「第3子に1000万円支給を」高所得者が子育て支援から外される"罰ゲーム"はなぜ続くのか
プレジデントオンライン / 2021年3月23日 8時15分
■児童手当の「特例給付」廃止は、富裕層から大ブーイング
現在の児童手当は、中学校卒業までの子ども1人につき原則月1万円(第1子・第2子は3歳未満、第3子以後は小学校卒業まで月1万5000円)が支給されます。
ただし所得制限があり、「夫婦のうち高い方の年収」が960万円程度を上回る世帯には児童手当は支給されず、代わりに「特例給付」として年齢・人数にかかわらず子ども1人につき月5000円が支給されています。
ところが、2022年10月の支給分から、「夫婦のうち高い方の年収」が1200万円程度を上回る世帯には、この「特例給付」を廃止することが閣議決定されました。
待機児童解消に向け、2021年度から2024年度までの4年間で約14万人分の保育の受け皿を整備することを目指していることから、そのために必要な安定的な財源の確保策において、今回この「特例給付」を廃止し財源にする見込みのようです。
※実際には所得額で判定されますが、サラリーマン世帯が多いため、わかりやすく年収ベースで紹介しています。所得額は家族構成やその他の所得区分の有無、所得控除等で変わります。
富裕層や高所得層の間で、この改正案がとにかく大ブーイングとなっているのですが、私も同感です。
ではなぜ大ブーイングかというと、「手当てがもらえないから」などという矮小な発想からではありません。彼らはその程度の金額で一喜一憂するほど金銭的に困っているわけではありません。
そうではなく、改正の論拠に論理性がないこと、優先順位の不透明さ、説得力のなさ、思慮の浅さが透けて見える議論に異を唱えているのです。もっとはっきり言うと、「もうちょっとまともに考えられないの?」というわけです。
■高額納税者への追加の罰ゲーム
そもそも子育て世帯を支援する制度は非常に充実しつつあり、そのおかげで夫婦共働きが実現しているという側面があります。
そしてその結果として高所得になったという人や家庭もあるはずで、政府は良い仕事をしていると思います。いろいろ課題はありますが、その点は肯定的に評価します。
そして高所得者は、所得税、住民税、社会保険料をふんだんに払っています。特に所得税と社会保険料は収入に連動するため、その貢献度は大きいと言えるでしょう。その一方で高所得世帯は、現状でも子育て関連ではほぼすべての制度で所得制限に引っかかり、補助金・助成金などは対象外です(そういえばわが家も以前、長男の保育料が月7万円、次男の保育料が2人目半額で3万5000円で月10万円を払っていた時期がありましたが、児童手当は二人で月3万円ではなく1万円でした)。
そもそも富の再分配機能としては、彼らは納税した時点ですでに貢献しているにもかかわらず、これでは追加で罰ゲームを与えられているようなものでしょう。
■ほかにもっと削れるところがあるはず
民間ではたくさんお金を払えばより高付加価値なサービスが受けられるのが一般的ですが、行政サービスはむしろ逆で、納税すればするほど冷遇される状況です。
「高所得者は余裕があるからいいだろう」などという発想があるとしても、それは子育て関連ではなく別の分野に適用すればいいだけでしょう。本気で少子化対策を考えているなら、出産・子育てへのモチベーションを下げる施策に何の意味があるのかと疑問に思います。
「もらえるものがもらえなくなる」という不満からではなく、わざわざここをターゲットにして小銭を浮かせて不評を買うくらいなら、「ほかにもっと削れるところがあるだろう」というのが私の周囲の共通した意見です。
■「夫婦ともに年収1000万円」の場合は支給停止にならないおかしさ
それに、片方が年収1200万円なら支給停止となるのに、夫婦ともに年収1000万で世帯年収2000万あっても停止とならないというチグハグ感。これが制度の理念にマッチしているのか非常に疑問です。
おそらく「夫が外でフルタイムで働き、妻はパート」といういまだ昭和の固定観念を引きずる人たちが抱く家庭観に基づいているのでしょう。
さらに、「高所得者から税金を取る」「高所得者の優遇をやめる」のは庶民からの反発が少なくスムーズに採用できるだろうという姑息(こそく)な発想を感じるのは私だけでしょうか。
高所得者は納税という点ですでに義務を果たしているのだから、そこで終わりにしてあげて、本気で少子化対策を考えるなら子育て環境こそ平等にしてあげればいいと思います。そもそも子に罪はないのに、たまたま生まれてきた親の収入の影響を、政府が余計に大きくしてどうするのか、とも思います。
■子育て世代のために消費税を増税したのではないのか?
