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「またも看板キャスターが降板」NHKは"忖度人事"をいつまで続けるのか

プレジデントオンライン / 2021年2月25日 18時15分

NHK放送センター(東京都渋谷区)2020年9月8日 - 写真=時事通信フォト

■「忖度人事」が疑われる2人の降板

NHKの顔である有馬嘉男(55)と武田真一(53)が3月いっぱいで降板させられる。

政権に批判的な2人だから、NHK首脳陣が菅官邸に忖度したのではないかといわれている。

この突然の降板と、今問題になっている菅義偉の長男・正剛が、総務官僚たちを接待漬けにしていたこととは、根っこでつながっていると思う。

それについては後述するとして、有馬と武田の降板理由から見てみよう。

昨年10月26日の臨時国会が開幕した日、菅は『ニュースウオッチ9』(以下『ウオッチ9』)に出た際、有馬は、問題になっている日本学術会議の任命拒否問題について質問を重ねた。

すると菅は、最後のほうではややムッとした様子で、「説明できることと、説明できないことがある」といった。

私はビデオに録ってあるものを見返してみたが、何ということのないやり取りである。

■「NHK執行部が裏切った」と官邸が抗議

だが、週刊文春(2/25日号)によると、放送直後に山田真貴子内閣広報官から原聖樹政治部長に抗議があったという。どうやら、「所信表明の話を聞きたい」といって呼びながら、学術会議問題について聞くなんて、「NHK執行部が裏切った」と考え、菅官邸が怒ったそうだ(これについて2月25日に衆院予算委員会に参考人として招致された山田は、NHKにその件で電話をしたことはないと答弁している)。

質問内容を事前に提出して、役人がつくったペーパーを読むだけの出来レース会見しかできない菅にとっては、想定外の質問が許せなかったのではないか。

その頃から局内では有馬降ろしが始まったそうだが、表向きは、夜のニュース番組は軒並み女性キャスターだから、『ウオッチ9』も和久田麻由子をメインに据えるというもので、有馬の次に来る田中正良元ワシントン支局長は補佐役に回るそうである。

和久田はたしかに原稿を読むのはうまいと思うが、MCとしての能力にはやや疑問符がつくと思う。

一方の武田のほうはどうしてなのか。彼は『ニュース7』のMCを9年間務めたほか、『クローズアップ現代+』(以下『クロ現+』)のキャスターも担当していた、名実ともにNHKを代表するアナウンサーである。

武田は家族仲が良く、子どももまだ小さいようだが、今回の異動で大阪放送局へ単身赴任させられるそうである。明らかな左遷人事ではないのか。

■二階幹事長への質問は不興を買うようなものだったか

しかし、武田の降板理由もまた不可解なものだ。1月19日の『クロ現+』で自民党の二階俊博幹事長をインタビューした際、新型コロナウイルス対策について、「政府の対策は十分なのか。さらに手を打つことがあるとすれば何が必要か」と質問した。

すると二階は、「今全力を尽くしてやっているじゃないですか。いちいちそんなケチをつけるものじゃないです」と凄んだというのである。

このことで武田は、二階の不興を買って降板&異動に追い込まれたと週刊文春は書いている。

この程度の質問で降板させるとしたら、NHKは官邸に忖度どころではなく、もはや権力側と一体化していると思わざるを得ない。

私は、武田が『クロ現+』のキャスターになる時、会見で政治との距離について聞かれ、「フェアであること。情報が世の中をよくすることに資するかの一点を大切にしたい。多様な見方を提示して民主主義を機能させるため、『こんな見方もある』と政治家にぶつけないといけない」(川本裕司『変容するNHK 「忖度」とモラル崩壊の現場』花伝社)と語ったことが響いているのではないかと思う。

NHKに多様な見方、考え方は必要ない。安倍官邸の強い意志で会長に祭り上げられた籾井勝人が会見でいい放ったように、「政府が右といっているものを、われわれが左というわけにはいかない」のがNHKなのだ。

「NHK放送ガイドライン」には「自主・自律の堅持」がうたわれているが、首脳陣は読んだことがないのであろう。

■五輪開催の是非を問う『Nスぺ』にも圧力か

週刊新潮(2/25日号)によれば、NHKの看板番組『NHKスペシャル』でも、放送直前にエライサンの鶴のひと声で延期という事態が起きていたという。

テレビ
写真=iStock.com/TommL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TommL

1月15日、五輪開催の半年前にあたる1月24日放送予定の『令和未来会議 どうする? 何のため? 今こそ問う 東京オリンピック・パラリンピック』の打ち合わせに、チーフプロデューサーがいつまでたっても現れなかったというのだ。

「実はその裏で、NHKスペシャルを管轄する放送総局大型企画開発センター幹部と、正籬(まさがき)聡副会長兼放送総局長の会談が行われていたんです。そこでは放送延期について話し合われ、当日中に現場に伝えられました」(NHK中堅職員)

