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世界中で頻発する「東アジア人差別」を、なぜ日本人は問題にしないのか

プレジデントオンライン / 2021年2月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Drazen Zigic

日本では、米国での黒人差別問題が盛んに取り上げられる。その一方で、米国や欧州で起きている東アジア人差別はほとんど問題にされない。イギリス在住で著述家の谷本真由美氏は「アメリカや欧州では、日本人や中国人といった東アジア人が明らかに差別されている」という——。

※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

■ブラック人権擁護のデモは、誰のためか

2020年6月のはじめには、アメリカでアフリカ系の黒人が警官に殺害された事件を受け、黒人の人権を擁護すべきだと訴える「ブラック・ライヴズ・マター運動」のデモが起きました。イギリスでもこの動きが広がり、ロンドンの中心やバーミンガムでも大規模なデモが組織され、警官が20名以上負傷しました。負傷者には丸腰の若い女性警官も含まれていました。そもそもイギリスの警官は、武装部隊を除き銃を持っていないのです。

ロンドン中心部のチャーチル像をはじめとし、黒人の迫害にまったく無関係な銅像や戦没者慰霊碑、テロリストと戦って殉職した警官の慰霊碑までもが破壊されるという事態になり、商店が暴徒に襲われました。デモ隊の中には戦没慰霊碑に放尿する人もいたほどです。

ビーチがあるブライトンではおよそ1000人がデモに繰り出しましたが、当然のごとく3密を破りまくりで、マスクなんてつけるわけもなく、新型コロナのことなど誰も考えていませんでした。

こうしたブラック人権擁護のデモは、本当に彼らのためになっていたのでしょうか。アメリカと同じくイギリスやフランスでも、新型コロナで重症化している黒人は少なくありません。特にイギリスは1950年代から60年代にかけて労働者不足に陥り、ジャマイカなどカリブ海の旧植民地から黒人を熟練労働者として大量に「招聘(しょうへい)」したため、現在でも病院や交通機関、小売などで働く従業員の多くが黒人です。

今は子どもや孫の世代になっていますが、家から近い、雇用が安定している、といった理由で親と同じ仕事をしている人も少なくありません。こういった仕事は社会を動かすためにたいへん重要ですが、人と接触することが多いので新型コロナの感染リスクが高めです。

さらに黒人は仕事の都合などで、密が起きやすい都市部に住んでいる人が少なくありません。

ですから、本当に黒人の人権を守ろうと思うなら、3密を避け、政府のルールに従うべきなのです。それなのにイギリスは、そんなことなど考えない人だらけなのです。

■人種差別には根強いカーストがある

「ブラック・ライヴズ・マター運動」は黒人に対する差別が大きな問題として取り上げられ、反対運動に発展しましたが、その一方で東アジア人に対する差別はなぜかまったく問題になりません。それどころか、実際に起きている暴力的な事件がテレビや新聞では非常に扱いが小さく、そういった事件が「東アジア人を守ろう」といった運動にちっとも発展しなかったということもショッキングな事実です。

彼女をあざ笑う手
写真=iStock.com/asiandelight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

この差別は中国人だけでなく、韓国人や日本人そして東南アジア人などアジア系の人々に対して向けられたものです。そして驚くべきことに、こうした問題を議論しようとする動きすらないのです。

普段「差別反対」「少数派の権利を守れ」と言っている人々、「ブラック・ライヴズ・マター運動」に熱心なリベラル系の日本人などは欧米について「人権擁護が進んでいる」と言いますが、実際は彼ら自身も差別されているのが実態なのです。

この事実は、アメリカや欧州という土壌には根強い差別があるのだということを表しています。つまりアメリカや欧州には、「権利を守られる少数派」と「守られない少数派」がいるということです。残念ながら東アジア人はその後者に属しています。日本でも、これに薄々気がついている人がいるのではないでしょうか。

今年の1月以後、東アジア人が各地でどんなひどい差別を受けているかということを調べればよくわかります。これらは、日本ではほとんど報道されることがありません。

■タイ人を殴りながら「コロナウイルス! コロナウイルス!」

2月、23歳の中国系シンガポール人ジョナサン・モクさんが、ロンドン中心部のオックスフォードサーカスを夜9時ごろに歩いていると、突然、殴る蹴るの暴行を受け、顔の形が変わるほどの大ケガをしました。

Facebookには真っ青に腫れ上がった顔の写真が投稿され、なかでも目はゴルフボール大にまで腫れ上がっていました。彼を殴った男はイギリス人で、「お前の国のコロナウイルスは、俺の国にはいらないんだよ!」と叫びながらメチャクチャに殴りました。

ここは渋谷の駅前みたいな場所で、ロンドンではもっとも人気がある繁華街です。普段から観光客や買い物客が多く、警官も何人かパトロールしているので、夜でもかなり安全です。暴力事件や犯罪が起こるような場所ではありません。そんな安全な場所で、明らかに人種差別が原因の暴行が起きてしまったのです。

また、ベトナム人キュレーターのアン・グエンさんは3月はじめ、ロンドンで開催されるイベントの準備中のギャラリーから、「観客が怖がるのでうちのギャラリーのブースに来ないでほしい」というメールを受け取りました。

さらに、金融街で税務コンサルタントとして働いているタイ人のパワット・シラワタクンさんは2月、西ロンドンのフルハムで昼過ぎにバスを降りようとしたところ、10代の若者2名に顔をひどく殴打されて出血したうえ強盗に遭いました。

