「上司のパワハラ→転職」成功する人と失敗する人のちょっとした違い
プレジデントオンライン / 2021年3月3日 11時15分
※本稿は、下園壮太『自衛隊メンタル教官が教える 心をリセットする技術』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■3大要素をケアして、新たな物語を作れるか
「やめる・やめない問題」をいかに前に進めていくか。その秘訣は、「やめる・やめない」というテーマを抱えつつ、もつれてしまった3大要素、つまり、
・エネルギーの低下
・自信の低下
・不安の拡大
この3つをしっかりケアし、新たな物語を作ること。これに尽きます。
私たちは「やめたくなったときの対処の仕方」など、学校で教わったことがありません。
人は、「やめる・やめない問題」に直面したときに、とりあえず自分の引き出しに入っている価値観や対処法を取り出して、前に進もうとします。そして結論として「やめる」ことができたとしましょう。ところが、「やめる」という行為が結果オーライになる場合と、いつまでも挫折感を引きずる場合、というように、大きな違いになることがあるのです。
ここでは、対照的な2つの事例を見てみましょう。
■上司からパワハラを受けていたAさんとBさん
事例〉パワハラで会社をやめた人のその後
AさんとBさんは、30代前半の会社員で、勤務先は違えども、同じように直属の上司から同じようなパワハラを受けていました。
上司は、事前に意見や状況を確認することなく、急に仕事を命じます。「すみません、今は、別件で手が塞がっているので、少し時期を後ろにしてもらえませんか」と言うと、「たいした売上も上げていないやつが、文句を言うなよな……」と周囲に聞こえるように嫌みを言います。会議で難しい議案になると必ず指名し、「何で黙ってるんだ?」と高圧的に責めます。同僚たちは、「マークされたね。でもいつかは終わるよ」と、遠巻きに見ています。あるときには帰社しようとするところを呼び止められ、「おまえはこのチームのお荷物だ」と2時間、説教が続いたことも。
気にしないようにしよう、と思っていましたが、苦手意識が拡大し、上司の声がするたびに胃が痛むように。それから半年後、ついに会社に行けなくなってしまいました。
うつっぽくなり、夜も眠れなくなり、辞表を提出することにしました。
AさんもBさんも、新たな就職先を見つけました。
■キャリアの空白を避けたかったBさんの失敗
Aさんは、前の職場で有給休暇を消化し、失業保険をもらいながら体をしっかり休めました。新たな職場で、給料は下がったものの、「無理はしない」と自分に言い聞かせながら、仕事を覚えているところです。自分は、ボロボロになる前にあの職場から離脱できてよかった、と思っています。前の職場で苦しみながらも数をこなした企画書作りを褒められたりすると、「あの苦労は、ムダなわけでもなかったな」と穏やかに振り返ることができています。
一方、Bさんは、やめたい、と思ったその日から「やめたら、なるべく日を置かずに新たな職場に行く」と必死に再就職先を探しました。キャリアの空白を避けたかったのです。実際に、退職した翌週から張り切って新しい職場に勤め始めました。
しかし、実は今でも対人恐怖を引きずっています。上司と接するときにも、何か自分の悪い部分が指摘されるのではないか、とビクビクしています。作った書類を何度確認してもミスが残っていそうで不安になる。そしていまだに、給料が下がったことを悔やみ、「過去を引きずる自分は負け犬だ」と自責感を強めています。
■疲労をケアできていなかったBさん
同じようにストレスフルな経験をし、やめる決心をしたAさんとBさん。今の状況がこれほどまでに違うのは、どうしてでしょう。
Aさんはもともとの性格がポジティブで、Bさんはネガティブだから?
