「今回も内輪の論理」ポスト森に選ばれた橋本聖子氏を、国民は受け入れるのか

プレジデントオンライン / 2021年2月18日 16時45分

衆院予算委員会を終え、記者団に囲まれる橋本聖子五輪・女性活躍担当相(中央)=2021年2月17日午後、国会内 - 写真=時事通信フォト

■21年前の首相就任時にも「密室」批判を受けた森氏

女性蔑視発言で東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を退いた森喜朗元首相の後任選びは、橋本聖子五輪相の就任で落ち着いた。この間に何人もの「本命候補」が浮上しては消えた。橋本氏は、この要職の適任者なのだろうか。

2月18日午後、組織委から「会長候補」となった連絡を受けた橋本氏は首相官邸を訪れ菅義偉首相に報告した。菅氏は「国民の皆さんに歓迎される東京大会になるように全力をつくしてほしい。国としてもしっかりサポポーとする」と橋本氏を励ました。この場で橋本氏は五輪相の辞表も提出した。

これで、組織委の会長を巡る混迷は一応の決着をみた。しかし、この間の混乱は例をみないものだった。

森氏の辞任が固まったのが2月11日。直ちに川淵三郎・元日本サッカー協会会長が後継会長の候補と報道された。同日夕には川淵氏自身も組織委会長就任を前提として報道陣の取材にも応じていたが、翌日に状況は一変。森氏が川淵氏に後継会長となるよう依頼した形となったことが批判され、「密室決着」とたたかれたのだ。

森氏は2000年、小渕恵三首相が脳梗塞で倒れた後、後継首相となった。当時幹事長だった森氏を含め自民党幹部5人が都内のホテルで極秘に会って決めてしまった。その時も「密室の擁立劇」と指摘された。否定的な報道とともに誕生した森政権は、国民の積極的支持を受けることはなく、翌01年4月に辞任するまで低支持率に苦しみ続けた。

森氏は政治家として頂点に上り詰めた時と、おそらく政治生活最後の大舞台から降りる時、「密室」批判を受ける皮肉な人生となった。

■「有力候補」は社によって大きく食い違った

川淵氏は12日の組織委の会合で会長就任の辞退を表明。その後の後継選びの混乱はご承知の通り。「橋本氏に一本化」が報じられた17日夕までの間、メディアは思い思いの候補者名をあげ「有力候補」を伝え続けた。

内閣改造する前夜の報道のようだが、改造報道との違いもあった。閣僚人事の時は、おおむね各社の予想は同じとなるが、今回は社によって報じる内容は大きく食い違った。

スポーツ紙の報道を例に取りたい。

日刊スポーツ、サンスポは柔道金メダリストでJOC会長の山下泰裕氏を推した。

スポーツ報知はシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)でのメダリスト・小谷実可子氏を有力に上げた。一方、スポニチは17日朝刊では、山下、橋本、小谷の3氏を並べて報じた。

この他、名が上がった人物を列挙しておこう。安倍晋三前首相、丸川珠代元五輪相、水泳金メダリストで前スポーツ庁長官の鈴木大地氏、ハンマー投げ金メダリストで現スポーツ庁長官の室伏広治氏、マラソンの有森裕子氏、フィギュアスケートの荒川静香氏、バレーで活躍し日本バスケットボール協会(JBA)会長の三屋裕子氏、柔道の山口香氏。プロ野球DeNAのオーナーを務める南場智子氏の名も報じられた。

■橋本聖子氏は「政治部推し」の銘柄だった

なぜ、これだけの名が次々と上がったのか。五輪を渦巻くさまざまな思惑が交錯したからだ。例えば菅義偉首相ら政府側は橋本氏の起用を主導した。五輪相としての経験から政府の意向が反映されやすいのがポイントだった。菅氏は、川淵氏が会長候補に浮上した時「もう少し若い女性を」と求めたと言われるが、56歳の橋本氏は、そういった意味でも適任だった。

アスリート
写真=iStock.com/sportpoint
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sportpoint

一方、組織委側は、JOC会長として組織委とスクラムを組んで取り組んでいた山下氏を推す声が強かった。東京都からは小谷氏待望論が多かったという。

それに加え、後任人事を伝える報道の「司令塔不在」も混乱に拍車をかけた。政治部記者は政府の意向を重視。社会部記者はJOCや組織委の声を代弁する傾向があった。そして運動部記者はアスリートの声を多く拾った。最終的には政治部推しの橋本氏に落ち着いた。

