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出口治明さんが「老後のためにお金を貯めるのは間違っている」と力説するワケ

プレジデントオンライン / 2021年3月28日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erdikocak

老後の生活を安心して過ごすためには、いくら必要か、どんな投資法が有利か。頭を悩ませている人も多いことでしょう。ライフネット生命創業者であり、立明館アジア太平洋大学学長の出口治明さんは、「老後のためにお金を貯めようという発想自体が間違っている」と指摘。その理由とは――。

※本稿は、出口治明『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■貯蓄か投資か、「72のルール」で考えれば答えは明快

お金の運用についての大原則に、「72のルール」があります。

「72年÷金利(%)」が、元金が2倍になる年数の目安という法則です。

たとえば、銀行の普通預金の金利はいまだいたい0.001%ぐらいです。72÷0.001=72000となり、銀行の普通預金に預けているだけでは元金が2倍になるのに7万2000年かかるという計算になります。石器時代までさかのぼって貯蓄をしてやっと2倍です。ちなみに、僕が日本生命に入社した当時(1972年)の社内預金の金利は11%でしたから、6年半で元金が2倍になっていたことになります。

「72のルール」で考えれば、現在のような低金利下では、お金を殖やしたい場合には貯蓄では意味がないことがよくわかります。一般論で述べれば、金利が低いときは貯蓄より投資ということになります。

■相対的に安全で有利な唯一の投資法とは

投資とは、原則として元本の保証がないものにお金を投じることです。投資の代表は株式や投資信託です。貯蓄は元本が保護されますが、投資では保護されません。それはかなり怖いことのように思われるかもしれません。

そのリスクをなくすにはどうしたらいいか。それは「安いときに買って高いときに売る」という一言に尽きます。

ただし問題は、いつが安いときであり、いつが高いときであるかがわからないことです。ふつうの市民による投資の歴史は比較的新しく、まだ200年ぐらいしか経っていません。しかも、連合王国(イギリス)とアメリカにしかその経験がありません。彼らが編み出した相対的に安全で有利な唯一の投資法は、「ドルコスト平均法」といわれるものです。

■素人でも儲かる唯一の方法

ドルコスト平均法とは、たとえば、毎月1万円ずつ投資信託を買うという方法です。ある月の値段が1口5000円だったら2口買えます。それが翌月になって1口2500円に値下がりしたら損をしたと腹が立ちます。しかし、その月は4口買えます。逆に、1口1万円に上がったら儲かって嬉しいのですが、その月は1口しか買えません。

つまり、毎月一定額を買っていれば、結果的に安いときにより多く買っている計算になります。そして、現金が必要になったら、そのときの値段を見て、儲けが出ていれば売る、という単純な話です。損が出ていれば、儲かるまで待てばいいのです。つまりドルコスト平均法は「長期投資」とほとんど同義なのです。

素人でも儲かる確率の高い投資を行おうとすれば、この方法以外にはないといわれています。

株式市場チャートと都内景観
写真=iStock.com/MarsYu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsYu

日経新聞には投資信託の運用実績の番付が定期的に発表されますが、それを見ているとトップクラスはドルコスト平均法を主体としたものばかりです。ドルコスト平均法はプリミティブな方法ではありますが、同時にとても実践的な方法なのです。

ドルコスト平均法は若い人にはいいが、年をとってから始めても遅いのではないかと疑問を抱く人がいます。投資にかけられる時間が若い人たちほど長くはないので、あまり効果が出ないのではないかということです。しかし、年をとってから始めても、僕はまったく問題ないと思います。

現在は人生100年時代。

60歳で投資を始めても、まだ時間はたくさん残されています。

■子どもが独立したら、あとは神様の思し召し次第

ということで、一般人がお金を殖やすにはドルコスト平均法がいいという結論に落ち着きます。

でも、そもそも私たちは何のためにお金を殖やしたい、貯めておきたいと思っているのでしょうか。

投資か貯蓄かという問題は、経済的な損得だけで判断できる問題ではなく、その人の人生観とでもいうべきものと深く関わっています。死ぬまでずっと通帳の残高が増え続けることを無上の喜びとする人もなかにはいるでしょう。ですが、たいていの人はそこそこの金額があればそれでいいと考えているのではないでしょうか。

ロンドンで勤務していたとき、イングランド人の人生観に触れることができました。彼らは子どもが18歳になって独立したら、たいていの人が生命保険を解約してしまいます。親の責任として子どもを育て上げたから、もう義務は果たした、あとは神様の思し召し次第というわけです。生命保険をやめることは貯蓄をやめることとほぼ同義です。日々生きていくだけのお金があれば、それでいいと彼らは考えているのです。

■ドルコスト平均法より簡単で効果的な方法

私たちはどうでしょうか。投資や貯蓄をしている人でも、それほど明確な目的意識を持ってはいないのではないでしょうか。アンケート調査の結果を見ると、貯蓄の目的は「不時の出費への備え」という回答がもっとも多く、次いで「老後の生活への備え」「特に目的はない」となっています(ゆうちょ財団「家計と貯蓄に関する調査」2018年)。

出口治明『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)
出口治明『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)