正籬は政治部出身で全放送に責任を持つが、トップが口出しするのは異例中の異例で、労組が問題視して経営陣に説明を求めたそうだ。

説明によると、コロナで世論の不安が高まる中だから、タイミングが悪いというものだったが、番組内での討論で、五輪止めるべしという意見が多く表明されれば、どうしても開催したい官邸や組織委の不興を買うことになるので、正籬が忖度して延期したといわれているそうである。

ここでも忖度が幅を利かせている。いっそのこと忖度放送局とでも変更したらどうか。

いうまでもないことだが、NHKは予算や事業計画を国会で承認されなければならないし、会長の任免権を握る12人の経営委員は国会の同意を得て首相が任命するから、政治的な圧力がかかりやすい。

■「言うべきことは言いたい」と語った大越キャスターも…

だが今のNHKを見ていると、受信料を払っている国民のほうは向かず、官邸や総務省ばかりを向いているといってもいい。

有馬降板で思い起こされるのは、同じ番組でキャスターを務めていた大越健介の時のことである。東大の野球部で活躍したスポーツマンで、ものいうキャスターとして人気があった。

だが安倍首相(当時)は、大越の話すことがいちいち癇に障るようだった。週刊現代(2015年4/4日号)で大手紙政治部記者が、「一度、私が公邸で同席したときは、大越さんがコメントを始めると舌打ちして『また始まったよ』とぼやいていました」と語っている。

これも籾井会長時代。安倍と特段に親しい岩田明子NHK記者も、大越のコメントの仕方に不満が溜まっていたと週刊現代が報じている。同期にはやはり安倍首相にきわめて近い小池英夫(後に政治部長、現在は理事)がいて、大越と出世を競っていたという。

そんな中で大越は、「政治に対しては多少モノを言いたいと思うし、(3.11の=筆者注)原発事故に関しても、やっぱり言うべきことはきちんと言いたい。NHKだから無味乾燥でいいということは、絶対にないと思います」と、週刊現代のインタビューで語っている。

こういう姿勢のジャーナリストが、よく5年も持ちこたえたと思うが、突然、降板をいいわたされたのである。

小池は報道局長時代、森友事件を執拗に追いかけ、数々のスクープをものにした相澤冬樹記者の記者職を解き、退社へ追い込んだことでも知られている。

■菅首相に食い下がった『クロ現』国谷氏の述懐

『クロ現』の国谷裕子がNHK側から、「契約更新をしない」といわれたのは2015年12月であったという。

その前年の7月3日、集団的自衛権の行使容認をテーマに菅官房長官(当時)が出演した。

国谷は、菅の発言に対して何度も「しかし」と食い下がった。

最後の質問が終了直前だったため、菅の言葉が尻切れトンボで終わってしまった。菅周辺が「なぜ、あんな聞き方をする。『しかし』が多すぎる」とNHK側に文句をいったそうだ。

現場は国谷の続投を強く望んだが、籾井会長は菅に詫びを入れ、国谷降板の流れができてしまったそうである。

国谷は世界(2016年5月号)で、時間をキープできなかったのは私のミスだったと認めながら、こう書いている。

「聞くべきことはきちんと角度を変えて繰り返し聞く、とりわけ批判的な側面からインタビューをし、そのことによって事実を浮かび上がらせる。それがフェアなインタビューではないだろうか」

インタビューのイロハだと思うが、こうした当たり前のことさえできないNHKという組織は、腐食が思いのほか進んでいるといわざるを得ない。

島桂次、海老沢勝二など、有力政治家たちとつるんで権勢を振るってきた歴代会長から、小物になったとはいえ、その悪しき伝統は今も続いている。

■国営放送化を目論む菅首相の野望

そんなNHKを菅が黙って見ているわけはない。森功は『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)で、菅は総務大臣就任当時から、NHKを国営放送にして操り、そのための見返りとして受信料を義務化する考えだったと書いている。

その前段階の受信料義務化が達成されたのは2017年12月6日であった。

受信料契約を拒んだ男性にNHKが支払いを求めた訴訟の上告審で、最高裁が、「テレビがあればNHKと契約を結ぶ義務がある放送法の規定は合憲」だという判決を下したのである。

小槌
写真=iStock.com/Kuzma
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kuzma

