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算数の問題を解く子供に「それは方程式で解ける」と言ってはいけない

プレジデントオンライン / 2021年2月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Imgorthand

親は子どもの中学受験にどう関わればいいのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康氏は「算数の解き方として、方程式を教えてしまう親がいる。それはよくない。算数と数学はそもそも思考方法が違うからだ」という――。

※本稿は、西村則康・高野健一『中学受験!合格する子のお父さん・受からない子のお父さん』(ウェッジ)の一部を加筆・再編集したものです。

■5分刻みで学習スケジュールを作成する「エクセル父さん」

その予定表を見たとき、思わず目を疑ってしまった。

「お父さん、これを全部やらせるつもりですか?」
「そうですよ。このくらいやらなければ、あと2年で開成には行けません!」

マモルくんは、大手中学受験塾に通う4年生。その塾は難関中学に強い塾として知られているが、現時点でのマモルくんの成績は最下位クラス。しかし、お父さんはこの塾に通っているなら、最難関中学の開成中を目指すのが当然と思っている。

小学生の子供は成長の発達段階にいるため、この先に伸びていく可能性は十分あるが、偏差値40レベルの学力の子を、偏差値70レベルの開成中に合格させるというのは、中学受験専門のプロ家庭教師である私でも、正直厳しいというのが本音だ。しかし、お父さんは「死ぬ気で頑張ればできる」と思い込んでいる。

そして、渡されたのが先の予定表だ。予定表はエクセルに1週間単位で組まれており、1日のスケジュールも「計算ドリル15分」「休憩5分」「算数の復習55分」「休憩5分」といったように5分刻みにこと細かく書かれている。

でも、それを小学生にやらせてみたところで、できるはずがない。計算問題1つ解くにも苦戦しているマモルくんには、予定の半分でお手上げ。そんなマモルくんを見て、お父さんは「お前の努力が足りないから伸びないのだ!」と怒鳴りつける。

■子供が「大人と同じ頑張り」をするのは無理

実は今、中学受験家庭で、マモルくんのお父さんのようなタイプの人が増えている。こういうお父さんの共通点は、仕事で成功している人が多いこと。自分が立てた業務目標に対し、自分も部下も頑張り、結果を出した。そうやって成果を出してきたから、自分のやり方に自信があるのだ。でも、それができたのは、大人だから。大人は自制心があるし、仕事となれば多少無理をしてでも頑張れるだろう。だが、小学生の子供にそれと同じことを求めるのは間違っている。なぜなら、子供にはまだその力が備わっていないからだ。

人生経験が浅い子供は今がすべてで、遠い先の未来に向かって、毎日同じモチベーションで頑張ることなどできない。気分が乗っているときもあれば、やりたくないときもあるし、学力がグンと伸びるときもあれば、一気に下降するときもある。そうやって日々変化している中で、親に決められたスケジュール通りに勉強なんてできるはずがない。

■「PDCA風」に勉強を進めるのは禁物

受験勉強を進めていく上で、学習スケジュールを立てることは大切だ。だが、お父さんが立てる計画はそもそも無謀過ぎることが多い。

PDCAという言葉は聞いたことがあるだろう。PDCAとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の4つのサイクルのこと。仕事を改善・効率化する手法で、ビジネスでは馴染みのある言葉だ。改善・効率化に有効な手段となれば、子供の中学受験にも使えそうと、取り入れたがるお父さんは少なくない。だが、それをやってしまうと、大抵の子供はやる気をなくす。

そもそもお父さんの考えるプランは明らかに詰め込み過ぎだ。先に紹介したマモルくんのお父さんがいい例だろう。いつもそばにいるお母さんなら「そんなの無理よ」と肌感覚で分かるものだが、お父さんにはそれができない。一度決めたことは、何がなんでもやらせなければと思っている。仕事ではそれが絶対だからだ。そして、できない子供を叱る。

誤解しないでいただきたいのが、私はPDCAを否定しているわけではない。正しい意味を理解しないで「PDCA風」にやろうとすることに問題があるのだ。多くのビジネスマンにとって、PDCAはあまりワクワクする言葉ではないだろう。どこか管理されているイメージがあるからだ。特に「C」のチェックでは、「なぜ業績が上がらない?」とできていないことを指摘される。

PDCAサイクルが頭の中に描かれた人の絵
写真=iStock.com/marrio31
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marrio31

■「できて当たり前」ではなく、ほめる

だが、本来のPDCAの「C」は、できていることもできていないことも両方チェックするもので、できていないところだけをチェックするものではない。できているところは、「できて当たり前」ではなく、認めてほめるべきなのだ。大人でもそうだが、人にほめられるとやる気がアップする。逆にできていないところばかりを指摘されて、「何クソ!」と奮い立つ部下はあまりいないだろう。精神的にまだ幼い小学生の子供ならなおさらだ。