そういえば消費税が10%になる際、これまでの高齢者中心から、子育て世代にも拡大する財源にするという名目で増税されました。
新たに加わった消費税の使途は、
1.幼児教育・保育の無償化
2.待機児童の解消
3.高等教育の無償化
などで、ここに「待機児童の解消」も含まれています。
ならば公約通り、消費税できっちり予算確保しろよ、と言いたくなります。マスコミはこういうところを指摘してほしいものですが、JOC元会長の女性差別発言がどうこうなどと、ゴシップにしか目が行かないようです。もはや現代のメディアには、政策のチェック機能を求めるのはムリなのかもしれません。
■結婚すれば出生数は上がる
平成30年度の合計特殊出生率は1.42%ですが、夫婦の完結出生児数(最終的な出生子ども数の平均値)は、1.94人。
また、未婚者の平均希望子ども数(男性1.91人、女性2.02人)、夫婦の平均理想子ども数(理想子ども数2.32人、予定子ども数2.01人)ともに2人前後という調査結果が出ています。
ということは、多くの夫婦は、2人程度は子を持つということなので、単純化すれば「とりあえず結婚さえすれば出生率は上がる」可能性を示しています(もちろん、子どもを持たない夫婦、子は一人だけの夫婦も増えていますが、一般的にという意味で)。
なので、少子化対策の1点目は、やはり結婚を促すということになるでしょう。
独身者への調査では、いずれは結婚しようと考える未婚者の割合は、男性85.7%(前回86.3%)、女性89.3%(同89.4%)で、高い水準にあると言えます。
つまり、積極的に独身を選ぶ人は少数派で、環境さえ整えば結婚へ促すことはできるということを示しています。
むろん、「結婚という圧力をかけるのか」「独身者の肩身が狭くなる」「個人の自由な生き方を損なうのか」「差別だ、人権侵害だ」などという声は出てくると思います。しかしキリスト教のような宗教的背景を持たず、「家」「血縁」を重視する日本人には養子や里親を普及させるのは容易ではありません。
つまり少子化対策には結婚が必要であり、結婚を促すには、やはり結婚は良いものだという空気を醸成する必要があるでしょう。同時に、婚活事業者への支援を手厚くする方法もあるでしょう(実際、補助金が出る自治体も数多くあります)。
■「第3子へ1000万円」支給案
2点目は、経済的インセンティブです。
たとえば、3人目には1000万円を給付するという方法です。
ほとんどの夫婦は何もしなくても2人くらいは産むものの、その先にある壁が第3子。
しかし200万や300万のような小さい金額ではさほどモチベーションにはならないし、無償化も負担がないというだけで、やはりおトク感を実感しにくい。
しかし1000万円はインパクトがあります。多くの人は1年後の110万円よりも目先の100万円に飛びつくと言われる通り、目先に大きなニンジンをぶら下げるのは効果ありそうです。
もちろんその1000万円欲しさに、養育の意志や能力に欠ける人までもが子を増やし、虐待やネグレクトの温床となる危険性はあるものの、1000万円ももらえるなら、「3人目は無理かなあ、2人で十分かなあ」と思っていた夫婦が、じゃあ第3子もいいかなと考える可能性は小さくないと思います。
第3子以上の出生は年間約16万人。第3子に1000万円を給付すると予算は1.6兆円かかります。とはいえ医療や年金がそれぞれ12兆円ずつかかっているのを考えても、決して不可能ではない数字に思えてきます。
それに、生まれた瞬間に1000万円も貯金が増えるのだから、たとえば幼児教育を無償化するほどの大盤振る舞いをしなくても、ちょっとくらい負担してもらってもいいでしょう。
医療費も12歳まで無償という自治体もありますが、これも1回あたり100~200円くらい負担してもらっても大きな違和感はないはずです。
そして子どもが増えれば、将来の納税者も増えることになります。少子化対策を本気で考えるのならば、高額納税者の児童手当を削るという発想をしている場合ではないのです。
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米国公認会計士
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。現在は不動産投資コンサルティングを手がけるかたわら、資産運用やビジネススキルに関するセミナー、講演で活躍。『捨てるべき40の「悪い」習慣』『「いい人」をやめれば、人生はうまくいく』(ともに日本実業出版社)など著書多数。「ユアFX」の監修を務める。
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(米国公認会計士 午堂 登紀雄)
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