この司法判断の裏に、安倍や菅の何らかの働きかけがあったのではないかと考えるのは“邪推”だろうか。

その結果、受信料の申し出が通常の数倍にもなったという。

その後、ネットでの同時配信も始まり、テレビを持たず、スマホやパソコンで視聴する人間からも受信料を取る仕組みができつつある。

そうした背景を考えると、官邸の傀儡である籾井会長を実現させ、政権に批判的な人間を次々に降板させていく、安倍と菅の思惑が透けて見えるではないか。

菅が総務大臣だったのは第1次安倍政権の1年だけだったが、総務省を自分の「天領」にしようともくろみ、着々と手を打ってきたのは間違いない。

■旧郵政省を掌握した田中角栄が重なる

今は総務省に吸収されたが、旧郵政省に最初に目をつけたのは田中角栄だった。

彼は、ここを牛耳ればメディアはオレにひれ伏すと考えたのである。

「俺はマスコミを知りつくし、全部わかっている。郵政大臣の時から、俺は各社全部の内容を知っている。その気になれば、これ(クビをはねる手つき)だってできるし、弾圧だってできる」

これは田中角栄が総理に就任した直後の1972年8月に、番記者たちに語った「軽井沢発言」として知られている。

この中の「郵政大臣」を「総務大臣」に置き換えれば、菅首相の「本音」と同じではないか。

田中が郵政大臣当時、三流役所といわれていた郵政省に目をつけ、放送局の免許申請が殺到する中で、郵政省の方針をひっくり返して一括大量免許を交付することでテレビ局に恩を売り、新聞とテレビ局の系列化を推し進めて、新聞にも大きな影響力を持つようになった。

以来、田中派は郵政族と呼ばれ絶大な権力を行使してきた。田中派の重鎮であった梶山静六を師と仰ぐ菅が総務大臣に就任した時、こう考えたことは想像に難くない。

総務省は情報通信や郵便ばかりではなく、地方自治などを含めた戦前の内務省のような巨大組織である。ここを思いのままに動かすことができれば、最高権力者への道が開けると考えたとしても当然だろう。

■長男を使って省内の最新情報を仕入れていたのか

総務大臣の時、ロックバンドをやっていた長男・正剛をいきなり秘書官に据えた。社会経験もない25歳の若者がもらった年収は400万円だったといわれる。その後、菅は旧知の「東北新社」創業者に頼んで入社させてもらう。

私は、これは偶然ではないと考えている。

「東北新社」が衛星基幹放送事業に進出するのは2017年。その後、2018年にCSデジタル放送を開局している。

「東北新社」が総務省に対して絶対的な力を持つ菅の長男を厚遇したのは当然である。長男も、父親の威光を十二分に生かして社の利益につなげ、順調に出世していくのである。

ここからは私の推測も入るのだが、菅が権力者への階を上っていくためには、露骨な総務官僚たちとの会食は若干控えめにせざるを得ない。

だが、省内の情報は多いほどいい。そこで、父親に替わって長男の正剛が、総務官僚たちを接待し、省内の最新情報や人の動きなどを、酒の飲めない父親に代わって聞き出し、父親に報告していたのではないか。

総務省が24日に発表した処分内容によると、総務省幹部4人を含む12人の職員(当時)が、2016年以降に延べ39回の接待を受けていたという。9人が減給などの懲戒処分を受けた。

合計額は約53万円で、いずれも「東北新社」側が払っていた。

長男も菅の野望を実現する手駒の一つだったのではないか。そう思えてならない。

■山田広報官の会食は「贈収賄も視野に入る」

NHKの政権批判分子を排除し、官邸の意のままに動く体制はつくり上げた。民放テレビ局は、わずかな局を除いてトップたちとの太いパイプはあるし、テレビを通じて新聞に圧力をかけることもできる。

メディア支配という意味では「オレは角栄を超えた」、菅はそう思っていたのではないか。だが上手の手から水が漏れた。

総務省で菅の長男から接待を受けた官僚たちが、次々に更迭されていく。

総務省から内閣広報官に抜擢した山田真貴子は、1回の会食費が7万円を超えたことで、倫理違反ではなく「贈収賄も視野に入るのではないか」(若狭勝・元東京地検特捜部副部長)ともいわれている。

鯛
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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■NHKの危機は、「知る権利」の危機である

しかし、菅政権が倒れたとしても、NHKへの権力側の介入が終わるわけではない。

朝日新聞編集委員の川本裕司が先の本で書いている。

「経営面では盤石に映るNHKだが、その内実には危うさが数多くある。自壊しかねない不安要素を抱えながら、肥大化していく公共放送の未来が明るい、とはとても言えない」

安倍晋三が介入を繰り返し、菅義偉が総仕上げに入ったNHK国営放送化が出来上がれば、“みなさまのNHK”が、“自民党と官邸のみなさまだけのNHK”へと変容していく。

有力メディアが権力のいいなりになった時の怖さを、われわれは先の戦争で学んでいるはずである。もはやNHKに自浄作用を期待できないとすれば、税金のように義務化された受信料を支払わされている国民が、十分なチェック機能を果たし、本来あるべき「国民のための公共放送」へと原点回帰させるしかない。

NHKの危機は、われわれ国民の「知る権利」の危機である。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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