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なぜビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホを持たせなかったのか

プレジデントオンライン / 2021年3月22日 9時15分

1995年8月24日、昼食会で、発表されたマイクロソフト社の新しい基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」を紹介するビル・ゲイツ・マイクロソフト社会長(アメリカ・ワシントン州レドモンド) - 写真=AFP/時事通信フォト

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『スマホ脳』(新潮新書)だ――。

■「現代の環境」と「脳の機能」にギャップが起きている

現代人は平均10分に1回スマホを手に取り、1日に2,600回タッチするというデータがある。それほどスマホは人々の生活に浸透しており、常に携帯していないと不安を覚える人も少なくないようだ。

確かにスマホは私たちに利便性をもたらした。しかし、その極端に多い使用は、脳に影響を及ぼさないのだろうか。

スウェーデンで刊行され世界的ベストセラーとなった本書では、スマホやタブレット、PC、SNSなどの過度な使用が、記憶や集中などを阻害し、精神の不調などを招くメカニズムを、脳科学、心理学、精神医学、進化生物学などの最新研究から解き明かしている。

人類が文明を築き、科学の成果を謳歌するようになったのは、長い人類進化の歴史の中では直近のわずかな期間であり、脳の機能はそれ以前の狩猟採集生活の頃から変わっていない。それゆえ、スマホが普及した現代の環境と脳の機能とのギャップが起きており、それがさまざまな悪影響の原因となっているのだという。

著者はスウェーデン、ストックホルム出身の精神科医。前作『一流の頭脳』が人口1000万人のスウェーデンで60万部の大ベストセラーとなり、世界的人気を得た。

目次
1.人類はスマホなしで歴史を作ってきた
2.ストレス、恐怖、うつには役目がある
3.スマホは私たちの最新のドラッグである
4.集中力こそ現代社会の貴重品
5.スクリーンがメンタルヘルスや睡眠に与える影響
6.SNS――現代最強の「インフルエンサー」
7.バカになっていく子供たち
8.運動というスマートな対抗策
9.脳はスマホに適応するのか?
10.おわりに

■脳はこの1万年変化していない

地球上に現れてから99.9%の時間を、人間は狩猟と採集をして暮らしてきた。私たちの脳は、今でも当時の生活様式に最適化されている。脳はこの1万年変化していない。生物学的に見ると、あなたの脳はまだサバンナで暮らしている。

私たちは、たったの数千年で──いや、数百年かもしれない──周囲の環境を著しく変化させた。数千年というと、進化の見地から見れば一瞬のようなものだ。その結果、私たちは、今生きている時代には合っていない。

脳内の伝達物質のひとつ、ドーパミンはよく報酬物質だと呼ばれるが、実はそれだけではない。ドーパミンの最も重要な役目は私たちを元気にすることではなく、何に集中するかを選択させることだ。

お腹が空いているときにテーブルに食べ物が出てきたら、それを見ているだけでドーパミンの量が増える。その食べ物を食べ(て快楽という報酬を得)るという選択をさせるために、ドーパミンはあなたにささやく。「さあ、これに集中しろ」

■スマホを手に取りたくなるのはドーパミンのせい

進化の観点から見れば、人間が知識を渇望するのは不思議なことではない。周囲をより深く知ることで、生存の可能性が高まるからだ。周囲の環境を理解するほど、生き延びられる可能性が高まる──その結果、自然は人間に、新しい情報を探そうとする本能を与えた。この本能の裏にある脳内物質は何だろうか。そう、ドーパミンだ。脳には新しいことだけに反応してドーパミンを産生する細胞がある。ということは、新しい情報を得ると脳は報酬をもらえるわけだ。

あなたや私が生きる時代、脳は基本的に昔と同じままで、新しいものへの欲求も残っている。しかし、それが単に新しい場所を見たいという以上の意味を持つようになった。それはパソコンやスマホが運んでくる、新しい知識や情報への欲求だ。パソコンやスマホのページをめくるごとに、脳がドーパミンを放出し、その結果、私たちはクリックが大好きになる。

スマートフォンを使用する人々の手元
写真=iStock.com/ViewApart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViewApart

何かが起こるかもという期待以上に、報酬中枢を駆り立てるものはない。チャットやメールの着信音が鳴るとスマホを手に取りたくなるのもそのせいなのだ。何か大事な連絡かもしれない──。たいていの場合、着信音が聞こえたときの方が、実際にメールやチャットを読んでいるときよりもドーパミンの量が増える。

同様に、フェイスブック、インスタグラムやスナップチャットがスマホを手に取らせ、何か大事な更新がないか、「いいね」がついていないか確かめたいという欲求を起こさせる。

■私たちは「ひとつのこと」にしか集中できない

現代のデジタルライフでは、私たちは複数のことを同時にしようとしがちだ。つまりマルチタスクだ。しかし、私たちは一度にひとつのことにしか集中できない。複数の作業を同時にこなしていると思っていても、実際にやっていることは、作業の間を行ったり来たりしているだけなのだ。

集中する対象を変えるだけなら、コンマ1秒程度しかかからない。だが問題は、脳がさっきまでの作業のほうに残っていることだ。脳には切替時間が必要だ。ある実験が示唆している。集中する先を切り替えた後、再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかるという。