殴っている最中に若者たちは、「コロナウイルス! コロナウイルス!」と叫んでいた。周囲には大勢の人がいて、見通しのよい通りだったにもかかわらず、彼を助ける人はいなかったのです。この事件はシラワタクンさんが二人を撮影し、警察に届け出たことで発覚しました。

■イギリスの東アジア人差別は前年比400%増

こうした被害に遭うのは、明らかに東アジア系の風貌をした人たちだけではありませんでした。ロンドンの金融街で働くジェニー・パティンソンさんは、マレーシア人とスコットランド人の両親を持つイギリス生まれのイギリス人で、報道された写真を見ると、見た目はどちらかというと白人です。彼女は2月、ウォータールー駅でバスを降りる際、男性二人にツバをはかれました。彼女はこう語っています。

「私は自分を異邦人だと感じるんです。自分は見た目が違っていて、他の人に受け入れられていないんだなって。私にとって街中は、もう安全だと感じられません」

ロンドンの差別反対団体であるStop Hate UKによれば、新型コロナ騒動が起きてからイギリスでは東アジア人に対する差別が激増し、地元の中国系コミュニティからの通報が急に増えたと述べています。これまでは中国系や東アジア系からの通報はほとんどなかったのです。人種に起因する差別は、差別的な言い回しで呼ぶ、唾を吐くといったものから、車道に突き飛ばすなど、命の危険に関わるようなものまで含みます。

ロンドン市警察によれば、2020年2月には東アジア人に対する人種差別的犯罪は64件発生し、イギリス鉄道警察では2020年の1月から3月のあいだには42件が報告されています。これは2019年に比べると400%の増加です。在宅勤務や学校閉鎖で公共交通機関の利用者は急減し乗客が少ないにもかかわらず、犯罪は激増しているのです。

マンチェスター大学の社会学研究者であるインシュアン・ファン氏は、「イギリスの中国系コミュニティは人種差別犯罪に直面しても警察には届け出ないことが多いので、水面下の件数はもっともっと多いはずだ」と述べています。

■「中国系は差別されても些細なことだと我慢する傾向」

またリーズ大学のビナ・カンドラ教授は、「中国系は差別されても些細なことだと我慢する傾向が高い」と述べています。同大学が400名を対象に聞き取り調査を行ったところ、なんと、半数の人が新型コロナの感染拡大後になんらかの差別を受けたか目撃したと述べています。

またイギリスだけではなく、欧州大陸でも東アジア系に対する人種差別を起因とする犯罪が急増しているのです。オランダのハーグに住むジエ・ソンユーさんはダンスクラスから帰る途中、いつものように自転車に乗って移動していましたが、髭面の男二人に「中国人!」と叫ばれ、殴られかけました。

さらに差別はアメリカでも激増していて、アメリカのピュー研究所によれば、58%のアジア系アメリカ人が「新型コロナ騒動後、アジア人に対する差別が増加した」と答えています。

アメリカの差別反対団体であるAnti-Defamation Leagueは、新型コロナ騒動が起きてからオンライン上で行われている人種や属性に関する差別を監視してきましたが、Telegram、4chan、Gabなど普段から過激かつ差別的な投稿が多いサイトで、東アジア系に対する嫌がらせが急増したと述べています。

■ポストコロナでは日本が脚光を浴びる

このように、他の国にはコロナ禍にもかかわらず好き放題にパーティーをやったり、東アジア人を差別したりと、自己チューで配慮も何もない人々が大勢います。

谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)
谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)

日本の野党やリベラル系の人は、麻生太郎さんの「日本はおたくの国より民度が高いんだ」という発言を散々批判しましたが、むしろ欧州では、この発言に同調する人が多いのです。自国政府やルール違反の人々にうんざりしているわけですから、「よく言ってくれた!」と絶賛です。麻生さんを批判するのは、海外の実態を理解していない日本の左翼やメディアだけでしょう。

こんな状況にうんざりしているのはイギリス人だって同じです。だからこそ、多くの人が自粛要請に自主的に従い、うんと清潔な環境で健康的な生活を送り、新型コロナによる死者数が少ない日本に羨望の眼差しを注いでいるのではないでしょうか。

集団主義で従順で潔癖性な日本人は、このコロナ禍で多くの国の人々にとって「お手本」とみなされています。

「他人に配慮できる」ということは、実はとても高度な文化です。相手の心や置かれた状況、自分の行動が中長期的に与える影響などを瞬時に判断し、予測するという「想像力」がなければ無理だからです。

これは単に計算が早い、知識がたくさんある、他人を出し抜くのがうまい、といったことよりも、はるかに繊細な感覚と感受性を要求される能力です。

日本人には、そういう資質を持った人がたくさんいます。これは他の国にはない重要な文化的資産です。それに気がついていないのは、今の日本の状況が当たり前だと思い込んでいる日本人だけです。

ポストコロナの世界では、衛生環境がよく、統制がとれていて、地味だけど真面目で、自分よりも他人のことを考えようという国が、安全な「投資先」や「協力先」として大いに脚光を浴びていくはずです。

それはまさに日本です!

新型コロナの第二波を防ぐためにも努力を継続し、ふたたび「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の世界が来るように頑張ろうではありませんか。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する

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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)

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