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少子化も女性管理職不足も「女性のせい」と考える人に欠けている視点

プレジデントオンライン / 2021年2月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deng qiufeng

少子化は女性の社会進出が進んだせい、女性管理職が増えないのは本人がなりたがらないからだろう……。こうした意見がいまだに根強いのはなぜなのでしょうか。その背景を、男性学の第一人者、田中俊之先生がわかりやすく解説。現状を変えていくための解決策も提示します――。

■2019年の出生率は1.36に

日本では少子化が深刻な問題になっています。原因についてもさまざまな議論が行われていますが、その中には社会学の観点から見て正しくないと思われるものもあります。その代表例が「少子化の進行は女性の社会進出が進んだせいだ」というものでしょう。

こう考える人の根拠は、1971〜1974年の第2次ベビーブームにあります。当時は出産したら専業主婦になる女性が圧倒的に多く、社会進出し続ける、つまり働き続ける女性は少数派でした。

その後、出生率は少しずつ下がり続け、1989年には過去最低の1.57を記録。これは「1.57ショック」と呼ばれて世間に衝撃を与えましたが、その後も低下は止まらず、2005年に1.26にまで下がり、その後やや上昇しましたが2019年は1.36となりました。

出生数と合計特殊出生率の推移

■他の先進国では、フルタイム共働きが増えても出生率を維持

こうした変化は、時期的には女性の社会進出やパートの増加、フルタイム共働きの増加などと重なっているため、一見しただけでは「ベビーブーム時代に比べて働く女性が増えたせい」と思ってしまいがちです。

しかし、2019年の1.36という数字は、結婚する人が減った結果でもあります。男女問わず結婚する人が減れば出産も減りますから、女性のフルタイム勤務だけに原因を求めるのは正しい考え方とは言えません。

また、他の先進国では、フルタイム共働きが増えても出生率はおおむね維持されています。一方、日本では待機児童の問題もあり、女性が「育児か仕事か」と二択を迫られるケースも少なくありません。働く女性が増えたのは海外も日本も同じなのに、なぜ日本だけここまで出生率が下がっているのでしょうか。

■「家事育児は女性がするもの」という見えないルールが健在

そう考えていくと、日本の出生率低下は、働く女性が増えたことが原因なのではなく、その変化に対応しきれていない社会に原因があるということがわかってきます。そのひとつが、家事育児は女性がするものだという、昔ながらの「見えないルール」です。社会は変わったのにルールは変わっていない、ここに出生率低下の根本原因があるように思います。

これは、女性管理職がなかなか増えない原因にもなっています。日本では、管理職になると会社にいる時間が長くなる傾向があります。だからといって「育児は女性がするもの」という社会的プレッシャーは変わりません。これでは「育児と両立できないからなりたくない」と考える女性が出るのも当然でしょう。

ダイニングルームにいる若い夫婦
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

しかし、企業側はこの背景を無視して「女性がなりたがらなくて困っている」と結論づけてしまいがちです。本当に女性管理職を増やそうと思うなら、なぜなりたがらないのか、どうすれば解消できるのかを考えなければなりません。そうでなければ、女性のほうは管理職を避けたまま、企業のほうは「女性はなりたがらないものだ」と勘違いしたまま、延々と悪循環が続いていくことになります。

■企業は男性向けの研修を積極的に

家事育児=女性の責任という「見えないルール」を変えるためには、どんな対策をとったらいいのでしょうか。第一に、企業は男性向けの研修を積極的に行うべきだと思います。女性活躍というと女性向けの研修をする企業が多いのですが、女性管理職が増えない根本原因は、男性にこそ理解してもらう必要があります。

第二に、男女の賃金格差を是正すること。現状の家庭ではまだ女性のほうが賃金が低く、一家の大黒柱は男性であることがほとんどです。家計的には、収入が低い側が勤務時間を減らしたほうがマイナスが少なくて済みますから、これが結果として女性の就労継続を難しくしているように思います。

この状態が続けば、フルタイム勤務の女性は今後も少数派のままということになり、家事育児=女性の責任というルールも変わりにくくなってしまいます。これを防ぐには、賃金の是正に加えて昇進機会の平等、総合職と一般職の区別をなくしていくことなども重要でしょう。

第三に、同じく見えないルールである「大黒柱=男性の責任」も解消していくべきです。この二つのルールは表裏一体なので、男女ともに思い込みを正していく必要があると思います。社会の変化に対応していくには、女性のフルタイム勤務や昇格と同じように、男性の時短勤務や育休も必要不可欠。パートナーがこうした選択をしても納得感を持てるかどうか、いま一度自己を振り返ってみてください。

■男女とも「見えないルール」から脱却を

第四に、夫婦で自分たちはどうしたいか話し合いをすることが大切です。上記の対策のうち、第一と第二は会社や社会を変えなければなりませんが、第三、第四の対策については夫婦間で実現可能です。会社や社会を変えるのは何十年とかかります。その間にも子どもはどんどん育ってしまいます。そこまで待たずとも、まずは自分たちでできる「夫婦で話し合う」ことから始めてみてはどうでしょうか。

例えば、わが家には小さな子どもが2人います。僕は保育園やサッカー教室への送迎などを担当していて、週のうち4日間は16時まで、残り1日は半日だけという働き方をしています。授業は従来通り行っていますが、それ以外の執筆や企業研修の講師といった仕事は、子どもが生まれてから大幅に減らしました。

収入は減りましたが、僕自身は子育てに関われるのがうれしく、子どもと過ごす時間をとても楽しみにしているので、今のバランスに満足しています。出世の可能性は低くなるでしょうが、僕はもともとそうしたことには興味がないタイプなのです(笑)。それよりも、子どもと過ごせる今の時間を大切にしたいと思っています。

■「出世したくない」と言えない空気は問題

しかし、現状では僕のような男性はまだ少数派でしょう。自ら出世を希望する、または出世したくないとは言えない男性がほとんどではないでしょうか。前者の場合は本人の意思だからいいのですが、後者は「自分は大黒柱でなければならない、そうでないと親や妻をがっかりさせる」と思い込んでいる可能性もあります。そうした、昔ながらの男らしさや女らしさにとらわれる時代は、そろそろ終わりにしたいものです。

時代の変化もあり、今後は「見えないルール」への意識も少しずつ変わっていくでしょう。でも、今はまだ過渡期の状態です。女性は育児への責任感から管理職を目指しにくく、男性は稼ぎ手の責任感から出世したくないとは言い出しにくい。この現状を打破して、自分が納得できる生き方や働き方を、誰もが抵抗なく選べる社会を目指していくべきだと思います。

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田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。

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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=辻村洋子)

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