いいえ、そうではなく、たとえ同じ人でも、「やめる・やめない」で悩んだときの行動の仕方、とらえ方次第で、「やめる」を「殻を破る成長体験」(これをレジリエンスと呼びます)にできるか、「挫折」にしてしまうかという、目に見えない分かれ道があるのです。
ここに関わってくるのが、先ほどお話しした「エネルギーの低下」「自信の低下」「不安の拡大」という3つの要素と、「物語作り」です。
夜も眠れなくなるほど悩み、エネルギーが低下している状況であったのに、Bさんはすぐに再就職先で働きはじめ、疲労(エネルギーの損失)を充分にケアできていませんでした。
一方、Aさんは、自分が疲れていることを自覚し、休むことを重視しました。再就職のスタート時に、体を休めて、新たな環境にゆっくりとなじんでいこうと決めていたので、無理なく新たな物語を作り、復活することができたのです。
Bさんが、休まず日を置かずに働きたかったのは、自信の低下によって不安が強くなっていたからです。再就職先が決まらない状態のまま宙ぶらりんでいるのは、プライドも許さなかった。そして、失った自信をすぐに取り戻したかった。
新しい職場で心機一転、一発逆転を狙ったものの、エネルギーが不足した状態ですから、意欲が上がらず、思考もネガティブなままで、新たな物語も作りにくい。うつ状態を引きずった状態ではパフォーマンスも発揮しにくく、「人は怖いものだ」「自分は弱い負け犬なんだ」という、うつ的な思考でとらえてしまうのです。
■対処のコツさえ学べば、いつでも仕切り直しはできる
「やめる・やめない問題」と向き合うのは、苦しく、難しい作業ではあります。
しかし、どうせ悩むのです。その経験を「あれもこれも、全部、結果的にはよかったんだ」と肯定できるような経験にしていきたいですよね。
「やめる・やめない問題」への対処のコツを知らなかったがために、「経験」が後悔や挫折になってしまう、Bさんのような人はたくさんいます。
エネルギーも底をつき、自信をなくしているのに(だからこそ)、拡大する不安を打ち消すかのように一発逆転の行動を取る人がいます。今までの自分の物語を何とか保っていきたいのです。
充分に考えずに退職したり、転職したり、起業を計画したり。資格の試験にチャレンジしたり、ハクをつけようと海外に武者修行に行く人もいます。あるいは、勢いで結婚したり離婚する人もいます。
しかし、大概の場合、エネルギーがすぐに尽きてしまい、準備も充分でないためにうまくいかず、見切り発車をした自分に対して後悔し、いっそう自信をなくしてしまうのです。
当然、新しい物語も紡げません。
ただ、もしあなたが今挫折して、Bさんのように後悔ばかりしているとしても、「やめる・やめない問題」への対処のコツを学ぶことで、現時点から変わっていくことができます。どんなときでも遅くはない、ということも、私はよくクライアントにお伝えしています。本書を、そんな復活の道具に役立てていただきたいのです。
■「私は不幸」と言っていても、悩みは解決しない
一方、やめられないままで動けず、苦しんでいる人もいます。悩んでいるけれど、「やめる」行動までは起こしきれない状態です。
パワハラ上司、精神的・肉体的暴力を振るう配偶者など、ストレス源が常にそばにある環境にいるということは、常にネガティブな刺激を受け続けていることを意味します。相手に怒りをため、今日も嫌なことばかりだった、と不平不満がつきまとう。だんだん、被害者意識がふくらんでいきます。「私は不幸だ」という物語を作り、周囲に愚痴は言うけれど、原因が取り除かれないのでいつまでたっても悩みは解決しません。
そこは割り切ってうまく気晴らしできる人もいます。環境に多少苦しさはあっても、文句を口に出してしまえば気がすむ、本人はたいして悩んでいない、というケースもあります。同じストレス源でも、人のエネルギーもとらえ方もまったく異なりますから、誰もがうつっぽくなるわけではありません。
■不満が大きくなるほど、エネルギーは削られていく
しかし、不満が大きくなるとそれを抑え込もうとするエネルギーも相応なものが必要となるので、時間とともに知らないうちにエネルギーが削られていきます。状況を打開できずに不満を言っている自分に対して自己嫌悪し、自信が持てなくなる。かといって環境を変えるという未来も、不安が強いので選択できない。苦しさが増して、イライラし、家庭内はもちろん、職場での人間関係も崩れてトラブルメーカーのようになってしまう人もいます。そうなると「私は世界一不幸だ」という物語に発展していることもあります。
エネルギー、自信、不安が悪化すれば、「やめる・やめない問題」はこじれ、さらにこの3つの要素が悪化します。逆に3要素のうち1つでも改善すれば、ほかの要素も改善する、つまり、3要素は相互関係にあるのです。
ならば、難題である「やめる・やめない問題」に取り組むためには、まずは体制作りが重要である、ということ。エネルギー、自信、不安の3要素をケアし、動けない自分を責めてさらに動けなくなる、という悪循環を止めましょう。
あなたが決断するときにも、その後行動するときにも、この3要素がどっしりしているほど、物事はうまく運ぶでしょう。この3要素が改善して、はじめて新しい物語が紡がれていくからです。
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心理カウンセラー
1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の「心理幹部」として多くのカウンセリングを手がける。著書に『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)など多数。
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(心理カウンセラー 下園 壮太)
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