複数の作業を同時にやっているつもりで、実際にはこの作業からあの作業へと飛び回っているだけなら、確かに脳は効率よく働かない。それなら、マルチタスクなんてやめろと脳が忠告してくれてもよさそうなのに、そういうわけでもない。むしろマルチタスクをするとごほうびにドーパミンを与えて、気持ちよくさせてくれる。

それはなぜだろうか。私たちの祖先が、この世のあらゆる刺激に迅速に対応できるよう、警戒態勢を整えておく必要があったせいだ。わずかな気の緩みが命の危機につながる可能性があるのだから、何事も見逃さないように、ドーパミンという報酬を与えてマルチタスクをさせ、簡単に気が散るようにした。

■マルチタスクは集中力だけでなく作業記憶も阻害する

マルチタスクは集中力が低下するだけではない。作業記憶(ワーキングメモリ)にも同じ影響が及ぶ。作業記憶というのは、今頭にあることを留めておくための「知能の作業台」だ。ある実験では、マルチタスクに慣れた方が、作業記憶が劣っていた。つまり、常に気が散る人はほぼ確実に、脳が最適な状態で動かなくなる。

きっとあなたは今、じゃあパソコンの電源を切り、スマホはサイレントモードにしてポケットにしまえばいいやと思っただろう。だが、そんなに単純な話ではない。

スマートフォンを使用する男性
写真=iStock.com/KristinaJovanovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KristinaJovanovic

スマホには、人間の注意を引きつけるものすごい威力がある。その威力は、ポケットにしまうくらいでは抑えられないようなのだ。大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりもよい結果が出た。

ポケットの中のスマホが持つデジタルな魔力を、脳は無意識のレベルで感知し、「スマホを無視すること」に知能の処理能力を使ってしまうようだ。その結果、本来の集中力を発揮できなくなる。日に何百回とドーパミンを放出させるスマホ、あなたはそれが気になって仕方がない。

■記憶するための「集中」を、スマホが邪魔する

数カ月、数年、あるいは一生残るような長期記憶を作ろうとすると、(脳内の)プロセスが複雑になる。新しい長期記憶を作ること──専門用語では固定化と呼ぶのだが──は、脳が最もエネルギーを必要とする作業だ。

私たちはまず「何か」に集中する。そうやって脳に「これは大事なことだ」と語りかける。エネルギーを費やす価値、つまり長期記憶を作る価値があるのだと。つまり、積極的にその「何か」に注目を向けなければ、このプロセスは機能しないのだ。

記憶するためには、集中しなければいけない。そして次の段階で、情報を作業記憶に入れる。そこで初めて、脳は固定化によって長期記憶を作ることができる。ただし、インスタグラムやチャット、ツイート、メール、ニュース速報、フェイスブックを次々にチェックして、間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶に変わるこのプロセスを妨げることになる。邪魔が入るからだ。

■デジタル化は脳にとって諸刃の剣だ

絶えず新しい情報が顔を出せば、脳は特定の情報に集中する時間がなくなる上に、限られた作業記憶がいっぱいになってしまう。テレビがついている中で勉強しようとして、おまけにスマホもいじっている。脳はあらゆる情報を処理することに力を注ぎ、新しい長期記憶を作ることができなくなる。それなのに続けてしまう「原動力」は、そうすることが好きだから。そう、ドーパミンが放出されるからだ。

アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

カロリーを得ることが私たちの健康のメリットにもデメリットにもなるように、デジタル化も私たちの脳に諸刃の剣となり得る。デジタル化のおかげで知能を効率的に使えるようになり、想像を絶するような創造性も与えられたかもしれない。しかし毎日何千回もスマホをスワイプして脳を攻撃していたら、影響が出てしまう。

注意をそがれるのが慢性化すると、その刺激に欲求を感じるようになる。そして、小さな情報のかけら──チャットやツイート、フェイスブックの「いいね」──を取り込むことに慣れれば慣れるほど、大きな情報の塊をうまく取り込めなくなる。

私たちはデジタルな道具を賢く使わなければならないし、それにはデメリットがあることも理解しておかなくてはいけない。でなければ、お菓子の棚に並ぶ栄養のないカロリーに手を伸ばすのと同じくらい、無意味なデジタルのカロリーに対処できなくなってしまうのだ。

■コメントby SERENDIP

本書によれば、スティーブ・ジョブズは、自らが世に送り出したiPadを、自分の子供には、その使用時間を厳しく制限していた。また、ビル・ゲイツ氏は子供が14歳になるまでスマホを持たせなかったという。これらは言うまでもなく、本文にあるようにスマホやタブレットへの依存が記憶や学習機能に悪影響を与えることを、IT巨人たちが認識していたからに相違ない。

著者はスマホを全否定しているわけでも、悪者と決めつけているわけでもない。要は、強力な力を持つスマホに支配されるのではなく、理性的にツールとして使いこなすことを勧めているのだと思う。これはAIに対する私たちの対応と同じで、あくまで人間に足りないところを補う存在として「協働」することが大事なのだろう。

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