「老後の生活への備え」は比較的具体的な回答ですが、それ以外は漠然としています。老後のためとはいっても、日本にはかなりよくできた公的年金保険制度がありますから、実際には老後資金は自分たちで思っているほど必要がありません。

つまり私たちは、将来や老後について抱いている現在の漠然とした不安を解消したいという心理で貯蓄を行っているわけです。

そうであれば、このテーマは、「投資か貯蓄か」とは違う視点で捉えることができます。すなわち、「将来や老後に対する不安を少しでも減らすにはどうすればいいのか」と、問いを立て直せばいいのです。

その問いであれば、ドルコスト平均法よりもっと簡単で効果的な方法があります。「働くこと」です。

■寝たきり老人がいるのは日本くらい

働けば何がしかの収入が得られるので、確実にお金を殖やせます。働いていれば体力の低下も防止できます。

毎日ウォーキングやジョギングをして健康に留意しようと思っても、雨が降ったら「今日はやめておこう」となりがちです。しかし、仕事であれば「今日は雨が降っているから行きません」ではすまされないので、我慢して出かけるしかありません。それが体力維持に役立ちます。健康寿命が延びます。

僕は、高齢者になって体力が落ちる最大の原因は働かないことだと考えています。それは自分と同年代の友人を見ていてもわかることです。寝たきり老人がいるのは日本だけです。『欧米に寝たきり老人はいない』(宮本顕二・宮本礼子、中央公論新社)という本が出ているので、興味のある方は一読してみてください。

一生何かしらの仕事をしていれば、老後の不安は大きく低減されます。それがもっとも効果的な“投資法”といえます。

■かつての65歳より“健康で元気な”現在の75歳

「死ぬまで働くなんて、そんなことができるの?」と思われるかもしれませんが、十分可能です。

何より、動物はそうしています。日本は世界でもっとも労働環境に恵まれている国です。

毎年、200万人前後の団塊の世代が労働市場から退出しているのに、参入してくる新社会人は100万人ちょっとです。定年を廃止して高齢者も働かなければ社会がもちません。

加えて医師の言によれば(日本老年学会と日本老年医学会による2017年1月の提言)、現在の75歳はかつての65歳より元気なのです。死ぬまで楽しく働ければ、お金をそれほど貯める必要はないんですね。老後のためにお金を貯めようという発想自体が間違っていると、僕は思います。

「人が足りないといっても、求人があるのは若い人だけだ」という声もあります。しかし、それは、地方の実情を知らない人のいうことです。

東京はそうだとしても、地方はまったく違います。僕はいま大分県別府市に住んでいますが、地方の人手不足は惨状といっても決して過言ではありません。地方の経済同友会などでは「どんな人でもいいから働きにきてほしい」という声ばかりです。本当は若い人のほうが望ましいのかもしれませんが、もはやそんな“贅沢”をいっている余裕はないのです。

■「働けば」老後資金の心配はしなくていい

日本の完全失業率は、2017年に2.8%と3%を切り、働く意思があれば職に就ける「完全雇用状態」が続きました。2019年には2.4%まで下がり、有効求人倍率は1.60倍になりました。これはアベノミクスの成果だといわれましたが、実際は人口構成の変化によるものです。

コロナショックの影響で一時的には失業率は上昇していますが、中長期的に見れば、労働者にとって日本は実に恵まれたマーケットであるということに変わりはありません。

このような話をすると、金融機関の人からは「出口さんはつくづく金融機関の敵ですね」と冗談をいわれます。「僕の話はおかしいですか」と聞くと、返事は「いや、本当は私もそう思います。でも、年金は将来もあるとは限らないよ、だから老後資金づくりに投資しましょう、といわないと、われわれも商売にならないんですよ」と。冗談半分としても、由々しい話ではありませんか。

■お金を殖やすだけではない投資の喜び

投資について最後にもう一点、触れておきます。ここまでは投資を利殖と考えて話してきました。しかし、投資の目的は利殖だけではありません。

たとえば、自然分解するプラスチックの開発に取り組んでいる会社があり、あなたがその会社に共感を覚えたとします。そこで、その会社の株を50万円買って「投資」することにした――これは、お金を殖やすためというより、自然分解プラスチックを普及させて地球環境の改善に役立ちたいという気持ちから出すお金です。いわば、お金による民主主義です。

投資には、このように企業の思想や方針を支援し、社会に貢献しようという意味合いもあります。もし、その会社の新商品の開発がうまくいって、100万円の配当を手にしたとしても、それはあくまでも結果です。

欧米ではこうした趣旨の投資が盛んです。従来の財務指標だけではなく、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に配慮した経営をしているかどうかを重視するESG投資がその好例です。日本でも最近注目されるようになってきました。

今日では、株や投資信託を買うほかに、インターネット経由で資金を提供するクラウド・ファンディングもあり、共感する企業やNPOの活動に、誰でも簡単に投資することができるようになりました。

自分のお金を社会に還元することには、単なる利殖では得られない達成感と充実感があります。そのような種類の投資も、ぜひ視野に入れてほしいと思います。

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出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社。2006年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立、社長に就任。12年に上場。18年からは立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。ベストセラーの新刊『還暦からの底力』など著書多数。

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(立命館アジア太平洋大学(APU)学長 出口 治明)

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