中学受験の勉強にPDCAを取り入れるのなら、特に「C」の扱いに気をつけなければいけない。「C」はほめるためにある、くらいに思っておいた方が効果は高いだろう。予定通りにできたら、そこは大きなほめポイントだ。だからこそ、予定は詰め込み過ぎないこと。子供が1日を終えるときに、「あ~、今日は気持ちよく勉強ができたなぁ~」と思えるくらいの量がちょうどいい。

■算数を「数学のやり方」で教えてはいけない

子供に勉強を教えたがるお父さんもいる。特に理系出身のお父さんに多い。だが、お父さんが指導に入ることで、成績が下がってしまうことがある。禁断の方程式を教えてしまうからだ。

中学受験を経験していないお父さんは、受験算数というものを知らない。問題を前に、図や式を書きながらああでもないこうでもないと頭をひねっているわが子を見て、「一体いつになったら答えが出るんだ!」とじれったくなり、「こんな問題、方程式で解けばすぐに答えが出るじゃないか!」と方程式を教えてしまうのだ。

算数・数学という科目は、正しく考えている限り、どのような方法で解いても原則自由だ。算数だからといって方程式を使ってはいけない、というわけではない。だが、これまでの経験上、塾で習った線分図や面積図などの手法で理解できなかった問題は、お父さんが方程式で教えてもまず理解できないだろう。

その大きな理由に、算数と数学における思考方法の違いがある。算数では具体的な事柄を対象とする場合が多く、「今分かっていることから次は何が分かるだろうか?」「そこからさらに何が分かるだろうか?」と前から順を追って考える場合が多い。

それに対して数学は、一般化された定理・公式を使う場面が増え、それに当てはめて解くことが多くなるため、「分からないものをxとおく」といった方程式的な手法を使う場面が増える。これらは問題に対するアプローチが真逆なため、一つの問題で理解できない2つの方法を教えられた子供は、頭の中が混乱してしまう。

計算の問題
写真=iStock.com/r_mackay
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/r_mackay

■方程式では解けない問題に対応できなくなる

だったら、「どうせ中学以降は方程式で解くのだから、最初から方程式で教えてしまった方が効率的では?」と思うだろう。だが、一般化された対象を扱うには抽象理解が必要であり、大人と小学生とでは、この抽象理解力に大きな差がある。りんごやみかんならイメージができるが、xやyといった記号は、何か得体の知れないものに感じられ、「よく分からないけど解けるもの」となってしまう。

方程式を教えられた子供は、その得体の知れない便利なツールに数字を当てはめれば答えが出ると勘違いしてしまう。すると、これまで丁寧に書いていた図や式を書くことが億劫(おっくう)になり、とりあえずお父さんから教えてもらった方程式に数字を当てはめてみるという行動をとるようになる。

ところが、中学受験の算数は、すべてが方程式で解けるとは限らない。むしろ、問題によっては方程式で解く方がかえって時間がかかるものや、方程式では解けないものの方が多いのだ。

小学校の算数よりもはるかに難しく、数学のように方程式は使えない。では、各学校は受験算数でどんな力をつけてほしいと思っているのか? それは、試行錯誤しながら、発見する喜びを味わうことだ。こうした受験算数の魅力を理解せず、便利な解法を教えることはやめてほしい。

■一番大事なのは、どのような親子関係を築けるか

では、なぜお父さんは教えたがるのか?

おそらく、子供の前で“デキルお父さん”をアピールしたいのだろう。そんなお父さんの口癖は、「何でこんな問題が分からないんだ!」「いつまでかかっているんだ!」。その吐き出された言葉を受けとった子供は、「俺はすぐ分かるのに」「俺だったらすぐに解いてしまうのに」という発声されなかった父親の気持ちを感じとる。

西村則康・高野健一『中学受験!合格する子のお父さん・受からない子のお父さん』(ウェッジ)
西村則康・高野健一『中学受験!合格する子のお父さん・受からない子のお父さん』(ウェッジ)

中学受験は、お父さんの自慢をアピールする場ではない。主役はあくまでも子供であることを忘れてはいけない。それを無視して、子供の足を引っ張るのは、「百害あって一利なし」だ。

では、中学受験にお父さんは必要ないのか?

そんなことはない。お父さんにはお父さんの役割がある。いや、お父さんにしかできない大事な役割がある、と言った方が正しいだろう。

それは何か?

世の中にはたくさんの中学受験本があるが、そのほとんどがお母さんに向けて書かれたもので、意外にもこれまで“お父さんのための中学受験本”が存在しなかった。だからだと思う。お父さんたちは、今の中学受験がどんなものであるか、小学生の子供はどんな成長段階にあるのかということをよく理解できていないように感じる。正しい情報がないから、自己流のやり方を押し通そうとしてしまう。でも、勉強でもそうだが、正しいやり方を知れば、どんどん良くなっていく。

私は中学受験におけるお父さんの役割はとても大きいと思っている。ぜひその力を発揮し、親子の絆を深めてほしい。中学受験の目標は志望校に合格することだが、その過程でどのような親子関係を築けるかが、実は一番大切なことなのだ。幸せな中学受験とは、そのことを言うのだと思う。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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