「令和のゼロ戦」の開発で、防衛省が絶対に譲らなかったひとつの条件

プレジデントオンライン / 2021年3月3日 9時15分

最新の戦闘機技術を盛り込んだ先進技術実証機「X2」 - 写真=防衛装備庁ホームページより

■次期戦闘機の開発は安倍前首相によって遅延を強いられてきた

防衛省は国会で審議中の2021年度防衛予算に次期戦闘機の開発費576億円を計上した。本年度予算で国際協力を視野に入れたコンセプトづくりを進めた結果、主開発企業を三菱重工業とし、その下請け企業に米国のロッキード・マーチン社を選定、これから本格開発に乗り出そうというのだ。

開発に成功すれば、世界のどこにもない最強の戦闘機となるはずだが、コトはそれほど単純ではない。国際協力の言葉からわかる通り、残念ながらわが国には戦闘機を独自開発する能力がなく、米国など航空機先進国の支援が欠かせないからだ。

それでも時の政権さえしっかりしていれば、国際協力の壁を乗り越えられるかもしれないが、その、時の政権の舵取りが危ういのだ。そもそも次期戦闘機の開発は良好な対米関係の維持を最優先とする安倍晋三前首相によって遅延を強いられてきた。

■トランプ米大統領の「バイ・アメリカン」に応じてきたが…

次期戦闘機は現在、航空自衛隊が92機保有するF2戦闘機の後継機にあたる。F2は2030年ごろから退役が始まるため、防衛省は2017年から次期戦闘機の検討を始めていた。

ところが、2018年12月、当時の安倍内閣はF35戦闘機の追加購入を閣議了解で決め、次期戦闘機の前にF35が割り込む形となった。

閣議了解は「F35Aの取得数42機を147機とし、平成31年度以降の取得は、完成機輸入によることとする」との内容で、追加購入する105機のF35を航空自衛隊が保有するF15戦闘機のうち、古いタイプの99機と入れ換えることにした。

退役時期が決まっておらず、まだ使えるF15を強制的に退役させてまでF35を追加購入するのは、トランプ米大統領が主張する「バイ・アメリカン(米国製を買え)」との要求に応えるためだ。

米政府にカネを渡すため、あえて「完成機輸入による」との一文を入れたことにより、防衛省が三菱重工業などに1870億円の国費を投じて造らせたF35の組立ラインは閣議了解より前に発注した機数分の生産で打ち止めとなり、完全に停止することになった。

ここに大きな問題がある。

■航空機の生産をやめれば航空機製造技術は途絶えてしまう

戦闘機であれ、旅客機であれ、航空機の生産をやめれば航空機製造技術は途絶えてしまう。国産旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」改め「スペースジェット」の開発が難航しているのは、戦後に連合国軍総司令部(GHQ)が航空機の研究開発を禁じたことと、航空機開発が解禁された後に国産旅客機として誕生した「YS11」以降、旅客機を開発してこなかったことに遠因がある。

【図表】我が国の将来の戦闘機体系のイメージ
写真=防衛省資料より
次期戦闘機のイメージ - 写真=防衛省資料より

F35追加導入の閣議了解は、国内から戦闘機の製造技術を消滅させ、戦闘機製造によって獲得してきた航空機全般の製造技術を喪失させるおそれがあった。

焦りを強めた防衛省は、国産か、国際共同開発かの方向性も定まらないまま、2019年度予算に「将来戦闘機」の名称で57億円の研究費を計上した。翌2020年度予算で現在の「次期戦闘機」となり、111億円の開発費が付いた。

この開発費をもとに検討を進め、昨年12月までに次期戦闘機の開発コンセプトが決定した。筆者が入手した防衛省の資料から、その中身を読み解いていこう――。

■防衛省は本気で「令和のゼロ戦」の開発を目指している

空中戦といえば、戦闘機同士が近距離で戦うドッグファイトを連想する。しかし、ミサイル技術や情報共有のためのネットワーク技術の進展により、近年、空中戦の様相は大きく変化した。

今では、肉眼では見えない遠方からミサイルを発射する戦い方が主流だ。

この戦いではレーダーに映りにくいステルス機が優位になる一方、情報を複合的に組み合わせて敵機の位置を正確に把握する機能が求められるようになった。

周辺国をみると、中国は最新鋭機に該当する第5世代のJ31戦闘機の開発を進め、ロシアも同じく第5世代のSU57戦闘機の開発を推進している。

こうした他国の状況を見ながら、防衛省が次期戦闘機に求めることにしたコンセプトは、①量に勝る敵に対する高度ネットワーク戦闘、②優れたステルス性、③敵機の捜索・探知に不可欠な高度なセンシング技術、の3点を併せ持つ機体とすることである。

資料には「このような戦い方を可能とする戦闘機は存在しない」と異なる字体で大きく書かれ、防衛省が本気で「令和のゼロ戦」の開発を目指していることがわかる。

【図表】次期戦闘機のコンセプト
写真=防衛省資料より

■実戦経験のある国でなければ戦闘機は開発できない

だが、日本の技術だけでは、理想の戦闘機は造れない。

次期戦闘機の想像図
写真=令和2年版防衛白書より
次期戦闘機の想像図 - 写真=令和2年版防衛白書より

国内で唯一、戦闘機を製造する能力がある三菱重工業は防衛省からの発注を受けて、最新の戦闘機技術を盛り込んだ先進技術実証機「X2」を製造し、2016年に初飛行させた。国産エンジンの推力が小さいことから小型機となり、戦闘機への転用はできないが、レーダーに映りにくいステルス機の国産化は可能であることを文字通り実証した。