■検討委の5項目は「利害関係人」の基準にすぎない

今回の人事は非公開の候補者検討委員会で、

①五輪・スポーツへの造詣
②五輪憲章の理念への理解
③知名度と国際感覚
④これまでの経緯の理解
⑤組織運営能力と調整力

という5つの基準に基づいて議論された。

夏冬あわせて7回の五輪出場歴があり、四半世紀にわたって参院議員を務め、さらに19年からは五輪相を務めてきた橋本氏は、5項目に照らせば適任だ。ただし、今回、候補に浮上した面々は、多少の濃淡はあるが、いずれも5項目を満たした人物。橋本氏は「その中の1人」にすぎない。多くの候補から、首相官邸の意向を踏まえながら消去法による「内輪の論理」で選ばれた、ということではないか。

先の5項目が「利害関係人」の中での基準だったとしたら、女性蔑視発言に端を発したポスト森人事で、一般の国民が求めていた基準は別だった。おそらくこの4つだろう。

①女性のアスリートであるか
②森氏との距離感はどうか
③政治色が薄く中立性があるか
④スキャンダルなどの問題はないか

この国民目線の基準に照らして橋本氏の「適性」をみてみたい。

■最も森氏と近く、最も政治的な存在

「①女性のアスリートであるか」については申し分ない。これは誰も異論はないだろう。ただし、この基準は、小谷氏、有森氏、山口氏、荒川氏らも満たしており、決定的な要因にはならない。

日本オリンピック博物館
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ryosei Watanabe

「②森氏との距離感はどうか」について、橋本氏は不適格と言わざるを得ない。橋本氏は森氏の打診を受けて政界入り。森派(現・細田派)に所属した。橋本氏が森氏とツーショットで「父です」と語りほほ笑む姿がテレビで何度も放映されている。橋本氏は名の上がった有力候補の中で最も森氏に近い人物の1人でもある。「森氏の操り人形になるのでは」という疑問の目が向けられる。

「③政治色が薄く中立性があるか」についても同様だ。自民党所属の参院議員で現職の閣僚。橋本氏が会長に就任する場合、大臣規範に基づき閣僚との兼職は認められず、五輪相を辞任することになる。また、政治的中立を求める観点から自民党を離党する必要もありそうだ。議員辞職が必要との見方もあるが、こちらは回避される方向だという。いずれにしても、橋本氏は「政治色が薄く中立性を持つ」とは対極の人物といえる。

■離党して議員を続けることの理解が得られるか…

五輪相を辞して組織委の会長になるということは、五輪相はさほど重要ではないのか、という突っ込みが出るだろう。そもそも今回の騒動が浮上するまで、組織委の会長より五輪相のほうが「格上」と考える人が多かったのではないか。

また、橋本氏の後任には五輪相経験者の丸川氏が就くが、彼女も森派の流れをくむ細田派所属。2016年の都知事選では小池百合子氏と戦う候補の遊説の司会役を買って出て「女の戦い」と注目されたこともある。小池、丸川の両氏は、今も微妙な関係と言われている。

橋本氏は比例代表選出の参院議員。自民党支持者から票を得て当選している。離党して議員を続けることへも、疑問が上がるだろう。このように、次から次へと「政治問題」が浮上する。

■焦点は「わきまえない女」になれるかどうか

「④スキャンダルなどの問題はないか」はどうか。2014年のソチ冬季五輪の打ち上げパーティーで橋本氏が高橋大輔選手に抱きついてキスをする写真も報じられた。橋本氏が後継会長候補に名が上がってから、この「逆セクハラ」ともいえるニュースはほじくり返され、世界にも打電されている。国内では旧聞に属するが、国際的にどう受け止められるか。

今回の人事では、森氏から川淵氏への「密室指名」への反発から「透明性」がキーワードとなった。どんな人事でも途中経過まで透明に行うのは不可能に近いのは事実だが、非公開の検討委での橋本氏選出は、国内世論から無条件で受け入れられない船出となりそうだ。

まずは、橋本氏が「森色」を脱し、政治とは一線を画した組織委の運営を行い、自身が「わきまえない女」であることを実証できるかどうかが焦点となるだろう。

(永田町コンフィデンシャル)

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