遺症に苦しむ患者さんのために、診断機会の拡充、補償体制の整備が求められます。

慢性疲労症候群については、脳の認知、言語で重要な部分に異常があることがわかっています。新型コロナのウイルス後疲労症候群の場合でも、嗅覚神経の損傷により脳の浄化作用が低下して、毒性物質が蓄積することにより脳に傷害が起きているのではないかという仮説が出されています(3)。このような知見から、有効な治療法が開発されることが期待されます。

ネガティブな感情のイメージ
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

■日本人の後遺症の実態

これまでの報告によると、後遺症は国によって発生頻度が異なっています。国ごとの診断基準の違いなどもありそうですが、人種による遺伝的な違いや環境の違いが関わっているようです。

日本人の後遺症の実態について、昨年10月に国立国際医療センターから貴重なデータが報告されています(4)。同センターに新型コロナで入院した63人について、退院後に電話インタビューでその後の経過を聴取したという研究です。日本で新型コロナの重症化患者を最も受け入れている病院の一つで、激務の中このような調査をされた医療従事者の方には、本当に頭が下がります。

インタビューの対象の9割は日本人で、65%が軽症の患者さんでした。感染時の症状については、発症してから60日後でも、咳:8%、倦怠感:16%、息苦しさ:18%、味覚障害:5%、嗅覚障害:16%で、120日後でも咳:6%、倦怠感:10%、息苦しさ:11%、味覚障害:2%、嗅覚障害:10%で持続していました。これはイタリアなどの報告に比べると、低い頻度です(5)

感染時にはなかった症状が、後から現れることもあります。上記の調査では、2名の方で感染後30日後あるいは92日後に嗅覚異常になったということです。脱毛も感染後によく起こる後遺症で、4分の1の方で平均約2カ月後から脱毛が始まり、2カ月半ほど続いたということです。感染後に脱毛が始まる原因については、まだ不明ですが、ほとんどの場合は、ある一定期間後に回復するようです。

■後遺症が起こるメカニズム

これまでみてきたように、新型コロナの後遺症は多岐にわたっています。共通して言えることは、後遺症が起こっている臓器では、新型コロナウイルスの感染が起こっていて、感染した細胞は傷害を受け、さらには炎症が生じているということです。

新型コロナウイルスが細胞に侵入する際に目印にしているACE2という分子は、ほとんど全ての組織で発現していて、特に血管、消化管、呼吸器などに多く存在しています。嗅覚異常や味覚異常が頻発することから予想されたように、神経細胞や脳にもACE2の発現が認められています(6)。さらに新型コロナウイルスは、血管から脳に侵入すること(7)、神経細胞に感染することが確認されています(8)

後遺症が起こるメカニズムの一例として、嗅覚異常についてみてみます(9)。嗅覚異常は、新型コロナの後遺症では、特によくみられるものです。イランからの報告では(10)、匂いの識別テストを実施したところ、新型コロナ患者の96%に何らかの嗅覚異常があり、18%が全く匂いを感じなくなっていたということです。

■「すべてのものが腐ったような臭い」

嗅覚異常が起こる原因については、これまでの研究から、嗅覚神経に直接ウイルスが感染するのではなく、神経細胞を支えている細胞がウイルス感染により傷害を受けることによると考えられています(11)

さらに血中のインターロイキン6という炎症マーカーが上昇するのと同時に、嗅覚異常が起こることが報告されていることから(12)、嗅覚神経の周辺にウイルスが感染して、それに対して炎症が起こり、嗅覚神経を傷つけてしまうこともあるようです。

神経細胞
写真=iStock.com/ktsimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ktsimage

嗅覚神経周辺の傷害の度合いによって、症状も違ってきます。傷害が修復されると、嗅覚異常も改善されます。これまでの報告では、嗅覚異常があった新型コロナの患者さんのうち、70~90%は数週間から1カ月程度で回復しています(13、14)

一方、一部の方では、嗅覚がすぐには回復せずに、長い時間かかる場合もあります。これは、嗅覚神経の傷害度合いが高かったためと思われます。

この場合、回復のためには嗅覚神経の再生と再配線が必要となります。再配線がうまくいかないと、同じ匂いが昔と違って感じたり、特定の匂いが感じにくくなったりします。なかには「すべてのものが腐ったような臭いがする」と訴える方もいます。