一方、エンジンメーカーのIHIは「X2」にエンジンを提供した後、推力15トンという、戦闘機として十分な性能のエンジンを開発した。また三菱電機は世界でもトップレベルのレーダーを製造する技術を持っている。

やっかいなのは、こうした技術を単純に組み合わせるだけでは次期戦闘機として成立しない点にある。戦闘機の心臓部にあたるソフトウェアや武器システムは実戦経験のある国でなければ必要十分なものは開発できないとされている。

その点は防衛省も承知しており、2018年、米、英両政府に対し、いかなる戦闘機が開発可能か提案を求めた。その結果、ロッキード・マーチン、ボーイング、BAEシステムズの3社から提案を受けた。

■ロッキード・マーチン社を「下請け企業」に選んだが…

このときの提案内容も踏まえて、防衛省は昨年10月、次期戦闘機の主開発企業に三菱重工業を選定。あらためて開発への参加を希望した前記3社の中からロッキード・マーチン社を「下請け企業」に選んだ。

三菱重工業は国内最大の防衛産業とはいえ、ロッキード・マーチン社は世界最大の軍需産業である。「小」が「大」を飲み込めるのだろうか。

懸念を持たざるを得ないのは、戦闘機開発をめぐり、日本が米国に煮え湯を飲まされた過去があるからだ。1980年代にF2戦闘機を日米で共同開発した際、米政府は米議会の反対を理由に提供を約束したソフトウェアの飛行制御プログラムを開示せず、日本側の開発費が高騰する原因になった。

このときの主開発企業が三菱重工業であり、共同開発企業がロッキード・マーチン社である。いつか来た道を連想させるのに十分な配役だろう。

■「政治力、技術力の差」が日本を敗者とし、米国を勝者とした

開発終了後も、米側は機体製造への参画を言い出して譲らず、日本政府から受け取る製造費は開発費と同じ割合の40%を主張。日本政府が折れて希望通りに支払った結果、約80億円で調達できる見込みだったF2は約120億円に高騰した。

エンジン1基のF2が、エンジン2基のF15戦闘機より高いのだ。見合うはずがない。防衛省は調達機数を当初予定した141機から94機に下方修正し、計画より早い2007年に三菱重工業での生産を終えた。

その一方で、日本の技術によって機体を軽量化できる炭素複合材の製造技術が米国に流れ、ロッキード・マーチン社はF22戦闘機やF35戦闘機に転用して莫大な利益を上げている。

彼我の政治力、技術力の差が日本を敗者とし、米国を勝者としたのだ。

F2の生産終了後、三菱重工業で行っている戦闘機の製造といえば、F35戦闘機の「組み立て」である。米政府が日本側に戦闘機の製造技術が流れることを嫌ってライセンス生産を認めず、部品を組み立てるだけのノック・ダウン生産にとどめたからだ。

■防衛省が次期戦闘機の開発にあたり入れた1つの条件

完成後の機体は米政府の所有となり、米政府は防衛省の購入価格を米国から輸入する機体より約50億円も高い約150億円の高値をつけた。その価格差により、安倍政権で追加導入を決めた105機はすべてを輸入となったのである。

105機の追加購入が決まったF35戦闘機
写真=航空自衛隊ホームページより
105機の追加購入が決まったF35戦闘機 - 写真=航空自衛隊ホームページより

戦闘機を単独で製造する技術がないわが国は、米国のやりたい放題に手も足も出なかったのが実情だ。

その反省から、防衛省は次期戦闘機の開発にあたり、「わが国の主体的判断で改修や能力向上ができる改修の自由度」を条件の1つに入れた。日本で開発したり、生産したりしながら、米政府の意向で改修ひとつできなかった前例を打ち破ろうというのだ。

また、国内企業参画を目指し、国内産業基盤を維持するために「適時・適切な改修と改修能力の向上」と「高い可動率の確保および即応性向上の観点から、国内に基盤を保持しておくことが必要」とした。

米政府に主導権を握られると米側の都合が優先される。次期戦闘機が肝心なときに稼働できない事態に陥ったり、適時・適切に改修もできないようになったりしては話にならない。

■政官財が団結して挑まなくてはならない総力戦

そしてロッキード・マーチン社については、三菱重工業や防衛省が必要と判断した範囲内の業務のみに従事する「脇役」に留め置くことにした。

防衛省が打ち出した国際協力の方向性は、おそらく間違ってはいない。しかし、技術的には格差のある日米の主客が転倒したまま、次期戦闘機の開発が順調に進むかどうかは、見通せない。

ただ、この次期戦闘機の開発は、わが国が米政府の言いなりになる主従関係を見直し、まともな自立国家になれるか問われる試金石となるだろう。そのためには政官財が団結して挑まなくてはならない総力戦であることだけは間違いない。

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半田 滋(はんだ・しげる)
防衛ジャーナリスト
1955年年生まれ。元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に、『安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊 新防衛大綱・中期防がもたらすもの』(あけび書房)、『検証 自衛隊・南スーダンPKO 融解するシビリアン・コントロール』(岩波書店)、『「北朝鮮の脅威」のカラクリ』(岩波ブックレット)、『零戦パイロットからの遺言 原田要が空から見た戦争』(講談社)、『日本は戦争をするのか 集団的自衛権と自衛隊』(岩波新書)、『僕たちの国の自衛隊に21の質問』(講談社)、『「戦地」派遣 変わる自衛隊』(岩波新書)=2009年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『自衛隊vs北朝鮮』(新潮新書)などがある。

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(防衛ジャーナリスト 半田 滋)

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