さらに嗅覚神経が死滅してしまうこともあるようで、その場合は匂いを感じることができなくなってしまいます。嗅覚がなくなると、腐敗した食べ物や煙の臭いを感知できなくなり、食中毒や火事に遭遇するリスクが高くなります。

また、食べ物の味は味覚と嗅覚で感じるため、嗅覚がなくなるとおいしさを感じなくなり、食欲を失うことになります。食欲は人間にとって重要な欲求で、これがなくなることによりうつ病になるリスクが上がるといわれています。

■「どうせ無症状か軽症」と油断してはいけない

新型コロナの感染者は、全世界で1億人を超えました。10%の患者さんがLong Covidに悩まされるということは、1000万人もの人が感染後も長期間にわたって後遺症に苦しめられる可能性があるのです。

若い人の中には、感染してもどうせ無症状か軽症で済むのだから、罹ってもかまわないと考えている人も多いようです。しかしはじめに述べたとおり、感染時の症状がない場合や軽症の場合でも、後遺症になることがあります。年齢も関係ありません。新型コロナに感染してしまうと、だれでも後遺症の可能性があるのです。そして後遺症の症状の深刻さを思えば、感染しないに越したことはないのです。

感染予防の切り札としてワクチンに期待が集まっていますが、全国民にいきわたるにはまだまだ時間がかかりそうです。ワクチンが普及するまでは、これまで通り感染予防の根幹である、マスクの着用、3密を避ける、うがい手洗いを徹底しましょう。

また前回のコラム「『ワクチンまではこれで身を守れ』最新コロナ論文を追う免疫学者が訴える栄養素」でご紹介したように、新型コロナの感染・重症化を防ぐために、ビタミンDを服用することも有効かもしれません。さらに検査(筆者プロフィールにリンクあり)によって、自分が新型コロナウイルスに感染しやすいのか、重症化しやすいのかを知ることも、効率的なコロナ対策を行う上で有効です。

参考文献
1) Science Focus: Long COVID: Just how common is it? (2020/11/15)
2) NIHR: Living with COVID: NIHR publishes dynamic themed review into 'ongoing COVID'
3) Med Hypotheses. 2021; 146: 110469.COVID-19 and chronic fatigue syndrome: Is the worst yet to come?
4) Open Forum Infect Dis. 2020; 7: ofaa507.Prolonged and Late-Onset Symptoms of Coronavirus Disease 2019
5) JAMA. 2020 Aug 11;324(6):603.Persistent Symptoms in Patients After Acute COVID-19
6) Cell Mol Neurobiol. 2020; 1-8. SARS-CoV-2 Infectivity and Neurological Targets in the Brain
7) Nat Neurosci. 2020 Dec 16. Online ahead of print.The S1 protein of SARS-CoV-2 crosses the blood-brain barrier in mice
8) Nat Immuno. 2021; 22: 7.SARS-CoV-2 neuroinvasion
9) Nature. 2021; 589: 342. COVID's toll on smell and taste: what scientists do and don't know
10) Int Forum Allergy Rhinol. 2020; 10: 1127. Prevalence and reversibility of smell dysfunction measured psychophysically in a cohort of COVID-19 patients
11) Sci Adv. 2020; 6: eabc5801. Non-neuronal expression of SARS-CoV-2 entry genes in the olfactory system suggests mechanisms underlying COVID-19-associated anosmia
12) ACS Chem Neurosci. 2020; 11: 2774.Taste and Smell Disorders in COVID-19 Patients: Role of Interleukin-6
13) Am J Otolaryngol. 2020; 41: 102639. Subjective smell and taste changes during the COVID-19 pandemic: Short term recovery
14) JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2020; 146: 729. Evolution of Altered Sense of Smell or Taste in Patients With Mildly Symptomatic COVID-19

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玉谷 卓也(たまたに たくや)
免疫学者・順天堂大学医学部講師
薬学博士。日本免疫学会評議員、順天堂大学非常勤講師、エムスリー株式会社アドバイザー。主な専門領域は、免疫学、炎症学、腫瘍学、臨床遺伝学。20年以上、免疫、がん、線維症、アレルギー、動脈硬化などの研究に従事。監修書籍に、『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(プレジデント社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、順天堂大学医学部の小林弘幸教授の監修のもと、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。

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(免疫学者・順天堂大学医学部講師 玉谷 卓也)

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